「企業のリアル」⑦
「企業のリアル」(田原総一朗×若手起業家、プレジデント社)より
リブセンス社長 村上太一
1986年、東京生まれ。早稲田大学奥等学院、早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中の2006年にリブセンス設立。アルバイト求人サイト「ジョブセンス」をはじめとしたインターネットメディアを運営。11年12月に東証マザーズ、12年10月には東証1部へ上場。ともに史上最年少記録を更新した。
ネット求人広告ビジネスモデルは、リブセンスの登場前後で大きく変わった。同社の運営する求人サイト「ジョブセンス」が成功報酬型を導入し、いまや多くの会社が追随している。同社を学生時代に立ち上げ、六年弱で上場企業に育てたのが26歳の村上太一社長だ。人懐っこい表情がトレードマークだが、にこやかな視線の先に見据える、彼の野望とは――。
上場最年少社長の
「無料で稼ぐカラクリ」
仕事を辞めたらぽっくりいっちゃう
村上 まずは大和総研の起業リサーチチームで一ヵ月、インターンをしました。その間にいろんな社長さんに説明したのですが、わかりづらいというアドバイスをもらったので、求人広告を無料で載せて、アルバイトを探している人から応募があるたびにお金をもらう仕組みに変更。2006年2月に、仲間四人で創業しました。
新しい仕組みも反応が悪くて、10月には、応募ではなく採用が決まった後にお金をもらう成功報酬型に変更しました。成功報酬型にしたら、お客さんから「本当にそれでいいの?」と聞かれるくらいに反応があって。いままでお客さんのところに説明に行っても5件に1件くらいしか掲載させてもらえなかったのですが、採用ごとの報酬にしたらほぼ100%、掲載させてもらえるようになりました。
『会社四季報』とか、いろいろな情報を見ながら、かたっぱしから電話していました。
アルバイトが決まると最大二万円のお祝い金がもらえる制度をつくりました。インパクトがあったようで、口コミで徐々に広がりました。
確率を考えていたら起業はできない
村上 当社は「あたりまえを発明しよう」というビジョンを掲げています。いまでこそ宅配便はあたりまえのサービスですが、クロネコヤマトが宅急便をやるまでは、存在しなかった。そういうものをつくって、多くの人に使われれば、社員の誰もが喜びを感じられるはずです。それが社員のモチベーションの源泉になればいいのかなと。
たとえば大塚製薬のポカリスエットもそうです。運動をやるときに水を飲んではいけないという時代があったそうですが、ポカリスエットという吸収性のいい飲料が登場し、きちんと水分補給することがスポーツの常識になった。これってすごいことですよね。
統計学はロジックを説明するときに便利です。ただ、過去の常識をもとにしているので、未来を予測して新しいものを生み出すということには向かないかも。私の場合は、むしろ確率論を超えていくところに興奮を覚えます。そもそも成功の確率を考えていたら、起業なんてできない(笑)。
ビジネスって、社会を最適化する一番のものじゃないかと思います。濁った水をきれいな水に変える浄化剤を提供する日本ポリグルという会社があります。その会社の会長がソマリアに寄付で浄水装置をつくったのですが、1年後に行くと、蛇口が壊れていたりしてうまくいかなかったそうです。そこで寄付じゃなくビジネスにしたところ、警備する人や売り歩く人が現れて、普及していったとか。ボランティアを否定するつもりはありませんが、ビジネスにはそうやって社会にインパクトを与えて最適化していく力がある。私はそこにおもしろみを感じます。
対談を終えて
その発想に天国の江副さんも舌を巻くだろう
その昔、リクルート創業者の江副浩正さんは求人情報ばかりの雑誌をつくった。それまで求人情報は記事のついでに新聞や雑誌に掲載されるものだったが、逆転の発想で、求人広告のほうを中心に持ってきた。これには当時、多くの人が驚いた。
ところが、村上さんはリクルートの向こうを張って、さらなる新しい求人ビジネスを定着させようとしている。従来は求人広告を出した時点でお金がかかるが、村上さんは成功報酬の料金体系にして、リクルートにお金を払う余裕のない飲食店などを取り込んでいる。この発想に、天国にいる江副さんも舌を巻いていることだろう。村上さん率いるリブセンスが、どこまでリクルートに迫れるのか。注目したい。
>>将来の時点で当たり前になっているものを生み出す発想力を身に付けられるよう努めたい