みんなが寝静まった頃に 教育
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【火曜特集】(811) 首都圏の私大の教員採用は狭き門…地方の大学を見限った研究者が殺到

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首都圏の私大の新規教員募集が益々狭き門になっている。 「大学教員になれます」と誘う高額の“実務家教員”養成講座も乱立したが、会社員やメディア記者から採用される確率は「1%未満」(私大関係者)。論文も書いておらず、教員としての経験も皆無なのだから無理もない。

しかも、最近は十分な実績や経歴を応募書類に書ける人達が、実務家を押しのけて首都圏の私大に殺到している。地方では私大だけでなく、国公立大でも定員割れが起き、受験生を引きつけられないこともあって、「教員が将来への不安に襲われている」(同)。結果的に、市場価値のある優秀な若手教員は、経営が安定していて待遇も良い大学を目指す。

また、『防衛研究所』や『アジア経済研究所』等公的機関からの応募も多い。ただ、採用された後は、ゼミや課外活動、留学関連等教育業務に追われて研究に時間を取れず、精神を病む転職教員が少なくない。想像するような優雅な生活は待っていない。打たれ強い実務家出身教員と、エリート研究者の違いが出る部分だ。


キャプチャ  2024年10月号掲載

テーマ : 教育問題
ジャンル : ニュース

【衆院選2024・課題の現場】(06) 育児・教育、家計に負担

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京都府の40代男性は、高校3年の長男が志望する私大のパンフレットを見ながら、学費の工面に思いを巡らせた。「4年間で440万円か…」。長男がその大学を選んだのは、打ち込んできた部活動の強豪だから。親として応援する気持ちは強いが、こつこつ積み立ててきた学資保険は200万円。残りの支払いの目処は立っていない。

男性は製造業の正社員で、団体職員の妻、長男、中学2年の長女と4人暮らし。共働きで、毎月の手取りは計40万円台あるものの、支出も多い。子供達は食べ盛りで、物価上昇も重なり、食費は優に10万円を超える。塾代や部活の遠征費等教育費が10万円、住宅ローン8万円。光熱費、通信費、保険料等も差し引くと、手元に殆ど残らない。

低所得世帯だと、子が2人でも年収380万円未満等一定の条件を満たせば、授業料が減免される制度はある。更に、岸田文雄前政権が掲げた“異次元の少子化対策”で、来年度から、扶養する子が3人以上いる多子世帯を対象に、大学の授業料が無償化される。

だが、男性はどちらも当てはまらず、恩恵を受けられない。一方で、長女の教育費はこれから増えていく。思案の末、長男に有利子の奨学金を借りてもらうことにした。「子供が2人でも相当なお金がかかる。全ての子が支援を受けられるようにしてほしい」。大学進学率は年々上昇し、今や6割。短大や専門学校を含めた高等教育の進学率は8割に達する。

大学4年間にかかる学費の平均は、国立で約240万円、私立で約400万円。日本では、その費用を家庭に負わせる傾向が強い。『経済協力開発機構(OECD)』が2022年に公表した報告書では、加盟国30ヵ国以上への調査で、高等教育に関する私費負担の割合は、日本が67%。平均31%の2倍超だった。

自身の将来に関わる為、子供達も不安視する。『日本財団』が昨年、10~18歳1万人に実施した調査で、国や社会が優先的に取り組むべき施策を尋ねたところ、「高校・大学までの教育を無料で受けられる」が40.3%で最多となった。国は今年度、大学授業料等の減免に、約5440億円の予算を計上。多子世帯の無償化が始まる来年度は、8000億円前後を見込んでおり、更なる対象拡大には財源が問題となる。

日本大学の末冨芳教授(※教育行政学)は、「現状は、親の負担が大きい割にメリットが少ない“子育て罰”とも言える」と指摘。EU加盟国を中心に大学の費用が無償の国は多いといい、「子供への手厚い支援は、後の経済成長に繋がる“公共投資”だ」と強調する。子育ての経済的負担は、少子化を加速させる。子育て世帯が第二子以降も産もうと思える環境づくりが急務だ。

文部科学省の調査によると、子供1人を大学まで通わせるのに必要な教育費は800万~2200万円。『国立社会保障・人口問題研究所』が2021年に実施した夫婦への調査で、理想の数の子供を持たない理由のトップは、「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」(※52.6%)だった。

保育園児の長女(1)を育てる青森市の男性会社員(30)は、「子供は本当に可愛い。2人目も欲しいけど、1人育てるだけでも経済的な負担は大きい」と打ち明ける。保育料だけでなく、おむつ等育児にかかる消耗品の出費の多さに驚いた。夫婦共働きとはいえ、少しでも安いものを探してドラッグストアや子供用品店をハシゴして纏め買いするようにしている。

国は5年前、3~5歳児の幼児教育・保育を無償化したが、0~2歳児で無償となり得るのは第三子以降と低所得世帯だ。自治体の中には、独自の予算で0~2歳児の保育料を無償化しているところもあるが、男性は「国が一律で無償化することはできないのか。早く“異次元の少子化対策”を有言実行してほしい」と願っている。 (取材・文/大阪本社 佐々木伶/東京本社社会部 塚本康平)


キャプチャ  2024年10月24日付掲載

テーマ : 教育問題
ジャンル : ニュース

【衆院選2024・日本の選択】(05) 「公立、先生いなさ過ぎ」

https://mainichi.jp/articles/20241021/k00/00m/010/236000c


キャプチャ  2024年10月23日付掲載

テーマ : 教育問題
ジャンル : 政治・経済

【火曜特集】(796) 教職員残業代アップにハードル出現…財務省主計局次長に“文教予算カッター”

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教職員の残業代引き上げ問題で新たなハードルが出現し、文部科学省界隈がざわついている。この7月の人事で、財務省の文科省担当の主計局次長に中島朗洋氏(※右画像の左から3人目)が就任した。中島氏は「文教予算カッター」(財務省担当記者)として知られ、これまでも文科省を目の敵にしてきた。主計官時代には文教予算を減らすべく、「上司にも突っかかる」(同)ほどとの逸話も。

文科省は、教師の残業代にあたる定額の教職調整額について、中央教育審議会の提言に基づいて、現在の“基本給の4%”から“13%”に引き上げる方針を固めた。これにより、国の負担は1000億円強増加する。教職員数を確保する為の最低限の待遇改善という性格が強いが、中島次長はこれにも反対の姿勢。「残業しなくて済むよう、学校長がマネジメントすべき」といった机上の空論で、予算カットを目論む。文科省が目指す他の手当て拡充予算についても、中島氏が最大の抵抗勢力になりそうだ。


キャプチャ  2024年9月号掲載

テーマ : 教育問題
ジャンル : ニュース

【WEEKEND PLUS】(537) 桃太郎電鉄が社会知る教材に…子供達の為に無償配布した製作会社の狙い



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「今日は桃鉄をやります」。担任の小池翔太教諭(35)が告げると、子供達の歓声が弾けた。「やったー!」「俺が絶対に勝つ!」。あまりの熱量に、教室の温度が少し上がった気がした。6月中旬、東京学芸大学付属小金井小学校(※東京都小金井市)。2年2組の教室で、子供達が4人1組に分かれてタブレット端末にかじりついていた(※右画像、撮影/渡部直樹)。夢中になっているのは国民的な名作ゲームだ。

『桃太郎電鉄』。1988年に家庭用テレビゲーム機『ファミリーコンピュータ』向けに第1作が発表されて以来、“桃鉄”の愛称で世代を超えて親しまれてきた。鉄道会社の社長となり、双六方式で全国の鉄路を巡る。ライバルと競って各地の駅で“物件”を買い集め、最終的な資産額でプレイヤーの順位を競う。

登場する地名は実在のもので、物件も実際にある産業や名産品、観光地を反映している。室蘭なら“製鉄所”、鳥取であれば“二十世紀梨園”、鹿児島に行くと“黒豚しゃぶしゃぶ屋”といった具合だ。小金井小学校で見た光景は、休み時間を使った遊びではない。れっきとした学校の授業の一環だ。

シリーズを製作する『コナミデジタルエンタテインメント』は昨年1月、学校等教育機関に向けて桃鉄の教育版を提供し始めた。反響は凄まじかった。僅か1年半で1万校以上が手を挙げた。小学校だけ見れば、全国の2割以上で桃鉄を授業に取り入れた計算になる。人気ゲームが教材に?――俄かには信じられなかった。小金井小学校を訪ねたのは、そんなもやもやを払拭する為だった。

教育版といっても、内容は市販の桃鉄と大差ない。プレイヤーの邪魔をする“貧乏神”をなくす等、授業に配慮した微修正を加えた程度だ。学校で初めて桃鉄を知ったという児童も少なくないが、共通していることがある。皆、時間を忘れて没頭しているという点だ。「これが桃鉄の力なんです」と小池教諭。こんなエピソードを教えてくれた。

“近”という漢字を使った言葉を作る授業での出来事だ。未だ習っていない筈なのに、“近江牛”や“近畿地方”等の回答が次々と返ってきた。「桃鉄で遊びながら、自然と覚えていったとしか思えない」。小池教諭は桃鉄効果に目を見張った。「テストでは測ることができない子供達の探究心を伸ばしてくれる。そんな魅力がある」。

教育版が生まれるきっかけは、ある人からの“だめもと”の依頼だった。2019年秋、桃鉄の生みの親であるゲームデザイナー、さくまあきらさん(72)の目が1通のメールに留まった。書いてあったのは、こんなメッセージだ。「桃鉄を教育現場に活かしてみませんか?」。差出人は現役の小学校教諭、正頭英和さん。ブロックを組み合わせて様々なモノを作り出すアメリカのゲーム『マインクラフト』等を使った授業で注目され、“教育界の革命児”と言われる。

「桃鉄で地理を、産業を、漢字を学んだという思いは僕らの世代の共通認識なんです」と正頭さん。だからこそ、確信があった。「桃鉄を教育現場に取り入れることができれば、日本の教育界は大きく変わる」。正直、反応があるとは思わなかった。しかし、年が明け、コナミから「詳しい話を聞かせてほしい」と連絡が入った。聞けば、さくまさんからメールの存在を知らされたという。「きたー」。思わず、叫んだ。

コナミの製作陣に正頭さんも加わり、教育版の開発が始まった。最初に決めたことがある。教育版を希望する学校に無償で配布するということだ。たとえ1円であっても、有償であれば導入のハードルがぐっと上がることを、正頭さんは肌感覚で知っていた。ただ、これではコナミにとってメリットは薄くなる。しかし、指揮を執るさくまさんは二つ返事で無償配布にOKを出した。

何故か。さくまさんがゆっくりした口調で理由を説明してくれた。「桃鉄を使って、子供達の為になることをしたい。こんな思いがずっとあった」。背景には、黎明期のテレビゲーム業界が直面してきた苦難の歴史がある。内容に拘わらず、ゲームというだけで大人から目の敵にされた。

「ゲームをすると頭が悪くなる」「教育の敵だ」。いわれのない激しいバッシングにさらされても、ぐっと耐えるしかなかった。そんな時、心の支えになったのが桃鉄をプレイした子供達から届く手紙だ。「桃鉄のお陰でテストで良い点が取れました」「嫌いだった地理が好きになりました」。汚い字も少なくない。でも、一生懸命に書いたであろう率直な声が何よりの励みになった。

あの日、桃鉄で遊んだ子供達がやがて大人になるに従い、ゲームに対する偏見は薄れていった。そして現在。桃鉄を教育現場に普及させようと奮闘しているのも、教職員や保護者等桃鉄で育った“嘗ての子供達”だ。様々な人の思いが鉄路のように連なっていく。桃鉄を巡る不思議な物語を辿った。

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テーマ : 教育
ジャンル : 学校・教育

【木曜ニュースX】(519) 筑波大学が悠仁親王の受け入れへ準備…入学を切望する大学側の理由

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高校3年生になった秋篠宮家の悠仁親王の進学先を巡って様々な情報が錯綜する中、候補先の一つと目されている筑波大学の周辺が慌ただしくなっている。「大学が受け入れに向けて、密かに着々と準備を進めています」と言うのは、文部科学省の幹部職員だ。

筑波大学といえば、実質的な選挙を行なわず永田恭介氏の学長再任が決まり、教職員らから批判が出ている。だが、「政府と近い学長がいることで、将来の天皇を受け入れるのに好条件だと受け止められている」(同)という。筑波大は増え過ぎた中国人留学生を減らす方針だが、これも「悠仁親王の入学を視野に入れてのこと」(筑波大学関係者)との指摘もある。

そうした動きの裏で、公安調査庁等の機関も筑波大学周辺に人員を送り込んで、情報収集に乗り出している。前出の筑波大学関係者によると、「悠仁親王が入学すれば、それだけで政府の予算もついてくる」と皮算用しているようだ。


キャプチャ  2024年7月号掲載

テーマ : 皇室
ジャンル : ニュース

【WEEKEND PLUS】(493) 北海道大学“教員追い出し部屋”の実態…「まるで幽霊だ」、密室で処遇を変更した教授会



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学生の指導ができなくなって、4年目の春が来た。北海道大学理学研究院の化学部門に所属する50代の男性准教授は、2021年4月からたった1人で研究を続けている。同じ研究テーマに取り組む同僚や学生は周りにいない。〈2010年ノーベル化学賞ご受賞おめでとうございます〉。札幌市北区のキャンパスに建つ研究棟に、ノーベル賞を受賞した化学部門のOB、鈴木章名誉教授を称えるポスターが張られている。その前を通り過ぎ、薄暗い階段を上り、男性は研究室に辿り着く。

与えられた事務スペースは4㎡。机と椅子、書棚、ホワイトボードを置くと、大人2人がすれ違うのもやっとだ(※左画像、撮影/鳥井真平)。ふと、2020年12月の出来事を思い出す。「研究室から出て行って、部屋を空けて下さい。部門の決定なので従って」。当時の部門長から言い渡された言葉だという。この春、理学部の学生に配る化学部門のパンフレットが完成した。14の研究室を紹介した全8ページのどこを探しても、自分の名前はなかった。「まさか追い出し部屋に入れられるなんて。まるで幽霊だ」。男性は自嘲気味に呟いた。

北大化学部門では、教授と准教授、助教が一体で研究室を運営する講座制を採用している。教授が退職や転出をした場合、研究室は閉鎖されたり、後任の教授に引き継がれたりする。男性は任期のない准教授として、2014年に北大に着任した。2019年3月、研究室の教授が定年退職し、後任教授が研究室を引き継いだ。当時の部門長らには「協力して一緒にやって」と言われ、研究室に残った。その春から新教授の下で研究を始め、大学院生4人の指導にも当たった。2020年度は学部生も指導した。

ところが2020年9月、事態が変わる。部門のある教授から「研究室に新しい准教授と助教を迎えることになった」と告げられ、こう言われたという。「場所がないので、研究室にはいられないですよね」。転出に向けた話し合いが始まると思いきや、同年12月に“部門の決定”を言い渡された。「今後、学生はつかない(=指導させない)」とも。指導していた学生は「テーマは何でもいい。先生と研究をしたい」と慕ってくれたが、断念せざるを得なかった。

2021年春、4㎡の事務スペースで研究を始めた。別に与えられた実験スペースには当初、水道も排気装置もなかった。学外にポストを得るには、優れた研究業績を示し、採用してもらう必要がある。だが、実験を一緒に進めてくれる学生もおらず、業績は遅々として積み上がらない。「研究をしないで、とっとと出て行ってくれということか」。男性は過去、海外の著名学術誌に論文を複数発表している。北大に安定したポストを見つけ、研究が軌道に乗り始めるかという矢先だった。

アカデミックハラスメント問題に詳しい広島大学の北仲千里准教授は、「組織で特定の人を冷遇しようとしており、不当な扱いだ」と指摘する。2006年の大学設置基準改正で講座制は制度上なくなったが、一部の学部に慣例として残る大学がある。北仲氏によると、講座制は教授に人事や予算の権限が集中し易く、ハラスメントが起き易い。北大化学部門で似た立場に置かれているのは、実はこの男性だけではない。本紙の調べでは、先月時点で同じ扱いを受ける教員が他にも3人いるとみられる。

彼らは現役教員でありながら、部門内でこう呼ばれている。“旧スタッフ”――。

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テーマ : 教育問題
ジャンル : ニュース

【明日への考】(57) 内申書見直し、見えぬ答え…“生徒会・部活”を削除して簡素化、主体性も点数化され悩む現場

公立高校入試での内申書(※調査書)の扱いについて、見直しの動きが目立つ。民間への地域移行が進む部活動の評価等を中心に、記載項目、内容を簡素化する県が相次いでいる。高校入試の実施方式は都道府県毎に異なり、中学校生活に与える影響も大きい。日頃の学習や活動を1点刻みの入試に使うことについては、専門家や教師から“矛盾”を指摘する声もある。内申書の現状と課題を探った。 (編集委員 古沢由紀子)



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内申書は、生徒の学習や生活の状況を記録する指導要録を基に、各都道府県の教育委員会が定めた書式で中学校が作成し、志願先の高校に提出する。教科別の成績評定の他、生徒会や委員会等の特別活動、部活動の実績を記す欄等を設けるのが一般的だ。

大学入試でも高校の調査書が提出されるが、公立高校入試では格段に選抜資料としての重視度が高い。各教科の成績評定は各都道府県が定めた比重や計算方式に基づき点数化され、学力試験の結果と合わせて選考に使われる。

簡素化されているのは、主に特別活動や部活の項目だ。埼玉県教委は2027年の高校入試から制度を変更し、内申書の書式を見直す。同県では一般入試で全公立高が、大会出場や生徒会役員歴等を其々の選抜基準で点数化してきた。「生徒の多面的な評価が目的だったが、内申書の為に生徒会に立候補する例や、途中退部がし難い等の声もあり、部活の地域移行で校外の活動が増えることも踏まえて見直しを決めた」と、県教委の担当者は説明する。

来春からの移行期間を経て、内申書から部活や生徒会活動の欄をなくし、9教科の成績評定を基本とする方向だ。新たに導入するのが全員対象の面接で、受験生は中学生活で力を入れたこと等を“自己評価資料”に纏めて臨む。

今年3月、進学校の県立川越女子高校で開かれた来春以降の入試の説明会。制度改革について会場で参加者に聞くと、「部活の頑張りがあまり評価されなくなるなら残念」(中1生徒)という声がある一方で、「学力以外の実績が入試でどう評価されるかわかり難かったので、透明化は歓迎」(中2生徒の母親)、「自分の言葉で表現する力を身につけられる」(中1の母親)等の好意的な意見が目立った。

西野博校長は、「部活の実績等は在籍する中学校の規模や家庭の事情に影響される面もあり、どの受験生も同じ条件とは言えない。面接なら自分なりに頑張ったことを伝えられるのでは」と話した。

簡素化の先例になったのが、広島県教委が昨年春から実施した入試改革だ。民間出身の平川理恵前教育長(※今春退任)が「内申書を気にして生徒が萎縮する」と懸念し、9教科の成績評定に記載内容を絞り、学力試験に対する比重も下げた。部活や特別活動、欠席日数の記入欄もなくし、新たに面談方式の“自己表現”を導入した。

岩手県教委は来春から、部活の大会実績等を出願条件や点数化の対象としていた推薦入試を廃止する。新設する特色入試では、「日常的な学習や活動でどんな能力、資質を身につけたかを評価する」方針だ。一方、一般入試で行なっていた全員対象の面接は一律に行なわず、各高校の裁量になる。神奈川県教委も今春、「短時間では評価が難しい」として、全員対象の面接を各校の任意とした。面接については、新たに導入した広島県でも教師の負担を懸念する声がある。

学校教育法施行規則は高校入試について、学力試験と内申書の使用を原則とする。文部科学省は、その大枠以外の入試方式を設置者である都道府県教委に委ねている為、内申書の扱いは区々だ。〈基本的な生活習慣〉や〈思いやり〉等といった“行動の記録”を評価対象とする県がみられ、内申書の比重を公表していない県も複数ある。

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テーマ : 教育問題について考える
ジャンル : 学校・教育

【池上彰の「そこが知りたい」】(33) 「若者よ、志を立てて学ぼう」――上田紀行さん(文化人類学者)

学生は評価システムの奴隷になっているのではないか――。そのような反省から、東京工業大学は2016年からリベラルアーツ教育を導入し、独自のカリキュラムを実施している。一連の改革を進めたのが、文化人類学者で、3月まで同大副学長を務めた上田紀行さん(65)。ジャーナリストの池上彰さんとの対談では、リベラルアーツ教育の必要性や、教育の問題点等について幅広く語った。



20240422 19
池上「理系の大学でリベラルアーツの教育が細々とスタートしました。それが今やリベラルアーツといえば東工大と言われ、大学関係者らの視察も相次いでいます。何故、この教育が大切だと考えたのですか?」
上田「1990年代半ばから『大学はもっと社会に役立つ人材、即戦力を出すべきだ』との声が強まってきました。その流れで教養教育が軽視されるようになり、『早く専門教育をすべきだ』という考え方が主流になりました。この流れに強い危機感を持ったのが、リベラルアーツの再評価のきっかけです」
池上「オウム真理教事件では、高い専門知識を有した若者達が凶悪な犯罪に関わりました。幅広い教養がないと、若者が怪しげな宗教にひっかかるという反省はあったのでしょうか?」
上田「どこまで影響したのかはわかりません。でも、今のご質問を改めて考えてみると、“生きる意味”が社会で希釈されていく中で、オウム真理教のように『これが正解だ』と示されてしまうと、若者がひかれてしまう危険はありますね。オウム真理教だけではなく、学生をターゲットとするカルト宗教が増えていました。一方で若者達は、どのように生きていけばいいのか、何で生きているのかといった自分が存在する根源の意義が希薄になっていた頃でした」
池上「それにしても、経済界からの『もっと役に立つ人材を大学は輩出すべきだ』との声を受け入れ、専門教育中心にしたら、今度は『新入社員は教養がない』『一般常識が足りない』といった批判が聞こえてきました。勝手な言い分ですが」
上田「抑も“役に立つ”とは何なのか、ですよね。しかし、指示待ち、大人しい、優等生だけど迫力がない。自分の中から発してくる活気みたいなものが、若者達にないという声は多く聞こえてきました」
池上「そこでリベラルアーツを導入したわけですが、具体的にはどのような取り組みを進めたのでしょう?」
上田「〈“志”を育むリベラルアーツ〉を合言葉に、先ず入学直後に立志プロジェクトを必修科目にしました。様々な分野の第一人者の講演を、1学年約1100人全員が聞く。講義内容を素材にして、少人数クラスで4人程度のグループに分かれ、徹底的に議論する。そうすると、一人ひとりの『ここが素晴らしい』『ここはどうしても納得できない』といった点が浮かび上がります。それで、人によって違う見方があるのだとわかります。更に、3年次には教養教育で学んだことを、如何に自分のビジョンに生かすのか、学ぼうとする技術が誰に届くのかといった点等を纏める教養卒論を執筆します。如何なる志を立てて人生を進んでいくのかを問うわけです」
池上「具体策の検討には悩まれたとお察しします」
上田「リベラルアーツという言葉の原義は、人間を自由にするわざ、人間が自由になるわざ、という意味です。ギリシャ・ローマ時代に2つの階級、自由市民と奴隷を分かつものがリベラルアーツで、単にものを知っていればいいという話ではなくて、そこには『現代社会で果たして人間は自由なのか?』との強い問い掛けがあります。成績ばかりを気にしている学生が増えてきて、どうやったら良い点数が取れるのかと忖度している。それは、評価システムの奴隷なのではないかという反省です。イノベーションや、新たな時代の創造は自由人からしか生まれません。だから、常識の中で良い評価を得るのではなく、今の枠組みを疑い、ぶっ飛ばすぐらいの自由な発想が求められるのではないかと考えたのです。リベラルアーツは、単なる教養教育ではなく、“自由への道”なのです」
池上「子供の頃から正解があるに違いないと疑わず、逸早く答えを見つけると『よくできたね』と褒められる。求められる答えを早く察知することによって、良い成績が取れる。そのような学生が東工大にも大勢いたでしょう」
上田「そうでしたね。初期条件が与えられた時の最適解を、できるだけ早く間違いなく出すということを、教育の中で繰り返している。そのような学生は、初期条件がないと考えられません。問題を出してくれたら解ける、というスタンスですから『貴方が問題を作る側、問題を発見する側ですよ』と問うと答えられません。次世代のイノベーター、リーダーは問題を発見して提示する側なのに。出してもらった問題をひたすら解かせる教育は、AIに態々負けにいく人間を作っていることになります。AIは初期条件やルールが確立している中で、ビッグデータを駆使して、その中での最適解をぽんと出す。初期条件の中で最適解を出させる教育では、あっという間に人間はAIに勝てなくなってしまうでしょう」

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テーマ : 大学
ジャンル : 学校・教育

【いじめ防止法施行から10年】(下) 放置に歪曲、教委に不信感

20240419 06
「いじめ対応は時間がかかり、負担が大きい。避けたいと思う教師もいる」――。東京都内の公立小中学校で約30年間教壇に立った仲野繁さん(69)は、学校現場の本音を明かす。いじめの訴えがあると、被害者、加害者双方から状況を聞く。食い違いがあれば、周りの子からも証言を集め、多忙な中で事実確認の為の時間を割かなければならない。教師時代、いじめに気づかず、被害生徒の心身に深刻な傷を負わせてしまった。後悔から退職後、一般社団法人『ヒューマンラブエイド』を設立し、いじめ防止教育や被害者、保護者の支援に取り組む。いじめ事案に対応する中で、「学校現場では、責任を逃れる為、いじめの隠蔽や事実の歪曲化に走る例は、今も少なくない」と感じる。いじめ対応では、学校を指導する立場の教育委員会にも構造的な問題がある。教員出身者が多く、身内意識や目上の校長への遠慮から、いじめの放置や、事実の矮小化に傾きがちだと指摘されてきた。

いじめ被害に遭っていた神戸市立中3年の女子生徒(※当時14歳)が2016年に自殺した問題では、市教委の首席指導主事が校長に指示し、同級生からの聞き取りメモを隠蔽。首席指導主事を始め、市教委の担当者全員が教員出身者だった。北海道旭川市の公園で2021年3月、市立中2年の広瀬爽彩さん(※当時14歳)が凍死体で見つかった問題も、教員出身者12人が市教委でいじめを担当していた。いじめ防止対策推進法に基づく“重大事態”では、学校や教委に対し、第三者委等による調査を義務付ける。しかし、被害者側が調査結果や委員の人選等に不信感を抱き、首長部局に再調査を求めるケースは少なくない。文部科学省の調査によると、2013~2022年度に実施された重大事態の再調査は計106件に上る。熊本県で2018年、県立高3年の深草知華さん(※当時17歳)がいじめを苦に自殺した問題では、県教委の第三者委はいじめとの因果関係を認めたが、自殺を図った日の学校側の詳細な対応については言及しなかった。父・智彦さん(48)と母・志乃さん(50)は、「教師が対応していれば自殺を防げた可能性がある」として、県知事に再調査を求めた。2020年4月に纏まった再調査の結果では、自殺を図った日に、涙目で早退を申し出た知華さんに対応した担任について、「普段とは異なる態度をもう一歩深く掘り下げ、迎えに来た親族に伝達することはできた」と踏み込んだ。その上で、「全教職員が、生徒の命を預かる職責の重さを改めて認識」するよう求めた。志乃さんは、「命を守る為の法律ができてから10年経っても、何も生かされていないと感じる。放置せず、学校全体で、いじめと向き合ってほしい」と訴える。独協大学の市川須美子名誉教授(※教育法)は、「学校現場は、先ずは重大事態に至ったいじめの調査報告書を読み込み、指摘された問題点や改善策を共有してほしい。国は研修体制を整えて、教員の意識向上を図るべきだ」と強調する。

          ◇

(東京本社教育部)伊藤甲治郎・宇田和幸・上田詔子/(富山支局)原中翔輝/(熊本支局)岡林嵩介が担当しました。


キャプチャ  2023年11月11日付掲載

テーマ : 教育問題
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