「グリーン政策」 - 寺島メソッド翻訳NEWS
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米国の世界支配の継続を守るため、食糧危機と貧困危機が演出されている

<記事原文 寺島先生推薦>

An Engineered Food and Poverty Crisis to Secure Continued US Dominance

筆者:コリン・トドハンター(Colin Todhunter)

出典:INTERNATIONALIST 360° 

2022年8月29日 

<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>

2022年10月5日



 
 2022年3月、国連のアントニオ・グテーレス国連事務総長は、ウクライナ危機により生じた「飢餓の嵐と世界の食糧体系の崩壊」について警告を発した。

 グテーレス事務総長は、食料や燃料や肥料の価格が、供給網が阻害されたため急激に高騰したと語り、さらにこのような状況が最も貧しく、最も苦しんでいる人々を直撃し、世界規模で政治が不安定で混乱した状況が生じる原因が撒かれている、と付け加えた。

 「持続可能な食糧体系に関する国際専門家委員会(International Panel of Experts on Sustainable )」によると、現在世界には十分な食糧があり、食糧供給が不足する危機にはない、という。

 つまり、食糧は豊富にあるのに価格は急上昇している、ということだ。この問題は食糧不足にあるのではない。ひとつは、食糧が投機対象の商品にされてしまっていること。もう一つは、世界の食糧体系が操作されてしまっていることにある。世界の食糧体系については、不正がまかり通っていて、農業関連業者(アグリビジネス)への投機家たちと、農業関連の設備や肥料などの供給業者の利益に奉仕するものになっていて、人々の要求や真の意味の食糧保全は犠牲にされている。

 ウクライナでの戦争は、貿易とエネルギーをめぐる地政学上の紛争である、と言える。つまりこの戦争を概して言えば、ロシアと欧州に対する代理戦争を米国が仕組んでいる、ということだ。具体的には、欧州をロシアと引き離して、ロシアに制裁をかけることで欧州に被害を与え、欧州の米国に対する依存を強めさせようという魂胆だ。

 経済学教授のマイケル・ハドソン氏が先日述べたところによると、この戦争の究極の敵は欧州とドイツだ、とのことだ。 ロシアに対する制裁措置の目的は、欧州諸国やその同盟国が、ロシアや中国との貿易や投資の増加を妨げることにある、という。1980年代から始まった新自由主義政策は、米国経済を空洞化させた。生産基盤が厳しく弱体化された米国が覇権を維持する唯一の方法は、中国とロシアに害を与え、欧州を弱体化させることしかない。

 ハドソンによると、一年前から、バイデンと米国のネオコン勢力は、ノルド・ストリーム2やすべてのロシアとの(エネルギー)貿易を止めさせることで、米国がエネルギー分野を独占することを目論んでいた、という。

 目下、「グリーン計画」が強力に推し進められているが、米国はいまだに化石燃料エネルギーに依存し、米国の力を外国に伸ばそうとしている。ロシアと中国がドル離れの動きを見せている中でも、石油と天然ガスの価格(加えてそれにより生じる借金)をドル建てで支配することが、米国が世界覇権を維持する重要な鍵となっている。

 米国は、ロシアに制裁をかければどうなるかが予めわかっていたのだ。つまりこの制裁により、世界がふたつの勢力に分断され、新冷戦が加速するという状況が見えていたのだ。その二つの勢力とは、一方は米国と欧州で、もう一方はロシアと中国の両国を中心とする勢力だ。

 米国の政策立案者たちは、欧州がエネルギーや食糧価格の上昇により苦しめられ、食糧を輸入しているグローバル・サウス諸国も物価の高騰で苦しむであろうことは分かっていた。


 米国が、大きな危機を創作することで、世界覇権を維持しようとした動きを見せたのはこれが初めてではない。その際も、主要な商品の価格を急騰させることで、各国の米国への依存を高め、米国への借金を増加させるという罠をしかけていたのだ。

 2009年に米国の作家アンドリュー・ギャビン・マーシャルは、金本位制が終了してからまだ間もない1973年に、ヘンリー・キッシンジャーが中心となり、中東での事件(第一次中東戦争とそれに伴う“エネルギー危機”)を操作した、と記していた。この事件のおかげで、米国は世界覇権を持続することができたのだ。当時米国は、ベトナム戦争のせいで事実上破産状態にあり、ドイツと日本の経済成長により米国による覇権が脅かされていた。

 キッシンジャーの助力により、OPECの石油価格のとてつもない高騰が守られ、英米の石油諸会社に十分な利益がもたらされた。当時英米の石油諸会社は、北海油田の件で多額の負債を抱えていたのだ。キッシンジャーはさらに、サウジアラビアや後にはアフリカ諸国とのペトロダラー(オイルマネー)体制を固めた。このことがキッカケとなり(石油を基盤にした)工業化への道が開かれ、さらには石油価格の急騰により、米国への依存と米国への借金が加速されることになった。

 広く考えられていることだが、石油価格を高く据え置く政策の目的は、欧州と日本と発展途上諸国に害を与えることだったのだ。

 こんにち米国は再び、人類の多くの人々に対する戦争を行っている。これらの人々を貧困に陥らせる意図は、米国と米国が利用している金融機関への依存と借金を確実に持続させることにある。その金融機関とは世界銀行と国際通貨基金だ。

 米国の政策により、何億もの人々が、貧困と飢餓に陥ることになるだろう。(既に陥っている人々もいるが)。これらの人々(米国やファイザー社などが、非常に気にかけていて、一人一人の腕に予防接種を打ちたがっていた人々だ)は、この巨大な地政学的ゲームの中では軽んじられ、巻き添え被害をうけても仕方がないと見なされている。

 多くの人々の考えとは食い違うかもしれないが、米国にとっては、ロシアにかけた制裁の結果生じたことが計算外だった訳ではない。マイケル・ハドソンの記述によれば、エネルギー価格の高騰により、米国の石油会社はエネルギー輸出により利益を得、国際収支も向上している、さらに、ロシアに制裁をかける狙いは、ロシアの輸出(肥料生産のための小麦や天然ガス)を減らし、農産物の価格を高騰させることにもある。このことは、米国の農産物輸出にも利をなすことになる。
 
 これが、他諸国に対する覇権の維持を求めようとしている、米国の手口だ。

 今とられている諸政策の目的は、食糧危機と債務危機を作り出すことだ。そしてその対象とされているのは、より貧しい国々だ。米国はこの債務危機を利用して、これらの貧しい国々が、民営化の動きや公共財の売却を継続せざるをえないよう追い込むことができる。それは石油輸入や食糧輸入の価格が上がったことで、負債を抱えなければならなくなっているからだ。


 このような帝国主義的手法が、「新型コロナに関する救済」のためのローンの裏側でも同様の目的のもと、行われてきたのだ。2021年、オックスファム(貧困と不正の根絶を目指す社会団体)がまとめた、国際通貨基金による新型コロナに関するローンの概要により分かったことは、アフリカの33ヶ国が緊縮財政策をとるよう奨励されていたことだった。2022年、世界最貧諸国が430億ドルの負債の支払いを済ませなければならないが、その金があれば、食糧輸入にかかる費用をまかなえる。

 オックスファムと「開発金融インターナショナル(Development Finance International:ビジネス助言会社)」がさらに明らかにしたことは、アフリカ連合加盟国55ヶ国のうちの43ヶ国が、公共支出の削減に直面し、その総額はこれからの5年間で1830億ドルに上るという事実だ。

 2020年3月の世界経済の閉鎖(「ロックダウン」のことだ)のせいで、世界各国の負債状況は前代未聞の道のりをたどることになった。融資条件をのむということは、各国政府が西側の金融機関の要求を受け入れざるを得ない状況に置かれることを意味する。これらの負債は主にドル建てであるため、世界各国において、米ドルと米国の影響力を強めることにつながった。

 米国は新世界秩序を創造しつつあり、そのためにはグローバル・サウス諸国が、確実に米国の影響下にある衛星国家であり続けることが必要だ。これらの国々がロシアや、特に中国の傘下に入り、経済発展を求める中国の一帯一路構想に加わることは許されない。

 新型コロナ後は、ウクライナでの戦争が、米国のこの戦いなのだ。ロシアに制裁をかけることで、食糧危機とエネルギー危機を演出している、というのが今の本当の現状だ。

 既に2014年に、マイケル・ハドソンは以下のように記述していた。すなわち、米国がグローバル・サウス諸国のほとんどを支配下に置くことを可能にしているのは、農業と食糧供給を統制しているからだ、と。世界銀行が地政学的な戦略のもとグローバル・サウス諸国に借金をさせ、これらの国々に換金作物(プランテーション輸出作物)を栽培させるよう説得し、その結果これらの国々が食糧不足に陥っている。つまり、 自国が必要とする作物を作らせない、という戦略だ。

 石油産業も農産業も、米国の地政学的戦略に一心同体として組み込まれてきたのだ。

 世界を股にかける巨大農産業企業(カーギル社、アーチェル・ダニエル・ミッドランド社、ブンゲ社、ドレイファス社など)が推進し、世界銀行も支持している「食の安全」という支配的な概念の実現が可能になるのは、食糧を購入できる余裕のある人々や国々だ。この概念は、自給自足とは全く関係がなく、巨大農産業諸企業が支配する世界市場や世界規模の供給網のことだけを指している。

 石油と同様、世界の農業の支配は、これまで何十年もの間、米国の地政学的戦略の要であり続けている。「緑の革命」が、石油で巨大な利益を得る業者からの恩恵として輸出され、貧しい国々は、農産業資本による化学製品や石油製品に依存した農業を採用した。そして、そのような農業を行うためには、施設整備やインフラ整備のためにローンを組まなければならなかった。
緑の革命・・・1940年~1960年頃に取り組まれた、多収穫の穀類などの開発や化学肥料の大量投入による農業革命のこと。

 そのため、これらの国々は世界の食糧体系に組み込まれた。その食糧体系とは、輸出用の単一栽培作物に頼ることで、外貨を獲得するというものだ。これは各国が抱える債務支払いがドル建てでなされることや、世界銀行や国際通貨基金が各国政府に命じる「構造改革」と繋がっているものだった。 私たちが目にしてきたのは、自給自足のできていた多くの国々が、食糧不足国家に陥る様だった。

 さらに私たちが目にしてきたのは、諸国が商品作物生産の悪循環に追い込まれる様だった。石油や食糧を買うために外貨(米ドル)が必要となり、輸出用の換金作物の栽培を増やさざるを得ない状況に置かれたのだ。

 世界貿易機関の「農業に関する協定 (AoA)」により貿易協定が決められたが、その協定は企業への依存を必要とする種類のものであるのに、「世界の食の保全のため」という仮面が掛けられている。

 ナブダーニャ・インターナショナルによる2022年7月の報告書により、このような状況が説明されている。その報告書の題名は、「飢餓の種をまき、利益を得る -仕組まれた食糧危機-」だ。その報告書の記載によると、国際的な貿易法と貿易の自由化は、巨大アグリビジネスに利益を与え、それらの企業は「緑の革命」の推進のおかげで巨利を得つづけている、ということだ。
ナブダーニャ・インターナショナル ― 「9つの種」の意味をもつ、インドにあるNGOが母体。グローバル化に対抗して、種子や文化の多様性を重視した農業を追求している。

 この報告書によれば、米国でのロビー活動と貿易交渉を取り仕切っていたのは、カーギル社の投資向けサービス部門の元CEOで、ゴールドマン・サックス銀行の重役だったダン・アムステュツだ。アムステュツは、1988年にロナルド・レーガン政権下のGATT(関税及び貿易に関する一般協定)のウルグアイ・ラウンドの主席交渉官をつとめていた。このことが一助となり、新しい法律により米国のアグリビジネスの利益は神聖化され、世界の商品貿易やその結果生じる農産業分野の拡大の波が統制されることになった。
ウルグアイラウンド・・・世界貿易上の障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行われた多国間通商交渉

 AoA(農業に関する協定)のせいで、農家が世界市場の価格や変動から守られることがなくなった。それと同時に、米国やEUは特別扱いを受け、自国の農業に補助金を出すことで、巨大アグリビジネスにとって有利な状況を作り出すことができた。

 以下はナブダーニャ・インターナショナルの報告書からの抜粋だ。

 「関税による保護や助成金による保護が取りやめられる中、小規模農家は貧しい状態で放置されていた。その結果、農家が生産物で得る利益と、消費者が支払う額との間に格差が生じた。つまり農家の稼ぎが減って、消費者の支払額が増えているということだ。それはアグリビジネスが、仲介者として巨額を手にしているからだ」

 「食の保全」のため、各国の食の主権や食糧自給が、国際市場の統合や企業の力のせいで粉砕されている。

 このような状況を知るためには、他国が経験しているような新自由主義の「ショック療法」を自国に施して賞賛を浴びているインドほど、目を向ける必要がある国はない。

 「自由化」法制が取られた目的の一つは、米国のアグリビジネスが利益を得ることだったのだが、そのためインドの食糧が不安定化されることになった。それはインドの緩衝在庫がなくされるようにし向けられたからだ。この緩衝在庫は、インドの食の保全のためには不可欠なものだった。アグリビジネスの貿易商が、海外にある蓄えを使って世界の食糧市場を不安定にする動きの予防にもなっていたからだ。
緩衝在庫・・・供給量を調整するために保管されている在庫のこと

 インド政府は、丸一年かけて行われた大規模な農民たちによる抗議活動がおこってからやっとのことで、このような政策をとることを断念したのだった。

 現在の危機は、投機によっても悪化させられている。ナブダーニャの報告書は、米国のライトハウス・レポート社とワイア社(ロイター関連のメディア)による調査を引用していた。その調査は、投資会社や投資銀行や ヘッジファンドによる農作物に対する投機が、食糧価格の高騰にどうつながっているかを示すものだった。それによると、農作物の先物取引価格は、実際の供給とはもはや関係がなく、市場の要求に応えるもので、投機の対象でしかなくなってしまっている、とのことだった。

 アーチャー・ダニエル・ミッドランド社も、ブンゲ社も、カーギル社も、ルイス・ドレイアス社も、ブラックロック社やバンガード社のような投資ファンドも、大もうけを続けていて、その結果パンの価格が二倍になってしまった貧しい国々もでてきている。

 世界を股に掛けるアグリビジネスが推し進めている現在の食糧危機に対する「解決策」(皮肉的な意味だが)は、農家の人々に増産させ、よりよい生産法を模索させようというものだが、これではまるでこの危機が生産不足のために生じた、と思わせているようなものだ。真の狙いは、化学薬品や、遺伝子操作技術を増やそう、というところにある。そうやって借金まみれになる農民の数を増やし、アグリビジネスへの依存を高めよう、という魂胆だ。

 使い古された嘘がまた利用されている。その嘘とは、世界が飢餓に陥るのは、生産物がなくなり、もっと多くの生産が求められている、というものだ。しかし世界が飢餓に瀕し、食糧価格が高騰している本当の理由は、巨大アグリビジネスがそんな体制を作ってしまっているところにあるのだ。

 そしてこれもまた使い古された手口だが、新しい技術を推し進めるために、無理矢理問題を探し、その危機を利用して新しい技術の導入を正当化するというやり方が横行している。そしてその際は、そのような危機を起こしている本当の問題には目が向けられない。

 ナブダーニャ・インターナショナルの報告書は、そうではない真に実現可能な現状に対する解決策を提案している。その提案が根ざしているのは、農業による環境作りであり、食糧の供給線を短くすることであり、食の主権であり、経済における民主主義だ。つまり多くの記事や公的な報告書で長年描かれてきた政策をもとにした解決策なのだ。

 普通の人々の生活水準が犠牲にされていることに対して抵抗することへの支持が、英国などでの労働運動で結集されている。英国鉄道労組のミック・リンチ組合長は、労働者階級による運動を呼びかけている。そしてその運動のもとになるのは、団結と階級への気づきであり、その気持ちを持って、自分たちの階級の利益だけを強く意識している億万長者階級に反抗しよう、としている。

 「階級」という概念が政治談義の主な対象になることがなくなって久しい。階級闘争を行うためには、組織し、抗議運動で連帯するしかない。それが普通の人々が新しい専制的権威主義に基づく新世界秩序に対して何かしら印象に残る打撃を与えられる方法だ。というのも、富裕層は普通の人々がもつ権利やなりわいや生活水準に対して壊滅的な攻撃を加えているからだ。それが今、私たちが目にしていることだ。


コリン・トドハンターは、食や農業や発展についての記事を多く書く独立系メディアの作家である。

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