そこそこ頭が良い人のほうが陰謀論にハマる傾向がある――そんな印象が僕の中にはあります。というのも、陰謀論にハマる人というのは、「テレビのニュースや新聞よりも自分の調査能力のほうが優れている」と思い込むくらいの自尊心があったりするので、「自分が信じている説のほうが正しい」と思い込めたりするのですね。しかも、割と“いい人”と思われるような人のほうが陰謀論に染まり易かったりします。いい人は、「人間は善意で動くので社会はより良い方向に行く筈である」と信じていたりします。でも、正義の反対が絶対に悪というわけではなく、別の正義が存在していることもあります。例えば、過去の日本がそうだったように、より良い方向を目指した結果、他国に対する侵攻を選んだりするわけです。そして、世界では未だに似たようなことが起き続けています。つまり、陰謀論だろうが戦争だろうが、単に正義の方向性が異なっているだけということもあるわけです。其々に自分の正義だと考える論理があって、見方や立場を変えれば正しいと思える。だから陰謀論にハマった人を諭すのは、カルト宗教にハマった人を諭すのと一緒で、かなり難しいのが現実だと思います。ただ、皆無というわけではなく、陰謀論を語る相手の論理を肯定しつつ、「この事実についてはどう思う?」という感じで証拠の具体性を詰めていく方法はあります。例えば、「新型コロナウイルスワクチンにはマイクロチップが入っている」という陰謀論なら、「マイクロチップを入れることは可能だよね。でも、犬猫の体内に入れるチップだって直径1~2㎜、長さ8㎜なんだから、ワクチンの瓶に何本も入っていたら見てわかるのでは?」という感じで、事実をベースにひとつずつ誤解を解いていく。すると相手も、「ひょっとしたら間違っているのかも」と気付いて話を聞いてくれる可能性もある。とはいえ、その為にはそれなりの知識や情報を集めないといけません。若し現段階で事実ベースの証拠がないのに「それは只の陰謀論だ」とか言うと、「北朝鮮による拉致被害だって昔は陰謀論だと言われていたじゃないか」といった論理で自分が正しいことを押してきます。場合によっては「コイツは話にならない」と、一切話を聞いてくれなくなる可能性もありますし、逆に諭されて”ミイラ取りがミイラになる”危険性もあるので気をつけましょう…。 (聞き手・構成/編集プロダクション『ミドルマン』 杉原光徳)
西村博之(にしむら・ひろゆき) 英語圏最大のインターネット掲示板『4chan』管理人・『2ちゃんねる』創設者・『東京プラス株式会社』代表取締役・『未来検索ブラジル』取締役。1976年、神奈川県生まれ。中央大学文学部教育学科卒。『僕が2ちゃんねるを捨てた理由』(扶桑社新書)・『論破力』(朝日新書)・『自分は自分、バカはバカ』(SBクリエイティブ)等著書多数。
2023年10月24・31日号掲載
テーマ : 新興宗教・カルト・その他アングラ
ジャンル : 政治・経済