仮設住宅:朝日新聞デジタル

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11月15日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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仮設住宅

【1】結露でカビ・音漏れ…尽きぬ悩み

 プレハブの仮設住宅は、夏は暑くて冬は寒い。結露でカビが生えやすく、隣の音も響きやすい。被災者や行政は、少しでも住みやすくする工夫を重ねてきた。

 仮設住宅の居住性を研究する長岡技術科学大の木村悟隆(のりたか)准教授(高分子化学)は「災害のたびに設備の改善で居住性が向上してきたが、その都度新たな問題が発生し、根本的には解決していない」と指摘する。

 阪神大震災では、エアコンや集会所が設置された。新潟県中越地震では、断熱材の厚みを増すなどの防寒対策がとられた。それでも天井からの水滴や柱や壁の結露が発生し、被災者を悩ませた。

 東日本大震災では、天井裏の断熱材にすき間ができ、天井などにカビが発生する事例、排水が不十分で雪解け水が住宅の下や敷地にたまる事例があった。

 壁が薄く、生活音が外に漏れ、住民どうしのトラブルに発展することもある。

  ■ 対策をネットで紹介

 厚生労働省東日本大震災後の2011年8月に入居者を対象にした調査では、半数が今後の収入や仕事といった経済面に不安を抱え、2割が健康面を心配していた。収納スペースの少なさ、玄関を開けると風や雨が入る、などを困っている点として挙げる人も多かった。

 広い敷地を確保するために不便な場所に建てられることは少なくない。日々の買い物ができる商店や、小中学校、病院が歩いて15分圏内に「ある」と答えたのは4~5割にとどまった。

 少しでも快適にしようと新潟大の岩佐明彦准教授(建築計画学)は、中越地震東日本大震災の例をもとに、暑さ対策や近所と仲良くなるコツなどを紹介する「仮設のトリセツ」をネット上で公開している。

 本来、仮設住宅の入居期限は2年だが、東日本大震災の被災地では、復興住宅や集団移転の遅れで居住が長引いている。老朽化も目立ち始めた。

 岩手県陸前高田市の復興を支援する研究者や学生が今年8月、市内など48カ所の仮設住宅の自治会長に聞き取り調査をしたところ「土台が腐って家が傾いた」「天井のすき間から雨漏りする」といった声が寄せられた。

 公営住宅に転居する住民も増え、この1年で5分の1の自治会長が交代していた。研究代表者の宮城孝・法政大教授(社会福祉学)は「会長の交代や転居者が増えれば、コミュニティーの維持が難しくなり、残った高齢者らが孤立する恐れがある」と支援の必要性を指摘する。

【2】転居後の孤立化 どう防ぐ

  ■ 賃貸活用、手続き課題

 東日本大震災から3年8カ月。岩手、宮城、福島3県では10月末現在、約8万6千人が仮設住宅で暮らす。

 仮設住宅は、自宅に住めなくなり自分で住宅を確保できない被災者に国が一時的に提供する。避難所から恒久的な住宅までの「踊り場」だ。

 仮設住宅の住民を支援する東北工業大の新井信幸准教授(建築計画学)は「閉じこもりがちな被災者にとって、仮設住宅のコミュニティーは孤立を防ぐ重要な役割を果たしている」と話す。学生らとボランティアに訪れ、ベンチや棚を作っていると住民が集まって世間話が始まり、交流につながった。

 しかし、2~3年かけてできた人間関係も仮設住宅からの転居でバラバラになることが多い。仙台市太白区の「あすと長町仮設住宅」の62世帯は、来春に3棟の復興住宅(災害公営住宅)にまとまって入居する。それでも、別の地区から入居する住民との交流は必要になる。

 東日本大震災で、政府は仮設住宅の政策を大きく転換した。

 民間賃貸住宅を自治体が借りて提供する借り上げ仮設(みなし仮設)も積極的に活用することにした。仮設住宅は、用地や資材不足で建設が遅れることもあるからだ。10月末現在で、3県で約8万3千人がみなし仮設で暮らしている。

 契約の実務にあたった全国賃貸住宅経営者協会連合会の今野幸輝専務理事は「自治体で制度が異なり、宮城県では契約書が4種類存在するなど混乱した。全国統一の条件が必要だ」と指摘する。災害規模に応じた借り上げ住宅の制度整備、手続きの一部の民間委託が、速やかな入居につながる。

 同連合会はホームページで被災者向けの賃貸情報約47万戸を公開する。業界団体と情報提供などの協定を結ぶ自治体も増えた。

 みなし仮設は、近所が被災者とは限らず、被災者が孤立する恐れもある。制度づくりはこれからだ。

 (北林晃治、桑山敏成)

【3】質確保でコスト増加、地域再建と一体化を

京都大防災研究所教授
牧紀男さん

 仮設住宅は、一時的な住まいながら一定の質の確保が必要だ。1995年の阪神大震災後に改善され始め、2004年の新潟県中越地震で約470万円だった1戸あたりの費用は、東日本大震災で約620万~730万円に膨らんだ。

 資力に関係なく被災者が入居している現状では、南海トラフ、首都直下での大地震を乗り切れるか真剣に考える時期に来ている。

 また、仮設住宅を足がかりに地域の復興、再建を考えなければいけない。現在の原則2年にとどめず、5年を超えて住めるように制度を改め、周辺に商店もつくり地域の核として建設して、復興と一体化したあり方を検討する必要がある。

 住む人と住まない人の不公平感をなくし被災者の自立を促すには、2年たったら有料にしたり、入居者に所得制限をかけたりする制度も必要。支援金や応急修理制度などを踏まえた支援策づくりが必要だ。海外の事例を知るNGOやボランティアなどが建設に関わってもいい。

 被災前の備えとしては、仮住まい生活を送らなくてもいいように、耐震補強など災害に強い家にしておくことが大切だ。被災後の住宅制度を調べておくことも備えになる。仮設か、みなし仮設か、知人宅に住むのか。複数の選択肢を意識して、災害に見舞われた後をイメージトレーニングするとよいだろう。

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◆ 女子組版「災害時連絡カード」

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著者:朝日新聞社 価格: ¥1,680

 朝日新聞のシリーズ企画「災害大国 迫る危機」が本になりました。活断層、津波、地盤、斜面災害、インフラ、火山のリスクを地域ごとに示した大型グラフィックや対策の現状などを収録。書籍化のために各地域の災害史を書き下ろしました。いつ見舞われるか分からない災害の備えとして役立ちます。B4判変型(縦240ミリ、横260ミリ)でオールカラー、120ページ。

日本列島ハザードマップ 災害大国・迫る危機

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