【仁義なきキャッシュレス戦争】(03) 「決済は入り口に過ぎない」
8月から消費者向け小口融資を始めた『メルカリ』。インターネット上には「20万円まで金利年率3.4%。意外と低金利」等の書き込みが並ぶ。決済子会社『メルペイ』CEOの青柳直樹は「データを与信サービスに広げる」と、年18%が多い消費者金融との差別化を狙う。メルカリのフリマアプリは足元の月間利用者数が2000万人で、累計の出品件数は20億を超える。顧客の同意を得て、この売買データを与信に生かす。AIも導入しつつ、履歴に応じて借入可能額の上限や金利を変えている。『みずほ銀行』と『ソフトバンク』の共同出資会社『ジェイスコア』(東京都港区)は、今年度中にも利用者の同意を得た個人データを、活用したい外部企業に提供する“情報銀行”を始める。個人データは性格、趣味、人生経験等多様な約150項目から任意で入力する。AIが算出した信用力を基に、融資以外にも飲食店や百貨店での優遇が受けられることから、登録者は既に130万人に達する。金融サービスにとって与信は命。その判断に役立つ決済データは宝だ。“○×スーパー2493円 九州”・“△□スポーツ4752円 関東”――。QRコード決済の一括導入を支援する『ネットスターズ』(東京都中央区)社内の電光掲示板には、全国30万拠点のキャッシュレス決済の情報が1秒単位で表示され、地図上では地域毎の利用状況がわかる(※左画像)。同社社長の李剛は「決済はビジネスの入り口に過ぎない」と、決済データを使って小売店や外食店が“ミニアプリ”を作る手助けをする。ミニアプリとは、『PayPay』等利用者が多いアプリの中にあるアプリ。消費者は一々別のアプリを立ち上げる必要がなく、事業者は利用率が高まる効果がある。中国では『騰訊控股(テンセント)』のアプリ内に230万種類のミニアプリがある。病院、タクシー予約、出前、株式や不動産の取引等、決済を軸に様々なサービスが繋がる。PayPay副社長の馬場一は「様々なパートナーと組む」と、現在8種類のミニアプリを増やす為、異業種と話を進める。1994年に『マイクロソフト』創業者のビル・ゲイツは、「銀行業は必要だが、銀行は必要ではない」と話した。約30年経ち、金融とデータの垣根を越えた競争が加速している。 《敬称略》
2021年11月5日付掲載