樽造りの美学・4 【世界最大の製樽業者 後半/全2回】 | WHISKY Magazine Japan

樽造りの美学・4 【世界最大の製樽業者 後半/全2回】

January 8, 2014

システム化した大工場であっても職人の技と人のつながりが重要…ウイスキーを育む樽には、「保存」以上の意味がある。製樽業者の徹底した樽造りの様子をレポートする連載第四弾。

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インディペンデント・ステイヴ・カンパニー(以下ISC)では木材にバーコードを付けているため、特定のオーダーの木材が他の顧客のものと混じることはない。工程中のどの段階でも、1本の木材をスキャンすればすべてのデータを知ることができる

側板を曲げる際に木材が冷たいと爪楊枝のようにポキリと折れてしまうので、熱いお湯と熱源を使う。ISCオリジナルの機械で補助しながら、熟練の作業員が木材を曲げて樽を形作る。
鏡板にはまた別の工程がある。水圧式の機械が、溝のついたボード数枚組み合わせ、四角い板に形成する。何千キロもの圧力に耐えなければならないので、この形成は非常に重要だ。ここで形成された四角い板を、また別のISCオリジナルの機械を使って、円形の鏡板にカットする。

ボズウェルによると、こうした工業的な樽造りでは多くの部分を自動化することもできるが、樽板の5%に欠陥が出てしまうそうだ。「ウイスキー樽で木材の5%が不良品ということは、基準に満たない樽が数多くできてしまうということです。やはり人の、特に熟練した職人の技が必要になります」と彼は言う。

組み上げられた53ガロン樽はトースト工程に進む。そこでは「樽材のシェフ」が樽のバーコードをスキャンする。瞬時に木材のプロファイルがISCオリジナルのコンピュータータッチスクリーンに表示され、その樽をどれくらいの時間トーストすれば良いかが判る。樽が熱くなりすぎた場合は、ゴムホースから数滴の水が落ちてきて冷やす。私がトーストした樽の最適温度は183〜198℃だった。
すべての顧客が、チャーリングの前にトーストした樽を望むわけではない。直ぐにチャーする場合もある、とボズウェルは言う。
同じくISCオリジナルの円形のチャーリングシステムがあり、ここに樽を入れる際には、作業員がバーコードをスキャンしてプロファイルを読み取る。そして予め決められたチャーリング時間を入力する。平均は「Char No. 4」、55秒間だ。

ISCの樽製造工程はすべての段階をリアルタイムで追跡、モニタリングでき、従業員が同僚の仕事振りを見ることさえ可能だ。
作業場の外では、ひとりの作業員が1時間にどれくらいの量の木材または樽を動かしているかが、リアルタイムでコンピューター制御のグラフに表示される。動きが多いほど、給料も良くなる。
顧客が樽を差別化できるように、ISCは樽板からチャーリングまで180種類以上のチョイスを用意している。
「当社は企業化されたレストランのようなものです」とボズウェルは言う。「誰もが同じステーキの焼き具合を望むわけではないように、ある樽が万人の求める理想の樽になることはありません」

しかし、蒸溜所側は競争相手のための仕事もしている会社を信頼するのだろうか?
その疑問に、フォアローゼズ蒸溜所のマスターディスティラー ジム・ラトリッジは「逆にISCがより多くのバーボン蒸溜所の仕事をするほど良いのです」と答える。
ラトリッジによると、ISCがすべての蒸溜業者を家族同様に扱うために、バーボン蒸溜業者同士も上手く付き合っていけるのだそうだ。
「ISCはケンタッキー・バーボン・フェスティバルで2年に1回提供している最高のコンサートと、チャーチル・ダウンズで毎年行われる”Day at the Races(WMJ註:競馬のイベント)”を通じて、我々顧客が一緒に過ごす機会を設けています」とラトリッジは言う。
「バーボン業界の蒸溜業関係者たちは、友好的ではありますがもちろんライバルですから、ISCのような中間の会社が仲立ちをしてくれて一緒に過ごす時間を提供してくれることに感謝していますよ」

もちろん、良いことばかりだったわけではない。数年前、ISCはダウエルピン鏡板の問題に気付いた。漏れが多く、直すのが大変だった。ラトリッジによると、ISCはすべての蒸溜業者を招集して議論を重ねた。そして溝形(さねはぎ)鏡板をベースにした樽の方が良いという結論に達したそうだ。以降、ISCの樽はすべて前述の溝形鏡板に変わり、ダウエルピン鏡板より表面積が大きくなった。

「樽製造工程を木材の選定という最初の段階から、顧客の手に渡った後の熟成期間まで知り尽くしたISCはこの業界で最高中の最高です。私が知る限り、樽に関して他の業者に目を移す者はいないでしょうね」とラトリッジは述べている。

 

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