避難指示 水害の備え「見える化」:朝日新聞デジタル

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11月15日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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  • 【災害大国】あすへの備え

    【災害大国】あすへの備え

    水害の備え「見える化」

     どうせ被害はない、自分は大丈夫だろう、と避難が遅れがちな水害。災害時に行政や地域、住民の動きを整理した米国発の行動計画表「タイムライン」が注目を集めている。災害が迫ったとき、どんな情報が得られ、どのタイミングで何をすればいいのか、住民を中心に整理した。

【1】行政・住民の行動、時系列で計画に

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 <タイムライン> 災害が想定される数日前から、発生、その後の対応まで、さまざまな機関が災害時に何をするかを時間を追って整理した行動計画表。住民、自治体、国、自治会、消防団、鉄道会社、電力会社などの行動を表にまとめる。各組織の動きや連携関係が一覧でき、計画の不備を確認しやすい。

 台風や低気圧の接近、外国で起きた地震で日本を襲う津波など、あらかじめ発生が予測できる災害が対象で、前兆なく起きる地震やゲリラ豪雨での活用は限定的だ。想定する現象が順番通りに起きるとは限らず、起きても予想した時間が前後することもあり、タイムラインを踏まえた臨機応変な対応も必要だ。

 米東海岸をハリケーン・サンディが襲った2012年10月、上陸の3日前からニューヨーク州知事らが「緊急事態宣言」を発表、住民の避難勧告や入院患者の移送、地下鉄の運行停止などの準備を着々と進めた。

 ■米国、反省生かす

 05年8月に約1800人が死亡したハリケーンカトリーナへの反省から、事前の準備を整えるために生まれた「タイムライン」に基づく行動だ。サンディの襲来で初めて本格的に使われた。

 この災害対策を日本に生かそうと、国土交通省と防災関連学会の合同調査団が防災行動や被害を調べた。

 調査団によると、ニュージャージー州知事は上陸36時間前には、高潮被害が予想される地域に避難勧告を発令。沿岸部のバリアアイランド地区は住宅4千棟が全半壊したが、犠牲者はゼロだった。

 ニューヨーク市長は上陸3日前に避難すべき地域を発表。沿岸部の病院に入院患者を避難させるよう呼びかけた。地下鉄の運行停止も予告。上陸1日前に運行をやめ、車両や電動の設備が水につからないよう退避させた。8駅に海水が入るなどしたが、主要路線は数日で復旧。先を見越した対応が被害を抑えた。

 調査団長を務めた河田恵昭・関西大教授(危機管理)は「大災害になるほど、やるべき準備も関わる組織も多くなる。誰が何をするかを見える化して共有する効果は大きい」と話す。米国ではタイムラインを元に災害時の対応が適切だったか、検証して改善を続ける仕組みになっており、日本も見習うべきだと指摘する。

台風26号が直撃し、土砂で流された家屋=2013年10月16日、東京都大島町、朝日新聞社機から

 ■日本、策定の動き

 昨年10月の台風26号で、36人が死亡、3人が行方不明となった東京都大島町。避難勧告を出さなかったことも踏まえ、次の台風シーズンに備えてタイムラインを作る会議を20日に立ち上げる。

 町、都、警察、消防、消防団民生委員、住民らが災害発生が予測される数日前から、何をするかの共通認識を作ることが目的だ。

 タイムラインで整理される項目は、各組織の防災計画に書かれた内容と大きくは違わない。ただ、別組織の行動を関連づけて一覧でき、職員の配置や避難に遅れはないのか、対応の漏れがないか、確認しやすい。

 「町が何らかの対応を取ってくれていれば助かったかもしれない」。川島理史町長は、ある遺族の一言が頭を離れないという。

 当時、町長、副町長とも出張で島を離れていた。気象庁大雨警報と土砂災害警戒情報を出したが、町は「夜間の避難はかえって危険」と判断、住民への避難勧告を控えた。被災後の台風27号大雨では先手を心がけた。「最悪の事態が起きる前提で、できる限りの手立てを打つ。犠牲になった方々の思いに応えたい」

 三重県紀宝町も7月をめどにタイムライン策定を急ぐ。11年9月の紀伊半島豪雨で、2割の世帯が床上浸水以上の被害を受け、2人の死者・行方不明者が出た。担当者は「まず暫定版を作り、使いながら仕上げていきたい」と話す。地下鉄や地下街の浸水被害が繰り返されてきた名古屋市でも名古屋駅周辺の企業や鉄道会社を巻き込んだ策定が6月に始まる予定だ。

 ■対応検証にも有効

 国土交通省は4月、国が直接管理する河川109水系でタイムラインを作ると打ち出した。河川事務所と市町村、気象台が中心になり、7月中に策定を終えたい考えだ。井上智夫・河川保全企画室長は「災害直前は対応のチェックリストとして、災害後は対応の検証に活用できる」と言う。

 利根川や荒川がある首都圏や、伊勢湾台風を超える巨大台風に備える中部圏では、水害時に広域避難が必要。内閣府中部地方整備局などがタイムラインを生かした避難計画を作成中だ。

 (古城博隆)

 ■昨年の豪雨での避難指示対象者数と避難率

県名 市町村 避難指示
対象者数
避難率
青森県 青森市 4476人 3.0%
弘前市 2213人 10.3%
つがる市 2543人 9.2%
鰺ケ沢町 1530人 11.9%
1530人 16.7%
1人 100%
岩手県 陸前高田市 273人 55.3%
住田町 140人 65.7%
岩泉町 244人 19.7%
秋田県 大館市 15人 40.0%
由利本荘市 10人 100%
山形県 長井市 43人 97.7%
山辺町 2人 100%
朝日町 44人 34.1%
白鷹町 471人 49.0%
福島県 喜多方市 77人 72.7%
埼玉県 川越市 3711人 2.8%
千葉県 佐倉市 2842人 2.2%
市原市 6139人 5.4%
君津市 22251人 0.6%
袖ケ浦市 3690人 3.5%
白井市 8人 100%
新潟県 妙高市 634人 17.2%
福井県 美浜町 257人 31.9%
長野県 栄村 59人 91.5%
三重県 紀宝町 1232人 4.0%
滋賀県 大津市 4779人 6.4%
野洲市 2585人 25.2%
竜王町 4698人 26.1%
愛荘町 1369人 18.7%
京都府 福知山市 81246人 1.9%
綾部市 6250人 23.6%
宇治市 61945人 1.0%
大阪府 和泉市 648人 0.2%
島本町 1437人 9.3%
兵庫県 神戸市 46人 21.7%
宝塚市 28人 67.9%
奈良県 下市町 168人 14.3%
鳥取県 若桜町 2人 0%
島根県 江津市 429人 31.9%
321人 19.6%
岡山県 高梁市 97人 20.6%

 避難状況が確認できた自治体。2013年7月12日~10月25日の豪雨や台風で発令。鰺ケ沢町、江津市は別々の災害時の発令をそれぞれ集計

【近畿】命の情報、生かすには

 災害が迫る中、市町村が発表する指示や勧告といった避難情報。だが実際の避難に必ずしもつながっていない。情報のわかりにくさや精度を改善し、命を守る行動に生かすため、自治体や住民は知恵を絞る。

 ■突然の避難指示、混乱した宇治 基準改訂、住民も動く

天ケ瀬ダムの緊急放流で宇治川が増水し、避難指示が出された約1時間半後の宇治橋付近=2013年9月16日午前9時31分、京都府宇治
新たに避難場所に使用する協定を結んだユニチカの体育館で担当者の説明を聞く町内会長ら
=京都府宇治市

 昨年9月16日午前7時50分。台風18号に伴う大雨に見舞われていた京都府宇治市は、宇治川流域に避難指示を出した。だが避難所へ逃れた住民は、対象の1%にとどまった。

 「なぜ、いきなり避難指示だったのか。市民は大混乱した」。翌月の市議会で情報の出し方を問う声も出た。市は、段階を踏んで出されることの多い避難準備情報や避難勧告を出さないまま「一足飛び」に指示を発表した。山本正市長は「情報伝達のあり方や市民の防災意識などに課題があるのでは」と答えた。

 市は、宇治川上流の天ケ瀬ダムから約1・5キロ下流の水位が3メートルで避難準備情報、3・5メートルで避難勧告、3・6メートルで指示の発表を、判断することにしていた。しかし午前1時に3メートル、4時に3・5メートルになっても「ダムで水位は調節されている」として準備情報や勧告を出さず、ダムの緊急放流が始まった後に指示に踏み切った。

 宇治川本流の堤防決壊は1953年が最後。その後、天ケ瀬ダムができたこともあり「市民には『まさか』という意識があったかもしれない」と市幹部。市は宇治川の水位だけでなく、累積雨量や雨量予測なども含めて判断するよう、基準を改めた。

 実際に避難を経験した住民は「次」に備え始めた。

 今月13日、宇治市のユニチカ宇治事業所体育館で、12人の地元町内会長らが「年寄りが座るいすはありますか」「2階を使ってもいいですか」などとユニチカ社員に次々と尋ねた。

 市の避難所の小学校は宇治川に近く、浸水が想定されるため、地元の槙島東連合町内会がユニチカ側との合意で約10年前から独自に事業所を避難所に設定してきた。連合町内会の辻昌美さん(78)は「『水害の時はユニチカ』が地元の合言葉」。

 台風18号では約300人の住民が屋外のテントに避難。体が冷えた経験から、体育館の使用も認めてもらう協定を昨年12月に交わした。体育館を使った初めての防災訓練を6月に開く予定だ。

 (小山琢)

 ■夜に勧告、死者出た佐用 役場任せにしない

町民の案内で浸水の跡を確かめる高松市からの見学者ら
=兵庫県佐用町
3年前の水害で、道路を越えた濁流が避難所だった右端の保育所を直撃した。「安心して逃げられる場所がないと住民は動きにくい」と話す石井康夫区長
=和歌山県那智勝浦町井関

 大災害を経験した自治体は、情報発信のあり方を見直している。

 09年の台風で夜間に避難勧告が出され、避難中に流されるなどして18人が死亡、2人が行方不明になった兵庫県佐用町。町は「避難誘導は職員が行う」としてきた地域防災計画を、「原則として避難者による自力避難」に転換した。

 当時、役場は1階が水につかり、情報伝達が適切にできなかった。久保正彦・企画防災課長は「住民に押しつけるのかと反発もあったが、役割を分担した」と話す。

 委嘱した20人の住民に、自宅などから見える川の状況を電話で教えてもらう「災害モニター」の仕組みも作った。避難情報の発表を判断する材料にする。

 街が水につかった久崎地区で呉服店を営む井口覚さん(58)は「住民も『自分たちで守る』という意識を高めて、できることをやるしかない」と話す。

 11年9月の水害で死者・行方不明者が61人にのぼった和歌山県。うち29人の被害が出た那智勝浦町で今月13日、町と県の職員が避難情報の発表基準を話し合った。町は雨量などの数値基準を盛り込んだマニュアルを月内に作る。ひな型は、県の「モデル基準」だ。

 11年には、勧告や指示がなかった地区で犠牲者が出た。県は、的確な勧告や指示を出すには客観的な基準が必要だとして、12年に「累積基準400ミリで避難指示」などと数値を示したモデル基準を作成。モデル基準は、今年4月に改正された国の勧告などのガイドラインでも参考にされた。6月までに、県内全30市町村で基準ができる見通しだ。

 「これだけ作り込んだ基準なら信用できる、逃げなきゃ、と住民に思ってもらえるはず」。高瀬一郎・県危機管理局長は狙いの一つを明かす。

 ただ、情報だけでは十分とは言えない。11年に地区の9割以上の家が被災した井関地区の区長、石井康夫さん(59)は、昨年中5回出された避難勧告などの際、避難しようとする住民が徐々に減っていると感じた。地区内の避難所だった保育所は11年に被災して指定が外れ、現在の避難所は地区から3キロ以上離れた体育館だ。「近くに避難しやすい場所を作ることがまず必要ではないか」と話す。

 (中村正夫、佐藤卓史)

【九州・山口】 避難、空振り恐れない

 豪雨などの際、避難指示や避難勧告を出すのが遅れたり、うまく住民に伝わらなかったりした事例が相次ぐ。過去の水害を教訓に、市町村は避難指示、勧告の出し方を改め、住民も自らの命を守るため知恵を絞っている。

 昨年7月の記録的な豪雨で死者・行方不明者計3人、負傷者11人が出た山口県。豪雨を機に、山口市は積極的に住民に避難を呼びかける方針に転換した。「見逃しよりは空振りを」と市の担当者は話す。

 昨年夏の苦い思いがあった。7月28日午前6時半、山間部の山口市阿東を流れる阿武川の水位は避難勧告を出す目安を超えた。しかし、市が阿東地域の住民に避難勧告を出したのは午前10時、勧告を知らせるメールはその約1時間45分後。その間に川は氾濫(はんらん)し、民家や道路に泥水が流れ込んだ。

 市は当時、雨量の見通しなどを総合的に判断して避難勧告を出していたが、「住民が身構える」(市防災危機管理課)として積極的には出していなかった。

 現在も目安となる数値基準は設けていないが、消極姿勢は改めた。

 一昨年7月の九州北部豪雨で死者21人、行方不明1人に上った熊本県阿蘇市は、避難指示や勧告の発令基準を見直した。

 当時は土砂災害を巡る避難指示、勧告を出す目安の表現が「危険と判断される時」「災害が発生する恐れがある時」などとあいまいだった。それを、県が発表する土砂災害危険度情報に基づき、「警戒1」(2時間以内に危険到達の恐れ)で勧告、「警戒2」(1時間以内に危険到達の恐れ)以上で指示を出すよう改めた。「自動的に発令時期を判断できるようになった」(市総務課)

 また、激しい雨音や雷鳴で屋外にある防災行政無線の内容が聞き取れない事態も起きたため、勧告なら5秒間2回、指示なら10秒間2回、まず大音量でサイレンを鳴らすようにした。

 阿蘇市は災害が予想される場合、早い段階で自主避難を呼びかける「予防的避難」にも積極的だ。県も避難所の設置経費などを補助して後押しする。

 昨年の熊本県内の予防的避難は阿蘇市3回、南阿蘇村2回、宇土市1回で延べ83世帯151人。いずれも大きな被害はなかったが、避難者の95%が県の調査に「次も自主避難する」と答えた。県危機管理防災課の担当者は「空振りというより、何もなくて良かったという意識が大事」と話す。

 (野中正治、峯俊一平)

 ■住民 応急的対策、自分たちで

 住民も避難の備えを進めている。

 27世帯62人が住む山口市阿東嘉年下の市場地区。昨年7月の豪雨で地区が浸水で分断され、携帯電話も通じなかったことを踏まえ、自治会は昨年末、緊急時の連絡手段などとしてトランシーバーや拡声機、発電機など約30万円分の防災用品を、市の補助を受けて購入した。「行政の指示や支援が来るまでに時間がかかる。自分たちで応急的な対応ができる態勢を整えないと」と自治会長の倉田博(ひろむ)さん(71)はいう。

 京都府宇治市の槙島東連合町内会は、ユニチカ宇治事業所を独自に避難所に設定している。市の避難所は宇治川に近いため、連合町内会が10年ほど前にユニチカ側と合意した。昨年9月の台風18号で宇治市は6万1945人に避難指示を出し避難者は643人。これと別に、ユニチカに約300人が自主的に避難した。

 兵庫県佐用町では、町民20人が「災害モニター」として協力している。大雨の際、川の濁り具合や雨の降り方など、現地でしか分からない情報を町に伝える。モニターの1人、農業春本鉄夫さん(65)は「いろんな場所で見張る人がいるのは心強い。被害を減らせるよう協力したい」。

【東海】逃げぬ住民、どう誘導

 濃尾平野を中心に海抜ゼロメートル地帯が広がる東海地方。5千人以上の死者・行方不明者を出した1959年の伊勢湾台風をはじめ、過去に何度も台風や大雨の被害に遭ってきた。水害から命をどう守るのか。自治体は、住民にいち早い避難を促そうと苦心している。

2000年の東海豪雨の時、障害のある長女を連れて避難した戸水純江さん=愛知県清須市西枇杷島町

 「全く無防備でした」。愛知県清須市の戸水純江さん(71)は愛知、岐阜、三重、静岡の4県で10人が亡くなった2000年9月の東海豪雨をこう振り返る。

 同月12日午前0時ごろ、地区の責任者が自宅に避難を呼びかけに来た。避難勧告が出たからだ。

 しかし、指定避難所は役場の2階講堂。戸水さんには、障害があり、移動に車椅子が必要な長女がいた。避難所にエレベーターはなく、トイレも車椅子では入れない和式だけ。長女には生活できない場所だった。

 雨が断続的に小降りになっていたこともあり、自宅1階の和室に布団を敷いて寝た。数時間後、背中がぬれているのに気づいて目が覚めた。すでに床上まで浸水。急いで車に長女を乗せ、夫と長男の計4人で自宅向かいのスーパー2階の駐車場に逃げた。長女の常備薬だけは持って出たが、食料などの備蓄は一切なかった。

 あれから14年。今は自宅に飲料水などを用意している。避難の大切さも理解した。しかし、避難所に行くことには迷いが残る。「高齢になり、避難所の生活に耐えられる自信がない」からだ。

 ■防災情報、周知に映像

三重県尾鷲市が設置した通信局。災害発生時には、市長らが市民に避難などを呼びかける
=同市防災センター
尾鷲市が市内全戸に配布するエリアワンセグの専用受信端末
=同市提供

 どうすれば住民に災害情報を確実に届けられるか。避難勧告や指示を出しても避難する住民が少ない現状をどう改善するか。自治体の悩みは共通している。

 年平均降水量が3800ミリを超える全国有数の豪雨地帯の三重県尾鷲市。市は4月、東海地方で初めて市内限定の「エリアワンセグ」放送の通信局を開設し、放送を始めた。

 市防災センターのスタジオから専用の受信端末に向け、音声だけでなく、テレビ放送と同じように映像や文字情報を発信する。市内では高齢化が進む。大雨の時には、街頭に設置した防災行政無線の音声が聞こえない、との声が住民から多く寄せられていた。このため、新たな防災情報の伝達手段として導入を決めた。

 市内全域に無線中継送信局を20基設置。2月に総務省からエリア放送局の免許を取得した。来年度までに市内の全世帯に受信端末を配布する。

 災害時には、市長がスタジオから住民に避難を呼びかける。土砂災害や高潮、津波を警戒する市内14カ所の固定カメラの映像も配信できる。市防災危機管理室の福嶋直弥室長補佐は「情報を届けてこそ、住民を動かせる。現場の映像を流せば切迫感を持ってもらえる」と期待する。

 ■行動計画で漏れ防止

 米国で生まれた行動計画表「タイムライン」を導入する動きもある。タイムラインは、台風や低気圧による大雨などあらかじめ予測可能な災害を対象にするのが一般的。発生の数日前から時間に沿って、自治体や国、住民がどう行動するかを整理する。

 三重県紀宝町がNPO法人「環境防災総合政策研究機構」(CeMI、本部・東京)の協力を得て、全国で一番早く導入を決めた。

 台風27号が昨年10月に日本列島に接近した際には、CeMIから提供を受けた試行版のタイムラインを使って、紀宝町の担当者が排水ポンプの点検や土砂災害の恐れのある現場を巡視した。町総務課防災対策係の担当者は「時系列に沿って事前に対策を明文化しているので、漏れがなくなる」と効果を説明する。

 町は今年夏ごろをめどに地形などを考慮したタイムラインを作り、運用を始める。将来的には自主防災組織などを中心に住民側にもタイムラインを作ってもらい、すばやい避難の実現を目指すという。

 名古屋市でも、名古屋駅周辺を対象に庄内川の洪水を想定したタイムラインの策定が計画されている。国土交通省中部地方整備局庄内川河川事務所は6月にも、市や愛知県などと検討会を立ち上げる。

 (宋光祐)

【2】すすまぬ警戒区域指定

 ■土砂災害、年平均1184件

 毎年のように大雨や台風に襲われる日本列島は、崖崩れや地すべりなど土砂災害の危険と隣り合わせにある。山地だけでなく、都市部にも丘陵地や盛り土造成地が広がる。

 国土交通省によると、土砂災害は2004~13年までの10年で毎年平均1184件、起きている。台風18号伊豆大島で大きな被害があった台風26号が来襲した昨年は941件発生して、死者・行方不明者は計53人に上った。

 土砂災害防止法は、都道府県が危険箇所を調査した上で土砂災害警戒区域に指定するよう定めている。指定された市町村は避難勧告や避難指示を出す基準を決め、ハザードマップを作ることが義務づけられる。

 国交省によると、全国で危険箇所は52万5千カ所。しかし、13年度末までに都道府県が調査を終えたのは37万9千カ所、警戒区域の指定は35万カ所にとどまる。指定が進まない理由の一つに「地価が下がる」との住民の反対があるという。東京都多摩地区から指定作業を進めているが、伊豆大島などは後回しで、昨年の台風で土石流が発生した現場も指定されていなかった。

 国交省が09~10年に豪雨災害に遭った51地域を調べたところ、警戒区域の住民の避難率はそれ以外の地域より3割近く高かった。室崎益輝・神戸大名誉教授(防災計画)は「警戒区域指定で住民の危機感は確実に増す。危険を正しく伝えるのは行政の責任。災害は明日にも起きるかも知れず、防災態勢を築くために速やかに指定を進めなければならない」と指摘する。

 (石川智也)

【3】誰がどう動くか、整理して

CeMI環境・防災研究所副所長
松尾一郎さん

 犠牲者が出た豪雨災害を調べると、市町村が避難を呼びかけるのが遅れた、ためらったという問題に行き着く。

 大災害は数年から数十年に1回ほど。多くの場合、市町村長も防災担当職員も、その立場での対応は初めてだろう。

 災害が大きくなると関わる人が増え、混乱も増す。自治会や消防団、学校、企業がばらばらに動く「縦割り防災」を防ぐためにも、いつ、どこで、誰が、何をするか、互いの動きをタイムラインで整理しておく必要がある。

 個人や地域、行政の役割は平時と災害時で重みが変わる。平時は防災施設の整備や教育など行政が中心だが、発生時にできることは多くない。大災害ほど行政の人手が足らず、頼れない。地域の力が問われる。

 人は身近な人の避難を見たり、声をかけられたりすると避難する。避難の呼びかけ、助けが必要な人の誘導の手順を事前に地域で決めておく必要がある。避難しても災害が起きないこともあるが、「空振り」でもよかったと思える地域作りが大切だ。

 住宅のある場所、家族構成でも備える災害や災害時の対応は変わる。重要なのは、暗くなる前や水があふれ出す前に避難するといった「先を見越した行動」だ。近年は、事前には予測できない局所的な豪雨も増えている。災害が起こり始めたら、避難所に行くことが危険になる。無理に避難しないことも大事だ。

 想定外に対応するために「用意周到」と「臨機応変」の両方が大事だ。

 (聞き手・古城博隆)

災害大国 被害に学ぶ

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 かつて「野鳥の森」と呼ばれた福島第一原発敷地内の森は、汚染水をためるタンクで埋め尽くされそうとしている。

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【阪神大震災20年】レンズの記憶

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阪神大震災 阪神大震災

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◆ 地震動予測地図

地震調査研究推進本部の資料から

◆ 女子組版「災害時連絡カード」

印刷して切り抜き、財布などに入れてお使いください

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日本列島ハザードマップ 災害大国・迫る危機

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