あれっ、憲法十三条に基づく個別的自衛権?
「デモクラシーの毒」(藤井聡・適菜収、新潮社)
以下は掲題書からの抜粋(その4)
第八章 改革詐欺と思考停止社会
安保法制における思考停止
適菜 今回の安保関連法案に、中国や韓国、朝日新聞、毎日新聞、民主党、共産党は反対している。
一方、イギリスやドイツ、オーストラリアをはじめ多くの国は賛成している。世界はこんなに賛成しているんだ。安倍さんのやっていることは間違っていないと。
でも、日本の集団的自衛権の行使により、益を得る国が賛成するのは当たり前ですよね。それが日本の国益になるかどうかは別。この手の思考停止もかなり多い。
私は改憲派ですし、集団的自衛権自体を否定しているわけでもない。自衛隊は国軍にして軍備は強化すべきだと思っています。でも、正当な手続きなしに、違憲の法案を通していいかはまったく別の話。これを破れば、法秩序の連続性が切断されることになる。これは左翼全体主義の手口で一種のクーデターですよ。
藤井 一般論で言うなら、思考停止している人々は、感情、気分、ムードで動いています。それは水ものですから変化していく。だから彼らには筋を通すなんて不可能。ムードの裏側にある筋なんて見えるはずがない。
適菜 民主党政権のときに法令解釈担当大臣みたいなのを置いて、内閣法制局長官の答弁を禁止したんです。小沢一郎も菅直人も憲法について相当デタラメなことを言っていた。それで私は論壇誌で批判したんです。今回は、それとまったく同じロジックで、安倍の手法を批判しているのですが、民主党政権のときは「よく言った」と喜んでいたような連中が、民主党よりもっとデタラメなことをやっている安倍に声援を送っているわけですね。ネットでも、安倍を擁護するためのテンプレートみたいなものがあって、それをひたすら貼ってくるわけです。
「解釈」の連続性を壊すな
適菜 今はネットレベルの思考停止が、全国紙や論壇誌、評論家の中でも進んでいる。先日、読売新聞の世論調査の項目を見て絶句しましたよ。「安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか」だって。単なる誘導尋問でしょう。
時の政府の解釈で何でも通せるということになれば、また民主党が政権を取ったらどうなるのかという話です。悪しき前例をつくることになりますよ。万が一、「個別的自衛権も認めない」という政権ができたら自衛隊をなくすんですか?そういう勝手なことをさせないための憲法なのに、頭の中がとっ散らかってるんですね。「保守系」と呼ばれるメディアがこの惨状なのだからどうしようもないんです。
藤井 憲法十三条が優越するので、九条があっても個別的自衛権が発生するというロジックさえ共有されていないですからね。その共有認識がないのに、集団的自衛権の説明をするのも難しい。
適菜 集団的自衛権は同盟国である他国の戦争をお手伝いする権利ですね。だから、歴代の内閣、法制局長官、防衛省(庁)も違憲という立場だった。
藤井 自分を護る権利の延長に他社を護ることが含まれる場合があるとしたら、集団的自衛権は広義の個別的自衛権とも言える。ただし、どこまでが個別的自衛権の範囲なのかの線引きは難しい。
適菜 反対派も賛成派も議論が変。反対派は「憲法九条が」とか「徴兵制になっちゃう」とか左翼の思考停止を引き継いでいるのが多いし、賛成派は安全保障担当の総理補佐官である礒崎陽輔が本音を漏らしたように「法的安定性は関係ない」と。こうした中、粛々とロクでもない方向に政権が向かっている。非常に危ない状況です。
藤井 もちろん政府は合憲だと主張しているわけですから、理性ある者なら誰もが納得できる説明が求められている。
【憲法】
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第三章 国民の権利及び義務
第十条~第十二条 省略
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。
生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
<感想>
憲法九条があっても十三条が優越するので個別的自衛権が発生するという認識を持った上で、改めて集団的自衛権について考えてみる必要があるかもしれない。
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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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