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火災による死者が9割近くを占めた関東大震災。過密化が進んだ現在も地震による火災の脅威は大きい。地震時、火災は同時多発的に発生し、消防力の限界を超え、90年前のように火に囲まれる恐れもある。どんな心構えで備え、発生したらどうすればいいのか。
関東大震災は中央防災会議「1923関東大震災報告書」。
阪神大震災、東日本大震災は総務省消防庁「火災年報別冊」
木密…木造住宅密集地 非木密…マンションも点在する住宅地
風速は1秒あたり。グラフ上部の時間をクリックすると火災が広がる様子が確認できます。
シミュレーション画像は、総務省消防庁の消防研究センター提供
【合田禄】入り組んだ路地は幅が狭く、車が対向できない。木造2階建て住宅がびっしりと並び、空き地もほとんどない。間口の狭い旗ざお地もある。鉄筋の建物はほとんどなく、幹線道路も近くを走っていない。
そんな木造住宅の密集する市街地で、総務省消防庁の消防研究センター(東京都調布市)の細川直史・地域連携企画担当部長に、同時多発火災のシミュレーションをしてもらった。
大地震の後、互いに約400メートル離れた3軒の民家から火の手が上がる想定だ。
揺れで家屋が倒壊するなどして道路がふさがり、車が通行できない。他の場所でも、複数の火災が同時に発生し、消防車は街に来ないことを前提とした。
3軒の火災の火は、風速10メートルの風にあおられ、密集した住宅から住宅へと燃え広がる。2時間後には3カ所で計100軒が燃え、延焼はさらに続き、3時間後には火の手に囲まれる地域が出てきた。
4時間後、3カ所の火の手は合流し、周辺へ向けて拡大。6時間後には600軒以上が焼け、延焼はなおも広がり続けている。
シミュレーションは、木造住宅密集地と、木造が密集しておらず、マンションも点在する住宅地について、風速10メートルと3メートルの、計4パターン試した。マンションも点在する住宅地は、幹線道路があり、マンションのほか、駐車場、畑、公園がある場所だ。
木造密集地でも、風速が3メートルなら、延焼は6時間で140軒程度。マンションも点在する住宅地は、10メートルなら110軒ほど、3メートルなら60軒ほどにとどまった。
細川部長は「住宅の密集具合や風の条件によって結果が大きく違う」。火災の際には、すぐそばに火が迫るまで自宅から火災を眺めていたり、消火に取り組んだりする人が多いというが、「消火できないときは目の前の火事にとらわれず、同時多発火災を考えて、避難を決断することが大切」と話す。
共同研究者で東京理科大の関沢愛教授は「火がどこまで迫ると危険なのかの判断は難しい。一斉に避難すると道路が混雑する。『津波てんでんこ』と同じで、火の手が遠いうちでも、個々人が判断して広域避難場所へ逃げる必要がある」と話している。
【編集委員・黒沢大陸】関東大震災での火災は、横浜市で289件、東京市で134件発生した。余震が相次いだこともあり、初期消火はままならず、東京市では77件が延焼、16万6千棟が焼けた。4万人が犠牲になった被服廠(ひふくしょう)跡をはじめ火災の死者は全体で9万人。多数が死亡したのは学校の校庭や寺社など比較的狭い避難場所だった。
現代は90年前より消防力は高まり、火災で燃えないビルも立ち並んだが、木造住宅の密集地域はいまも存在し、火災の脅威は大きい。政府の想定では、大都市部で発生する地震で、強風時などの悪条件だと、死者の3割から6割近くが火災で犠牲になる。
地震の際の火災は、平時のように消防車が何台も駆けつけて消火してくれる状況ではない。東京湾北部地震では、東京都は811件の火災を想定しているが、東京消防庁が持つポンプ車は488台。消防車が足りないだけでなく、道路も平時のようには通れない。
自宅や地域で初期消火をしなければ、延焼して逃げ場を失い、初期消火を続けていれば逃げ遅れる。名古屋大の廣井悠准教授(都市防災)は「どこで火災が起き、延焼しているのかなど、自分が置かれた状況がつかみにくい。安全な避難場所への道路は通れるかどうか、どのタイミングで避難すればいいか。情報の伝達や入手方法を考える必要がある」と話す。
津波のような警報もなく、台風のように避難指示も出ない状況で、自分で避難の時期と場所を決めなければならず、その判断に自分や家族の生命がかかる。広くて安全な避難場所や、複数の避難経路を考えておく必要がある。
もちろん、火事そのものを減らす対策も大切だ。近年の地震火災の主な原因は電気による出火だ。地震時に電気が自動で切れるブレーカーの設置などの対策は家庭でもできる。燃えにくい住宅を増やすことや耐震化などは、延焼を遅らせ、逃げる時間を稼げる。
超高層マンションの地震時の防火対策、高齢化が進んで増えた要援護者の避難対策の確認も必要だ。
1923年9月1日の関東大震災から1年たった24年(大正13年)9月15日、大阪朝日新聞は、付録として「関東震災全地域鳥瞰図絵」を発行した。絵図は吉田初三郎画伯が描いたもので、関東大震災の主要な被害のほか、当時の交通網や世情も反映され、裏面は「震災後の一年間」と題して、被害状況と復旧状況をまとめ、各地の写真を載せている。…[続きを読む]
同時多発火災での大都市の危険性が理解されていない。都市の近代化や消防の整備が進み、関東大震災のようなことは起きないという思い込みがあるが、当時の地図と見比べれば、今の木造密集地域の方が過密で危険だ。
延焼速度が速いと複数の火炎に取り囲まれ退路を断たれる。同時多発火災は、延焼速度が1時間に100メートルまでが逃げられる限界。200メートルでは難しい。初詣のような雑踏で避難する状況の中で、どれだけの速さで逃げられるか考えてほしい。前に進めたとしても、壊れた家が道を塞ぎ、橋が壊れているかもしれない。
木造が密集している地域では、火災の多発が避けられず、かつ延焼速度も速くなるので、バケツなどで消火をしている時間的余裕はあまりない。地域の危険性に応じて、10分間だけ消火して逃げるとか、避難の目安を決めておく必要がある。
また、巨大な火炎が迫ってくるので、炎から100メートル離れていても焼け死ぬことがある。逃げ込むのは小さな公園や近所の小学校ではなく、広域避難場所に指定されている広い場所でないと危ない。そこまで行けない高齢者が逃げ込める避難ビルのような施設を考える必要もある。
大火を防ぐには、まちを燃えにくくするか、出火件数を減らすしかない。燃えない街づくりには長い年月がかかる。常備消防の大幅増も難しい。とりあえず、消防団員の増員や、自主防災組織のトレーニングや装備の充実で地域の消火能力を上げていくべきだ。家庭では、感震ブレーカーを設置したり、逃げるときにブレーカーを落としたりするなど、通電火災の防止をはかって火災を少なくする努力もいる。
■災害別特集ページまとめ
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3Dで見る阿蘇大橋周辺の被害地図(2016/04)
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