動物たちの不思議な生態の秘密 | 犬
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動物たちの不思議な生態の秘密
元動物園獣医師・ただいま五十三次どうぶつ病院獣医師、動物たちの不思議にせまります。
プロフィール

つきまるにゃん

Author:つきまるにゃん
生き物を飼うことが
大好きな獣医師です。
いろいろな生き物に
“咬まれ・蹴られ・踏まれ・刺され”
こんな経験から
動物達の不思議な生態にせまります。

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動物達の不思議な生態の秘密
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2016.05.21_16:48

無駄な抵抗


風呂上りの妻、
ソファーにすわり顔にあやしいマスクを着け、
爪に何かを塗っている風呂上りの妻、
「最近爪に艶がないのよね・・」
何かぼそぼそつぶやいていました。
そのあと、Y字型の先に丸いピカピカのボコボコの球体のついた器具で
顔をゴロゴロ、
どうもその器具を使うと重力に逆らえず下がった顎からほっぺをあげてくれるらしい。
我が家には似たような器具がいつのまにか増えている。
「またそんな無駄なもの買って~。」
僕が小さな声でつぶやくと、
妻の眉間に2本の線が浮き出て、
「だれかが苦労させるから・・・」
妻の怒りが僕に向かい、爪の艶も、ほっぺが下がるのも全部、僕が悪いらしい。
「私なんかエステにいったことないのだから・・・。」
どうも妻の言い分はエステに行く代わりに自分でするのだから安いということらしい
「いやいや、昔とかわらず美人だよ」
こんな言葉じゃぜんぜん怒りが収まらない
それどころか、逆に火に油を注いでしまった。
まずい、こんな時はとっておきの一言、
「怒るとマリオネットになっちゃうよ」
怒っている時の口の横のしわが、マリオネットの口のように見える。
この一言で妻は怒りの顔だけはやめる。


「ピー太、おはよー~」
“ワァン ワァン”
診察室のドアを開ける僕、
ピー太は前肢を器用に使いながらスイスイと僕に近づいて、
僕の前で“ジャンプ”
残念ながら前足が少しあがるだけ。
これがピー太の挨拶。
朝の挨拶を終えると、僕はピー太を抱き上げ
診察台に乗せカテーテルでおしっこを出してあげます。
ピー太は下半身まひになり早5年、
元気にがんばっています。
今回は飼い主さんが法事のためしばらく預かることになりました。

僕がピー太の世話をしていると、
小雪婆さんがゆっくり、ゆっくりゆっくり近づいてきて、
僕の足にスリスリ、
これが彼女の挨拶。
小雪婆さんは17才のマルチーズ、
心臓と肝臓が悪く、目も白内障のためほとんど、いや全く見えていない。

この子たち(といっても、お爺ちゃん、お婆ちゃんですが)とっても、元気です。
ワンちゃんやネコちゃんたちにとっては、
後ろ足が動かない、目が見えないことなど全く問題ない様子、
後ろ足が動かなければ、前肢で動き、
目が見えなければ、音や匂い、他の5感を使い、
元気に暮らしていきます。
また、病気でクヨクヨすることはありません。
動物たちは失われたものはあっさり認め、
残った機能で楽しく、
年をとってもとっても幸せそう。

僕たち人間はどうかというと、
目が見えにくくなると、
元に戻そうと頑張り、
目がみえなくなることにおびえ、
足腰が痛くなると、
歩けなくなる不安におびえながら生きていきます。
動物たちのように残った機能を精一杯使い、
落ちた機能を認めて生きていく方がずっと幸せそうに思えます。

そんな僕も、
疲れを取るため、あやしいドリンクを飲み、
関節と目のためのサプリをせっせと飲んでいます。
衰えを受け入れることができず、
精一杯老いに抵抗しています。







<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
 東京都大田区大森東1-5-2
 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
         日曜日は午後17:00までとなります。  
 休診日 月曜日

 

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 “毎日事件発生!? マニアな視点で診察中
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 やっとできました。

  『 獣医さんだけが知っている 動物園のヒミツ 人気者のホンネ』

 2月15日に発売されました。
 僕が動物園で知り合った愉快な仲間たちのお話しです。
 動物のあやしいウンチクまんさい!
 この本をもって動物園に行ってください。
 動物園が100倍楽しめます。
 
 犬養ヒロさんの絵がとってもかわいいですよ。










「狂犬病の候、お忙しくお過ごしのことと思います。」

先日知り合いの獣医師に手紙を書いた時の時候の挨拶です。
獣医師間にだけに通じる挨拶文です。

1年間で一番注射をした、狂犬病団体予防接種の時期が終わりました。
ちょっとほっとしているときの出来事です。

「もしもし・・・。動物病院です」
「あっ、はい」
飼い主さんのビックリして心配の声・・。
僕が明るい声で
「トンちゃんでたよ~。」と伝えると。
「ありがとうございます。」
今度は思いっきり明るい声。
朝6時、僕は入院中のヨークシャーテリアのトンちゃんの飼い主に電話をしました。

トンちゃんは4日前“突然、吐きだした”ということで病院にやってきました。
ご飯をたべると、すぐに吹き出すように吐くとのこと。
水を飲んでもすぐに吐きました。
お熱はないが、みるみる元気がなくなりました。
地面に座り込んで上目使いで、僕を見ていました。
まずは胃腸炎の治療をして様子を見ることに。
翌日、何も食べず何も飲まない状態、全く改善せず、
それどころかいっそう元気がなくなりました。
う~これは・・・。
レントゲンとエコー、何も異物はうつらないが腸の途中からウンチも見当たりません。
飼い主さんに
「何か食べなかったか? 家の中で何か壊れたりなくなったものない?」
「しょっちゅういろいろなもの噛んでるからな~。」
症状から、“何かが”腸に詰まっている感じがします。
飼い主さんと相談の上、緊急手術をすることにました。
開腹手術をすると腸管の中から小さなウインナーぐらいのものが出てきました。
何だこれ?
比較的柔らかく弾力性のある物質。
これが原因で腸閉塞をおこしていたのでした。
手術して2日目の朝、ビー玉のようなウンコがでました。
その報告の電話でした。
これでとりあえず安心です。

さてさて、飼い主さんに詰まっていたものを見せると、
飼い主さんは 「あ~」
何かわかりました。
部屋に敷いていた正方形のマットをつないで使う
“ジョイントマット”だとわかりました。
このジョイント部分をよく噛んでいたそうです。
この素材弾力性があるため、腸の蠕動運動を吸収してしまい、
腸内で動かなくなってしまい、詰まってしまいました。

この時期は詰まるまではいかないが良く吐く猫ちゃん着ます。
換毛期のための毛を食べてしまい、胃腸炎を起こすのです。
たいていは薬で治るのですが、あまりにひどい時は手術になることも。
換毛期、犬も猫もブラッシングでこれは防げます。
それだけではなく、ブラッシングをしっかりすると、
皮膚病も防げますし、体臭も減ります。

牛も異物を食べて病気になることがとっても多いです。
牛の口の中は円錐乳頭というボツボツがあり、
口の中に入ったもの外に出にくくはお腹の中に入っていく仕組みとなっています。
その為、草の中に落ちていた針金や釘が草と一緒に口の中にはいると、
あれよあれよいう間に、お腹の中に入ってしまいます。
また牛はなぜか落ちている金属を舐めることが大好きで
とりあえず舐めてしまう習性があります。
はいった釘や針金は第1胃(牛には4つの胃があります)運動で、
ハチの巣と呼ばれる第2胃に運ばれます。
この2胃はハチの巣状の胃壁のため釘や針金は胃壁に刺さりやすく、
ささった釘や針金は壁を突き抜け心臓を包む心膜にまで達することがあります。
そこでその事故を防ぐために、人間は考えました。
牛に強力な磁石を食べさることにしました。
そうすることにより、間違って食べた金属がその磁石にくっつき動かないため
胃壁を突き破ることがなくなりました。
学生時代、研究室で牛の解剖をたくさんしましたが、
胃の中に必ず磁石が入っていました。
取り上げた磁石はホワイトボードに張り付けました。
磁石の数が牛の解剖数でした。

ダチョウは石を食べる必要があります。
ダチョウには歯がないため、
石を砂のうと呼ばれる筋肉質の胃の中にとどめて、
この石を筋肉で動かし消化しにくい植物をすりつぶし消化を助けます。
犬は砂のうがないので石は必要なく、
石を食べると食滞をおこし死んでしまうことも、
僕も何回か犬が食べた石を取り出す手術をしました。

今はフィラリア検査の時期、
毎日毎日、採血の日々です。

「フィラリア検査の候、犬たちに嫌われお過ごしのことと思います」
これが、この時期の時候の挨拶。


<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
 東京都大田区大森東1-5-2
 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
         日曜日は午後17:00までとなります。  
 休診日 月曜日

ゴールデンウイークのお休みのお知らせ
5月1日(日)午後から6日(金)午前まで休ませてもらいます。
6日(金)は午後1時から診療します。
 
  

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 やっとできました。

  『 獣医さんだけが知っている 動物園のヒミツ 人気者のホンネ』

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2015.12.26_16:09


僕のクリスマス



🎶 ソウ ディス イーズ クリィスマス
アン ワッ ハブ ユー ダーン
アナザー イヤ オウバァー
・・・・・・・・・・~
♪ ア ベーリ メーリ クリスマース
ア ハッピー ニュー イヤー
レッツ ハウピッツ ア グッド ワァーン
ウィズ アウートゥ エニ フィアー ♪

 “クリスマスイブ” 診療終了後の往診が思ったより時間がかかってしまった。
ラジオからはジョンレノンの ♬ Happy Xmas ♬  が流れていた。
僕はラジオから流れる歌を聴きながら、
急いで“クリスマスパーティー”の準備を・・・・・・。
しかし、今日のために集まった彼女たちは待ちくたびれたのか熟睡モード。
あまりにも可愛い寝顔のため、僕は起こすのやめた。
馴染みの店で用意してもらったターキーと、
カマンベールをのせたバケット、
とっておきのシャンパン 「クリュッグ」で、
みんなが起きるまで一人でパーティーを始めることにした。
“バカラ”のグラスに注いだよく冷えた「クリュッグ」 の泡は美しく、
泡越しに見える安心しきって寝ている彼女の姿は、可愛さを際立たせた。
快適な空間は、僕を早く酔わせ、いつの間にかソファーの上で眠ってしまった。

クリスマス・忘年会と、この時期は飲む機会の多い時期。
看護師さんの中にも二日酔いの人も・・・。
酒に酔うのは人間だけではありません。
結構、お酒を飲む生き物たちがいます。
実際僕も、ストレスがたまり元気がないときなど、
チンパンジーやオランウータンにお酒をあげました。
お酒を飲んでゆっくり寝ると、
翌日には元気を取り戻すことも。
彼らも結構悩みを抱えていたのでしょうね。
チンパンジーは日本酒の牛乳割りを好んで飲みました。
何も入っていない牛乳と日本酒入りの牛乳を同時に渡すと、
日本酒入りの牛乳を先に飲みました。
結構いける口で、そのうち酔います。
コロコロ転がったり、走り回ったりと陽気な酔っ払いでした。
オランウータンはコップで冷酒が大好き。
一気にグイグイと飲みます。やっぱり酔います。
目がすわり、やや絡み酒気味、
そのうち横になりしばらく手足をバタバタし、
そして布団替わりの麻袋を体にかけ寝ます。
オランウータンは、以前 霊長目 猩々科とされていました。
猩々とは赤面赤毛でよく酒をのむ中国の想像上の動物です。
そのイメージで僕は、オランウータンは大酒のみと思っていました。
確かに酒は大好きでした。そして 強かったような ?
しかし、最近オランウータンはアルコールを分解できないという論文が・・。
人とチンパンジー、ゴリラはアルコールをできる遺伝的な特質を受け継いでいるが、
オランウータンだけは分解できないとのこと。
オランウータンは木の上で生活しているため、
木になっている果物を食べています。
それに対し、チンパンジーは木から降り地上を生活の場としました。
チンパンジーは木から落ちた果物も食べるようになりました。
その中には、熟し発酵した果物も、
発酵した果物はアルコール分を含みます。
そのため発酵した果物が食べられるようにアルコールが分解できる体になりました。
実際、野生のチンパンジーは、
発酵したヤシの樹液酒で宴会をします。
そして、しこたま飲んだチンパンジーは、
新橋のサラリーマンと同じように千鳥足、
酔っ払い行動をとるとのこと。
オランウータンの“キッキちゃん”
なるほど 味は好きだけど、すぐ眠ってしまったのは酔っぱらっていたから?
もしかして“下戸 ”気持ち悪かったのかな・・・。
“キッキちゃん”ごめんなさい。 

アフリカに生息するゾウも、自然に発酵しているマルーラの実を食べ、
フラフラとなることも。
中米も森に生息するホエザルも熟したヤシの実が大好き、陽気に酔っぱらいます。
もっとも酒豪は、マレーシアのハネオツパイ。
「ブルタム」と呼ばれるヤシの木の花を餌にしています。
この花の蜜は常に発酵しているため3.8%ほどのアルコール分を含んでいます。
ハネオツパイはこれ以外のものをいっさい食べません。
それなのに一切酔いません。

パーティーの場所は病院
“馴染みの店のターキー”
近所のコンビニの から揚げ
“カマンベールをのせたバケット”
患者さんからもらった赤飯に(これが絶品)ごま塩、
“フランス高級シャンパン 「クリュッグ」”
お酒が飲めない僕は、「手裏剣戦隊ニンニンジャーのシャンメリー」
“バカラ”のグラス
ウオーターサーバー用の紙コップ
“今日のために集まった彼女たち”
チワワ・パピヨン・ミニチュアダックス・日本猫

僕の今年のクリスマスイブ
病院で、熟睡している仲間たちとまったりと過ごしました。

<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
 東京都大田区大森東1-5-2
 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
         日曜日は午後17:00までとなります。  
 休診日 月曜日

  年末年始休診のお知らせ 
12月29日(火)の診療は通常通り行います。
12月30日(水)~1月4日(月)まで休診となります。



  1月10日(日)の午前中 北澤院長は研修会出席のため不在となります。
  午前中の診療は研修獣医師が対応します。
  午後からは通常診療します。 
 
  今後   2/7(日) 3/6(日)の午前中も
  院長研修会出席となります。 

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2015.12.10_13:05

僕の膝をツンツン


乳腺腫瘍の手術を終え、
緊張から解放された僕のお腹が“ぐ~”となった。

入院中のワンちゃん・ネコちゃんたちはお部屋に入って寝ていた。
手術したワンちゃんは酸素室で麻酔が覚めるのを待っている。
僕は、お気に入りの椅子に座り濃いコーヒーを飲んだ。
“トン トン トン”ゆっくりとした足音が 
レントゲン室から近づいてきた。
ずっと寝ていたマルチーズの「エリーちゃん」が、レントゲン室から出てきたのだ。
そして、僕の足下までくると、僕の膝を右前足でそおっとツンツン。
彼女はいつもレントゲン室のお気に入りの座布団で寝ている。
他のワンちゃんが僕に甘えるのを、遠くから見ているだけ。
日中は気配を消して、ひっそりとしている。
僕の診療が終わり、みんなが入院室に入り病院内の音がラジオだけになると、
レントゲン室からひょこひょこと出てくるのだ。

最近は歩くのも遅く、転ぶことも多い。
この日はいつもよりいっそう遅いような・・・
いすに座っている僕の足をツンツン。これは抱っこの合図。
僕は痩せて骨ばった彼女の身体をそっと持ち上げ、膝にのせた。
また軽くなったようだ。
頭の中に不安がよぎった。
膝の上の彼女は首を伸ばし、
長い舌で僕の腕をそっとなめて目を閉じた。
頭を撫でてあげると、膝の上で丸まり再びウトウト。
コーヒーを飲み終えた僕はエリーちゃんを膝からそっとおろした。
普段はめったに声を出さないのに、この時は珍しく、小さく消え入りそうな声で“ウワン”とないた。
そして、ゆっくりゆっくりと歩き出した。
爪が床に当たるポツ ポツと小さな足音がやけに大きく診察室に響いた。
彼女はレントゲン室に戻っていった。

入院室を見に行くと、手術を終えたワンちゃんが、麻酔から醒め元気に尻尾を振っていた。
これでひと安心。
僕は術着を脱ぎ、帰り支度をした。
バックを背負い、レントゲン室に向かい「おやすみ!」
エリーちゃんは頭をあげ僕を見て、再び“ウワン ウワン”。
頭を撫でるために近づくと、僕の手を静かに舐めた。

エリーちゃんは推定18歳、病院に来たのは昨冬。
飼い主のお婆ちゃんが入院するということで、病院で預かることになったのだ。
エリーちゃん自身も体調が悪く痩せこけていた。
栄養剤の点滴で彼女の状態は良くなったが、
お婆ちゃんは、退院の目途がつかないほど悪かった。
病院にきて2か月が過ぎたころ、お婆ちゃんが一時退院したという話を聞き、
僕はエリーちゃんを連れてお婆ちゃんに会いに行った。
部屋に入ると、エリーちゃんはバックから顔を出しキョロキョロと部屋を見回した。
そして、ベッドで寝ているお婆ちゃんを見つけた。
バックから出してあげると、たったったと軽快な足取りでお婆ちゃんに近寄り、
ピョンとベッドに飛び乗り、お婆ちゃんの顔の横に座った。
いつもはほとんど感情を出さない彼女だが、
すっかり毛が抜けてウインナーのようになった短い尻尾を精一杯フリフリしながら、
お婆ちゃんの顔をペロペロと何度もなめている。
エリーちゃんもお婆ちゃんも、とっても嬉しそう。
お婆ちゃんは優しい笑顔で頭を撫でる。
エリーちゃんはお婆ちゃんに甘え続けた。

1時間ほどお婆ちゃんの家で過ごした後、僕はエリーちゃんを抱き上げ再びバックにいれた。
「また来るから、早く元気になってね」
僕が言うと、声が出ないお婆ちゃんは、
僕とエリーちゃんを見ながら、手を合わせた。
涙が光っていた。

翌日お婆ちゃんは亡くなった。

エリーちゃんは、お婆ちゃんの所へ、保護犬としてやってきたのだった。
どこで、いつ生まれたのか誰も知らない。
お婆ちゃんの所に来る前も、飼い主さんが何人も変わったとのこと。
千葉で生まれたらしい、その後は東北で暮らしたこともあったようだ。
やっとたどり着いた安住の場所だったお婆ちゃんも亡くなったため、
僕が飼うことになった。

エリーちゃんはけっして声を出さない。
他のワンちゃんに追いかけられても、吠えられても、隅に隠れるだけ。
いつも静かに、誰にも迷惑をかけないよう、ひっそりとすごし、
できるだけ存在を消しているようだった。
大好きな座布団に他のワンちゃんが座った時も、
怒るわけでもなく、部屋の隅の冷たく硬い床に丸まっていた。
他のワンちゃんたちのように、もっともっと甘えればいいのに・・・
次々に変わる飼い主の顔色を伺って暮らす状況の中、静かしていること、できるだけ気配を消すことで、彼女は生きていく術を身につけたのかもしれない。
診療が終わった夜の、僕への前足ツンツンだけが彼女の精一杯の甘えだった。

翌朝、寝坊をした僕に看護師さんから一本の電話が入った。
「先生 エリーちゃんが・・・」
僕は慌てて病院に行った。
エリーちゃんはお気に入りの座布団の上で、いつも通り丸くなっていた。
そして、眠ったまま二度と頭を上げることはなかった。

数奇な運命を送ったエリーちゃん。
病院での生活はどうだったのだろう?
エリーちゃんが亡くなって2週間程がたった。
「あれ、エリーちゃんは?」
「この服、エリーちゃんに似合うかと思って持ってきたんだけど、
エリーちゃんいないの?」
たくさんの患者さんに尋ねられる。
僕が思っていた以上に、エリーちゃんは皆に愛されていたようだ。
今も毎日たくさんの犬が僕の足元でじゃれて甘えているが、あの遠慮がちなツンツンが無性に懐かしい。





<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
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 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
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  1月10日(日)の午前中 北澤院長は研修会出席のため不在となります。
  午前中の診療は研修獣医師が対応します。
  午後からは通常診療します。 
 
  今後   2/7(日) 3/6(日)の午前中も
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2015.06.13_23:03

舐められる僕

“ペロ ペロ ペロ”
“レロ レロ レロ”
診察台の上、聴診器で心音を聴いている僕の口を舐めまくる
生後4か月のビーグルの“大輔”
尻尾はどこかに飛んでいきそうなほど振っています。
今日は健康チェック。
そんな、診療中の僕を“とってもすまなそうに”飼い主の上品な若い奥さんが見ていました。
「いいんですよ、僕は舐められても、お化粧落ちないから大丈夫」

顔を舐められながら、たずねました。
「食欲は?」
「すごくよく食べます」
「おしっこは?」
「いっぱい出ています」
「ウンチは、どうですか?」
「おいしそうです・・・・。」
「ん?」
「どんな形、硬いとか?柔らかいとか?とっても臭いとか?」
「とっても食べやすい形で、匂いはわかりません」
頓珍漢な会話。

「先生、実はこの子、自分のウンチ食べちゃうんです」
「病院の前でも大きなウンチしたんだけど、
先生に見せようととろうとしたんだけど、
ものすごい早さで食べちゃったの」

どうも“大輔”は、食糞癖があるようで、
それも心配で病院に来たようでした。
早く行ってよ!

何でワンちゃんはウンチを食べるの?
大輔ちゃんのような子犬が、ウンチを食べちゃうのは比較的自然な行動です。
子犬はとっても好奇心が旺盛、周りにあるものは何でもとりあえず口に入れます。
そんな子犬にとってウンチは形といい匂いといいとっても魅力的なようです。
確かに健康なウンチの匂いはそんなに臭くありません。
下痢のウンチはとっても臭く、そんなウンチは、子犬は食べません。
また、母犬は子犬のウンチをよく食べます。
これはとっても自然な行動で、
母犬は生まれたての子犬の肛門を舐めて刺激してウンチを出させます。
またその出たウンチを母犬は食べてしまいます。
巣を汚さないためと、
本能として、子犬は一番敵に襲われやすいため、
その居場所がわからぬよう母犬が食べて匂いを消すのです。
そんな母親を見ていた子犬は、同じように自分のウンチを食べてしまうのです。
子犬の時の糞食は大人になると自然にやめることが多いです。

しかし、子犬でもなく母犬でもないのに、糞を食べてしまうワンちゃんがいます。
その理由はいろいろあります。
●食事量が足らずお腹が空いて、足りない分をウンチで補う。
 お腹いっぱいに食べさせればいいのだけど、
 それでは、太りすぎで病気になってしまうので、
少ない食事でお腹をふくらませる必要があります、これが難しい。
どうすればいいかというと、
時間をかけて食べさせます。
時間をかけて食べると、少ない量でも比較的満足感が得られます。
時間をかけさすために、食べにくくすればいいのです。
小さく仕切られた大きな餌箱で食べさせる。
ドックフードを粉のようにして食べにくくする。
コングなどのおもちゃの中にぎゅうぎゅうにドックフードを詰める。
などなど、工夫が大事です。
●飼い主さんに注目してもらいたい
ウンチを食べると、飼い主さんは大騒ぎをします。
“僕に注目している”それが楽しくてウンチを食べます。
ウンチを食べていても、静かにそっと見守ってください。
これはとっても難しいですが。
●ウンチをすることが悪いと思い、ウンチをしたことを隠したいために食べてしまう。
 小さい頃、トイレ以外でウンチをした時に強く叱られたために
このような行動をとることがあります。
このワンちゃんは怒られた理由が、ウンチをした場所がではなく、
ウンチをしたことが悪いと思ってしまいました。
飼い主さんに怒られないように、
ウンチを食べてなかったことにしよう考えました。
ウンチを失敗しても怒るのをやめ、
トイレでウンチをしたらほめてあげましょう。

このようにまだまだいろいろな理由がありますが、
本当のところ、何で食べるのかわかりません。
一番の予防は、ウンチをしたらすぐに片づけるしかありません。

●ウンチを食べてはいけないの?
自分の新鮮な健康なウンチを食べても、病気になりません。
健康面では全く問題ないのです。
ただし、他のワンちゃんのウンチはダメですよ。
寄生虫などの病気がうつることがありますから。
自分のウンチでも古いウンチはダメ、
体からでて時間がたつと、いろいろな菌がついたり、腐ることがありますから。
下痢のウンチもだめ、せっかく体が下痢として体の中の悪い菌を出しているのに
再び体の中に入れることとなってしまいます。
ウンチを食べていけないのは、私たち人間の都合なのです。

●ウンチを食べる生き物たち
ウサギは栄養素のたくさん詰まった食べるためのウンチをします。
栄養を取るためにそのウンチは食べます。
チンパンジーも結構食べます。
あんなにも賢いチンパンジーすらウンチを汚いという認識はありません。
足りない栄養分を補うため、などなど言われていますが、
食べている姿や回数などを見ていると、
どうも栄養補給のためではないような感じがします。
食べるのはまだいいのですが、壁に絵を描くようにウンチを塗りたくります。
それも、高い位置の壁に塗ったりします。
壁についた乾いたウンチはなかなか落ちません。
まず水で濡らしふやかしてから、デッキブラシで落とします。
高い位置のためデッキブラシからの液体やカスが
顔や頭に飛んできて苦労したことが思い出されます。
チンパンジーはウンチを汚いと思わないのに、
僕たち人間はウンチが嫌いだということを間違いなく知っています。
届きにくい壁に塗るのはいやがらせ、
そして、時にはウンチを手にもって嫌いな人に投げつけることもありました。
ハムスター・モルモットは自分のウンチを食べることより、
腸内の微生物が作り出したビタミンBやKを再摂取しています。
ゾウは、赤ちゃんの時に母親や群れの大人のウンチを食べます。
ウンチの中には餌となる植物を消化するために必要な微生物がいます。
生まれてすぐのゾウのお腹の中にはこの微生物がいないため、
大人のウンチを食べることにより初めて植物を食べることができます。
竹を食べるパンダも同様の理由からウンチを食べます。
コアラはユーカリの葉を食べますが、この葉には毒が含まれており、
コアラとフクロムササビ以外は食べることができません。
盲腸がとっても長くその中にたくさんの微生物がいて
ユーカリの葉を発酵させ毒素を分解することができるのです。
コアラの赤ちゃんはこの微生物をもっていないため、
お母さんの糞をせっせと食べてこの微生物を自分の盲腸にいるようにします。
フンコロガシは、動物たちのウンチに含まれている未消化の食物を餌として食べます。
食べるばかりではなく、ウンチでお家をつくったりもします。
フンコロガシの雄はいいウンチを見つけると、
逆立ちをして、後ろ足でコロコロと転がしてウンチを運びます。
途中でお気に入りの雌を見つけると、
彼女をウンチの上に乗せ一緒にお気に入りの場所まで連れて行きます。
雄は地面を掘り、その上に運んできたウンチを乗せお家をつくります。
雄は雌を誘いウンチの下の小さな部屋に入ります。
そこで二人は愛を交わし、ウンチのお部屋に卵を産みます。
卵からかえったフンコロガシはウンチのお家の中で育ちます。
フンコロガシにとってウンチは生きていくためにもっとも大切なものなのです。



こんなにも大事なウンチ、
もしかしたら、ウンチが嫌いなのは人間だけ?
もしあの匂いさえなかったら、こんなにも嫌われなかったのかな。

相変わらず僕の顔を舐めまくる“大輔”
せめてお水を飲んでからにして・・・・。




<五十三次どうぶつ病院  北澤 功>
 東京都大田区大森東1-5-2
 病院の診療時間 午前9:00~12:00  午後13:00~19:30
         日曜日は午後17:00までとなります。  
 休診日 月曜日

臨時休診のお知らせ
 7月19日(日)は 臨時休診となります。