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どうせ被害はない、自分は大丈夫だろう、と避難が遅れがちな水害。災害時に行政や地域、住民の動きを整理した米国発の行動計画表「タイムライン」が注目を集めている。災害が迫ったとき、どんな情報が得られ、どのタイミングで何をすればいいのか、住民を中心に整理した。
米東海岸をハリケーン・サンディが襲った2012年10月、上陸の3日前からニューヨーク州知事らが「緊急事態宣言」を発表、住民の避難勧告や入院患者の移送、地下鉄の運行停止などの準備を着々と進めた。
05年8月に約1800人が死亡したハリケーン・カトリーナへの反省から、事前の準備を整えるために生まれた「タイムライン」に基づく行動だ。サンディの襲来で初めて本格的に使われた。
この災害対策を日本に生かそうと、国土交通省と防災関連学会の合同調査団が防災行動や被害を調べた。
調査団によると、ニュージャージー州知事は上陸36時間前には、高潮被害が予想される地域に避難勧告を発令。沿岸部のバリアアイランド地区は住宅4千棟が全半壊したが、犠牲者はゼロだった。
ニューヨーク市長は上陸3日前に避難すべき地域を発表。沿岸部の病院に入院患者を避難させるよう呼びかけた。地下鉄の運行停止も予告。上陸1日前に運行をやめ、車両や電動の設備が水につからないよう退避させた。8駅に海水が入るなどしたが、主要路線は数日で復旧。先を見越した対応が被害を抑えた。
調査団長を務めた河田恵昭・関西大教授(危機管理)は「大災害になるほど、やるべき準備も関わる組織も多くなる。誰が何をするかを見える化して共有する効果は大きい」と話す。米国ではタイムラインを元に災害時の対応が適切だったか、検証して改善を続ける仕組みになっており、日本も見習うべきだと指摘する。
昨年10月の台風26号で、36人が死亡、3人が行方不明となった東京都大島町。避難勧告を出さなかったことも踏まえ、次の台風シーズンに備えてタイムラインを作る会議を20日に立ち上げる。
町、都、警察、消防、消防団、民生委員、住民らが災害発生が予測される数日前から、何をするかの共通認識を作ることが目的だ。
タイムラインで整理される項目は、各組織の防災計画に書かれた内容と大きくは違わない。ただ、別組織の行動を関連づけて一覧でき、職員の配置や避難に遅れはないのか、対応の漏れがないか、確認しやすい。
「町が何らかの対応を取ってくれていれば助かったかもしれない」。川島理史町長は、ある遺族の一言が頭を離れないという。
当時、町長、副町長とも出張で島を離れていた。気象庁は大雨警報と土砂災害警戒情報を出したが、町は「夜間の避難はかえって危険」と判断、住民への避難勧告を控えた。被災後の台風27号や大雨では先手を心がけた。「最悪の事態が起きる前提で、できる限りの手立てを打つ。犠牲になった方々の思いに応えたい」
三重県紀宝町も7月をめどにタイムライン策定を急ぐ。11年9月の紀伊半島豪雨で、2割の世帯が床上浸水以上の被害を受け、2人の死者・行方不明者が出た。担当者は「まず暫定版を作り、使いながら仕上げていきたい」と話す。地下鉄や地下街の浸水被害が繰り返されてきた名古屋市でも名古屋駅周辺の企業や鉄道会社を巻き込んだ策定が6月に始まる予定だ。
国土交通省は4月、国が直接管理する河川109水系でタイムラインを作ると打ち出した。河川事務所と市町村、気象台が中心になり、7月中に策定を終えたい考えだ。井上智夫・河川保全企画室長は「災害直前は対応のチェックリストとして、災害後は対応の検証に活用できる」と言う。
利根川や荒川がある首都圏や、伊勢湾台風を超える巨大台風に備える中部圏では、水害時に広域避難が必要。内閣府や中部地方整備局などがタイムラインを生かした避難計画を作成中だ。
(古城博隆)
県名 | 市町村 | 避難指示 対象者数 |
避難率 | ||
青森県 | 青森市 | 4476人 | 3.0% | ||
弘前市 | 2213人 | 10.3% | |||
つがる市 | 2543人 | 9.2% | |||
鰺ケ沢町 | 1530人 | 11.9% | |||
1530人 | 16.7% | ||||
1人 | 100% | ||||
岩手県 | 陸前高田市 | 273人 | 55.3% | ||
住田町 | 140人 | 65.7% | |||
岩泉町 | 244人 | 19.7% | |||
秋田県 | 大館市 | 15人 | 40.0% | ||
由利本荘市 | 10人 | 100% | |||
山形県 | 長井市 | 43人 | 97.7% | ||
山辺町 | 2人 | 100% | |||
朝日町 | 44人 | 34.1% | |||
白鷹町 | 471人 | 49.0% | |||
福島県 | 喜多方市 | 77人 | 72.7% | ||
埼玉県 | 川越市 | 3711人 | 2.8% | ||
千葉県 | 佐倉市 | 2842人 | 2.2% | ||
市原市 | 6139人 | 5.4% | |||
君津市 | 22251人 | 0.6% | |||
袖ケ浦市 | 3690人 | 3.5% | |||
白井市 | 8人 | 100% | |||
新潟県 | 妙高市 | 634人 | 17.2% | ||
福井県 | 美浜町 | 257人 | 31.9% | ||
長野県 | 栄村 | 59人 | 91.5% | ||
三重県 | 紀宝町 | 1232人 | 4.0% | ||
滋賀県 | 大津市 | 4779人 | 6.4% | ||
野洲市 | 2585人 | 25.2% | |||
竜王町 | 4698人 | 26.1% | |||
愛荘町 | 1369人 | 18.7% | |||
京都府 | 福知山市 | 81246人 | 1.9% | ||
綾部市 | 6250人 | 23.6% | |||
宇治市 | 61945人 | 1.0% | |||
大阪府 | 和泉市 | 648人 | 0.2% | ||
島本町 | 1437人 | 9.3% | |||
兵庫県 | 神戸市 | 46人 | 21.7% | ||
宝塚市 | 28人 | 67.9% | |||
奈良県 | 下市町 | 168人 | 14.3% | ||
鳥取県 | 若桜町 | 2人 | 0% | ||
島根県 | 江津市 | 429人 | 31.9% | ||
321人 | 19.6% | ||||
岡山県 | 高梁市 | 97人 | 20.6% |
避難状況が確認できた自治体。2013年7月12日~10月25日の豪雨や台風で発令。鰺ケ沢町、江津市は別々の災害時の発令をそれぞれ集計
毎年のように大雨や台風に襲われる日本列島は、崖崩れや地すべりなど土砂災害の危険と隣り合わせにある。山地だけでなく、都市部にも丘陵地や盛り土造成地が広がる。
国土交通省によると、土砂災害は2004~13年までの10年で毎年平均1184件、起きている。台風18号や伊豆大島で大きな被害があった台風26号が来襲した昨年は941件発生して、死者・行方不明者は計53人に上った。
土砂災害防止法は、都道府県が危険箇所を調査した上で土砂災害警戒区域に指定するよう定めている。指定された市町村は避難勧告や避難指示を出す基準を決め、ハザードマップを作ることが義務づけられる。
国交省によると、全国で危険箇所は52万5千カ所。しかし、13年度末までに都道府県が調査を終えたのは37万9千カ所、警戒区域の指定は35万カ所にとどまる。指定が進まない理由の一つに「地価が下がる」との住民の反対があるという。東京都は多摩地区から指定作業を進めているが、伊豆大島などは後回しで、昨年の台風で土石流が発生した現場も指定されていなかった。
国交省が09~10年に豪雨災害に遭った51地域を調べたところ、警戒区域の住民の避難率はそれ以外の地域より3割近く高かった。室崎益輝・神戸大名誉教授(防災計画)は「警戒区域指定で住民の危機感は確実に増す。危険を正しく伝えるのは行政の責任。災害は明日にも起きるかも知れず、防災態勢を築くために速やかに指定を進めなければならない」と指摘する。
(石川智也)
犠牲者が出た豪雨災害を調べると、市町村が避難を呼びかけるのが遅れた、ためらったという問題に行き着く。
大災害は数年から数十年に1回ほど。多くの場合、市町村長も防災担当職員も、その立場での対応は初めてだろう。
災害が大きくなると関わる人が増え、混乱も増す。自治会や消防団、学校、企業がばらばらに動く「縦割り防災」を防ぐためにも、いつ、どこで、誰が、何をするか、互いの動きをタイムラインで整理しておく必要がある。
個人や地域、行政の役割は平時と災害時で重みが変わる。平時は防災施設の整備や教育など行政が中心だが、発生時にできることは多くない。大災害ほど行政の人手が足らず、頼れない。地域の力が問われる。
人は身近な人の避難を見たり、声をかけられたりすると避難する。避難の呼びかけ、助けが必要な人の誘導の手順を事前に地域で決めておく必要がある。避難しても災害が起きないこともあるが、「空振り」でもよかったと思える地域作りが大切だ。
住宅のある場所、家族構成でも備える災害や災害時の対応は変わる。重要なのは、暗くなる前や水があふれ出す前に避難するといった「先を見越した行動」だ。近年は、事前には予測できない局所的な豪雨も増えている。災害が起こり始めたら、避難所に行くことが危険になる。無理に避難しないことも大事だ。
想定外に対応するために「用意周到」と「臨機応変」の両方が大事だ。
(聞き手・古城博隆)
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