何日かで1知識 占領統治
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「回想十年]



「回想十年 新版」(吉田茂著、毎日ワンズ)


 峻厳から寛大への推移

 占領統治が進むにつれて、世界情勢の急変から、その管理政策も大きく転換の経路をたどるようになった。それは大体三つの段階に分けられると思う。

 はっきりと時期を画することは難しいが、第一段階は、日本の非軍事化と民主化とが徹底的に推し進められた時期である。それが最も明白な形で表されているのは、主権在民と戦争放棄とを建前とする新憲法である。

 まず非軍事化については、日本軍隊の完全な武装解除、全軍事機構の廃止、戦争犯罪人の処罰、極端な国家主義団体の解散、軍国主義的教育宣伝の禁止、さらにこれはいささか見当違いだと思うが、国家と神道との分離などが、総司令部の指令によって、相次いで実現された。さらに経済力の麺から戦争遂行能力を除去するために、軍需生産施設の撤去が強く指令された。

 また民主化の点においては、好ましからざる人物の公職追放から、思想警察、政治警察の廃止、選挙年齢の引き下げ、婦人参政権の実現などが行われた。それからこれも「民主化」の名の下に行われながら、その趣旨に必ずしも釈然たり得なかったものに、農地改革、財閥解体、経済力集中排除などがある。恐らくこの種のいわば「無血革命」といったようなものにつきものの急進的理想主義の産物であろうが、これは前にもいったような特殊な意味もあったものと思われる。

 民主化の一端として行われた事柄のなかで、最も大きな影響をのちに残したものは、戦前の政治犯の釈放にはじまった初期の共産主義容認の政策と、労働組合の保護育成ならびに労働基準法の制定などに包含された一種の行き過ぎであった。もちろんそれらの措置が大きな方向として、別に誤りでなかったことは、前述のように、これを認めねばならぬが、しかしそれは皮肉にも、終戦直後の生活不安に乗ずる破壊的勢力の利用するところとなり、多分に政治的色彩を帯びた示威運動や労働争議へと発展して、社会的混乱を助長するようになった。かくて総司令部の初期の政策が次に述べるような転換をしたことについては、国際情勢の変化とともに、右のような国内事情も大いに関係したものと思われる。

 

 管理政策第二段階へ  

 管理政策の変化という見方からする占領政治の第二段階では、日本経済の自主化に重点が置かれた時期からはじまったとでもいうか、とにかく米ソ両陣営対立の激化から、初期の管理方針は再検討が加えられることとなった。日本を経済的に復興強化させることによって、共産主義勢力の浸透を防ごうという方向に転換したように受け取れる。こうした傾向が公式に表明されたのは、昭和二十三年一月(当時私は在野時代であったが)、ロイヤル米陸軍長官のサンフランシスコにおける演説ならびに極東委員会でのマッコイ米代表の言明であろう。


 もっともその間、日本の経済は、単にアメリカ側から援助強化されたばかりではなかった。対日援助の積極化は、その反面、日本自身に対する努力の要請となって表れた。それは昭和二十三年十二月、私の第二次組閣早々のことだったと記憶するが、当時「経済九原則」として世間に伝えられた厳しい要請が行われ、ついで翌年には総司令部経済顧問としてジョセフ・ドッジ公使が来任して、いわゆる「ドッジ・ライン」といわれる緊縮的財政金融方針が強く求められ、インフレーション抑制の諸政策が強行されたことも多くの人の知るところであろう。


 経済的強化から保守的強化へ

 占領政策の第三段階は、朝鮮戦争の勃発からサンフランシスコ平和条約成立に至る最終時期を特色づけるものといえよう。前述の第二段階を「経済的強化の時期」というならば、この第三段階は「保守的強化の時期」とも見ることができる。

 この変化の何より大きなものは、朝鮮戦争勃発に続いて、マッカーサー総司令官の要請に基き、警察予備隊七万五千の新たなる実力部隊が、既存警察力の外に設けられ、これによって総理大臣直轄の治安警察専門の部隊が生まれたことと、それと同時に、既設の海上保安庁の職制も改正されて、新たに保安隊八千名の増員が行われたことであった。これは占領軍が国連軍として朝鮮戦線へ移動したあとの治安的空白を埋めるためのものであったが、やがてこれがさらに変化して、今日の陸海空自衛隊に発展したことは、この第三段階の転換を一層性格的に特色づけるものといってよかろう。

 このような保安的強化と併行して、日本の潜在的軍需生産力の活用が行われ、占領初期において解体撤去、もしくは賠償引き渡しの対象とされた軍需生産工場は、時の推移とともに、ふたたび陽の目を見ることとなった。

 以上述べたような占領政策の変遷をたどって、昭和二十七年四月二十八日、サンフランシスコ平和条約の発効とともに、連合総司令部は廃止され、かくて総司令部による日本管理は六年八ヵ月にして終了したのである。


>>世界情勢にフレキシブルに対応する米国の占領統治政策の変化に学ぶ

 

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