開発の背景
2008年にリン酸肥料の価格が倍以上に膨れ上がりました。
原因はリン鉱石の産地が大地震に見舞われたといった自然災害の為でした。
リン鉱石は埋蔵量に限りがある資源である為、数十年、数百年後には枯渇する可能性が指摘されています。
リン鉱石が枯渇すると産出国は間違いなく、自国の農業を守るための輸出制限や価格の吊り上げを行ってくるでしょう。
日本はリン鉱石を自国で採掘することができないので、これから先、2008年と同じような肥料価格の高騰が起きることは間違いありません。
前述で「リン鉱石は限りある資源である」と書きましたが、リサイクルすることでリン資源の寿命を延ばすことは可能です。
そこで弊社がリサイクルするにあたって着目したものが「消火器」です。
消火器とは
一般的に家庭で設置されている消火器は「ABC粉末消火器」といい、消防訓練等でご覧になられた方もいらっしゃると思いますが、ピンク色の粉末です。
実は、このピンク色の粉末に含まれているものは農業を営む方にはなじみ深い「リン安」と「硫安」です。
消火器は年間約400万本製造されており、一般的に8~10年の耐用年数で交換、点検が行われています。
数年前まで、耐用年数が過ぎた消火器の粉である消火薬剤は埋立処分されていました。
しかし、最近では消火器メーカーが回収した消火薬剤を選別し、新たな消火器に再利用したり、肥料としてリサイクルする動きが始まっています。
これまでの弊社の動き
弊社は、前述の2008年のリン酸肥料高騰の際にJAさがから安価なリン酸肥料原料はないかと問われ、消火薬剤に目を付けました。
しかし、消火薬剤を肥料として使用するには様々な問題があります。
その中で最も問題となるものがシリコンコーティングです。
消火器は火災が発生した際に使用するものですから使用されないに越したことはありません。
8~10年も放置されるものなので品質保全基準は非常に厳しいものとなります。
そこで、シリコンコーティングを行うことにより外部からの湿気による固結を防ぐ対策がとられています。
しかし、肥料というものは水に溶けることが第一条件として存在しており、シリコンコーティングの撥水性を除去することが課題になります。
2009年にはJAさが、肥料メーカーと共同で、肥料材料の油かすや魚かすなどの有機物と混ぜ、粉から粒に成形する過程で膜を除去する手法を生み出しました。
しかし、消火薬剤単体で肥料へとリサイクルするには至りませんでした。
兼定NP1号とは
それから2012年に株式会社久留米リサーチ・パークの研究調査事業である可能性調査事業(FS事業)に「消火器薬剤の効率的なリサイクル検討」として参加し、福岡県工業技術センター化学繊維研究所と共同でシリコンコーティング除去の研究を行ってきました。
そこで開発された技術を用いて作られた肥料が「兼定NP1号」です。
従来、消火薬剤を高圧力で加圧することで撥水性が除去されることは分かっていましたが機械装置に莫大な費用が掛かるために実用化には至っていませんでした。
しかし、消火薬剤をある一定の温度で一定時間加温することで加圧の際の圧力を70分の1以下に抑えることが可能となり、機械装置の費用の大幅な縮小に成功しました。
2013年には、「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」に採択され、機械設備を導入し、消火薬剤リサイクル肥料「兼定NP1号」の製造がスタートしました。
兼定NP1号の特長
- 肥料成分として窒素15%、リン酸24%を含んでいる。
- 安価で安定した価格
独自のリサイクル技術を確立。輸入による為替の影響を受けないため安価で安定した価格での提供が可能。 - 微量ではあるが、シリコーンのケイ素が土壌中に溶け出すため草丈の成長が良くなる。