みんなが寝静まった頃に 【明日への考】(57) 内申書見直し、見えぬ答え…“生徒会・部活”を削除して簡素化、主体性も点数化され悩む現場
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【明日への考】(57) 内申書見直し、見えぬ答え…“生徒会・部活”を削除して簡素化、主体性も点数化され悩む現場

公立高校入試での内申書(※調査書)の扱いについて、見直しの動きが目立つ。民間への地域移行が進む部活動の評価等を中心に、記載項目、内容を簡素化する県が相次いでいる。高校入試の実施方式は都道府県毎に異なり、中学校生活に与える影響も大きい。日頃の学習や活動を1点刻みの入試に使うことについては、専門家や教師から“矛盾”を指摘する声もある。内申書の現状と課題を探った。 (編集委員 古沢由紀子)



20240520 18
内申書は、生徒の学習や生活の状況を記録する指導要録を基に、各都道府県の教育委員会が定めた書式で中学校が作成し、志願先の高校に提出する。教科別の成績評定の他、生徒会や委員会等の特別活動、部活動の実績を記す欄等を設けるのが一般的だ。

大学入試でも高校の調査書が提出されるが、公立高校入試では格段に選抜資料としての重視度が高い。各教科の成績評定は各都道府県が定めた比重や計算方式に基づき点数化され、学力試験の結果と合わせて選考に使われる。

簡素化されているのは、主に特別活動や部活の項目だ。埼玉県教委は2027年の高校入試から制度を変更し、内申書の書式を見直す。同県では一般入試で全公立高が、大会出場や生徒会役員歴等を其々の選抜基準で点数化してきた。「生徒の多面的な評価が目的だったが、内申書の為に生徒会に立候補する例や、途中退部がし難い等の声もあり、部活の地域移行で校外の活動が増えることも踏まえて見直しを決めた」と、県教委の担当者は説明する。

来春からの移行期間を経て、内申書から部活や生徒会活動の欄をなくし、9教科の成績評定を基本とする方向だ。新たに導入するのが全員対象の面接で、受験生は中学生活で力を入れたこと等を“自己評価資料”に纏めて臨む。

今年3月、進学校の県立川越女子高校で開かれた来春以降の入試の説明会。制度改革について会場で参加者に聞くと、「部活の頑張りがあまり評価されなくなるなら残念」(中1生徒)という声がある一方で、「学力以外の実績が入試でどう評価されるかわかり難かったので、透明化は歓迎」(中2生徒の母親)、「自分の言葉で表現する力を身につけられる」(中1の母親)等の好意的な意見が目立った。

西野博校長は、「部活の実績等は在籍する中学校の規模や家庭の事情に影響される面もあり、どの受験生も同じ条件とは言えない。面接なら自分なりに頑張ったことを伝えられるのでは」と話した。

簡素化の先例になったのが、広島県教委が昨年春から実施した入試改革だ。民間出身の平川理恵前教育長(※今春退任)が「内申書を気にして生徒が萎縮する」と懸念し、9教科の成績評定に記載内容を絞り、学力試験に対する比重も下げた。部活や特別活動、欠席日数の記入欄もなくし、新たに面談方式の“自己表現”を導入した。

岩手県教委は来春から、部活の大会実績等を出願条件や点数化の対象としていた推薦入試を廃止する。新設する特色入試では、「日常的な学習や活動でどんな能力、資質を身につけたかを評価する」方針だ。一方、一般入試で行なっていた全員対象の面接は一律に行なわず、各高校の裁量になる。神奈川県教委も今春、「短時間では評価が難しい」として、全員対象の面接を各校の任意とした。面接については、新たに導入した広島県でも教師の負担を懸念する声がある。

学校教育法施行規則は高校入試について、学力試験と内申書の使用を原則とする。文部科学省は、その大枠以外の入試方式を設置者である都道府県教委に委ねている為、内申書の扱いは区々だ。〈基本的な生活習慣〉や〈思いやり〉等といった“行動の記録”を評価対象とする県がみられ、内申書の比重を公表していない県も複数ある。

地方の高校では定員割れが深刻で、内申書を重視した推薦入試を取り止める県も相次いでいる。『ベネッセコーポレーション』進研ゼミ高校受験総合情報センター長の浅野剛氏は、「教師の負担軽減や学力試験重視の流れもあり、内申書の簡素化は広がるだろう」とみる。

現場の中学教師を悩ませるのは、内申書に記す各教科の成績評定が、高校入試の合否に直結することだ。東京都立高校の一般入試の場合、中3の成績評定と学力試験の比重は3対7で、実技教科の成績は原則、国語、数学等5教科の2倍に換算する。

文科省は集団内の位置を示す相対評価に代わり、学習指導要領の目標に基づく評価(※絶対評価)を2002年度に導入。都教委は全公立中の成績評定分布を毎年調査、公表しているが、評価のばらつきは一目瞭然だ。都内の公立中校長(57)は、「中学校間の学力差や教師による評価の違いは否めず、入試での一律の点数化は無理がある」と率直に語る。最も気を使うのは保護者への“説明責任”だという。

成績の付け方は親世代から様変わりし、定期試験だけでは決まらない。中学校で2021年度から実施されている学習指導要領では、〈知識・技能〉や〈思考・判断・表現〉に加え、〈主体的に学習に取り組む態度〉を学習評価の観点に導入。従来の観点である〈関心・意欲・態度〉に代わるもので、「知識や思考力の獲得に向けた粘り強い取り組みの中、自らの学習を調整しようとしているか」をみる。ノートの記述や授業の振り返りシート、教師による行動観察等が対象とされるが、現場の教師には難題だ。

埼玉県の公立中で昨春まで校長を務めた沼田芳行教諭(61)は、「主体性の評価は発表や討論を重視した授業改善の契機になるが、教師が成績付けの材料集めに追われては本末転倒」と言う。

先月、学習評価等をテーマとする文科省の有識者会議で発表した京都大学の西岡加名恵教授は、「内申書を意識して発揮されるのは、主体性でなく従順さでは」と指摘。「主体的な態度は個別の観点にせず、リポートや発表等で思考力や表現力と一体的にみれば、教師の悩みや混乱も解消する」と評価の仕組みの見直しを訴えた。

指導要領は学習評価の役割を〈資質・能力の育成〉としており、ABCの3段階で示された観点別評価を5段階の評定に換算し、内申書に使うことには専門家の間にも疑問の声が根強い。

「大切なのは生徒に評価を伝える際に学習の改善を促し、教師の指導改善にも繋げることだ」と、現行の学習評価制度の取り纏めに関わった東京大学の市川伸一名誉教授は説明する。主体的な態度の評価については、「今の社会が求める力に対応しており、指導に生かすことは重要だが、入試で一律に点数化すれば矛盾が生じかねない」と指摘する。

その一方で、学力試験による選抜だけでは知識偏重になる弊害も懸念される。学習評価に詳しい横浜国立大学の高木展郎名誉教授は、「高校入試でも、大学の総合型選抜のように一人ひとりの資質・能力を多面的に評価する方式を検討してはどうか」と提案する。その際、内申書は教委が一律に定める選抜基準ではなく、各高校が求める生徒像に基づき、一定の成績に達しているかをみる等、緩やかな使い方が考えられるという。

高校進学率が99%に上る中、地方では統廃合で進学先の選択肢が限られ、都市部では私学を含めた高校間の学力差が広がる。学習評価の課題や地域の実情も踏まえ、高校入試の在り方を幅広く問い直していく必要がある。


キャプチャ  2024年5月19日付掲載

テーマ : 教育問題について考える
ジャンル : 学校・教育

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