【大川原化工機事件の真相】(12) 「この過ちを繰り返さないで」
警視庁公安部が、噴霧乾燥器の構造や輸出規制の内容について意見を聴取した有識者は4人いた。私(※記者)は、小児科医の大学教授以外の3人にも取材した。微生物学の専門家である防衛医科大学校の元学校長である四ノ宮成祥氏、大腸菌の専門家である千葉大学大学院医学研究院の清水健准教授、医薬品の規格に詳しい武蔵野大学薬学部元客員教授の佐々木次雄氏だ。
化学機械メーカー『大川原化工機』の噴霧乾燥器が規制対象に該当すると明言する等していた報告書について、何れも「一方的に作られたものだ」との証言を得た。私は3人の実名を出し、昨年12月8日付の本紙朝刊一面で報じた。小児科医の教授については匿名にした。
4人は裁判所に陳述書を提出しており、このことは大川原化工機が東京都等に国家賠償を求めた訴訟でも争点になっている。都側は訴訟で「(4人が)捜査員の説明に同意した内容も報告書に含まれている」として、「虚偽の内容を記載していない」と主張している。
教授は今回の事件について、こう訴える。「個人の責任追及で終わらせるのではなく、捜査のどこに問題があり、組織のどこを改善すべきなのかを検証しなければ、また同じ過ちを繰り返すことになる。(拘留中に癌が見つかり亡くなった大川原化工機元顧問の)相嶋さんが報われない」。
教授を取材した日、私は1冊の本を貰った。テロ対策に関する自著だ。自宅に帰り、ページをめくる。あとがきには、マスコミに対する思いが次のように記されていた。「国や企業に覆い隠された大切な問題を暴いてほしい」「ある事件にフォーカスをあてたら決着がつくまで追い続けてほしい」。
公安部の捜査の内幕を暴く、国家賠償訴訟が決着するまで見届ける。私が今、やろうとしていることと同じではないか。教授が学長の手紙に感銘を受けたように、私は教授の本から力を貰った。
私がある日、捜査員と話していると、この教授の話題が出た。“平和で安全な世の実現”に尽力する教授の経歴を把握しているであろう捜査員は言った。「公安警察が、あの先生を騙してはいけなかった」。
2024年9月10日付掲載