第二次安倍政権の一丁目一番地である規制改革の根幹をなす国家戦略特区制度。これまで動かなかった岩盤規制を打破し、地域限定で規制改革に踏み切り、好影響が確認されて支障がなければ全国に広げる仕組みだ。我が国の経済に活力を齎す為にも重要な政策である。しかし、『加計学園』の獣医学部新設について利益誘導をしたといういわれなき批判によって、国家戦略特区の活用が及び腰になっている面がある。そこで私は、5月13日の参議院内閣委員会で我が国の規制改革は、一部への利益誘導が不可能であり、「もっと活用を進めるべきである」との質疑を行なった。実は国家戦略特区は、子育て支援の観点からも重要である。待機児童対策では、保育士の方々を如何に確保し活躍して頂くかが重要だが、平成27年から地域限定保育士が国家戦略特区で導入され、それまで年に1回しか行なえなかった保育士試験が、地域限定保育士試験として2回行なえることになった。そして、特区で地域限定保育士試験を行なった実績を受けて、平成28年から全国共通の保育士試験も年2回実施されることになった。また、国家戦略特区において平成27年より公園内への保育所設営が可能となったが、都市公園法の改正により、平成30年から全国の公園内でも保育所が設置できることになった。国家戦略特区制度が活かされ、その後に全国展開された事例である。更に、待機児童対策においては、小規模保育事業の対象年齢が国家戦略特区で2歳児までから5歳児までに拡大され、全国への展開が子育て世代から期待されている。抑々、国家戦略特区は、根拠法案が自民・公明に加え民主等も賛成して成立したが、「民間委員が一部の為に利益誘導をしている」と野党側が批判してきた。
しかし、特区制度をしっかり見れば、民間委員が恣意的に利益誘導できる仕組みにはなっていないことがわかる。例えば、時折槍玉に挙げられる特区ワーキンググループの民間委員は、提案の審査や絞り込みは行なうものの、決定権はなく、最終決定は首相が座長の特区諮問会議が行なう。ある野党議員はブログで、特区ワーキンググループの座長や座長代理について、
「八田・原コンビの悪弊が目立ち始める」「官邸に巣食う政僚と利権に走る学者や業界が、ほしいままに新しい“利権特区”を生み出し始めた」と書いた。しかし、特区ワーキンググループの民間委員に決定権はないし、規制改革は実現すれば誰もが新たな規制の適用を受ける為、一部への利益誘導は不可能な仕組みだ。なお、このブログで指摘されている原氏とは元経産官僚の原英史氏のことである。原氏は当該議員を名誉毀損で訴え、一審は名誉毀損を認める判決を下し、議員側が控訴している。こうした規制改革においては、4月の政令改正と省令改正により、新型コロナウイルスワクチン接種会場への看護師の労働者派遣が可能となった。より多くの人の手でワクチン接種を行なう為に有効な手段と考える。この看護師の派遣解禁について、提案者と規制改革推進会議の専門委員だった方が「関係が近く利益誘導では?」と野党側が指摘し、国会質疑も行なわれている。だが抑々、規制改革推進会議に規制改革の提案に対する最終決定権はなく、各省庁がニーズを調査する等、制度の詳細を検討し、法令の改正等を行なって実現するもの。私は、看護師の派遣解禁は特定事業者の為になされたものなのかを質問したが、厚労省は明確に否定した。国家戦略特区及び規制改革へのいわれなき批判は、全くの的外れである。これらが停滞することで喜ぶのは、岩盤規制を守る既得権益者側である。規制改革の本丸は電波オークションだ。実現に向けて更に邁進したい。
和田政宗(わだ・まさむね) 参議院自民党国会対策副委員長。1974年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、『NHK』に入局。新潟放送局や仙台放送局等を経て2013年に退職。同年の参院選で宮城県選挙区から『みんなの党』公認で出馬し初当選。2014年に『次世代の党』、2017年に自民党入党。著書に『日本の真実50問50答 わかりやすい保守のドリル』(青林堂)・『日本国憲法“改定”』(すばる舎)等。近著に『世界は日本が大スキ! こんなにも世界から信頼されている日本』(青林堂)。
2021年7月号掲載
テーマ : 政治・経済・社会問題なんでも
ジャンル : 政治・経済