WMJ的酒場放浪記 【中野坂上編】 | WHISKY Magazine Japan

WMJ的酒場放浪記・1 【中野坂上編】

December 24, 2012

ハイランダー・イン。シングルモルトの愛飲家なら一度は聞いたことがある名前だろう。それは世界各地からシングルモルト愛飲家たちが集まるウイスキーの聖地スペイサイドの中心に位置するホテル&バー。豊富なウイスキーコレクション、コンディション抜群のスコティッシュエール、そして王道のスコットランド料理が自慢のバーだが、そんな本場の雰囲気を楽しめるバーが東京にもあるという。

地下鉄・中野坂上駅の出口を出てすぐの路地を30メートルほど進むとすぐに緑の看板が目に飛び込んでくる。シングルモルト愛飲家ならいつかは訪れてみたいスコットランド・クライゲラヒにあるホテル『ハイランダー・イン』。本店はマッカラン蒸溜所・アベラワー蒸溜所・クライゲラヒ蒸溜所を結んだ三角のちょうど中心くらい、典型的スコットランドの風景の中に位置しているが、ハイランダー・インTOKYOは国道が交わる交通量の多い交差点、駅から近い点でロケーションという意味では本店と大きく異なる。しかし、それ以外は限りなくスコットランド本店のDNAを受け継いでいる正真正銘・正式な姉妹店だ。

店に下る階段を一段ずつ下りるたび、甲高い山羊の鳴き声のようなバグパイプの特徴的な音とフィッシュ&チップスの香ばしい香りが近づいてきて、スコットランドに行ったことがある人であればあのスコティッシュパブ独特の雰囲気にまもなく出会えるという期待に胸を躍らせることだろう。

扉を開く。

タングステンライトでオレンジ色に照らされた店内にはテーブルが数脚、天井からは様々なバナーが吊り下げられ、柱の隙間から奥にバーカウンターがあることが確認できる。 オーセンティックなバーと違い、人々の笑い声とケルティックミュージックが飛び交う賑やかで明るい雰囲気だ。 カウンターに進むとやはりウイスキーの品揃えに目を奪われる。量こそ圧倒的なものではないが、ウイスキーのセレクションはビギナーから愛飲家までを幅広く満足させるものだと直感的に気付くことができる。ツボを押さえたなんとも絶妙なセレクションだ。

 

「ウイスキーに関していうと、ウチに限ってかもしれないですけど、ドイツのボトラーズブランドのものが人気がありますね。あとオフィシャルでいえば小規模蒸溜所のものですかね。キルホーマンとかスプリングバンクとか。」

と話すのは店長の鈴木氏。

「長期熟成のボトラーズものばかりですと、マニアの方たち向けだけになってしまい幅が狭まってしまいますから、やっぱりスタンダードは切り離せないですね。若いスタンダードと長期熟成ボトラーズブランドは、ウチとしては車の両輪として成り立たないと…。自分としてはこの先のウイスキー需要に関しても、育てる分野と現在のマニアの方を満足させるという意味で、両方必要だと思っています。」

―――それでは、たとえば今、ウイスキーにあまり詳しくないお客さんが来たとして、「ウイスキーのおすすめをください」といわれた場合、どんなウイスキーを提案しますか?

「ベンリアック12年ですね。ライトボディでシトラス、フルーティさにフローラルも若干入っていて。まずはこのあたりからおすすめさせていただいています。」
小気味よく会話が弾む。

このようにバーテンダーとお客の関係が非常にフレンドリーなこともこのお店の大きな特徴と言えよう。これは気さくで明るい鈴木店長の人柄が、スタッフから雰囲気に至るまで全体に浸透しているからに違いない。

 

気が付くとお店の中は多くのお客であふれていた。 外国人の姿もちらほらみられ、テーブルで楽しく飲むグループもあればカウンターで立ちながらバーテンダーとの会話を楽しむ人、またウイスキーのボトルを手にとってうっとりと眺めているウイスキー愛飲家も。
みんながお酒を片手に思い思いの時間を過ごす。記者がスコットランドの本店で経験したPUBLIC HOUSE*としての姿がそこにあった。そう、ここは人々にとって一日の疲れを癒し、明日への活力を得るための大切な場所なのである。
(*PUBの語源とされる言葉。日本語に訳すなら大衆酒場、社交場。)

 

いわずとしれたスコットランド(英国)の代表的バーフード、フィッシュ&チップスを頂く。 本場の味にも全く引けを取らない本格的な味わいを満喫している記者に鈴木店長はこう語る。
「仕事であったり家庭であったり、スコットランドに行くのは実際なかなか難しい方が多い中で、少しでもスコットランドの雰囲気を楽しんでいただけたらな、と思っています。今日一日のリラックスといいますか…ほっとできる空間を、このカントリーテイストとスコッチウイスキーとそしてエールと。そういうものを味わってもらえたら幸せですし、自分としては広く伝えていきたいと思っています。」

 

雰囲気、というものは恐ろしいものである。自分がその雰囲気に完全に溶け込んだとき、日常ではとっくに酔っ払っているであろう量のお酒をすでに飲み干し、時間というものの存在を忘れていたことに気付く。そして我に返る。

12月の冷たい夜風は、暖房と笑いとお酒で緩んでしまった顔を引き締め、どこかふわふわした気持ちを現実に連れ戻す。だが、再び暖房のきいた終電の座席に座ると、さっきまで酔いしれていたミニ・スコットランドの余韻が再度顔を緩ませる。
スコットランドが恋しくなったら、また、来よう。

Highlander inn Tokyo

東京都中野区中央2-1-6 コーポ武蔵屋B1F
Tel : 03-3366-2588
[平日]18:00~24:00
[土・日・祝] 18:00~24:00
日曜営業・不定休

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