【 ストーリーとしての競争戦略 】
先日、「ストーリーとしての競争戦略 ~優れた戦略の条件~ 」(楠木建著、東洋経済新報社、https://str.toyokeizai.net/books/9784492532706/)を読み返してみた
以下は一部抜粋(その6)
戦略ストーリーの「骨法10カ条」
あらゆるジャンルに共通した原理原則
骨法その1 エンディングから考える
戦略の目的は、長期利益の実現です。 戦略ゴールは長期利益にあります。この「ゴール」という言葉を「目標」と「目的」に分けて考えてみましょう。厳密な言葉の定義はさておき、語感としていえば、このうちの目標に相当するのが長期利益です。この目標を達成する理由であり、手段となるのが競争優位です。 一方のコンセプトは目標というよりも目的という言葉がしっくりきます。目標が客観的にどちらかというとドライでクールなゴールだとすれば、目的はストーリーの実現にかかわる人々が自ら主体的にコミットするべきホットなゴールです。
コンセプトはストーリーの終点であり、起点です。個別の具体策に手を出す前に、確信が持てるまでコンセプトを考え抜く、あらゆるストーリーづくりはそこから始まります。
骨法その2 「普通の人々」の本性を直視する
コンセプトを構想するためには、「誰をどのように喜ばせるのか」をはっきりとイメージしなくてはなりません。そこでは「誰に嫌われるか」という視点が大切です。 八方美人は禁物です。 コンセプトを固めるときは、あくまでも「普通の人々」を念頭に置き、普通の人々の「本性」を直視することが大切です。普通の人々が確かに必要とすること、欲しがるものを価値の中心に据えるべきです。
コンセプトは「今そこにある価値」を捉えるものでなくてはなりません。 人間の本性はそう簡単には変わりません。表層的な現象にとらわれると、骨太のコンセプトはかえって生み出しにくくなります。 人間の本性を捉えたコンセプトにするためには、人間の本性をしっかり見つめることが大切です。スターバックスの「第三の場所」やガリバーの「買取専門」、こうしたコンセプトの表現には、それ自体で肯定的な意味を持つ形容詞が一切使われていません。だからこそユニークな価値を捉えられたのです。
「業界ナンバーワン」とか「世界最高水準」といったベタベタに肯定的な価値を含んだ言葉を使ってしまうと、それ自体が「良いこと」に決まっているので、その時点で思考停止に陥りがちです。 「言われたら確実にそそられるけれども、言われるまでは誰も気づいていない」、これが最高のコンセプトです。
骨法その3 悲観主義で論理を詰める
優れた戦略ストーリーの条件は一貫性にあります。一貫性の高いスト-リーをつくるためには、打ち手をバラバラと箇条書きするだけでなく、その間にある因果論理をよくよく考えなければなりません。ここで大切なことは、打ち手をつなぐ因果論理を詰めるときは悲観主義で臨むべきだということです。
ここでいう「悲観主義」は「弱者の論理」と言い換えてもよいでしょう。ヒト、モノ、カネの制約に苦しんでいる会社であれば、「どうにかなるさ」とは言ってられません。ストーリーが本当に作動するかどうか、打ち手をつなぐ論理を突き詰めて考えざるをえません。そもそも、あらゆる戦略は利用可能な資源の制約を前提にしています。無尽蔵に資源を使えるのであれば(そんなことは現実にはないのですが)、戦略は必要ありません。
骨法その4 物事が起こる順序にこだわる
因果論理の組立てに不可欠の条件は、共変関係(AとBが連動する)だけでなく、時間的先行性(AがBに先行して起こる)があることです。戦略ストーリーを考えるときは、いつも頭の中に時間軸がなければなりません。要するに、物事が起こる順序にこだわるということです。ビジネスモデルの概念は、確かに全体の「かたち」を捉えるものですが、構成要素の因果論理が巻き起こす「流れ」や「動き」の側面を捉えにくいというきらいがあります。
戦略ストーリーは物事が起こる順序をよく考えながら練り上げていくものです。
骨法その5 過去から未来を構想する
ストーリーという戦略思考からすれば、事業の成長は、非連続的な「革命」(revolution)というよりも、連続的な「進化」(evolution)の結果です。「これから」は「これまで」と無関係には考えられません。裏を返せば、戦略ストーリーは一面では成長の制約要因にもあるということです。どこまでもストーリーを拡張していくのが理想なのですが、無限の拡張性を持ったストーリーはありません。
骨法その6 失敗を避けようとしない
どんなに秀逸な戦略ストーリーでも、それが本当に成功するかどうかは事前には把握できません。最後のところは、やってみるしかないのです。この意味で、実験の規模に違いがあるにせよ、あらゆるビジネスは本質的に実験であるといえます。だとしたら、事前にできること、するべきことは次の二つです。一つは事前に戦略ストーリーを持ち、組織でしっかりと共有すること。もう一つはストーリーの作り手が失敗を事前に明確に定義しておくことです。
大切なことは、失敗を避けることではなく、「早く」「小さく」「はっきりと」失敗することです。
骨法その7 「賢者の盲点」を衝く
「他社と違った良いことをやる」、これが戦略です。「違ったこと」をやらなければならない。 個別の構成要素の一団上にあるシンセシス(綜合)のレベルで戦略の宿命的なジレンマを解決する。ストーリーの戦略論の腕の見せどころはここにあります。戦略のある要素が非合理であれば、他社はその部分については模倣しようという動機を持ちません。むしろ、意図的にそこから離れようとします。あからさまに「良いこと」をやるのと比べて、違いを持続することができます。もちろん、それだけでは非合理なので、長期利益にはなりません。
しかし、ストーリー全体の流れの中で部分の非合理を全体の合理性に転嫁することができれば、「良いこと」と「違ったこと」の矛盾が解け、この両者を同時に、しかも長期的に維持できるわけです。
「なぜ」の積み重ねは当事者の頭の中にしかない、ということを改めて強調したいと思います。 キラーパスのストーリーは、出来合いの情報ばかり集めている素人の発想が及ばないところにあります。その意味で、キラーパスは玄人好みの戦略なのです。
<感想>
「普通の人々」の本性を直視して、長期利益を実現する(=目的)ための、確信が持てるストーリーを考え抜いてみたい
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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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