【地方銀行のリアル】(25) 栃木銀行(栃木県)――経営衰弱で持ち上がる“再編”観測
「やはりあの時、どんなに無理してでも買っておくべきだった」――。『東武鉄道』宇都宮駅の西側に本店を構える『栃木銀行』。そのOB幹部の一人は、頻りとこう悔やむ。“あの時”とは、2006年秋に火蓋が切られた『足利銀行』争奪戦。巨額の不良債権を抱えて、2003年11月に経営破綻し、一時国有化されていた足利銀行の受け皿選定に向けたM&Aディールに、栃木銀行は『三井住友銀行』と『大和証券グループ本社』の投資銀行合弁である『大和証券SMBC』(※現在は合弁解消)とタッグを組んで挑んだ。しかし、第1次審査こそパスしたものの、勝ち残った7グループによる第2次審査であえなく敗退。最終となった2008年3月の第3次審査の結果、『野村證券』系の投資ファンドが中核となった企業連合にまんまと“獲物”を掻っ攫われた。当時、3000億~4000億円とも取り沙汰されていた買収価格に二の足を踏んだ為と言われているが、前出のOB幹部は「厳しい状況だったにせよ、資金調達の目処は何とか立っていた。足らなかったのは、“小が大を呑む”ことへの不安を断ち切るだけの(首脳陣の)勇気と決断力だけだった」と振り返る。その足利銀行は2013年12月再上場を果たした後、2016年10月には茨城県地盤の『常陽銀行』と経営統合。今や巨大地銀集団『めぶきフィナンシャルグループ』となって、栃木銀行に襲い掛かる。
2015年3月期に122億円だった連結純利益は、2016年3月期に112億円、2017年3月期に76億円、2018年3月期に44億円と、3期連続減少。めぶきの風圧と壁の前に、収益力は細る一方だ。そして、2018年4~12月期には遂に2.37億円(※前年同期は37億円の黒字)の最終赤字に転落。2019年1~3月期で若干押し戻すものの、2019年3月期通期の純利益は僅か5億円と、前期比89%の大幅減益に沈む。最終赤字転落の直接的な要因は、有価証券運用の「失敗」(幹部)だ。利回り低下でジリ貧の続く貸出金利息収入の穴を有価証券利息配当金収入で埋めようと、外国債券や投資信託への投資に傾斜。そこに、アメリカの利上げ等で多額の含み損が生じる形となり、ロスカット(※損切り)を強いられたのだ。2018年10月にドル建ての固定金利債券535億円分を全て売却して、約35億円の売却損を計上。保有株の益出し等で29億円の株式売買益を捻り出したものの、与信費用も34億円強と前年同期の倍増超に膨らみ、「埋め切れなかった」(栃木銀行関係者)という。それでも、今回のロスカットで有価証券の評価損益が好転するのなら、未だ救われる。だが、同12月末時点で“その他有価証券”はなお32億円の含み損状態で、同9月末よりも寧ろ11億円超悪化。益出しやこの間の株価下落等で、同9月末には36億円余あった保有株の含み益は僅か2.7億円にまで目減りし、「最早、余力が尽きたも同然の有り様」(メガバンク関係者)に陥った。「今後は安全・確実な運用に軸足を移す」。失敗を受けて、栃木銀行の黒本淳之介頭取は、外債運用等を縮小し、有価証券資産のポートフォリオを組み替えていく方針を打ち出している。とはいえ、“安全・確実な運用”など果たして可能なのか? 考えられるのは、これまで圧縮を続けてきた日本国債への回帰だが、経済環境を踏まえると、国債に投資しても今以上の国内金利の低下は見込める筈もなく、従って国債の価格上昇は殆どあり得ない。価格が上がらなければ、その他有価証券の含み損状態はいつまで経っても解消されないまま、「澱のように沈殿し続ける」(事情通)ことになる。今年2月中旬、『格付投資情報センター(R&I)』は栃木銀行の発行体格付けの引き下げに踏み切った。それまでのA-を1ノッチ下げ、BBB+に降格。収益力改善の成果が不十分なことに加え、「上向くには時間がかかる」と判断した為だ。その上で、「(含み損を抱えたままで)収益力が現状程度に止まると、リスクが顕在化した際に利益で吸収することが難しくなっている」と指摘。栃木銀行の先行きに警鐘を鳴らす。そんな中で浮上しているのが再編観測だ。相手と目されているのは、『関東つくば銀行』と『茨城銀行』の合併で2010年に誕生した『筑波銀行』(茨城県土浦市)と『東和銀行』(群馬県前橋市)。栃木銀行は、両行と2014年12月にビジネスマッチング等で広域連携協定を締結しており、比較的親密な関係にある。その何れかと経営統合への道を探っているのでは――というわけだ。栃木銀行の昨年12月末の貸出金残高は1兆9113億円。これに対し、筑波銀行は1兆6545億円、東和銀行は1兆4489億円。どちらと一緒になっても3兆円を超え、地銀中上位に躍進する。「筑波銀行と統合すれば、同じ栃木・茨城の組み合わせであるめぶきFGへの対抗軸ができることになる。一方、東和銀行は埼玉県内に本拠地・群馬の38店舗を上回る42店舗を展開している。しかも、上野東京ラインの開業で魅力が一段と高まっているJR高崎線沿線に集中的に出店しており、相対的に成長の余地が大きい。同じく県境を接する長野の八十二銀行や山梨中央銀行等も再編相手として狙っていると噂されており、栃木銀行としては先を越されたくないところだろう」。金融筋の一人は、こんな読みを披露する。
とはいえ、筑波銀行は2019年3月期の連結純利益が前期比57%減の13億円に止まる見通しとなっている等、栃木銀行同様に収益力は心許ない。その他有価証券の評価損益も、同じく含み損状態。損失規模は昨年12月末で39億円に達しており、栃木銀行を上回る。また東和銀行も、有価証券評価損益こそ131億円の含み益となっているものの、1年前からほぼ半減。2019年3月期の連結純利益は40億円と、64%超の大幅減に陥る見込み。統合したとしても、“弱者連合”の誹りは免れそうもない。更にネックとなりそうなのが、公的資金の存在だ。筑波銀行には東日本大震災に伴う融資先の復興支援強化等を名目に350億円、東和銀行にはリーマンショック後の世界金融危機による財務悪化に備える等として150億円(※当初は350億円だったが、昨年5月に200億円分を返済)の“血税”が投入されており、何れと統合しても、その返済負担が圧し掛かる。「国の経営関与が強まることへの警戒感と抵抗感もある」(前出の栃木銀行関係者)に違いない。栃木銀行は、『農商無尽』・『富源無尽』・『足利無尽』の合併で1942年に誕生した『栃木無尽』が母体。相互銀行を経て普銀転換し、2002年には破綻した『栃木県中央信用組合』の事業を譲り受け、県内の他、埼玉・群馬・茨城等に91店舗を展開する。ただ、地元関係者の間では「上意下達の古臭い行風で、チャレンジ精神皆無」と専ら。となると、再編を躊躇い続けているうちに波間に没する可能性もゼロではなさそうだ。
2019年4月号掲載