「オー!ファーザー」
「オー!ファーザー」(伊坂幸太郎著、新潮社)より
最初から警察に任せれば良かったんじゃないのか、と由紀夫は一度だけ訊ねたが、父親たちは不快感を浮かべ、「手順だとか慣例を重視する警察に任せたら、いまだにおまえは監禁されたままだったよ。籠城事件で、長期戦だ」と言った。かもしれないな、とは由紀夫も思った。ただ、悠長にクイズ番組などに出ている間に、俺の身に取り返しのつかないことが起きるような心配は感じなかったのか、と素朴な疑問は浮かんだ。早く突入すべきではなかったか、と。それをぶつけると父親たちはそろって、「そりゃ心配でたまらなかった」と答えた。
「ただ、もし慌てて、突入してもうまくいかないかもしれねえだろ」と鷹が言う。
「その可能性はあったよね」
「それだったら、少し時間はかかっても、突入前に、おまえに俺たちの顔は見せておきたかたんだよ」と蒼が答える。
「意味がよく分からないけど」
「おまえが死ぬ前に、テレビ画面越しにでも、顔をみせて、手をふりたかったってわけだ」どこまで本気なのか鷹はそんなことを言う。
「おまえが死ぬ前に、一言声をかけてあげたかったんだ」勲も似たようなことを口にした。
「死ぬ前に死ぬ前に、と言わないでくれよ」由紀夫は嘆かずにはいられない。本末転倒にしか思えなかった。「どういう親なんだ」
「でも、本当に心配だった。俺たちは、おまえの無事をずっと祈ってた」悟が静かに、しみじみと言った。
>>由紀夫の冒険と父親の愛情に乾杯