何日かで1知識 2016年12月
FC2ブログ

「自白の研究」



自白の研究


 先日、NHKの『勇敢なる者「えん罪弁護士」』を見て、今村核弁護士に興味を持った。

番組HP(http://www4.nhk.or.jp/P4012/x/2016-11-28/21/33589/2225445/)より


「無罪」獲得「14件」。その実績に他の弁護士は「異常な数字」「ありえない」と舌を巻く。“えん罪弁護士”の異名を持つ今村核(いまむら・かく)は、有罪率99.9%と言われる日本の刑事裁判で20年以上も闘ってきた。過去に取り組んだ放火事件や痴漢事件では、通常裁判の何倍もの労力をかけて科学的事実を立証し、矛盾や盲点、新事実の発見からえん罪被害者を救った。自身の苦悩を乗り越え、苦難の道を歩み続ける男に迫る。 


 今村弁護士が自著「冤罪と裁判」(講談社現代新書)」(http://tsuruichi.blog.fc2.com/blog-category-339.html)の中で引用していた本を読んでみた。


自白の研究 取調べる者と取調べられる者の心的構図」(浜田寿美男著、三一書房、1992年5月15日 第1版第1刷発行)より



『 第八章 否認力動を低減させる要因

 第二節 やっていない犯行を認めることの非現実

  1 予想されるべき刑罰の非現実感

 こうした現実の取調べの場に身をおいて考えれば「予想される刑罰」という概念がいかに空虚なものかが分かるであろう。Aの頭の中にあるのは、たったいま自分がさらされている「死の恐怖の取調べ」であり、「死ぬよりも辛いことでしたこの脅迫や拷問の取調べ」であって、それ以外のものではないのである。

 同時に、私たちはここで先の主張の二つ目の錯覚に気づく。それは「予想される刑罰」と言うときの「予想」に関わる問題である。同じく「自白によって予想される結果」と言っても、実際に犯行を犯した犯人が予想するところと、無実の人間が予想するところとは当然異なってくる。強盗殺人で三人も四人も人を殺したということになれば、誰が予想しようと、いまの日本では死刑だろうという、その予想自体については大差ないかもしれない。しかし、その「予想される死刑」についての現実感はまったく異なる。実際の犯人ならば、まさに自分の行った犯行から予想されるものであるがゆえに、その「死刑」には実体的な感覚が伴う。これだけのことをしたんだから自分の犯行だとばれれば死刑だろうと実感的に予想せざるをえない。しかし無実の人間ならばどうであろうか。無実の人にとっては逮捕・拘留されて取調べられているということ自体が、非現実的なこととしか受けとめられない。第三者的な観念のレベルでは、自分に容疑をかける何らかの事情があって逮捕・拘留され、取調べられているのだと理解しているだろうし、またここで自白して自分の犯行だと言って、裁判でもそう認定されれば「死刑」だろうということも認識できるであろう。しかしそこに真犯人のような現実感が湧いてくるだろうか。無実の被疑者の視点に身を寄せて考えてみれば、「予想される刑罰」はただ単に論理的・観念的なレベルのことであって、実感的に身に迫ってこないことがわかるはずである。 』


 やっていないことを自白する結果としての「予想される刑罰」が非現実的であるという。冤罪で刑罰に処せられた人の大半が罪のない自白であろうと思われるが、冤罪を救う今村弁護士のような方が増えることを心より祈念する。


----------------------------------------------------------------------
元証券マンが「あれっ」と思ったことの
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : お勧めの一冊!
ジャンル : ビジネス

東芝の巨額損失



東芝のプレスリリース


 以下は、ここ数ヶ月の東芝のプレスリリースの抜粋。


2016/8/12 「Chicago Bridge & Iron社からのWECに対する訴訟について

 ウエスチングハウス(WEC)が買収したCB&Iストーン&ウェブスター社(S&W)の買収に係る買収完了後の価格調整手続きに関して、S&Iの売却元であるCB&I社からWECに対して提訴が提起されている。
 
 想定運転資本額(1,174百万米ドル)と実際の運転資本額との差異に応じて買収価格を調整する手続きが規定されている。
現時点では、約87百万米ドル相当ののれんの計上を想定している。


2016/11/8 「業績予想の修正に関するお知らせ

 2016年度通期(単位:億円)
 売上高54,000(+3,000) 営業利益1,800(+600) 当期純利益1,450(+450)


2016/12/5 「CB&I社のWECに対する差止請求の棄却について

 2016/8/12付の提訴が棄却


2016/12/27 8:55 「CB&Iの米国子会社買収に伴う業績影響に関する一部報道について

 現在、S&W社の買収に伴う1000億円単位ののれんの計上や減損テストの実施等につい検討をおこなっており、その結果、減損損失を計上する可能性があります。これに関し、本日開催の取締役会において取得価格配分手続き状況について報告、審議を行う予定であり、取締役会終了後に、開示すべき内容については速やかにお知らせいたします。


2016/12/27 16:00 「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について

 取得価格配分期限である12月末間近のこの段階で、のれんが数十億米ドル規模(数千億円規模)にのぼり、当該のれんの一部又は全額減損を実施することで、当社業績への影響を及ぼす可能性が判明したことから、影響額は未確定ではありますが、決算発表の期日を待たずに本日お知らせします。


<まとめ>

 11/8時点業績を上方修正しており、この時点では8/12時点で見積もられていたのれん87百万米ドル修正していない

 この1ヶ月半で、何故、のれん87百万米ドルが数十億米ドルに増えたのか?

 買収自体は2016/1/5完了(その段階でのれん87百万米ドルの計上を予定)しており、11/8の時点で既に11ヶ月が経過している。

 取得価格配分手続で、承継した資産と負債の公正価値を評価する中で、コストの大幅な増加により資産価値が当初の想定を大幅に下回った結果だと言う。

 ウエスティングハウス側の資産負債の評価体制評価後の報告体制に欠陥があったものと思われる。

 東芝連結ベースの体制自体に問題があるとすれば、早期の抜本的な構造改革が必要である。

 
----------------------------------------------------------------------
元証券マンが「あれっ」と思ったことの
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

 

テーマ : 感想
ジャンル : 本・雑誌

海外の資産運用会社




海外の資産運用会社

 
 2016/12/27、日経新聞朝刊(P15)に、以下内容の記事(一部抜粋)が掲載されていた。


『 海外マネー、成長株に

 主要な海外投資家が、利益成長の見込める日本企業の株式保有を増やしている。米キャピタル・グループやフィデリティは中小型株を中心に5%超の株式取得を相次ぎ開示し、米ブラックロックも主要企業の保有比率を引き上げた。円安や働き方などの構造改革で来期業績は増益になるとの見方が広がっている。一方で割安株で運用する投資家の一部は、最近の株価上昇で利益確定に動いている。 』


 海外の資産運用会社の内容を確認してみた。


ブラックロック
https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/corporate-information/about-blackrock
 ブラックロックは、グローバルに資産運用、リスク・マネジメント、アドバイザリー・サービスを提供している世界有数の資産運用会社です。2016年9月30日現在、運用資産残高はグループ全体で総額5.1兆米ドル(約518兆円)にのぼります。ブラックロックでは、お客様のニーズに応じて、アクティブ、エンハンスト、インデックス等の戦略を駆使して市場や資産クラスを跨いだ様々な運用サービス及び商品をご提供しています。そうした運用サービスや商品は、投資一任口座、ミューチュアル・ファンド、iShares®ETF(上場投資信託)等、多様なスキームで運営されます。また、ブラックロックは、ブラックロック・ソリューションズ®を通じて、リスク・マネジメント、アドバイザリー・サービス、全社的資産運用プラットフォーム提供サービスを機関投資家にご提供しています。ブラックロックは、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリア、中東、アフリカ等、世界30カ国以上の拠点と従業員13,000名超で事業を展開しています。


フィデリティ
https://m.fidelity.jp/fskk-mobile/about-fidelity/default.page
 フィデリティ・インターナショナルは、世界24カ国でビジネスを展開し、6,000名を超えるスタッフを有しています。日本では1969年に拠点を構えて以来、40年以上の歴史を誇ります。グループの一員であるフィデリティ証券は、1998年より日本の個人投資家の皆様向けに投資信託の販売を開始し、現在に至ります。


キャピタル・グループ
https://www.thecapitalgroup.com/advisor/jp/ja/about.html
 キャピタル・グループは、1931年の創業以来、徹底した調査活動、確信度の高いポーフォリオの構築、説明責任の徹底を厳格に堅持することで、長期投資を望まれるお客様に優れた運用実績を提供することに総力を結集しています

会社概要
 当グループの日本法人であるキャピタル・インターナショナル株式会社は、日本においても投資信託や投資顧問業務を通じて、30年以上にわたり資産運用サービスを提供しています

機関投資家のみなさま
 年金をはじめとする機関投資家のお客様向けにも、株式および債券運用を中心としたアクティブ運用をご提供しております


ハリス・アソシエイツ社(ハリス・アソシエイツ・エル・ピー)
http://www.alamco.co.jp/fund/harris/
 ・ハリス・アソシエイツ社は、1976年にシカゴを本拠地として設立されました。
 ・バリュースタイルの運用に確固たる信念を持ち、すべての株式ファンドを一貫したバリューの哲学に基づき運用しています。
 ・運用資産は約1,054億米ドル(2016年9月末現在)


ブランデス
https://www.brandes.com/ja/japan
 Brandes Investment Partners®は、資産運用のリーディング・ファームであり、全世界の法人や個人のお客様のために、株式や債券を運用しています。1974年の設立以来、ベンジャミン・グレアムが提唱したバリュー投資理論を用いて株式の選定を行ってきました。バリュー投資にグローバルな視点を取り入れた最初の投資顧問会社の1つとして、当社は様々な投資商品を運用しています。


 これら海外の資産運用会社のお眼鏡に叶う投資対象となり得たら、本望であるに違いない。


----------------------------------------------------------------------
元証券マンが「あれっ」と思ったことの
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 感想
ジャンル : 本・雑誌

安倍首相の真珠湾往訪の意義



安倍首相の真珠湾往訪の意義


 2016/12/27の「ザ・ボイス そこまで言うか!Podcast」に、経済学者の高橋洋一さんがゲストで出演され、大要以下のような内容をご指摘されていた。

 意義 : 戦争責任・謝罪なし、ともに追悼するという「*ドレスデン(ヨーロッパ)型和解」
      (戦後レジームからの脱却) 
 
 順番が大事:
  2016年5月 オバマ大統領、伊勢志摩サミット後に広島訪問
      12月 プーチン大統領、山口を訪問
           安倍首相、ハワイ・真珠湾を訪問

  ⇒ **非民主国の中国を巡る、米国・ロシア(・インドも含めて)の外交的バランスを重視した戦略

* アメリカは第2次大戦中のドレスデン爆撃についてドイツに謝罪した事実はない。ドイツはアメリカに謝罪は求めていない。アメリカとドイツの間では、ドレスデンの問題は、謝罪の問題ではなく、和解の問題として考えられている。

 アジアでは、中国と韓国のように、日本に対して戦争責任を主張し、まず謝罪せよとの、古いタイプの言い方が今でもまかり通っている。それが、今(2016)年は、日本だけがいち早くヨーロッパ型の和解(戦争責任・謝罪なしで、ともに追悼)を取り入れた記念すべき年になるだろう。(出所:http://www.j-cast.com/2016/12/08285632.html?p=all

** 詳細は『中国の海洋進出阻止のために描くべき、「日米露印包囲網」という戦略』ご参照(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50576


 高橋洋一さんは、2007年、官邸参事官として安倍第1次政権で働いていたときに、ドレスデン型和解を安倍首相にレクチャーされていたそうだ。

 これまでのアジア型からヨーロッパ型の和解への変化。

 第1次政権からの9年越しの真珠湾訪問は、意義深いものになりそうだ。


----------------------------------------------------------------------
元証券マンが「あれっ」と思ったことの
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 安倍内閣
ジャンル : 政治・経済

新聞記事の内容は正確か?



日本株、日銀が最大の買い手 今年4兆円 海外勢の売り吸収


 上記は、2016/12/25の日本経済新聞1面の表題。以下は記事の内容。

『 2016年、日本株の最大の買い手は日銀――。12月半ばまでの投資部門別売買動向を基に集計したところ、日銀の上場投資信託(ETF)購入額が4兆3千億円超と他部門を上回り最大になることが確実になった。昨年に比べ4割増え、外国人投資家の売りを吸収した。

 年初からの日銀発表東証集計の投資部門別売買動向を基に比較した。16年1月から12月第2週(12~16日)までの累計売買では、外国人が3兆5千億円強を売り越した半面、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの売買を含む信託銀行が約3兆5千億円を買い越した。一方、日銀は22日までにETF4兆3千億円購入しており、信託銀を上回り「今年最大の買い手となる」(みずほ証券の菊地正俊氏)。 』(太字は筆者)


  この記事の内容は正確か?

1.出所が違う(東証の集計値と日銀の発表数値)数値同士を比較している

2.比較対象が違う物同士(投資部門別の株式売買額と日銀のETFの購入額)を比較している

 記事を読むと、海外勢の売りを日銀がカバーしているように見える。

 東証集計は「投資部門別 株式売買状況 東証第一部 [金額]の売り買いネット金額」(http://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/investor-type/00-01.html)で、日銀発表は「ETFの買入結果」(http://www3.boj.or.jp/market/jp/menu_etf.htm)。

 日経1面には、同じ表の中に計測ベースの違う上記数値が同じ土俵で比較されてもいるが、日銀のETFの買入では外国人投資家の東証1部の株式の売りを直接吸収することはできないため、「吸収した」と断言するのは言い過ぎか。

 また、日銀が信託銀行を上回り「今年最大の買い手となる」とあるが、信託銀行の数値も東証1部の売り買いネット金額であり、日銀のETF買入額と比較するのはやや強引過ぎないか。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 感想
ジャンル : 本・雑誌

税務メリット



キーエンスの事業年度の変更


キーエンス(6861)は、2016/4/27に事業年度の変更を発表した(出所:http://www.keyence.co.jp/company/outline/disclosure.jsp の2016/4/27)。



『 変更の理由

 平成28年度税制改正により、平成28年4 月1日以降に開始する事業年度から法人税率が引き下げ られることになりましたが、当社の場合、従来の事業年度では平成29年3月21日以降の適用となり ます。この遅れを少なくするため平成28年6月21日から新事業年度を開始することで、税務メリッ トより早く享受企業価値の最大化が図れると考えております。 』


法人税の税率に関する改正
(出所:https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2016_4/pdf/03.pdf

 改正前 平27.4.1以後開始年度 23.9%
 改正後 平28.4.1以後開始年度 23.4%(▲0.5%)
      平30.4.1以後開始年度 23.2%(▲0.2%)


法人税額の簡易試算(例)

 H29/3期第1Q(6/21~9/20)の当期純利益 374億円×4(倍)=1,496億円(1年分)
 1,496億円÷(1-23.9%)×0.5%=約10億円


キーエンス、高収益企業が決算期を変えるワケ
(出所:http://toyokeizai.net/articles/-/69763?display=b

『 営業利益率5割超に達してもなお、税務メリット追求するために臆面もなく決算期の変更までやってのける――。こうしたところにも、高収益企業の利益に対する飽くなき貪欲さをうかがい知ることができる。 』



 収益を追求し続けるキーエンスの飽くなき貪欲さを見習ってゆきたい。


----------------------------------------------------------------------
元証券マンが「あれっ」と思ったこと
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 税金
ジャンル : 政治・経済

海賊と呼ばれた男



海賊と呼ばれた男


 先日、映画「海賊と呼ばれた男」を見た。

 以前から、百田尚樹著の同名小説や出光佐三氏(以降、「店主」)関連の本は何冊か読んでいた。

 以来、ガソリンは出光で入れることにしている。



「出光佐三 不景気、大いに結構」

 文藝春秋 創刊90周年記念(2013年1月)で、元出光興産会長の天坊昭彦氏が、「出光佐三 不景気、大いに結構」と題して、以下内容を語っている。


『 店主は、欧米の石油メジャーの独占的な支配に反発し、「メジャー何するものぞ」という反骨精神を強く持っていました。その象徴といえるのが、百田さんの小説の題材にもなった昭和28年の「日章丸事件」です。

 発端は大産油国のイランが、イギリスに支配されていた石油を国有化すると宣言したこと。これを認めないイギリスは、「イランから石油を買う国のタンカーは拿捕する」と脅します。店主はこれに屈せず、出光最大のタンカー「日章丸二世」を極秘に派遣したのです。船はイギリス海軍の監視をかいくぐって、ホルムズ海峡を往復。ガソリンと軽油を運ぶのに成功したのです。ところがイギリス側は積み荷の所有権を主張して提訴してきました。店主は東京地裁の法廷にたって、

「この問題は国際紛争を起こしておりますが、私としては日本国民の一人として、俯仰天地に愧じない行動をもって終始することを、裁判長にお誓いいたします」

 結果は全面勝訴となり、敗戦後の占領から脱したばかりの日本人に、大きな勇気を与えたのでした。

「事業は金儲けのためにやるのではない、人の役に立つためにやるんだ。そして仕事を通じて人を育てるのが会社の使命なんだ」というのが店主の変わらぬ信念でした。

 また、「不景気大いに結構。天下大乱いいじゃないですか」

 とも言っています。

「ぼくは楽観主義です。人間ちゅうものは苦労しなけりゃだめ。苦労すればするほど立派になる。人間尊重のぼくに言わせりゃ、大きく行き詰まれば、大きく道が開けるということです」

 当意即妙なやり取りも得意でした。88歳で白内障の手術をしたあと、岸信介元総理がお見舞いにいらっしゃたそうです。「どこまで見えるのか」と尋ねられ、「君の腹の黒いのがよく見えるよ」と答えたとか(笑)。

 また店主は明治人らしく、皇室を厚く敬っていました。昭和56年に95歳で亡くなった際、天皇陛下が悼んで御歌を詠んで下さいました。

「国のため ひとよつらぬき尽くしたる きみまた去りぬ さびしと思ふ」

 店主にとって何にも代えがたい喜びだったと思います。 』(太字は筆者)


 「事業は金儲けのためにやるのではない、人の役に立つためにやるんだ。そして仕事を通じて人を育てるのが会社の使命なんだ」という店主

 また、天皇陛下からも御歌を頂いた、皇室を厚く敬っていた店主だった。


九十歳でもゴルフはできる

 「男の生き方」40選(城山三郎編、文春文庫)で、店主は城山三郎と対話をしている。

『 九十歳でもゴルフはできる  出光佐三

 それから大変だったのは戦後だよ。終戦後しばらく、いろんな事情で出光は石油業に復帰を許されなかった。そこへもってきて、兵隊に行っとったもんや、海外で石油の配給やっておったもんが、千人ほど帰って来た。

 千人帰って来た時に、重役会で、「あれを一応クビ切って再建を図りましょう」いうことをある重役がいうた。そん時にゃ、ぼくは怒鳴りつけたね、「バカーッ」ちゅうた。

「貴様みたいなやつはここにくなッ」ちゅうてね、怒鳴りつけた。そして千人全部、一人もクビ切らんでぼくはひっかかえました。家族主義の情愛と同時に、出光の資本はじゃない、出光の資本はだ、苦労してきた人間資本を棄ててどうなるんか、おれは抱えるちゅうてね。周りの経営者からは、バカと言われましたよ。

 抱えたのはいいけど、しかし、金もないしやる仕事もない。その時にね、旧海軍の、貯蔵地下タンクに相当量の泥廃油が放置されておる、あれを集油してくれんかという話が来た。徳山、呉、佐世保なんかの地下タンクの底に泥みたいになって、石油が少し残っとるわけなんだ。戦争末期、いよいよなくなった時に海軍の方であれを上げたらちゅうことでやりかけたけど、悪性のガスがたまったりしてて、さすがに手がつけられなかったほどのものなんだ。誰もやり手がない。実を言うと、出光にこの仕事をやれせて、大欠損を与えてつぶすというのが目的だったらしい。

 それなら意地でもやってやると言って引き受けた。もう全員が全力投球してね、ふんどし一つでタンクの底にもぐりこんで、まっ黒になって油を汲み出しながら、とうとうやり遂げた。それを見ていた正金銀行の門司の支店長が、これはたいしたもんだというて出光に金を貸してくれるようになった。

 今でも、だから、何か苦しいことがあると社員の方がぼくに言うですよ。「もう一度、タンク底にもぐりましょう」って。

 馘首がない、定年制がない、組合がない、出勤簿がない、罰則がない、給料を発表しない、残業手当を社員が受け取らない、世間じゃ、“出光の七不思議”というとるそうですね(笑)。バカみたいな会社だと(笑)。もう一つつけ加えると出光には金もない(笑)。あるのは借金ばかり(笑)。

 出光は石油業やってるんじゃない、石油業を利用して、人間さえしっかりしておれば、こんなに立派にいくぞという人間のあり方を社会に知らすということが目的なんだ、出光の仕事は人間を作るということなんだ、金儲けしちゃいかん、社員に、いつもそう言っているんです。 』(太字は筆者)


出光の資本はじゃない、出光の資本はだ、苦労してきた人間資本を棄ててどうなるんか、おれは抱えるちゅうてね」

 店主のこれらの言葉、現在の、会社と店主一族の「昭和シェル石油」との統合に関する対立。
 対立の構図を単純化すると・・・

 「昭和シェル石油」との統合を目論む会社
 ・・・金儲けのため(の統合)

 店主一族
 ・・・「メジャー何するものぞ」という反骨精神を強く持ちつつ(メジャーとは距離を置いた独立独歩の)仕事を通じた人を育てる風土を守るため(の統合反対)


 店主もメジャー(ロイヤル・ダッチ・シェル傘下のシェル・ペトリアム)が筆頭株主だった会社との統合は到底受け入れられなかっただろう。

 ここに昭和の良き会社がまたひとつ無くなりそうだが、社員一人ひとりが店主の心持ちは忘れることのないよう、祈念している。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 最近観た映画
ジャンル : 映画

CBコールオプション



荏原製作所のCBコールオプション行使


 2016/11/14、荏原製作所( 6361)がCBコールオプションを行使した。
 コールオプションとは、(最終)償還期限前に発行会社側から繰上償還できる権利を投資家宛に行使するもの。

 以下は会社のプレスリリースhttp://www.ebara.co.jp/ir/release/pdf/2016/news20161114.pdf)より。


1.繰上げ償還を行う理由

 本社債要項第11項第(4)号に定める130%コール条項に従い、繰上償還期日に残存する本社債の全部を繰上償還することを決定

2.繰上償還の方法
 全額繰上償還による

3.繰上償還する銘柄
 130%コールオプション条項付第6回CB

4.転換請求期間満了日
 H28/12/13

5.繰上償還期日
 H28/12/15

6.繰上償還金額
 各社債の金額100円につき金100円

(参考)CBの概要
 1.発行日 H25/3/12
 2.発行総額 200億円
 3.未償還残高 199億7,300万円(H28/11/11現在)
 4.従来の償還期限 H30/3/19
 5.利率 本社債には利息を付さない。
 6.転換価額 2,349円50銭

※H28/12/13(転換可能最終日)終値:3,175円
パリティ135.1円(3,175÷2,349.5×100)
投資家は、CBを株式に転換して株式を売れば、「売却益」を得られるが、転換しなければH28/12/15に100円で償還されてしまう・・・(下記2.(1)の理由)


発行会社の選択肢(オプション)

1.コールオプションを行使しない

 その後、
 (1) 株価が低迷してCB未転換のまま償還期日を迎えた場合 ⇒ CBを償還する必要あり(=償還資金の手当が必要)
 (2) 株価がインザマネーでCB転換される ⇒ 結果的にはコールオプション行使と同様

2.コールオプションを行使する

 (1) CB早期(〜2016/12/13)に転換される ⇒ 発行会社の企図はこちら(資本増強かつCB償還資金の手当不要)

 (2) 投資家がCB転換し忘れた場合 ⇒ CB償還(2016/12/15)



 資本コストROE等のことを考えると早期転換が良いとばかりは言えないが、まぁ、折角付与された権利でもあるし、コールオプション行使した方が相対比較では良いと判断したものと思われる。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

GDPに占める民需の割合は75%



GDPと三面等価の原則

 三面等価の原則とは、生産面から見ても、所得(分配)面から見ても、支出面から見ても、国内総生産(GDP)は同じ値になる、マクロ経済学上の原則のこと。

  生産=所得=支出

 GDPがどのようにして使われるのかという「支出面から見たGDP」は、民間消費(C)、総固定資本形成(I)、政府消費(G)、財・サービスの輸出入(X-M)の合計となる。

  GDP(Y)=(C+I)(民需)+G(公需)+(X-M)(外需)


2016年7-9月期GDP速報

 2016/12/8、内閣府より2016年7-9月期(2次速報値)が発表(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163_2/pdf/qepoint1632.pdf)された。[  ]=1次速報値

 GDP成長率 
  実質 0.3%(年率1.3%) [0.5%(年率2.2%)]  
  名目 0.1%(年率0.5%) [0.2%(年率0.8%)]

 需要項目別(数値は実質ベース)
  民間最終消費支出 +0.3%[+0.1%]↑
  民間住宅       +2.6%[+2.3%]↑
  民間企業設備    ▲0.4%[+0.0%]↓
  民間在庫変動    ▲0.3%[▲0.1%]↓

  公的需要       +0.3%[+0.4%]↓
  公的固定資本形成 +0.1%[▲0.7%]↑
  公的在庫変動    ▲0.0%[▲0.0%]→

  輸出(財貨・サービス) +1.6%[+2.0%]↓
  輸出( 同 )      ▲0.4%[▲0.6%]↑

   
支出面から見たGDP

 上記発表の統計表数値(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163_2/gdemenuja.html、名目暦年(CSV形式:7KB))を民需と公需と外需に分解してみる。

名目GDP532.2兆円
 民間消費 299.9兆円
 住宅投資  15.9兆円  民需 399.4兆円(75.0%)
 設備投資  81.2兆円
 在庫投資  2.4兆円

 政府消費 106.0兆円
 政府投資  26.7兆円  公需 132.8兆円(24.9%)
 政府在庫  17.6兆円

 輸出    91.7兆円   外需  0.0兆円(0.0%)
 -輸入   91.6兆円

 民需が全体の75%を占めるため、民需が伸びればGDPも伸びることになる。


日銀短観

 2016/12/14、日銀短観が発表(http://www.boj.or.jp/statistics/tk/yoshi/tk1612.htm/)された。

 日銀短観の業況判断指数(DI)とは、景況感が「良い」と答えた企業から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた値。今回の回答期間は11/14〜12/13。

 大企業製造業  DI+10(9月+ 6)↑・・・改善は2015/6以来、1年半ぶり
 大企業非製造業 DI+18(9月+18)→

 中小企業製造業 DI+1(9月▲3)↑
 同 非製造業    DI+2( 同 +1)↑

 大企業製造業の2016年度下期の為替の前提が103.36円/ドルだったことを考えると(12/22時点117.50円/ドル)、景況判断は更に良くなることが想定される。

 短観からは、景況感の向上⇒今後、売上増⇒民間の設備投資増が期待される。

 民間の設備投資が増加して、「先行きに明るさ」が見えてくれば、可処分所得増⇒個人消費増(GDPの最大寄与項目)を通じて、結果としてGDP(目指せ、600兆円!)も増加して行くに違いない。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったこと
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

所得 支出 GDP速報 GDP成長率 日銀短観 業況判断指数 DI

テーマ : 安倍内閣
ジャンル : 政治・経済

10月の建築着工統計調査



国土交通省の10月の建築着工統計調査報告(修正)


 2016/12/21、国交省より平成28年10月分の建築着工統計調査報告(修正)が発表(http://www.mlit.go.jp/common/001156785.pdf)された。(修正前:http://www.mlit.go.jp/common/001153771.pdf


 住宅着工戸数 87,239戸 前年同月比4ヶ月連続の増加(前年同月比+13.1%

 (持家) 前年同月比9か月連続の増加(同+4.9%

 (貸家) 前年同月比12か月連続の増加(同+22.0%)・・・「2ケタ増の月も多い。相続税の節税資産運用目的のアパート建設が好調」(日経電子版2016/12/19 22:18の記事より)

 (分譲住宅) 前年同月比2か月連続の増加(同+9.3%


このままアパート建設が増え続けて大丈夫?

 施工業者筋は、相続税/所得税の節税対策や資産運用として、地主のみならず、土地を保有しないサラリーマンにまで、(土地付)アパート建設を煽っているようにも見える。

 また、同様に、マンション投資(新築、中古を問わず)の情報も見ない日はない。

 しかし、少子高齢化は自明で、今後、アパートやマンションへの入居需要が増えていくことは想定し難い。


金融庁の検査

 日経電子版(2016/12/14 0:36)によれば、金融庁アパートローンの過熱を警戒し、年明けにも地銀105行に検査を実施すると言う。

 1件ごとに、節税に繋がっているか、収支が黒字かなどを点検するようだ。

 今後の需給状況の見通し等を含めて、よくよく検討した上で、投資することをお勧めしたい。

 もうはまだなり まだはもうなり・・・
 (http://www.jsda.or.jp/manabu/proverb/contents/proverb21.html

 何事も腹8分目が良さそうだ。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 安倍内閣
ジャンル : 政治・経済

資金循環統計



資金循環統計

 2016/12/19、日銀から2016年第3四半期(7〜9月)の資金循環(速報)が発表(https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf)された。


部門別の金融資産・負債残高(2016年9月末、P1)
(括弧内:対前年比、シート番号:https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sj.htm/の「資金循環統計(速報)(2016年第3四半期) [ZIP 103KB]」のExcel)

 家計が保有する金融資産残高 1752兆円(+0.6%、シート20)
 民間企業が保有する現金・預金 246兆円(+8.5%、シート19)・・・2005/3以降で最高
 
 国債保有残高
  日本銀行 413兆円(+31.3%、シート21、保有比率37.9%)
  国内銀行 219兆円(▲14.7%、シート23、同20.0%)
  海外勢   112兆円(+11.4%、シート20、同10.3%)

 金融機関の貸出 788兆円(+2.8%、シート19)・・・1997年以降で最高
 家計向け貸出   275兆円(+2.9%、シート20)・・・過去最高

(対前年比数値、コメントの出所:「日経電子版2016/12/19 22:18、同15:42、同10:02」)



GDP600兆円のために何が必要か

 2016/12/8、内閣府から2015年度名目国内総生産(GDP)の確報値532.2兆円が発表(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/gaiyou/pdf/point20161208_2.pdf)された。

 GDP600兆円達成のために、何が必要か。

 2005/3以降で最高となった民間企業の現預金246兆円を使わせることが最も効果的であるように思われる。

 限界消費性向が仮に0.5であれば、家計/投資に35兆円回れば、目標GDP600兆円(532.2+35/(1-0.5))が達成できる。

 政府は(スポットの)賞与や投資を促す施策を考えるべきであろう。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

「企業価値経営」④



「企業価値経営 コーポレート・ファイナンスの4つの原則」(マッキンゼー・アンド・カンパニー、ダイヤモンド社)より 



 マッキンゼーの人たちが考える、価値創造に貢献する戦略立案の方法について学んでみる。



『 第17章 価値創造経営


  戦略立案と予算策定


 戦略立案が価値創造に貢献するように改善する方法は、いくつも考えられる。

 第1に、戦略立案と予算策定の間にあるしがらみを断つことだ。戦略計画は、それが見せかけの3~5年の業績計画となってしまわないために、予算策定とは別の時間軸のもとで実施されるべきである。

 第2に、事業部の戦略立案は、詳細な業績予測から離れて長期的な価値創造ドライバーを重視し、事業部が直面している問題や機会についての議論に集中すべきである。詳細な業績予測の項目を50行も連ねるのではなく、各事業部には、問題点、機会、必要な投資を整理するのに役立つような、10行の項目からなる財務のシナリオを3つ準備させるべきかもしれない。

 企業はまた、事業単位の戦略立案とは別に、独立した企業全体の戦略プロセスを策定するべきである。この企業戦略は、優れたオーナー、成長のプラットフォーム、資源配分を説明するものであなければならない。

 事業戦略企業戦略の両方とも、現状を大きく変革するための立案でなければならない。たとえば、事業からの撤退将来性のある成長機会への大幅な支出の増加、自社の商品開発や販売における資本の集約性を減らすための大胆な方策の実施、などである。


 よりよいアプローチは、企業本部が各事業と協働し、個々の事業部にとっての対等な目標と予算を算出し、それらの合計を検証する、というものである。全事業部の合計が本部の期待にそぐわない場合もあるかもしれないが、それで構わない。企業がこのような準備を行っていれば、機械的な全社一律のコスト削減ではなく、相対的な価値創造の潜在能力に基づいて、どの事業部のコストを削減すべきかを判断できる。さらなる利点として、企業はこのプロセスを通じて、全事業部のすべての機会を全額まかなう予算はないことを理解するだろう。その結果、自社がある事業部のベスト・オーナーかどうか、慎重に議論する機会が得られるだろう。


  取締役会

 我々の同僚は、以下のように述べている。「業績管理に対する企業文化の特性と強度こそが、おそらく2つの環境の最も大きな違いだろう。あるインタビュー対象者によれば、プライベート・エクイティの取締役会には『容赦なきまでの価値創造への希求』があった。それに対して、上場企業の取締役会は、細部にあまり関与しない、と表現された。上場企業の取締役会は、本質的な価値創造の追求に焦点を当てる度合いがはるか少なく、四半期の利益目標の達成をはるかに重視する。彼らは予算管理や短期な会計上の利益を重視しており、投資家を驚かせることを避けようとしている。」


 取締役会は、個々の事業単位の業績、戦略、機会についてより理解を深める方法を探すべきである。価値創造は事業部レベルで起こるのであって、全社レベルで起こるのではないため、取締役会はこの事業部レベルでの洞察や議論を必要とする。


  共訳者あとがき

 本書のなかで一貫して語られているメッセージは、「企業の経営者はどのような視点を持ち、どのような判断基準に基づき、どのように行動すれば、企業価値を高めることにつながるか」ということである。

 本書の主たる読者層は、企業価値を実際に現場で行う実務家というよりは、むしろその評価結果を解釈し、経営判断を求められる企業の経営幹部を想定しているように思われる。本書における著者たちの視点は、常に経営のトップにあり、そのメッセージは経営者に直接向けられている。

 2012年8月 鈴木一功 』



  現状を大きく変革して長期的な価値を創造するために、(1)事業単位と、(2)(事業単位とは独立した)企業全体の、大胆な戦略立案の策定が必要であるという。

 現状の延長線上で考えるだけでは、企業価値を高めることにはなり得ないということだと思う。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「企業価値経営」③



「企業価値経営 コーポレート・ファイナンスの4つの原則」(マッキンゼー・アンド・カンパニー、ダイヤモンド社)より 


 本書を通じて、マッキンゼーの人たちが考える、事業ポートフォリオをどうすべきで、経営者は何をすべきかを学びたい。


『 第12章 事業ポートフォリオ


  事業ポートフォリオへの追加


 経営者にとって最も難しい仕事の1つは、事業ポートフォリオに新たな事業を加える際に、自ら新規事業を立ち上げるか買収によって追加するかを見極めることだ。ほんとの企業のこれまでの実績は芳しくなく、フォーチュン500の企業のうち50%10年たつとリストから消えていく。一般的に、企業がフォーチュン500の企業規模に達するのは、カギとなる事業製品の力によるものであるが、それらが成熟すると、新たな成長の源泉を見出すことができない(企業規模が大きいと、次なる成長の源泉も相応の規模でなければインパクトを得られず、これが問題をより深刻なものにしている)。

 事業創造のパイプラインを構築し、管理することは、成長維持のために必要となる中心的な課題であるとしている。そのようなパイプラインを維持する1つの方法は、以下に示す発展の3つのタイプに分けて、企業が明確な意思をもって成長機会を管理することである。

●タイプ1 : 現在企業の利益とキャッシュフローの大部分を創出している事業であり、ほどほどに成長している。

●タイプ2 : ほどほどの売上と利益を生み出している将来有望な事業だが、大きな利益とキャッシュフローを会社にもたらすには、少なくとも4~5年必要である。

●タイプ3 : 研究プロジェクト、試験的な市場調査、提携マイノリティ出資、進行中の合意覚書など、成功すれば10年後もしくはそれ以降に業績への大きな貢献が見込めるものである。


  事業ポートフォリオの多角化

 他の事業と「連携が可能」な事業を所有するだけでは、十分ではない。論理的にみえる戦略がうまくいっていない場合、「実際にどう連携させるか」を解明しなければならない。過去の失敗例の数々をみれば、銀行と保険会社を統合して(論理上は可能な)クロスセルを実現させようという試みがいかに難しいかがわかる。小売のコンセプトを国境を越えて適用しようという試みも、同様である。


 第13章 M&Aによる価値創造

  実証結果


 1.自社の事業運営に優れた買い手企業が、より成功を収める。

 2.買収プレミアムは低いほうがよい。

 3.唯一の買い手であることが重要である。


  M&Aによる価値創造のタイプ

 1.売り手企業の業績を改善する。
 2.統合によって業界から過剰な生産能力を取り除く。
 3.売り手企業もしくは買い手企業の商品市場へのアクセスを増大させる。
 4.経営スキルや技術を、自社単独で構築するよりも速く、かつ低いコストで獲得する。
 5.将来有望な企業を早期に見つけ、その事業を支援し発展させる。


 第15章 有利子負債・資本構成

  配当と自社株買い


 1980年代の初頭まで自社株買いは、株主還元総額の10%未満であった。現在では、株主還元の約50~60%が自社株買いによるものである。なぜ配当から自社株買いにシフトしたのだろうか。これは主に柔軟性が理由である。特に米国においては、企業はよほど厳しい状況にならない限り、配当を削減しないよう投資家から期待されている。2004~2008年にかけて、売上規模5億ドル以上の米国上場企業のうち、配当を削減したのはわずか5%のみであり、それらの企業はほぼすべて厳しい財務上の危機に直面していた。企業は維持する自信のない配当水準を設定することを嫌い、それよりも自社株買い戻しを選ぶのである。

 
 株主に余剰キャッシュフローを還元することは、基本的にはよいことである。しかし、それ自体は価値を創造しない。むしろ、それによって収益率の低いプロジェクトへの投資を回避できるというメリットを意識すべきである。

 有利子負債・資本構成をうまく管理できなければ、財務危機と価値毀損につながりかねない。しかし、レバレッジがすでに妥当な水準にある企業では、有利子負債・資本構成の最適化によって価値が創造される可能性は限定的であり、その影響はROICや成長率の改善がもたらすものに比べると小さい。経営者は、最適な有利子負債・資本構成を求めて微調整するよりも、自社が戦略を遂行するために十分な財務的柔軟性をもつように心がけるべきである。 


 第16章 IR活動

  本来価値への投資家とのコミュニケーション


 本来価値への投資家は洗練されており、事業を理解するために多大な労力を費やす。彼らは業績の不透明、経営者による業績の率直な評価、企業の目標や戦略に関する明確な方向性を求めている。株価を決定づける彼らの役割を考えれば、経営者は彼らの要求に応えて、概要を示すだけではなく綿密なコミュニケーションを行うべきである。


 投資家がさらに知りたいのは、戦略的意思決定が失敗した場合に、経営者が何を学習したかである。特に本来価値への投資家は、事業ではリスクをとることも必要であり、必ずしもすべてが成功するものではないということをわかっている。これらの投資家は率直さを重視しており、事前に十分な情報を得て経営者の判断に信頼をおいていれば、企業が軌道修正を行っていく間も指示してくれるだろう。


 自社の有する能力、機会、脅威については投資家より多くの情報をもっているのは、経営者自身である。経営者は、自らの戦略的意思決定について自信をもち、投資家にそれを伝えなければならない。経営者はすべての投資家を喜ばせることはできず、長期的な価値創造のために最善となることを実行しなければならない。』(太字は筆者)



 フォーチュン500の企業のうち50%10年たつとリストから消えていくという。

 その理由は、カギとなる事業製品成熟すると、新たな成長の源泉を見出すことができないこと。

 結果が出るまでに少なくとも4~5年かかるであろう将来有望な事業を、企業が明確な意思をもって、パイプラインとして成長させることができるか。

 また、経営者は、財務的柔軟性を持って自社株買いを行ったり、本来価値への投資家との綿密なコミュニケーションを行っていくことができるか。

 これらができれば、10年たってもフォーチュン500に残れるに違いない。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「ニッポンのアホを叱る!」



年金支給額は年56兆円
平成28年度一般会計予算は97兆円(http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/002.htm


 以下は、辛坊治郎著の「ニッポンのアホを叱る!」 (光文社。2016年5月20日初版第1刷発行)より。


『  念のために言っておきますと、民間の年金と違って、公的年金は自分のためにお金を積み立てる仕組みにはなっていません

 「世代間の助け合い」と言うときれいに聞こえますが、早い話、読者の現役世代の皆さんが払い込んでいる年金掛金は、今のお年寄りにどんどん注ぎ込まれていて、皆さんの将来の年金は、未来の現役世代が賄うんです。このシステム、子供の数が減って将来の現役世代が少なくなると、けっこう絶望的だってわかりますよね。


 現在1年間にいくらの年金が高齢者に支払われているか知ってますか?2015年度の予算ベースで、その額じつに56兆円、受給者4千万人ですよ。もう一回書きます。1年だけで56兆円ですよ。

 それに対してグリーンピアの建設費は、長年の全事業トータルで3千700億円です。グリーンピアに腹が立つのはわかりますが、年金システムに影響の出る金額じゃないのはどう考えても明らかです。 』


 以下は、「平成28年度版 厚生労働白書 資料編」http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16-2/dl/12.pdf)より。

<2014年度>

 a)公的年金受給者の数 : 4,800万人(併給重複分を除く。資料P242)
           (1995年度 2,948万人から+1,852万人

 b) 同 年金総額 : 53.4兆円(P243)
 (1987/1995年度 17.7/31.8兆円から+35.7/21.6兆円

 c)1人当り公的年金支給額/年 : 111万円 (b÷a)
               (1995年度 108万円

(参考)
公的年金加入者数(P242)
 2000年度 7,049万人 ⇒ 2014年度 6,713万人▲336万人


<厚生年金保険・国民年金の積立金の累積状況>(P246)

 平成26年度末   112.1兆円(時価ベース145.9兆円
 平成27年度予算 107.3兆円
 平成28年度予算 110.9兆円


<結 論>

少子高齢化が進むのは自明
 ⇒ 将来、現役世代の人口 < 年金受給者
 ⇒ 公的年金に頼り過ぎるのは危険
 ⇒ 生涯現役で稼げるような、自給自足の社会を創出してゆかねばならない
 ⇒ そのために、我々国民一人ひとりが、何をし続けることができるかを考えてゆかねばなるまい


----------------------------------------------------------------------
元証券マンが「あれっ」と思ったこと
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 年金制度について考えます
ジャンル : 政治・経済

税制改正大綱-配偶者控除-


平成29年税制改正大綱


 2016/12/8、自民党より、税制改正大綱(https://www.jimin.jp/news/policy/133812.html)が発表された。

 合計所得金額1,000万円を超える(給与のみの場合、年収1,220万円超https://www.yamada-partners.gr.jp/news/h281209/)居住者について、しれっと、配偶者控除の適用がなくなった。

 所得税・住民税率が43.693%(課税総所得900万円〜1,800万円)の人の場合、38万円×43.693%=16.6万円の増税となる。

 高給のサラリーマンにとっては、税金が源泉徴収されるため気付き難いが、年収が変わらないのに約17万円もしれっと増税になるのは納得ゆくまい。


所得税・住民税概算合算速算表

  900〜1800万円 43.693%
 1800〜4000万円 50.840%
 4000万円〜    55.945%


平成27年分民間給与実態統計調査http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2015/pdf/000.pdfのP40-41)からの対象者数の試算

<給与階層別の人数(試算例)>
 1220~1500万円 624,638人(1.1%/給与所得1500万円以下×40%と仮定)
 1500~1800万円 272,639人(0.5%/給与所得2000万円以下×80%と仮定)
 1800〜2000万円  68,160人(0.1%/同上×20%)
 2000~2500万円 102,274人(0.2%)
 2500~4000万円 106,480人(0.2%/給与所得2500万円超×90%と仮定)
 4000万円~     11,831人(0.0%/同上×10%)
   小 計     1,186,022人
   全 体     56,640,150人
   シェア       2.09%


年収1120万円超の配偶者控除がなくなることによる増税総額(試算例)

 1と2の積算(対象者全員が配偶者控除ありと仮定):2,050億円


所得税の増減税が均等だと仮定した場合(試算例)

(1)配偶者控除の対象となる配偶者の年収上限:103万円⇒150万円

(2)配偶者特別控除の対象となる配偶者の年収上限:141万円⇒約201万円

(3)世帯主の年収が1220万円を超えると配偶者控除がなくなる


⇒上記(1)+(2)の税収減は2,050億円

⇒(3)(全体の2%の高所得者層)を増税して、それ以外の幅広い層を減税することは、国民受けし易い対策だと言えるが、消費に回ったであろうと思われる金額を通じた経済への波及効果は小さく(消費性向は低く)なることが想定される。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったこと
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 安倍政権
ジャンル : 政治・経済

「企業価値経営」②



「企業価値経営 コーポレート・ファイナンスの4つの原則」(マッキンゼー・アンド・カンパニー、ダイヤモンド社)より 


 本書を通じて、世界を代表するマッキンゼーの人たちが考える、どのタイプの投資家を重視すべきかを理解した上で、日本にどんな影響を及ぼしてきたのかを考えてみたい。


『 第6章 株式市場とは何か


  投資家を適切に分類・理解する


 本来価値への投資家(intrinsic investor)


 厳格なデューデリジェンス(通常1ヵ月以上かかる)を行って、投資先企業に長期的な価値を生み出す能力が内在していることを確認した後に投資を行う。デューデリジェンスは、企業の財務状況経営戦略についてだけではなく、経営陣の、リーダー・戦略家としての力量をも対象としている。こうした投資家は全米の資産の20%を保有しており、米国市場における取引量の10%を占めていると推定される。

 本来価値への投資家に分類される投資信託の例として、レッグ・メイソン・バリュー・ファンドがある。このファンドが常時ポートフォリオに組み込む銘柄は50社にみたず、10%未満の回転率しかない。ヘッジファンドの世界においては、リー・アインスリーが運営するマーベリック・キャピタルが本来価値への投資家の好例である。マーベリックが1人の投資担当者当たり5銘柄しか保有しておらず、投資担当者の多くは、1つの業種を10年、20年、あるいはさらに長い期間追い続けていることを、アインスリー氏は誇りとしている。


 トレーダー(trader)

 短期的な(1ヵ月未満、しばしば1週間未満の)株価の動きに賭けて利益を得ようとする。よくあるのは、企業に関するニュース発表や、株価のモメンタムといったテクニカルな要因に基づく短期的株価変動である。

 トレーダーは、米国の株式保有の約35%を占めるが、株価がその企業の本来価値に比べて課題か仮称家についての見解をもつ必要がない。彼らが知りたいのは、株価が極めて短期間のうちに上昇するのか下落するのか、ということだけである。


 機械的投資家(mechanical investor)

 厳格な基準や規則に基づいて意思決定を行う。指数投資家(indexers)、すなわちインデックス・ファンドのファンド・マネジャーは、機械的投資家の典型である。彼らは、S&P500の構成と合致するようにポートフォリオを構築するにすぎない。他の機械的投資家としては、クオンツ(quants)と呼ばれる人々がいる。クオンツは、ポートフォリオを構築する際にコンピュータのモデルを用い、何らの定性的な評価も行わない。


 隠れた指数投資家(closet indexer)

 アクティブ・マネージャーと謳っているが、そのポートフォリオはあたかも指数のようである点で興味深い投資家である。加えて、彼らは、幅広い株式を保有するため、それぞれの企業を深く理解することはできない。ブローゼット・インデックス。ファンド(隠れた指数投資家に分類される投資信託)の場合、1人の運用担当者は平均して100~150銘柄を担当するので、投資先の経営者と面談して得られるような深い調査を行うことは不可能である。



本来価値への投資家が企業価値評価の水準を決定する

 経営陣にとってより重要な存在なのは、本来価値への投資家である。彼らが株式を購入する際には、その取引量は他の投資家よりも大きく、最終的に株価を決定づけるからである。最も優れた本来価値への投資家の動きは、他の投資家にも模倣されるので、本来価値への投資家1ドル投資すると、他の投資家による数ドルの投資を導くことになるのである。

 本来価値への投資家は、投資ポートフォリオの企業を地道に、丹念に調査・研究する。彼らは長期的な投資採算に注目し、企業のファンダメンタルズを検討し、価値の根源の原則を用いて株価がいくらであるべきかの意思決定を行う。おそらく最も重要な点は、株式売買を通して企業、業界、競合他社について客観的思慮深い見識をもたらす彼らは、経営者にとって有益な経営資源であるということだろう。



 第8章 株式市場のバブル


  バブルは長期的な価値創造の重要性を示す



 市場の乖離があるからこそ、経営者や投資家が企業の真の本来価値を理解することはより一層重要となる。そうすることで、もし市場で何らかの価格乖離が生じている場合には、そこから利益を得ることができる。市場で株式が過大評価されているのであれば、株式を買収の対価として利用する、もしくは市場価値が低すぎるときに自社株買いを行う、といったことが可能となるのだ。

 前記の例については、2つの重要な留意事項がある。

 第1に、我々は、株式発行や自社株買い、事業の売却や買収、取引決済での現金払いや株式交換といった意思決定を、市場価格と本来価値との差異のみに基づいて行うことを推奨しているわけではない。そうではなく、こうした意思決定は、株主に対する価値創造につながる健全な戦略と事業の合理性に基づいて行われるべきである。市場での価格乖離は、戦略的決定のタイミングと実行、すなわち、いつ増資をするのか、特定の取引の支払いをどのように行うのか、といった戦術を考えるうえで重要となる。

 第2に、経営者は、自社株について 市場での価格乖離があると主張する分析に対して、厳しい目を向けるべきである。 経営者が価格乖離に基づいてアクションをとる場合、十分に説得力のある証拠が必要とされる。戦略的意思決定を実行するコストと時間に鑑みれば、価格乖離は規模および期間において重大なものでなければならない。

 自社の株価が、やがては長期的な、DCF法による本来価値への戻る限り、戦略的意思決定においてはDCFアプローチを用いるべきである。重要なのは自社の株価の長期的な動きであり、今週5~10%割安になった、というようなことではない。 』(太字は筆者)


 マッキンゼーの人たちが考える、本来価値への投資家が重要だという考えは、日本でも、例えば、「みさき投資」の投資哲学(http://www.misaki-capital.com/philosophy.html)に活かされているように思う。


 なお、市場の乖離が生じた際に、健全な戦略と事業の合理性に基づいて、(1)株式を買収の対価として利用したり、(2)自社株買いを行うことは有効な戦術であるのは間違いない。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「企業価値経営」①



「企業価値経営 コーポレート・ファイナンスの4つの原則」
(マッキンゼー・アンド・カンパニー、ダイヤモンド社)より  2012年8月30日 第1刷発行



 まずは、本書を通じて、世界を代表するマッキンゼーの人たちが考えるファイナンスの4つの原則を理解した上で、何が大切なのかを考えてみたい。



『 第Ⅰ部 4つの原則


  ファイナンスにおける4つの原則


第1の原則

 企業が価値を創造するのは、投資家から調達した資本について、資本コスト(投資家が合理的に期待する利回り)を上回るリターンが出るようキャッシュフローを生む必要がある
=「価値根源(core of value)の原則

 企業は、手持ちの現金を投資し、将来にそれ以上の現金を稼ぎ出すことで、株主価値を創造する。創造される価値の大きさは、企業活動が生み出すキャッシュフローから投資額を差し引いた額に等しい(ただし、将来のキャッシュフローは時間の経過とリスクの分だけ今日のキャッシュフローより価値が低くなるため、調整が必要となる)。

 企業の投下資産利益率(ROIC)と売上成長によって、売上高がどの程度キャッシュフローに転換するかが決定する。

 したがって、価値創造の大きさは、究極的にはROICと売上成長、そしてもちろん、この2つを長期間にわたって維持できる能力によって決まる。

 ROIC    
           ⇒ キャッシュフロー
 売上高成長率               ⇒ 企業価値
              資本コスト


第2の原則

 株主にとって価値が創造されるのは、企業がより多くのキャッシュフローを生み出す場合であり、キャッシュフローの分配方法とは無関係である
=「価値不変(conservation of value)の原則

 企業がキャッシュフローの分配権の所有者を変更しても、分配されるキャッシュフローの総額は変化しない場合(有利子負債を株主資本の代わりに用いる場合や、自社株を取得するために有利子負債を発行する場合)には、企業価値は維持され変化しない。同様に、たとえば、会計手法の変更などによってキャッシュフローの見え方が変わったとしても、キャッシュフローが実質的に変わっていなければ、企業価値は不変である。


第3の原則
 株価は企業の業績(成長率、ROIC、そしてその結果としてのキャッシュフロー)だけではなく、株式市場の期待の変化に左右される
=「期待との際限なき闘い(expectations treadmill)」

 大きな企業価値を創造するような素晴らしい戦略を実行していても、株式市場がその戦略の成功をすでに織り込んでいる場合、高い株主に対するリターンを達成することは期待できない。取締役会はこのことを理解すれば、たとえ自社の株価が短期的に優れたパフォーマンスを上げていなくても、価値創造を優先する経営陣の取り組みを支援できるだろう。


第4の原則
 事業の価値は、だれが経営しどのような戦略をとるかにかかっている
=「ベスト・オーナー(best owner)の原則

 事業の価値は、だれが事業を所有するか、もしくはだれが経営するかによって決まるというものである。なぜなら、オーナーが異なれば同じ事業から生まれるキャッシュフローは異なったものになるからだ。

 最も大きなキャッシュフローを生み出せる者が事業を所有するときに、最大の価値が生み出される。その結果としていえることは、ある事業の固有の価値というものは存在しないということである。事業の価値は常に、だれが事業を運営するかによって決まるのだ。

ベスト・オーナーに求められる要件

 1.事業ポートフォリオにある他の事業との連携
 2.すべての(もしくはほとんどの)事業部に適用できる、差別化されたスキル
 3.市場環境に対する優れた洞察・先見性
 4.優れた企業ガバナンス
 5.人材、資本、政府、納入業者、顧客への特別なアクセス

 取締役会と経営陣が自社のポートフォリオ内の事業の価値を最大化しようと思うのであれば、自社が各事業(および、ポートフォリオに追加される可能性のある事業)にどう付加価値を与えるのかを明確にしなければならない。自社の事業ポートフォリオを見直す際には、少なくとも自社がベスト・オーナーとして生み出す価値の源泉を、具体的に理解しなければならない。また、他社がより優れたオーナーとなる可能性も考慮する。そしてベスト・オーナーとしての源泉は、静的なものではない。自社がベスト・オーナーとしてもつ価値の源泉を進化させていくためにはどのような意思決定が可能か、絶え間なく問い続けていく必要がある。 』(太字は筆者)


 マッキンゼーの人たちが考えるファイナンスの4つの原則の内、第4の「ベスト・オーナーの原則」が最も企業価値向上に繋がるのではないか。

 ベスト・オーナーであり続けるためには、自社の価値の源泉を具体的に理解する必要があるのは間違いなく、全てはここから始まると思われる。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 ttp://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「青山繁晴の逆転ガイド」⑤



青山繁晴逆転ガイド その1ハワイ真珠湾の巻」青山繁晴著、ワニ・プラス)より 


第二章 真珠湾ビジター・センター

 
 ここに1930年代の日本、つまり世界大戦に突入していく日本について書いてあるのですが、普通だと日本は軍国主義に犯されていてどうのこうのと展示してあると思いますよね?

 でもここはそんなことは一切なく、書いてあることを見ていただくと、「日本はアジアの西洋による植民地支配を終わらせて、そこからアジアの自立を確立しようとし、同時に新しいマーケットを拡げ、そして資源を開発しようとした」と書いてあります。

 驚きませんか。

 ぼくは、もうずいぶん前にこれを最初に読んだとき、腰が抜ける気がしました。

 日本の教科書にまったく書いてない真実の祖国の歴史を、日本海軍に将兵を殺された真珠湾アメリカが、堂々と長年、この歴史館をここ、この誰でも来られる現場に掲げ続けているのです。

 さらに、ここに昭和天皇がいらっしゃいます。

 軍服姿で騎乗されている写真です。

 その陛下の写真の横に米内光政首相(当時)の言葉、「日本の存立のためにアジアをお互いに繁栄できる地域にするのがいちばん必要なことだとわたしは確信している」という言葉がきちんと明示されています。

 「日本資源確保のためにアジアに進出し、その進出先はアジアの独立ではなくて西洋諸国が支配していたところであって、だからそこで戦争になったのだ」と書かれています。

 もう「わぁー」ですよね。

 もう一度申しますが、帝国主義、軍国主義ということは一切書かれていません。

 この展示館の中で帝国主義という言葉が使われているのは、西洋諸国に対してであって、「西洋諸国が帝国主義でアジアを支配したことを日本が打ち破ろうとしたのだ。そのために衝突になった」と展示されています。


 ここでは日本視点が、ありのままに客観視して紹介されています。みなさん、ここまでの展示は日本の視点の紹介ではないのですよ!

 敵国だった、そして真珠湾日本軍に将兵を殺された側のアメリカの視点なのです。


 原爆投下で大嘘をついているアメリカであっても、戦争責任は日本にだけあると刷り込ませる世論工作(WGIP)を遂行したアメリカであっても、日本軍と実際に向かい合った現場のこの真珠湾では、真っ直ぐに日本に向かい合う姿勢が貫かれていて、それがわたしたち日本人が思い込み、刷り込みを脱するための世界に類例がないほどの凄い助けになるということです。

 たいせつなのは、わたしたちの自助努力です。

 まずここに来て欲しいし、来られたら「アメリカにはいいところもある」で終わらせるのではゆめ、なくて、わたしたち自身と次の世代、次の次の世代の新しい生き方に繋げていただきたいのです。

 そうすれば初めて、あの無残な世界大戦もほんとうに終わり、ここ真珠湾で命を落とした日本兵アメリカ兵も報われると、ぼくは考えます。

 そして、みなさんにこの現場に来ていただいた目的のひとつは、いずれこの展示館のようなもの、と言うよりいわば姉妹博物館としての日本版展示館を、日本語をメインに英語、中国語、朝鮮語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、あるいはアラビア語などを加えて造れないのだろうか、という主権者同士としての提案です。

 主権者の意志として国費で造るのです。日本にはいまだ、国営の戦争記念館がありません。

(太字は筆者)


>>日本国内にも日本人の手による真珠湾ビジター・センターのような国営の戦争記念館を造る必要がある


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「シン・ゴジラ」わたしはこう読む②



「シン・ゴジラ」わたしはこう読む(日経ビジネス編)より


 石破茂議員との対話は続く。


石破:小学校でも中学校でも高等学校でも、そして大学でも「国家主権とは何か」ということは全然、教わりません。国民主権は習いますよ。でも、国家主権とは何か、ということは日本の学校では教えません。

 国家主権を護るということが独立ということです。の独立を守るのが軍隊の仕事で、そこで発動されるのが自衛権なんです。自衛権とはの独立を守るためのものなんですが、攻撃の主体は常にまたは国に準ずる組織となる。これって基本中の基本なんですけれど、でも大学でも教わらない。

 国家主権の三要素である「領土」と「国民」と「統治の仕組み」。この三つについては、または国に準ずる組織に指一本触れさせてはならない。それは領土であり、国民であり、統治の仕組みを守ることがの独立を守るということだからです。軍隊の仕事というのはただ一つ、の独立を守ることです。そんな大事なことも、実は私も議員になるまで知りませんでした。

 では警察とは何か。これは国民の生命と財産、そして公の秩序を守ることで、行使されるのが警察権です。従って、優れて、軍隊の作用というのは外国勢力に対して行われるべきものであって、国内において軍隊は機能するものではないのです。逆に、警察というのは、優れて、対内的な作用を果たすべきものです。対外的警察権を行使すると言うことはあり得ないのです。

 であれ、警察であれば、実力組織であることに違いはありません。しかし、その2つは全く異なるものです。安全保障を語る上において、基本中の基本をほとんど誰も理解していない。だから私は、何故、ゴジラがギャーと暴れて、自衛権が行使されるのか全くわからない。』(太字は筆者)


 確かに、国家主権、警察権、自衛権を教わる機会は全くなかったなぁ・・・・・・


――ゴジラは害獣であって、外国勢力とは言えないからですか?

石破:
そうです。自衛権を行使するための三要件というのが法的に決まっています。我が国に対するまたは国に準ずる組織からの急迫不正の武力攻撃があること。他に取るべき手段がないこと。その実力行使は必要最低限にとどめること。これが三要件です。映画で出てきた「防衛出動」というのは自衛権の行使に他なりません。だからこの三要件が満たされない限り、自衛隊に対して防衛出動が下令されることはあり得ません。

 去年、安全保障政策が国会に提出されたときにあれほど議論したのに、映画とは言え、なんであんな平気に、防衛出動の下令となってしまうのか・・・


 もし、あのゴジラをどっかのがリモコンで操っていれば、または国に準ずる組織からの我が国に対する武力攻撃とみなせるので、自衛権の行使はまったく問題ありません。でも映画の中ではそうはなっていないから、害虫駆除として災害派遣で対処すべきなのです。イノシシとか、クマとか、そういう害虫を駆除するのと基本的には全く同じです。クマが爪でガーンと攻撃するのと、ゴジラが火を吐くのは一緒ということです。

 国家とは何か、ということを別の言い方をすると、軍隊警察という実力組織独占する組織体だということです。これが国家なんです。マックス・ウェーバー流に言えば「暴力装置」なんです。

 実力組織暴力装置というのは、本質は同じです。要するに軍隊警察という実力組織、マックス・ウェーバー流に言えば、暴力装置を独占的に所有する主体が国家です。だから国家とは何か、国家主権とは何か。警察とは何か、警察権とは何か。軍隊とは何か。自衛権とは何か。そういうことを整理する意味で、あの映画ってどうなんだろうねと言う議論は、あって然るべきでしょう、と思うのです。

 国家とは何か、国家の独立とは何か。そういうことをきちんと整理しておかないと、憲法九条を改正して国防軍を持つとか、自衛権を行使するのはどうすべきかとか、そういう議論の本質が分からなくなると。

 国権の最高機関である国会で、定義もきとんと分からずに議論すること。これは国民に対する冒涜だと、私は常に思っているんですよ。でも、そういう人がいっぱい、いるわけですよ、国会議員でも。

 おそらく法曹界の弁護士でも、分かっている人はごく少数だと思いますよ。

 そういう状況下で自衛権をどうするか、緊急事態に対応するにはどうすべきか、という議論が行われることを私は危惧しています。』(太字は筆者)


 「シン・ゴジラ」をきっかけにして、国家とは、国家の独立とは、国家主権とは、何かを理解した上で、緊急事態に対応するには自衛権をどう行使すべきか、ということを国民一人ひとりが考えてゆかねばなるまい。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : シン・ゴジラ
ジャンル : 映画

「シン・ゴジラ」わたしはこう読む



「シン・ゴジラ」わたしはこう読む(日経ビジネス編)より


 先日、映画「シン・ゴジラ」を見た。
 興味を持ったので、『「シン・ゴジラ」わたしはこう読む』(電子書籍)を購入してみた。
 
 まずは、石破茂議員との対談で始まっっている。
 以下は、石破茂議員のブログ(http://ishiba-shigeru.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/index.html)から。


2016年8月19日 (金) お初盆ご挨拶など

『何故ゴジラの襲来に対して自衛隊に防衛出動が下令されるのか、どうにも理解が出来ませんでした。いくらゴジラが圧倒的な破壊力を有していても、あくまで天変地異的な現象なのであって、「国または国に準ずる組織による我が国に対する急迫不正の武力攻撃」ではないのですから、害獣駆除として災害派遣で対処するのが法的には妥当なはずなのですが、「災害派遣では武器の使用も武力の行使も出来ない」というのが主な反論の論拠のようです。「警察力をもってしては対応困難な場合」に適用される「治安出動」ではどうなのか、という論点もありそうです。』


2016年8月26日(金)シン・ゴジラなど

自衛権の行使である「武力の行使」と警察権の行使である「武器の使用」とは明確に異なります。「警察比例の原則」が厳格に適用される警察権の行使である限り、戦車や戦闘機や護衛艦が強力な火器を使ってもそれは「武器の使用」なのであり、対象が自然現象で、自衛隊が災害派遣においてこれを除去するのに用いられる限り「道具の使用」(法的に確立された用語ではありませんが)として評価されると考えています。』


 石破議員の主張は、法的には、「防衛出動」ではなく、「災害派遣」して害虫駆除するための「道具の使用」もしくは警察力では対応困難な場合としての「治安出動」で対処すべき、というもの。以下、関連法案等を列挙してみる。


自衛隊法
(防衛出動)
第七十六条
 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 (平成十五年法律第七十九号)第九条 の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
一  我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二  我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

(命令による治安出動)
第七十八条
 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
2  内閣総理大臣は、前項の規定による出動を命じた場合には、出動を命じた日から二十日以内に国会に付議して、その承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、すみやかに、その承認を求めなければならない。

(災害派遣)
第八十三条
 都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。
2  防衛大臣又はその指定する者は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等を救援のため派遣することができる。ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。
3  庁舎、営舎その他の防衛省の施設又はこれらの近傍に火災その他の災害が発生した場合においては、部隊等の長は、部隊等を派遣することができる。
4  第一項の要請の手続は、政令で定める。
5  第一項から第三項までの規定は、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第二条第四項 に規定する武力攻撃災害及び同法第百八十三条 において準用する同法第十四条第一項 に規定する緊急対処事態における災害については、適用しない。

(治安出動時の権限)
第八十九条
 警察官職務執行法 (昭和二十三年法律第百三十六号)の規定は、第七十八条第一項又は第八十一条第二項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する。この場合において、同法第四条第二項 中「公安委員会」とあるのは、「防衛大臣の指定する者」と読み替えるものとする。
2  前項において準用する警察官職務執行法第七条 の規定により自衛官が武器を使用するには、刑法 (明治四十年法律第四十五号)第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合を除き、当該部隊指揮官の命令によらなければならない。


刑法
(正当防衛)
第三十六条
 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

(緊急避難)
第三十七条
 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。


武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
(定義)
第二条

4  この法律において「武力攻撃災害」とは、武力攻撃により直接又は間接に生ずる人の死亡又は負傷、火事、爆発、放射性物質の放出その他の人的又は物的災害をいう。
(都道府県知事による代行)
第十四条  都道府県知事は、武力攻撃災害の発生により市町村がその全部又は大部分の事務を行うことができなくなったときは、当該市町村の長が実施すべき当該市町村の区域に係る国民の保護のための措置の全部又は一部を当該市町村長に代わって実施しなければならない。


平成26年7月1日 閣議決定
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」

http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/anpohosei.pdf

<自衛権を(武力)行使するための3要件>

 (1)我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合

 (2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

 (3)必要最小限度の実力を行使すること



 法制を確認してみると、石破議員の言うように、「災害派遣」して害虫駆除するための「道具の使用」もしくは警察力では対応困難な場合としての「治安出動」でも対処できたように思う。

 「シン・ゴジラ」を通じて、国民一人ひとりが、自衛権の行使としての「武力の行使」とは何か、ということを考えるきっかけになれば、大変意義のあることであると思われる。


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : シン・ゴジラ
ジャンル : 映画

「青山繁晴の逆転ガイド」④



「青山繁晴の逆転ガイド その1ハワイ真珠湾の巻」(青山繁晴著、ワニ・プラス)より 


第二章 真珠湾ビジター・センター


 これが、今日のいわばメイン・イベントというかMAIN EXHIBITION(主たる展示)の一つです。空母赤城です。


 ぐるりと周って見ていただきたいのですが、甲板上にフィギュアがたくさんありますね。

 零戦を始めとする航空機のパイロットだけでなく、縁の下の水平たち、整備、通信、連絡、それぞれの役割を果たす全ての兵を徹底的に尊敬を込めて一体一体再現して、後ろに展示されている帝国海軍の撮った写真のまま――零戦がこれから出撃するので脚のタイヤのところに甲板員がひざまずいている姿も含めて、そのまま丁寧に、完璧に再現しているんです。

 これは実は赤城から第一波の攻撃が飛び立っていく瞬間です。

 アメリカは、自分たちに立ち向かってくる敵の日本海軍を、真正面から堂々と挑んでくる者たちとしてリスペクトを込めて描いていいます。

 ここに、赤城の詳しい説明があります。

 赤城は、火山の名から命名したということまで丁寧に説明してあるのですが、このスケールモデル展示は、真珠湾攻撃の1941年12月のハワイ時間で12月7日、日本だと12月8日、その朝に36機の第一波の攻撃が出て行くところを再現したと明示されていて、「わずか15分間にすべてが発信していった」と敬意と驚きを込めて書かれています。

 赤城はTHE PRIDE OF JAPANESE NAVYと書いてあります。アメリカ人にとってPRIDEって言葉は生易しい言葉ではありません、それをはっきりTHE PRIDE OF JAPANESE NAVY、つまり日本海軍の誇りであると書いています。

 正直、目を疑うような表現です。

 「この船の設計は多くの面で極めて独創的に、航空攻撃にとって有効であるように造られていて、それは戦争に対する完全に新しいAPPROACH、取り組みであった」とあります。

 一体誰がこのスケールモデルを作って、説明しているのでしょうか?

 本来なら日本がやらなきゃならないことを、やられたアメリカPRIDEという言葉と共に評価しているのです。

 さらにこれ以降、飛行甲板、航空機、戦隊全体、エアクラフト・エレベーター――飛行機を船内から甲板に上げてくるエレベーターです――、排気筒まで革新的であること、それから通信樹団の完備・・・・・・そういうことを完璧に説明しています。


 これは是非一回りじっくり見ながら、フィギュアがどういう顔をしているかまで見ていただきたいと思います。どうぞみなさん近づいて見てください。ぼくは何度見ても、こころの奥では泣いちゃいます。

 艦首には菊の御紋が深い敬意を込めてつけられています。

 空母赤城アメリカ兵を殺すために出撃したのですよ。それをこのように敬意をこめて表現するっていうのは普通の国では考えられないです。だからぼくがいつも言っている、日米は本来、対等に、あくまで対等に手を組むべきであるということも、こういう具体的なものを見ればご理解いただけると思います。

 さっき陸軍博物館で見ていただいたように、ここでも零戦や九九式艦上爆撃機など、きれいにつくり分けて、すべて克明に本物通りに再現しています。

 いい加減な構造とか一切見られません。

 日本ではもう国民もマスメディアも政治家も区別できないような機体の違いまで、しっかりと再現されています。よほど強固な尊敬がないと、こんなことはできません。

 これは単なるモデルではなくてスケールモデル、要するにこのまま大きくしたら使えるというぐらいの質です。


 ここにあるのは空母赤城であって戦艦大和ではないのです。

 アメリカ海軍の現在の将校たちに何度も聞かれたのは、日本では赤城とか蒼龍、加賀のような空母ではなく、どうして大和や武蔵という戦艦男のロマンなのか、ということなのです。

 戦争初期に航空戦力の大切さをわれわれアメリカに教えた当の日本が、なぜ戦争末期の沖縄戦に鉄の塊の大和を出してきたのか、飛行機を載せられない大和を、それも航空支援のないまま海の戦場に送り出してきたのかということを、ぼくは長年問われて、そういう問への答えをみつけるためにも、ぼくなりにこういう現場を歩いてきたわけです。

 アメリカのこういうところで戦艦大和を展示していることはありません。赤城こそが当時の敵国、そして日本に戦勝したアメリカにとって、大日本帝国海軍の象徴なのです。

(太字は筆者)


>>アメリカの、真珠湾ビジター・センターの空母赤城に対するリスペクトに、懐の深さを感じざるを得ない


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「青山繁晴の逆転ガイド」③



「青山繁晴の逆転ガイド その1ハワイ真珠湾の巻」(青山繁晴著、ワニ・プラス)より 


第二章 真珠湾ビジター・センター


 展示館の入口のここに、昔はなかった最初の説明板があります。簡単な英語です、高校生レヴェルの英語なので、みなさんも読めると思いますが、一応、読みますと、説明のタイトルはA GATHERING STORM、陸軍博物館にもA GATHERING STORMと書いてありましたが、迫り来る危機という意味なのです。そして、わずか六行ですが、ここにはすごく大事なことが大きな字で書いてあります。

 Conflict is brewing in Asia. The old world order is changing. Two new powers, the United States and Japan, are rising to take leading roles on the world stage. Both seek to further their own national interests. Both hope to avoid war. Both have embarked on courses of action that will collide at Pearl Harbor.

 訳してみますと「アジアで紛争が吹き荒れていた。古い世界の秩序は変わりつつあった」。英語の原文は現在形で書いてありますが、強調する効果を出すためですね。

 邦訳を続けると、「ふたつの新しい力、すなわちアメリカ合衆国と日本がそうした世界で勃興し、指導的な役割を果たそうとしていた。双方は、その国益をさらに追求したが、双方とも戦争は避けることを望んだ。しかし双方とも、ここ真珠湾で衝突が起きる道に乗ってしまった」

 これで全文です。短いですね。しかし、アメリカ政府が公式見解のひとつとしてここに盛り込んでいる内容に驚きませんか?

 誰だって、驚きますよね。ぼくらが日本の学校で教わったこととも、マスメディアが敗戦後の七○年、ずっとずっと報道していることとも、真っ逆さまに違うじゃないか。

 まずは、アジアにおける第二次世界対戦の端緒は、古い秩序を新しい力が変えていくことだったと評価しているのです、つまり「日本が侵略して・・・・・・」という日本ではいちばん普遍的な歴史観は一切ないのです。

 そしてアメリカと日本は対等なTwo new powers、新しい力として評価されています。

 さらに繰り返しBoth、両方ともという言葉が出てきて、要するに日本とアメリカを敵というより対等な競争相手とみなしているのです。最初のBothBoth seek to further their own national interests.という一節に出てきます。national interestes国益という意味です。

 だから日米双方は、それぞれの国益をさらに追求したと書いてあるのですが、ニュアンスとしては、日米双方は当然ながら、それぞれの国益を正当に追求したという意味が歴然としています。

 
 「日本が悪者で、日本が侵略してアメリカが迎え撃った」なんてことは一言も書いてないことを、みなさん、ご自分の眼で確認されましたね。

 その後にはさらに吃驚することに、Both hope to avoid war.「双方が戦争を避けようと願った」と書いてある。「日本もアメリカと一緒に戦争を避けようと努力した」と書いてあるのわけです。こんなこと、日本の教科書のどこに書いてあるのですか?

 もう一回言いますが、これはアメリカ政府の公式見解です。なぜなら、この展示館はすべて国営だからです。

 そして最後に、Both have embarked on courses of action that will collide at Pearl Harbor.

 「そして成り行きとしてこのパールハーバーで衝突にいたるのである」と書いてあり、つまり真珠湾攻撃も日本が一方的にやったとか卑怯な攻撃だったとかではなく、「新興勢力としての日米双方が国益を追求しつつ戦争を避けようとしたけれど、双方とも譲らなかったので真珠湾の衝突になったんだ」と記されているのです。

 Collide という言葉も双方がぶつかったという意味であって、日本海軍の飛行機が実際、真珠湾の北側の山を越えてやってきて攻撃したのですが、それをINVATION侵略とは表現していません。この数行はアメリカのまことに重大な見解表明であります。

 かつてはこの展示がありませんでした。わざわざこれを冒頭においたのはこの展示館全体の現在の姿勢を物語るものです。なぜこれが日本でニュースにならないのか? なぜこれが日本で教えられないのか?


 アメリカ自身の世論工作「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」とも真っ向から相反していることにも注目してください。


 日本がアジアに力を広げていくことを、EXTENSION拡大という言葉で表現しています。軍国主義とか一切書いてありません。あくまでEXTENSION拡大としか書いていません。詳しく説明されているのが、例えばMEIJI RESTORATION、明治維新が起きて、日本が力をつけたということ、日本が台湾を獲得したこともHOLDINGS有と記してあり、INVATION侵略とかではありません。

 一方アメリカのほうはフィリピン、ハワイ、サモアなど太平洋に力を出していったとか書かれています。つまり先ほど冒頭で見ていただいた「日米は共に新興勢力として国益を追求した」ということを具体的に説明していて、日本が中国や台湾に変なことをしたとは書いていないのですね。

 行の最後を見ていただくと、In 1910, Japan formally annex Koreaとあります。「日本は公式に韓国を併合した」と書いてあって、韓国を植民地にしたとか、あるいは侵略したとはここの説明には一切ないのです。

 だから、正当な戦いとしてアメリカが力を太平洋に広げていったのと同じように、日本も同じような力でアジアで台湾や韓国を植民地にするんじゃなくて併合、つまりHOLDINGS保有とかannex併合という言葉で表現していますね。ちなみに、ナチス・ドイツは常に嫌悪感を持って説明されています。

(太字は筆者)


>>安部総理には是非とも真珠湾ビジター・センターにも足を運んで頂きたい


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 安倍晋三
ジャンル : 政治・経済

「青山繁晴の逆転ガイド」②



「青山繁晴の逆転ガイド その1ハワイ真珠湾の巻」(青山繁晴著、ワニ・プラス)より


 この陸軍博物館は、「ハワイのアメリカ陸軍の守りは非常に手薄で、強力な日本陸軍が上陸していればあっという間にハワイを占領されていた恐れがあった」ということを自ら認める展示をしているのです。

 実際、ぼくがワシントンDCで現役の陸軍当局者と議論すると、「その場合、日本としては日露戦争と同じように、もしも戦争を続ければ負けるけれども、その時点では日本が優勢な講話を持ちかけることはできたはずだ。不思議なことに、日本はそれを一度も考えた節がなく、敗戦後も一度も語られたり研究されたことがない。なぜなんだ。空から海から攻撃しておきながら、あとから陸軍が来るということが考えられもしなかったのは分からないね」という話が出るのです。

 アメリカからすれば日本陸軍の攻撃に備えようと思っていたのが、ミッドウェーでミラクルをお越したおかげでHAWAII WAS SAFE、ハワイが占領されることがなくなったということを、ここに簡潔に記してあるのです。


 この場所は、ぼくが唯一、アメリカ陸軍博物館で「おかしな展示だ」とワシントンDCの国防総省で当局者に批判したところです。

 この展示には「圧倒的な力」と書いてあります。何のことかというと原爆のことを言っているのです。


 「原子爆弾が日本に戦争を止めさせ、無益な犠牲者を出すのを防いだのではない。真相は逆ですね。戦争が終わりかけていて、早く原爆を使わないと人体実験ができなくなるから投下した」

 「その証拠に、もし戦争を終わらせるためなら広島への一発で済むはずで、長崎にもう一発落としたのは、ひとつには科学実験は一度ではなく最低二度、実施して結果を付き合わせる必要があること、もうひとつには、広島に落としたのはウラン型、長崎落としたのはプルトニウム型でそれぞれの効果を調べる必要があったのでしょう」――ということをアメリカ側に問題提起しています。

 さらに、この展示にUNCONDITIONAL SURRENDERとありますね。

 これをぼくも学校で「無条件降伏を受け入れた」と教わりました。みなさんもそう教わっているでしょうし、いまの子供たちもそう教わっています。しかし違います。

 UNCONDITIONAL、無条件というのは、無条件の武装解除に応じたことを指すのであって、降伏そのものについては条件がちゃんと付きました。それは天皇陛下のご存在、日本の国体を護るという条件を付けて降伏したのであって、UNCONDITIONALではなくCONDITIONAL、条件付きです。

 だからそこを混同している展示だということもアメリカ側に申しています。実はアメリカの国務省、あるいは国防総省でも当局者によっては「その通りだ。確かにUNCONDITIONAL SURRENDERとは違うよね」と言います。

 これはむしろ日本の政府からきちんと発信すべきことです。


>>陸海空軍が真に一体となって戦うことが出来なかったことに、今日の組織縦割りの弊害が重なる


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「青山繁晴の逆転ガイド」①



ザ・ボイス そこまで言うか!」


 2016/12/6の「ザ・ボイス そこまで言うか!」に敬愛する青山繁晴参議院議員がゲスト出演。以下はPodcast版冒頭部分の大要


 安倍総理、今月下旬に真珠湾訪問へ

・アーネスト報道官の、広島、長崎とパールハーバーを同一視する言葉は受け入れがたい

・戦わざる人々が犠牲になった広島、長崎の原爆と国際法に則った軍事行動のパールハーバーを一緒にされたくない

・安倍総理が、(反日的な)戦艦アリゾナ記念館だけでなく、フェアな展示のあるアメリカ陸軍博物館(ワイキキ)や真珠湾ビジター・センターに行ってもらえるよう、直接的な努力をする



青山繁晴逆転ガイド その1ハワイ真珠湾の巻」青山繁晴著、ワニ・プラス)より
2015年9月25日初版発行


  第一章 アメリカ陸軍博物館

 「海戦において(日本がおこなった)航空機攻撃は誠に革命的であった」と記されています。

 「日本は1941年という戦争の早い段階において航空戦力の潜在力に気が付いていた。したがって非常に強力な空母による艦隊を建設し、最も進化した航空機を作った」、さらに「日本は1940年の英国の戦いから学んで飛行機を作り、そしてパイロットの技術を向上させていけば真珠湾を成功裏に攻撃できることを確信した」と書いてあって、説明は異常なのです。

 真珠湾の攻撃は卑怯とか、軍国主義とか、帝国主義とかは一切書いてありません。要するに海戦において日本が最も先進的だったということだけが書いてあって、そしてそれぞれの中島、愛知、三菱――とくに愛知などは日本では忘れられているのに――それを丁寧に説明しています。

(中島飛行機は戦前、世界有数の航空機メーカーだった。GHQは二度と復活しないように実に12社に分けて解体した。そのひとつがスバルの自動車で知られる富士重工業。愛知は戦前に存在した海軍向けの軍用機メーカー。現在は、自動車エンジンなどを手がける愛知機械工業)


 連合艦隊司令長官の山本海軍大将の写真をこのように尊敬を込めて展示していて、しかも深い含蓄があるのが、山本五十六大将の有名な言葉がここに載っているのです。

 つまりアメリカが真珠湾攻撃を批判するのではなく、わが山本五十六長官が自ら省みて何とおっしゃったかが英訳して掲げられています。

 「日本は戦術的な成功にもかかわらずアメリカの空母を一隻も沈めることができなかった。さらに艦船の大事な修理施設あるいは燃料の保管施設を破壊することができなかったので、やがてそれが日本の破滅に繋がっていく」という趣旨が記されています。

 その下に山本長官が1942年、真珠湾攻撃の翌年におっしゃった言葉が、これも英訳されて掲げてあります。

 「真珠湾に対して第二次の本格的案攻撃を行わなかったのが大きな失敗だった」と書かれています。

 連合艦隊司令長官のいわば自己批判、内部批判を正確に紹介しているわけです。

 そして、後ろを振り向いていただくと、まず上の写真を見てください。

 HEROICと書いてある後ろにBUT NOT ENOUGHと。「英雄的だ。でも足りてなかった」と書いてあります。

 こんなに面白い国がほかにあるのかと思うのです。ここに、真珠湾で日本軍を迎え撃った五人の勇敢な将兵のことを紹介しているのですが、「こんな攻撃ぐらいじゃどうにもならねえだろ」と言っている。

 一人ひとりが不十分ではなく、一人ひとりは頑張ったけれども、全体体制が出来ていなかったから反撃は不充分だったということですね。

 英語としてHEROIC BUT NOT ENOUGHというのは、例えばイギリス人がこういうことを言うのはぼくには考えられません。アメリカ人でないと言わないと思います。

 要するに正直に公平に言っているというのが、この象徴的な言葉です。


>>安部総理に、是非、日本をリスペクトしている「アメリカ陸軍博物館」にも足を運んで頂きたい


----------------------------------------------------------------------
 元証券マンが「あれっ」と思ったことの
 『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
 http://www.mag2.com/m/0001677393.html
 発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「冤罪と裁判」



「冤罪と裁判」(今村核著、講談社現代新書)より
2012年5月24日第1刷発行


 第1章 虚偽自白


  なぜ自分に不利な嘘をつくか


 人は、どんな場合に嘘をつくだろうか。

 自分が嘘をついたときのことを思い出してみると、都合の悪いときや、見栄を張りたかったときなどに、つい、自分に有利な嘘をついており、後で思い出して寒くなることがある。

 では、あえて自分に不利な嘘をついたことはあるだろうか・・・・・・。

 虚偽自白は、自分に不利な嘘をつき、しかもその嘘をもっともらしく見せるため、ほとんど必死に努力するという、一見すると異常なふるまいだ。しかしそれは、ある異常な状況に追い込まれたときの、人間のほとんど必然的な反応なのだ。

 取調べに対して、無実の人が「私がやりました」と虚偽の自白をし、それが自白調書にまとめられることがある。日本ではこれが誤起訴、誤判原因としてもっとも多いかもしれない。


  現実感のなさ

 もし虚偽の自白をすれば死刑や無期懲役になる、ということは、抑止力にならないのだろうか。

『自白の研究』によれば、真犯人であれば「死刑」というのは生々しい現実感をもって迫ってくるのに対し、無実の被疑者には現実感がない。しかもそれは遠い将来のことと感じられる。裁判で本当のことしゃべればわかってくれると思う。それに対して、取調べに耐えるつらさは、まさに今の、現実の苦しみなのだ。そうすると、虚偽自白をして楽になる方向にぐんと天秤が傾くというのだ。

 なるほど、私も冤罪に陥った無実の人々を弁護してきて共通に感じるのは、彼らの「現実感のなさ」である。「どうして自分が今こうして捉えられてここにいるのか、わからない。狐にでもつままれたようだ」というポカンとした感じがどこかにある。


  インボー方式

 アメリカでは、フレッド・E・インボーという捜査心理学者が考えた取調べ技法が行われている。そこでは、捜査官は「被情緒的な被疑者」に対しては「絶対にお前が犯人だとという確実な証拠があがっている」と嘘をつくことが推奨される。他方で「情緒的な被疑者」に対しては、あの女にも悪いところがある、お前が殺したのも仕方がなかった、誰だってそうするさ、と、相手を非難してなだめることや、より悪質ではない動機を示唆することが推奨される。

 そうした取調べの中で、被疑者の価値基準は混乱させられ、「自白をするのが自分にとってのベストの選択だ」と思わされたり、「記憶がないだけで、本当は自分がやったのかもしれない」と自分を疑ったりするようになる。


 第9章 冤罪・誤判防止のために、裁判員制度はどう変わるべきか

  捜査過程を明らかにするための9つの提案


 以下にあらためて、私が必要だと思う点を9点あげる。

(1)捜査全過程の記録化

(2)被疑者取調べの全過程の録音、録画化

(3)参考人取調べの全過程の録音、記録化

(4)物証の採取、保管過程の記録化

(5)再鑑定の保障のための、捜査側鑑定における全量消費の禁止

(6)被疑者、被告人に有利になりうる物証の収集・保全の義務化

(7)警察からの全証拠の検察への送付義務の明文化

(8)検察官による全証拠の目録一覧表の作成、交付義務

(9)検察官による証拠の全面開示義務


  謝辞

 本書は、亡き父に捧げます。

  2012年4月 今村核


>>生前は確執のあった大企業の副社長だった父親に捧げる本書、冤罪を救おうとする著者の強い心意気が感じられる


----------------------------------------------------------------------
元証券マンが「あれっ」と思ったこと
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「パナマ文書」



「パナマ文書」(パスティアン・オーバーマイヤー著、KADOKAWA)より
2016年8月27日 初版発行


 日本版特別解説

  世界の闇を追って――取材はこうして行われた


 自国に納めるべき税金を、国境を越えさせることで逃れ、資産形成をする。これに手を貸す金融機関がある。いや、そもそも国家ぐるみで手助けをする国がある。

 前々から頭ではわかっていても、それがどのように実行されていくのか、多くの納税者にとっては謎ですか。それが、一通のメールをきっかけに解き明かされていきます。


 金持ちが税金を逃れ、資産形成に邁進する手助けをすることで、手数料というおこぼれにあずかる。これがタックス・ヘイブンの本質です。そのためには、金持ちに課税をしない税制にしたり、いくらでも抜け道がある税制のままにしたりすることが必要です。つまり、私たちからすると、一見杜撰な税制に見える仕組みは、意図的につくられているということです。

 さらに、お客のプライバシーは徹底的に守る。これも一見当たり前のように見えて、大金持ちを守り、呼び寄せるエサになるのです。

 まともな課税組織(日本なら国税庁)を持つ先進諸国は、国内の金持ちから法にもとづいて税金を徴収しようとしていますが、法律が適用されるのは国内だけ。マルサと呼ばれる脱税摘発チームも、対象が国境を越えて資金を動かしてしまうと、調査には限界があります。

 では、タックス・ヘイブンの問題を取材するメディアはどうか。国内には取材網があり、情報源も持っていますから、取材はそれなりに容易ですが、国境を越える取材となると、人員も資金も不足。活動には限界があります。


そんな限界を突破するには、どうしたらいいのか。その回答が、この本で紹介されている「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)です。世界中で約200人のジャーナリストがメンバーですが、「推薦されるか招待されるかした者しかメンバーになれない」(本書より)というプロ集団です。


 それにしても、ICIJは営利団体ではないのに、なぜ活動ができるのか。寄付金で運営されていて、大口の寄付を寄せているのが億万長者のジョージ・ソロスなのだそうです。

 ソロスには二つの顔があります。国境を越えて資金を動かし、外国為替レートの歪みに目をつけて多額の資金を注ぎ込み、莫大な利益を上げる抜け目のない投資家。これがひとつの顔です。

 もうひとつの顔は、こうして稼いだ資金を投じ、独裁国家の民主化に協力する活動家です。旧ソ連のウクライナの民主化運動に資金を投じたとされています。今回の「パナマ文書」により、当時の民主化運動の立役者もタックス・ヘイブンを利用して資産形成に励んでいたことが暴露されるという皮肉な結果になっていますが。

 この本を読むと、ジャーナリストたちが、どのようにして世界の闇に迫っていくかが活写され、まるでサスペンス映画を観るようなスリルがあります。

 本書の題名にもなっている「パナマ文書」は、中米の法律事務所「モサック=フォンセカ」が所有していたデータのことです。この法律事務所が、どのように課税逃れに協力していたかを取材しているうちに、南ドイツ新聞の記者たちは、モサック=フォンセカという法律事務所を設立したユルゲン・モサックがドイツ生まれであることを知ります。その父親はエァハルト・モサック。なず息子ユルゲンを連れてドイツからパナマに渡ったのか。

 ナチスの武装親衛隊員だった男が、戦後、ドイツの情報局とアメリカCIAの協力者となり、アメリカに渡った。やがて、その息子が、アメリカの属国のような立場に置かれていたパナマに渡って法律事務所を設立。世界中の資金の流れを隠す業務を始めた。まさにスパイ小説の世界です。


2016年7月 ジャーナリスト 池上彰


>>「パナマ文書の裏にソロスあり」とは知らなかった。


----------------------------------------------------------------------
『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』の
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』のHP 
http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「投資される経営 売買される経営」⑯



「投資される経営 売買される経営」 
(みさき投資株式会社 中神康議著、日本経済新聞出版社)より


自社株買いについて――自社の絶対価値をご存知ですか

 自社の「絶対価値」より株価の方が高い状況で発動される自社株買いは「悪い自社株買い」です。「良い自社株買い」とは、自社の絶対価値より株価が不当に低いときに発動されるものです。

 株価というものは短期的には気まぐれで、会社の価値とは関係ない要因で大きく下がることがあります。そういう時こそ、自社の正当な価値を市場参加者に知らしめるためにも、断固として自社株買いに打って出てほしいのです。

 経営者は長期投資家よりはるかに正確に、自社の「絶対価値」を算出できるはずなのです。ですから経営者の方は常日頃から自社の絶対価値を算出しておき、市場の評価が妙に低くなったら大胆な自社株買いを発動されたらよいと思います。


 少し違和感があるかもしれませんが、アメリカのビジネススクールでは自社株も立派な「投資対象」だと教わります。確かに「安いときに投資する・高ければ投資しない」、という行動は設備投資やM&Aといった他の投資案件と横並びで、純粋に検討してもいいのかもしれません。

 さらにいうと、自社株買いは「自社」という企業を(部分的に)M&Aするという感覚で実行に移せばよいはずです。他社をM&Aするときに、価値以上の価格を出すはずはないですよね? 自社株買いも同じことです。

 実際の企業買収では、会社の売り手の方は良く自社の中身を知っています。買い手は(どれほどデューデリジェンスを徹底したとしても)売り手ほどは知りようがないという、不利な立場に置かれます。ところが「自社をM&A」するのならばそういった不利は全く存在しないわけで、最高の投資タイミング・価格で買えるというわけです。

 実際、NTTドコモや花王といった会社には、「自社株買いプログラム」という制度があるようです。自社の考える絶対価値よりも株価が一定水準下がった時には、ほぼ自動的に自社株買いを実施するというプログラムです。



「自社株買いに選別の目 ROE向上継続性見極め」
2016/8/27の日経電子版「自社株買いに選別の目 ROE向上継続性見極め」より

『「驚いたがタイミングは絶好でポジティブだ」。クレディ・スイス証券の森将司氏は26日、前日に自社株買いを発表し一時4%高と逆行高となった花王をこう評価した。花王の自社株買いは、ほぼ2年ぶりだ。

 実は、花王は投資家向けの説明会でM&A(合併・買収)の準備などで自社株買いを控えていると表明してきた。しかし6月に米欧でインク会社のM&Aを決めると「余剰資金の水準が通期で見通せるようになった」(同社)ため、自社株買いにかじを切った。

 業績は好調だ。今期の予想自己資本利益率(ROE)は17.9%と前期の14.8%から上昇する見通しだ。それなのに7月中旬以降、株価は一時、15%以上も下落した。株式市場で安定成長株をいったん売る流れが強くなったためだ。花王の自社株買いは「経営に自信があり、株価は割安だとのメッセージ」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成氏)と市場で受け止められた。

 昨年6月、企業統治指針が適用されると、ROEを意識して自社株買いが急増した。実施企業数は前年度で635社と1年前より3割以上増えた。だが、多くは通期決算と同時に横並びで発表する。投資家はこの中から資金を振り向ける企業を選別している。

 自社株買いを成功させる要因は何か。実施額と時価を比べ、自社株買い後の株価動向を調べるとオリエンタルランドなどが自社株が大幅な「含み益」になっていた。ROEが安定して2ケタ台の企業が多い。


 実施のタイミングも重要だ。米国では株価水準を見ながら自社株買いをする企業が多い。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘氏は「日本でも経営者が株価は割安だとのアナウンスを付けて、機動的に実施する事例が増えてくる」と予測する。

 自社株買いは今や公的年金や日銀に並ぶ買い主体となった。保有する自社株の一部を経営者への業績連動報酬にあてる企業も多い。効果的な自社株買いは相場全体を活気づけるだけでなく、既存株主と経営者自身にも報いる有効な手段となる。』



自社株買いが有効なタイミングとは?
 
 まずは自社の「絶対価値」を把握し、『株価<自社の「絶対価値」』のタイミングで自社株買いを実施することが有効となりそうだ。


----------------------------------------------------------------------
元証券マンが「あれっ」と思ったこと
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

宇多田ヒカルにとっての母



宇多田ヒカルにとっての母


 藤圭子は、喉の手術の5年後に引退する。


流星ひとつ」(沢木耕太郎著、新潮社)より

 「もう・・・・・・昔の藤圭子はこの世に存在してないんだよ」

 「喉を切ってしまったときに、藤圭子は死んでしまったの。いまここにいるのは別人なんだ。別の声を持った、別の歌手になってしまったの・・・・・・」

 「その手術が、あたしの人生を変えたと思う。よいとか悪いとか言いたいわけじゃなくて、結果として変ってしまったと思うんだ。引退ということの、いちばん最初のキッカケは、この手術にあるんだから・・・・・・」

 「五年前。手術前のビデオがあれば、あたしも見たいんだ。違うんだ、ほんとに」
 「見たら、あたしの悩みがわかってくれると思うよ。だから、この五年間、苦労してきたんだもん。みんなが持っているあたしのイメージと、歌のイメージと、それもうすっかり変ってしまったあたしの声を、どうやって一致させるかってことを・・・・・・。可哀そうなあたし、なんてね」

 「この五年、歌うのがつらかった」

 「勉強しようと思うんだ、あたし」


 藤圭子は、2013年8月22日に飛び降り自殺を図った。



日本テレビ「NEWS ZERO」より

 歌手活動休止中の宇多田ヒカルが、母の死後、初めて作詞したのが「真夏の通り雨」。
 インタビューの中で、“あなた”というのは“母親”であると語っている。



真夏の通り雨」(作詞:宇多田ヒカル)より

 あなたに思い馳せる時
 いつになったら悲しくなくなる
 教えてほしい

 あなたに思い馳せる時
 今あなたに聞きたいことがいっぱい
 溢れて 溢れて

 愛しています 尚も深く

 夢の途中で目を覚まし
 瞼閉じても戻れない
 さっきまであなたがいた未来
 たずねて 明日へ


 宇多田ヒカルの歌には、母の果たせなかった辛い思いが込められているように思えてならない。

----------------------------------------------------------------------
『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』の
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』のHP 
http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 作詞・作曲
ジャンル : 音楽

「イノベーションのジレンマ」


「イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」(クレイトン・クリステンセン著、翔泳社)より
2001年7月3日 初版第1刷発行


  破壊的技術の原則

1、企業は顧客と投資家に資源を依存している

2、小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない

3、存在しない市場は分析できない

4、組織の能力は無能力の決定的要因になる

5、技術の供給は市場の需要と等しいとはかぎらない


 経営者が新しい技術に取り組むときにおかす最大の過ちは、破壊的技術の原則と戦い、克服しようとすることである。持続的技術では成功してきた従来の経営慣行を適用すると、破壊的技術ではかならず、失敗する。成功につながる有効な方法は、破壊的技術に関する自然の法則を理解し、それを利用して新しい市場と製品を生み出すことである。破壊的技術が発展する背景にある力学を認識すれば、破壊的技術によって生じる機会にうまく対処できる。

 とりわけ、破壊的技術に直面した経営者に対して、つぎのことを勧めている。

1、破壊的技術の開発を、そのような技術を必要とする顧客がいる組織にまかせることで、プロジェクトに資源が流れるようにする。

2、独立組織は、小さな勝利にも前向きになれるように小規模にする。

3、失敗に備える。最初からうまくいくとは考えてはならない。破壊的技術を商品化するための初期の努力は、学習の機会と考える。データを収集しながら修正すればよい。

4、躍進を期待してはならない。早い段階から行動し、現在の技術の特性に合った市場を見つける。それは現在の主流市場とは別の場所になるだろう。主流市場にとって魅力の薄い破壊的技術の特性が、新しい市場をつくり出す要因になる。


>>新しい技術が発展する可能性を感じて、それを利用して新しい市場と製品を生み出す環境をつくることが大切だ


----------------------------------------------------------------------
『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』の
『まぐまぐ!』へのご登録はこちら
http://www.mag2.com/m/0001677393.html
『元証券マンが「あれっ」と思ったこと』のHP 
http://tsuru1.blog.fc2.com/
----------------------------------------------------------------------

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

FC2プロフ
プロフィール
最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
CEO (4)
夢 (8)
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR