何日かで1知識 月の満ち欠け
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解説拒絶からの特別寄稿?

 

【 月の満ち欠け:伊坂幸太郎の特別寄稿 】

 


 先週末、映画「月の満ち欠け」を視聴。原作は、大学時代、国立学院予備校(現ena)で講師のバイト仲間だったS君(現在I書店社長)が編集者として直木賞を受賞。原作の良さを活かしたとても良い作品だった。

 以下は、岩波文庫的「月の満ち欠け」の特別寄稿からの一部抜粋。
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/2443

 


特別寄稿
解説はお断りします
伊坂幸太郎

 

「お断りしたいという先生のご意向を踏まえたうえで、あらためてご提案させていただきたいのですが、この私にいただいたメールを、そのままのかたちで、『月の満ち欠け』のペーパーバック版に収録させていただけませんでしょうか」

 


ちゃんとメール読んでくれたのかなあ、と自分が送信したものをもう一度読み直したのですが、すると意外にも、確かにこれはこれで、(解説にはならないけれど)、佐藤正午さんの作品に対する思いは伝わるかもしれない、という気持ちになる自分がいました。そして結局、「これでよろしければ」と答えた次第です。

 


以下、追伸的に。

 

・今回、お手紙と一緒に同封してくれた『月の満ち欠け』の帯には、推薦(賞賛)コメント?が並んでいましたりただ、「熟練の技」「真のベテラン小説家だからこそ書けた」といった誉め言葉には少し抵抗したい気持ちもあります。佐藤正午さんは、ずっと前から今と同じく「小説センスの塊」で「小説というマシンの持つ能力を、フルに使える作家」だったと思います。今も昔も.「現代的な会話」を書き、地の文で僕たちをにやにやさせてくれます。なので、帯を読みながら、「佐藤正午は昔からすごいんだよ」と少し反論したくなりました(笑)。

 

・佐藤正午さんの新作を楽しみにしています。社交辞令ではありません。小説を読まずとも人は生きていけますし、それでいいと僕は思っているのですが、もし、誰かが、「一冊くらいは読みたい」「しかも、ただの暇つぶしではなく小説の面白さを知りたい」と言ってきたら、佐藤正午さんの作品を読んでほしいと思っています。難解さをまとうことで文学のふりをしたモドキよりも、真に文学的で、何より面白いのですから、「これだけ読んでればいいよ」といつも思います。僕にとってそう思わせてくれる作家は少なくて、いつもぱっと思いつくのは佐藤正午さん、あとは絲山秋子さん、でしょうか。

 


担当編集者たちが語る「佐藤正午」
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/450

 


<感想>
 1999年に編集者が好きな作家に佐世保まで会いに行ってからほぼ20年経過した頃、(時期はともかく)約束通りに岩波書店で書き下ろした長編が『月の満ち欠け』。http://tsuruichi.blog.fc2.com/blog-entry-1748.html
 WEBサイト等によれば、2022年2月時点26万部、6月42万部(第9版帯 )、10月56万部。目指せミリオン!

 

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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
発行者HP http://tsuruichi.blog.fc2.com/
同Twitter https://mobile.twitter.com/tsuruichipooh
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出会いから直木賞受賞までほぼ20年?


【 作家と編集者の出会い〜直木賞受賞まで 】


 以下は、佐藤正午著「きみは誤解している」(岩波書店)の付録部分から。


 1999年の春に岩波書店の坂本という人から電話がかかってきた。(略)実は学生時代に『ビコーズ』を読んで以来、佐藤さんの本はずっと読み続けています、明日お会いするのが楽しみです、と編集者がお世辞を言って電話を切った。岩波書店か、と僕は受話器を置いて思った。『広辞苑』を作ってる出版社だな。

 翌日の午後、佐世保駅前のホテルの喫茶室で坂本編集者と会った。テーブルをさはんで向かい合うなり彼はこう言った。おめにかかれて良かったです。実は以前から書き下ろしの長編小説をお願いするつもりでいました、今日うかがったのはその話です、突然で申し訳ありませんが、書いていただけますか?もちろん、と僕は落ち着いて答えた。いいですよ。べつに『広辞苑』の編纂に加わってくれと頼まれたわけではないのだし、突然だろうが何だろうが小説家が小説の依頼をうけるのはごく自然なことで驚くにはあたらない。
(略)

 二度と会うこともないだろうと思っていた編集者はその年の秋にまた佐世保にやって来た。春に会ったときと同じホテルの喫茶室で向かい合うなり彼はこう言った。

 お預かりした短編は五本ともじっくり読ませていただきました。これから申し上げることは何度も何度も読み返した末の結論です。佐藤さん、これをうちで本にしましょう。『きみは誤解している』というタイトルで短編集を一冊作りましょう。もし彼が本気で言っているのなら、それはそれで願ってもないことだと僕は思った。帰りの飛行機の時間までどれくらい余裕があるのか訊ねてみると、いくらでもあります、今回は泊まりがけで来ています、と坂本君は応えた。ところで佐藤さん、今日は競輪はやってないんですか?
(略)

 『きみは誤解している』は競輪を題材にした短編集である。


 以下は、添付『担当編集者たちが語る「佐藤正午」』より。
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/450

坂本 佐藤さんとお会いしたのは1999年の4月28日です。

 編集部に異動になってから、とにかく会いに行く機会をつかもうと、虎視眈々と狙っていました。先ほど稲垣さんがおっしゃったように、佐世保はすごく遠いし、企画も決まっていないのに雲をつかむような話で出張させてくれと言っても上司は許してくれません。

 そんなとき、もうお亡くなりになりましたが、今井雅之という俳優さんが『THE WINDS OF GOD』という舞台の公演を福岡でやるという話が聞こえてきた。想像がつかないと思うんですが、今井雅之さんの本は岩波書店から何冊も出ているんです――出しているのは、じつは僕なんですが――それで、彼の新刊の会場販売をマネージャーさんばかりに任せておくわけにはいかないですから、陣中見舞いがてら手伝いに行くということで福岡まで行って、そこから佐世保まで足を伸ばした。

稲垣 佐藤氏は「坂本くんはついでに来た」と言っていました。

坂本 「ついで」じゃなかったんですけど、合わせ技です。そうでもしなければ佐世保までは行けませんでしたから。


――佐藤さんからいただいた原稿に対して、何かリクエストをしたことはおありなんですか。

坂本 事実確認のようなことです。たとえば「製油所の仕事内容には、こういうことも加えてください」とか、「小山内と梢が最初のデートで一緒に見に行った映画が『スターウォーズ』では年代的に設定と合いません、『タクシードライバー』でどうでしょう」とか、そういう感じですね。

 『月の満ち欠け』は、話としてはちょっとあり得ないようなストーリーなので、それを読んでもらおうと思うと、細かいところに嘘があるっていうのは小説としては致命的なのではないかと思いましたから。佐藤さんは「いいじゃん、それぐらい」ってすぐ言うんですけど、「駄目です」と言って直していただいたりしました。

稲垣 『月の満ち欠け』のラストは、坂本くんのリクエストだと聞いているのですが、ラストの1行。

坂本 あ、はい、そうですね。最後の1行は、いただいた原稿の時は、改行されていなかったんです。地の文として続いていました。それで、「これは嫌かもしれないですけど、改行させてください」とお願いしました。それを佐藤さんは貢献だとはおっしゃらないと思うんですけど。


<感想>
 1999年に編集者が好きな作家に佐世保まで会いに行ってから20年弱経過した頃、(時期はともかく)約束通りに岩波書店で書き下ろした長編が直木賞を受賞した『月の満ち欠け』。
 友人でもある編集者の熱意に、改めて敬意を表したい。

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岩波文庫的文庫本?


【 岩波文庫的: 佐藤正午 月の満ち欠け 】 


 友人が編集した直木賞を受賞した佐藤正午著「月の満ち欠け」が「岩波文庫的」文庫本として発売された。
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/2443 
 以下は、上記HPより。

『 さらに多くの読者にお届けしようと特別仕様の文庫にいたします。小社にとって特別な作品です。
 「岩波文庫」への収録も検討しましたが、長い時間の評価に堪えた古典を収録する叢書に、このみずみずしい作品を収録するのは尚早と考え、でも気持ちは岩波文庫という著者のちょっとしたいたずら心もあり、「岩波文庫的」文庫になりました。』


  2年振りに「月の満ち欠け」を読んでみた。以下は8の章からの抜粋。

「神様がね、この世に誕生した最初の男女に、二種類の死に方を選ばせたの。ひとつは樹木のように、死んで種子を残す。自分は死んでも、子孫を残す道。もうひとつは、月のように、死んでも何回も生まれ変わる道。そういう伝説がある。死の起源をめぐる有名な伝説。知らない?」
「誰に教わったんです」
「何かの本に書いてあるって、いつか見た映画の中で、誰かが喋ってた。人間の祖先は、樹木のような死を選び取ってしまったんだね。でも、もしあたしに選択権があるなら、月のように死ぬほうを選ぶよ」
「月が満ちて欠けるように」
「そう、月の満ち欠けのように、生と死を繰り返す。そして未練のあるアキヒコくんの前に現れる」
「怖いですよ」
「怖くても知らない、何回でも現れて誘惑する。冷淡にされた恨みも晴らさなければ」
「・・・まだ冷淡にはしてないのに」


(ご参考)担当編集者たちが語る「佐藤正午」
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/450 


<感想>
 正木瑠璃、小山内瑠璃、小沼希美、緑坂るりへと続く前世の記憶。
 自分は誰を記憶した子どもに会いたいと思うのであろうか。

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「編集者×装丁家」のトークイベント?


【 直木賞・佐藤正午『月の満ち欠け』を担当して 】


 2017/10/21、直木賞・『月の満ち欠け』の岩波書店編集者・坂本政謙さん(大学時代からの友人)と装丁家・桂川潤さんのトークイベント(大雨にも関わらず大盛況!)に参加した。
 
https://www.iwanami.co.jp/news/n21722.html


1.装丁

(1)佐藤正午本の装丁(装丁家・桂川潤)
 (出所:『出版ニュース』2017年7月上旬号)

『登場人物を暗示する線画イラストをレイアウトした第一案は、版元・著者の双方から却下された。そう、装丁に要求されるのは内容の「説明」ではなく「予感」だったのだ。

編集者からは「ズバリ月で行きませんか」と提案されたが、これもベタな「説明」になりかねない。作中の重要な舞台となる東京駅に十六夜の月を組み合わせたり、ギリギリまで粘ったものの、内容と拮抗する衝撃の「予感」が生まれない。

悶々としていた締め切り直前、数年前に求めた宝珠光寿さんの版画が頭に浮かんだ。「何もない空いっぱいに」という画題どおり、月はどこにもなく、空にまばらな雲以外見あたらない。ニードルで刻み込まれた線画の男女に不穏な空気が流れる。そのままでは書名すらレイアウトできない構図だが、画の周囲に黒の色面を置き、そこに原画にはない月を空いたらどうだろう。いや、それは禁じ手だ。オリジナルの作品世界をデザイナーが改変するなど許されるはずがない。

激しい葛藤に苛まれつつ、ラフを見るほどに「この案以外はない」と思えてくる。“ダメ元”と腹をくくって宝珠さんに装画使用の可否を伺ったら、何と「考えもしなかった構図」と快諾をいただけた。著者、編集者も「この本のために描き下ろした画のよう」と文句なしで装丁が決定。九回二死からの逆転ホームランというべきか。』

(ご参考:
https://twitter.com/mitsuhisa_hosu/status/887636492692078592http://www.asahi-net.or.jp/~pd4j-ktrg/bookindx.html


⇒ 第一案(説明的な2つの案)が却下され、駅をバックの装丁に決まりかけた最終段階で、「この案以外はない」と宝珠光寿さんの装画使用のご快諾(イベントでご発言も)。装丁が出来上がるドラマを感じる


(2)夏目漱石の「心」

 桂川さんが冒頭で、夏目漱石が(自費出版での)装丁を自ら手掛けた「心」(大正3年(1914)4月20日~8月11日まで朝日新聞に連載)のお話をされていた。

(a)『心』自序
 http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/4688_9466.html

『 装幀の事は今迄専門家にばかり依頼してゐたのだが、今度はふとした動機から自分で遣つて見る気になつて、箱、表紙、見返し、扉及び奥附の模様及び題字、朱印、検印ともに、悉〔ことごと〕く自分で考案して自分で描いた。
 木版の刻は伊上凡骨氏を煩はした。夫から校正には岩波茂雄君の手を借りた。両君の好意を感謝する。

 大正三年九月 』


(b)祖父江慎ブックデザイン『心』
 https://www.iwanami.co.jp/book/b263835.html

『たとえば,函や表紙,背の書名.漱石が自ら装丁した初版では,「心」「こゝろ」など,いろいろな表記や字体が入り混じっています.その“心”揺れる『心』であることを生かし,祖父江さんはプランを作ってこられました.』


⇒ 漱石自身の手による「心」「こゝろ」の装丁。装丁の重みを改めて感じる


2.「月の満ち欠け」の帯

(1)背表紙

 『君にちかふ。』


(2)表紙

『 欠けていた月が満ちるとき、
      喪われた愛が甦る。

              新たな代表作の誕生は、
      円熟の境に達した20年ぶりの書き下ろし。
さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。

     あなたを/の 愛している人は、誰ですか?』


(3)裏表紙

『この娘が
  いまは亡き我が子?
   いまは亡き妻?
    いまは亡き恋人?

  そうでないなら、
    はたしてこの子は
      何者なのか?

自分が命を落とすような
ことがあったら、
もういちど生まれ変わる。

月のように。
いちど欠けた月が
もういちど満ちるようにーー

そして、
あなたの前に現れる。』


⇒ 編集者坂本さんの熱き想いを改めて感じる
 (ご参照:
https://ameblo.jp/tsuruichi1024/entry-12300306071.html


<感想>

 この五十数年、恥ずかしながら、「装丁」を考えてみたことがなかった。

 今回の「編集者×装丁家」のトークイベントで、編集者坂本さんが

 (1)いかに装丁を大切に考えているか
 (2)いかに装丁家桂川さんに全幅の信頼を寄せているか

 等、作品が生まれるプロセスを知ることができて、有意義だった。

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編集者の仕事?


【 編集者の仕事 】


 以下は、添付インタビュー記事からの一部抜粋。https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170806-00003623-bunshun-soci

『 「手持ちの札を使うしかないんです」

 正午さんは会社勤めをした経験がないんですね。『月の満ち欠け』全体の物語がある意味で荒唐無稽なものだとすると、それを支える細部はリアルなものじゃないと。細部に嘘があれば、全体が嘘になってしまう。「できるだけ細かいところに嘘がないように、注意しましょう」と正午さんとお話をして。そうすると手持ちの札を使うしかないんです。


 週刊誌の“書き手”と“データマン”のような関係

 正午さんが「東京駅の近くで人目につかないような喫茶店とかない?」って。あるわけないじゃないですか(笑)。それで東京駅や、その周辺のホテルや店を僕がロケハンして、11時に開店しているお店を探し回りました。「はやぶさ」の到着時刻の都合上、より雰囲気がぴったりのお店でも11時30分開店ではダメだったんです。新幹線の到着ホームは20番線としていたところ、直前のダイヤ改正で21番線に変わっていて、あわてて修正したりもしました。

 たとえば小山内の住んでいるところは、東京から日帰りで行き来できる場所なら新潟でも名古屋でもいいんです。でも、僕も正午さんも土地勘がない。「じゃあ八戸にしましょう」と。もう一人の主人公・三角哲彦のアルバイト先は、僕が学生時代に働いていたようなレンタルビデオ店の設定です。他の登場人物の背景も、僕の友人たちの仕事をいくつか挙げて、「この業界だったらきちんと詳しく話を聞くことができます」と一緒に検討して。

 そういう意味では、データマンとして集めて提供して、それをもとに正午さんが骨格を組み立てて、物語の中にうまくおさめていただいたという感じですね。

 高田馬場にあったレンタルビデオ店です。場所は、現在のTSUTAYA高田馬場店のすぐそば。早稲田通りから細い路地を入ったビルの地下で営業していた「アドベンチャー」というお店でした。』


<感想>
 細部のリアルさへのこだわり。職場の様子、東京駅からレンタルビデオ店まで、編集者がいろんなリアルを提供して作品になる。直木賞受賞、20万部、正に編集者冥利に尽きる。

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