Kさんは、魚屋さんでした。
見るからに明るく、大きな声でしゃべる人でした。
ざっくばらんな性格でした。
お酒も好きで日本酒を1日で一升空ける事もあるようです。
お酒を飲み過ぎてこけて、背中を打ったために近所の病院を受診しました。
そこで、レントゲンを撮ったところ肺に影がみつかり紹介されてきました。
いろいろな検査の結果、3期の肺がんでした。
Kさんに病状説明をしようと家族とともに部屋に呼びました。
するとKさんは、まず私に
『先生、正直に全部言うてや、隠したりしたら一生恨むで。』
『もちろん、全部話ししますよ。そのかわり、厳しい話しもしないといけないですけどいいですか?』
『あったりまえやん。』
口は悪いKさんでしたが、悪気がないことは伝わってきます。
病状と無治療ならあとどれくらいで亡くなられる方が多いか、抗がん剤と放射線治療の効果と副作用など説明しました。
Kさんは、淡々と聞いていらっしゃいました。
全ての説明が終わりました。
『今までお話ししたことは理解できましたか?何か質問はありませんか?』
『わかったわ、先生。任すわ。先生が一番ええと思うことをしたってや。』
本当にキチンと理解されたは、不明ですが、抗がん剤治療を受ける決意のようです。
Kさんは、言いました。
『わしな、今まで自由気ままに生きてきてん。今さら、入院生活とかめっちゃイヤやねん。できるだけ、外泊とかさせて欲しいねん。どうせ、長なるんやろ。』
『わかりました。なるべく、期待に添えるようにしたいと思います。ただし、病状的に外泊がむつかしいときはあきらめてください。』
『先生があかんって言うたら諦めるわ。』
そして、治療に入りました。
Kさんは、病院から逃げ出さそうとすることもなく約4ヵ月の治療を耐えました。
そのかいもあってか、Kさんの腫瘍は、レントゲンではわからないくらいの大きさになりました。
退院の前にKさんと話しをしました。
『Kさん、Kさんの腫瘍は、メチャメチャ小さくなってます。今後、再発しないかどうか定期的にレントゲンなどで診ていかないといけません。
再発するときは、2、3ヵ月でする事もあるし、5年以上再発しないこともある。もしかしたら、治癒してる可能性もあります。ただ、今は、どうなのかわかりません。
今、ハッキリ言えることはもとあった大きさからほとんどわからないくらい小さくなったと言うことです。』
『先生、わし今までほんまに自由奔放に生きてきましてん。だから、どんな結果であってもかまいません。
再発してら諦めるからええです。次、再発したら治りませんやろ。
わし、お酒が美味しく飲めたらそれでええんです。だから、出来るだけ長いことそうできるようにしてください。』
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Kさんは、今も美味しいお酒を飲んでいるようです。
こんな人生もありましたね。
