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災害で被災しても業務を続ける計画づくりを、企業や行政機関が発展させてきた。リスクを想定、生命や財産の保護、震災後の再建を見据えて立てる対策は、家庭の備えにも生かせる。企業の取り組みを家庭にどう活用できるか考えた。
【編集委員・黒沢大陸、合田禄】自然災害や事故で大きな被害を受けても、業務を早期に再開する事業継続計画(BCP)づくりは、2001年の米同時多発テロを機に広がった。地域で助け合うCCP、家族の生活を継続するLCPも提唱され始めている。
朝日新聞は、計画づくりを支援する大手損保グループのインターリスク総研に協力してもらい、家庭にどう生かせるかを検討した。
企業は、リスクや被災時の影響を想定し、従業員の安全確保や企業活動に必要な拠点を維持、事業を続けるしくみを作り、その資金を確保し、社内の意識を高め、取り組みを見直し続ける。家庭に置き換えると、身近な危険を調べ、非常時の行動を話し合い、生活に必要な物資を備蓄し、被害を減らす対策にあたる。
例えば、住宅を耐震化することや火事で燃えにくくすることは、命を守ると同時に財産も守り、被災後の生活の立て直しにつながってくる。被災後に生活を続けるために何が必要なのかの視点で、従来の防災や減災の取り組みを見直せば、新たに必要なことが見えてくる。
インターリスク総研の江尻明隆・上席コンサルタントは「被災の影響が深刻なら、企業は事業から撤退という選択もあるが、家庭は生活をやめるわけにはいかない。むしろ家庭こそ生活継続の視点が必要だ」と話す。
被災後の生活立て直しも重要だ。最大の課題は住居と収入。東日本大震災では、震災から千日が過ぎた今も、仮設住宅に約30万人が入居したままだ。
住宅が全壊すると、公的な支援や地震保険だけでは被災前の家は建てられない。転居や小さい住宅への建て替えといった再建策を想定しながら、貯蓄などを考えておく必要がある。地元に根ざした仕事は、災害で地域社会が打撃を受けると職を失う恐れがある。失業の準備はできなくても、可能性を考えておくことは再建への一歩につながる。
災害時は、行政も、生活に必要な物資を供給する企業も、単独では業務を続けられず、地域を含めた連携が欠かせない。家庭の生活維持は、災害に強い社会づくりに直結する。
ふだんから災害について話し合い、対策を立てておくことは、企業にとっては組織の活性化に、家庭にとっては家族の良好なコミュニケーションにつながるという意味でも有益だ。
MS&ADグループ・インターリスク総研の協力で作製
LCPを考えるとき、お金の問題は避けて通れない。自宅の再建や補修が必要になったり、職を失って収入が減ったりしたとき、お金の工面は大きな課題になる。
住まいの再建には多額の資金が必要だが、公的な援助は限られている。被災者生活再建支援法が適用されると、全壊の場合で最大300万円の支援金が支払われる。義援金の配分は、東日本大震災の津波で自宅が全壊した場合で百数十万円だった。
この場合、自宅を建て直すのに2千万円かかるとすると、残り1500万円前後は預金やローンで自分で準備しなければならない。東日本大震災では、二重ローンや高齢で借り入れできないなどという声もあり、独自に給付制度を上乗せした自治体もあった。
事前の備えに、国が運用にかかわる「地震保険」がある。火災保険とのセット加入で、2千万円の火災保険を契約している場合、地震保険は最大1千万円の支払いまで契約できる。加入率は2012年度末時点で27・1%にとどまっている。
仕事への影響も大きい。総務省の就業構造基本調査(2012年)によると、東日本大震災の影響で離職した人は全国で約21万人で、うち4割が震災から約1年半が経過しても仕事に就けていなかったという。
生計維持者が亡くなると災害弔慰金(最大500万円)、自分が重い障害を負うと災害障害見舞金(同250万円)が国や自治体から支給される。雇用保険には、失業しておらず休職中でも給付が受け取れる震災特例がある。ほかは、被災者への生活資金などの融資制度が主になる。
防災や減災、災害を克服しようと立ち向かう「克災」は、まず、必ずやるという強い意志、上杉鷹山のいう「為せば成る」の精神を持つことが大事だ。
自治体や会社と同様に、家庭も意思決定が大切で、例えば自宅の耐震化のために節約してお金をためようと決めれば家族みんなでがんばれる。やる気になってねばり強く進めれば、ごみの分別や禁煙社会のように、いずれ実現する。
命や生活を守るには、行政や企業が被害想定やリスク評価をするように、個人が身の回りの危険を想定することが必要だ。
この時間、あの場所で災害が起きたら、どんな状況に直面するのか。家具が倒れる、窓ガラスが割れて降ってくる、水がない、電気がしばらく使えないなど、具体的な場面を想像できれば、減災のためにやるべきことが次から次へと見えてくる。
昔は小さな災害が日常的にあって災害を意識して対策につながったが、近年はそれが減った。災害を自分のこととしてとらえる「我がこと」感が大切だ。
減災も日々の見直しが大切で、最近は増えてきたように災害を日常の話題にしていくといい。日本人は改善運動が得意だから、チェックリストがなくても、会話から自分の欠けていることがわかり、他の人がやっていることを知れば自分の生活にも生かせる。
現代社会は、東京に一極集中が進み、地盤が悪い場所に住宅地が広がって災害に弱くなっている。個人が災害のリスクを考えた住居の選択を徹底していけば、多くの日本人は?年もすれば一回は引っ越すのだから数十年たてば災害に弱い土地は住む人が減って、農地など本来あるべき土地利用に戻っていくだろう。政府が想定する被害も多くが個人の命と財産。個人の改善活動は災害に強い社会づくりにつながっていく。
■災害別特集ページまとめ
熊本地震、こう揺れた(2016/04)
3Dで見る阿蘇大橋周辺の被害地図(2016/04)
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発生から2年までの復旧・復興への歩み、原発事故のその後を、この特集でさぐる。多くの困難なのか、それでも前を向く人々。「忘れない」という誓いを胸に、これからも支えたい。
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著者:朝日新聞社 価格: ¥1,680
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