「大君の通貨」
「大君の通貨 幕末「円ドル」戦争」(佐藤雅美著、文藝春秋)より
あとがき
幕末の歴史は嘉永6年(1853年)6月3日のペリーの来日よりはじまる。日本人は危機意識が薄い。台風一過--ペリーが去ると騒ぎは昨日のことのようにおさまり、日本はまた深い眠りに入ってしまった。だがそれでも歴史は休まずに動いていた。諸外国との間で通商条約が調印され、六年後の安静6年(1859年)6月2日に開国した。新選組や尊王攘夷の志士が京で活動をはじめるずっと以前のことである。
開国に合わせて外交官や商人が大勢やってきた。その中の一人、イギリスの外交代表ラザフォード・オールコックは日本が開国したまさにその日、横浜に上陸して、ニシュという日本の物価を三倍にしてしまう驚くべき通貨に出くわす。
物語はそこからはじまるのだが、オールコックは日本滞在中に経験体験したことをあらわした著『大君の都』でこういっている。
「ひとつの誤りがもうひとつの誤りを生む。一歩誤れば、それから何歩も誤るもとになる」
ニシュという通貨に出くわしてからのオールコックの日本での歴史は誤りの連続だった。オールコックは“それから何歩も誤”った。その結果引き起こされたのが日本の通貨と経済の未曾有の大混乱である。幕府の屋台骨は激しく揺さぶられる。そのために幕府は倒れてしまったといっても決していいすぎではない。それが小判大量流出の背後に隠れていた“真実”である。
>>小判大量流出が幕府倒壊の要因の一つだったとは知らなかった