何日かで1知識 「新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方」②
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「新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方」②



「新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方」(池上彰・佐藤優著、文藝春秋)より


  第1章 地球は危険に満ちている

  ■クラウゼヴィッツ『戦争論』は古くない

佐藤
 今の世界を見回したとき、私の印象は、クラウゼヴィッツの『戦争論』はまだ古くなっていない、というものです。プロイセンの軍人だったクラウゼヴィッツが、ナポレオン以降の近代戦争を初めて体系的に研究し、没後の1832年に刊行された、戦争と政治の関りを包括的に論述している古典的な名著です。そのポイントは「戦争は政治の延長である」というテーゼになりますが、ベルリンの壁崩壊から四半世紀が経ち、戦争と政治の境界線が再びファジーになっています。
「核兵器がつくられて以来、クラウゼヴィッツは無効になった」「核兵器は人類を滅亡させるところへ行きつくから、もう大国間の戦争はなくなった」というのが、ついこの間までの常識でした。しかし、どうやら人類には、核を封印しながら、適宜、戦争をするという文化が新たに生まれてきているのではないでしょうか。


  ■イスラエルの無人機は“暗殺者”

佐藤
 現在、日本の安全保障政策やインテリジェンス能力は、世界の現実と大きく乖離しているわけですが、対イスラエルについては、実は、安倍外交の一番の成果と言えるような大きな動きがありました。2014年5月12日に発表されたイスラエルとの共同声明です。イスラエルとの防衛協力が言われています。

 これは、いわば日本の中東政策が全面転換したわけです。日本の論壇では、イスラエルの立場に配慮する傾向が強い私ですら、「こんな親イスラエル路線に急激に転換して大丈夫なのか」と心配になるくらいです。

池上 ひょっとすると、そういう含意を、政府はまったく自覚していないのではないですか。

佐藤 そういう感じがします。
 日本が導入する可能性のあるイスラエルの先進兵器に無人機があります。今後は、これがアメリカの無人機との採用争い、売り込み競争でぶつかることになるでしょう。


池上 ガザでイスラエルと衝突していたハマスも、イスラエルがハマスの軍事部門の指導者を個別に暗殺し始めた途端に折れて、停戦しました。ハマスの幹部連中が身の危険を感じたのですね。


佐藤 どこまで自覚しているかはわかりませんが、こんな踏み込みを安倍政権はやっているのです。日本国内の安全保障にも影響を及ぼす可能性があります。


  ■「イスラム国」は四割が外国人兵士

佐藤
 政権だけではありません。民間人も、日本はおかしなことになっている。
 たとえば、中田孝という人がいます。 最近、内田樹木さんと本(『一神教と国家』集英社新書)を出しいます。
 その人がジハード体験記を『文學界』(平成26年7月号)に書いている。殉教者になりたいということで、トルコからシリアに密入国したという体験記です。この文章の末尾で中田さんは、「大地を人類に解放するカリフ制の再興のためにジハードに身を投じて殉教するべく、持ち家を処分して私はホームレスになった。仮の住まいは地球の全土。帰る我が家は天の楽園」と述べています。
 しかし、こういう人が純文学雑誌に平気で登場するとなると、その背後にはさらに裾野が広がっていると思わなければならな。日本で極端な思想をもつ人たちの受け皿が、かつてのような左翼過激派ではなく、イスラム主義になる可能性は十分にある。集団的自衛権で日本が中東に出て行った場合、向こうからすれば、イスラム世界への侵略だということになるわけだから、それに対する防衛ジハードとして、日本国内でテロが始まり得る。

池上 「イスラム国」の大きな特徴は、一部の報道によると約四割が外国人という兵士の国籍という点にあります。国籍は70カ国以上におよぶと言われています。インターネットを使った活発な広報活動により、先進国からも若者が続々と集まっているようです。こうなると、2020年の東京オリンピック開催時の治安対策も、これまで以上に難しくなるかもしれません。


  ■殺しが下手なアメリカ――攻撃・暗殺・テロの有効性

佐藤
 イランはこういう、相手に心理的な打撃を与える暗殺が上手です。イランのイスラム革命防衛隊の聖職者たちは、ときにはベドウィンの格好をし、ときには「イスラム国」の戦闘員みたいな恰好をして、イラクに入ってきます。アラビア語もペラペラだし、少しくらい訛りがあっても、遠くから来た義勇兵だと思わせればいい。
 そういうイランの連中がイラクに潜入していることは、アメリカも知っている。事実、イランの連中がどんどん殺してくれているからイラク情勢もこの程度で収まっている。見て見ぬふりをしているのです。
 ただ、イランと反目するサウジアラビアは怒っています。「なぜアメリカは見過ごすんだ。アメリカはイランと手を握ったのか」と疑っています。

池上 皮肉なことにアメリカがイラクへの空爆で破壊しているのは、実はすべてアメリカの兵器なのですね。戦車や装甲車など、アメリカがイラク軍に供与したものが、みんな「イスラム国」に奪われてしまった。アメリが軍の兵器をアメリカ軍が空爆してつぶしているわけです。
 ただ、アメリカ兵の命の値段が高くなってしまっていて、地上軍を派遣しようとしても、実際には難しい。


佐藤 そのイスラエルがうまいのは、自分たちを「野蛮なテロリスト国家」とイメージづけられるのではなく、ハリウッドと組んで新しい物語をつくったことです。
 ポール・ニューマン主演の「栄光への脱出」(1960年)。あの映画を見た人は全員、キング・デイヴィッド・ホテルの爆破はやむを得なかったと思うことになる。そういったアフターケアを時間をかけてやっている。非常にしたたかですね。


  ■エボラ出血熱の背後に人口爆発あり

佐藤
 怖いことに、ダン・ブラウンの『インフェルノ』(越前敏弥訳、角川書店)という小説が欧米で大ベストセラーになっているでしょう。あれは、結論から言えば「エボラ出血熱歓迎」という本なんです。要するに、人口は感染症によって調整するしかないんだ。ということを是認している。

池上 ウイルスによって人口問題が解決される、というわけですか。

佐藤 人類の三分の一が不妊になるウイルスをマッド・サイエンティストが開発して撒き散らす。WHOがはじめは止めていたのだけれども、最終的には「われわれの計画と一緒だ」とほくそ笑むところで終わる。このモチーフはダンテの『神曲』から取っているのですが、ああいうものが大衆小説として可能であることが示しているのは、人口抜溌に対する白人たちの恐怖です。


佐藤 彼らにとっては、中国の一人っ子政策は大歓迎なのですよ。
 実のところ、欧米が感染症問題になぜ本気で取り組まないのか。もっと本気で取り組んだら解決できるのです。ジェネリック医薬品など、いくらだってつくれますから。それをやらないでいるところに、白人たちの恐怖が示されている。
 私のナショナリズムも、ここで刺激されるわけです。経済力をもたなければいけない。そうでないと国家はなめられる。どうしてアフリカがなめられるかといえば、経済力がないためなのですから。


>>一度、クラウゼヴィッツ『戦争論』を読んでみたいと思う

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