今年2024年は辰年:シルクロードやBRICKSロード、そして中国ロードが発展する
<記事原文 寺島先生推薦>
Year of the Dragon: Silk Roads, BRICS Roads, Sino-Roads
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:ストラテジック・カルチャー(Strategic Culture) 2024年1月12日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年2月2日
中国、ロシア、イランは、より平等で公正な体制に向けた戦いを次の段階へと進めるだろう、とペペ・エスコバルは書いている。
白熱する2024年を迎えるにあたり、4つの大きな潮流が相互接続されたユーラシア大陸の進展を決定づけるだろう。
1. 金融・貿易の統合が当たり前になる。ロシアとイランはすでに金融上のやり取り伝達体系を統合し、SWIFT(国際銀行間通信協会)を迂回してリヤルとルーブルで取引している。 ロシアと中国はすでにルーブルと人民元で決済し、中国の巨大な工業能力とロシアの巨大な資源とを結びつけている。
2.ソ連後の同地域の経済統合は、ユーラシア大陸に偏っていたが、今後はユーラシア経済連合(EAEU)を経由するのではなく、上海協力機構(SCO)と連動した流れが主流となる。
3.ハートランドに親欧米派が大きく進出することはなくなるだろう。中央アジアの「親米スタン諸国」は、SCOを通じて組織される単一のユーラシア経済に徐々に統合されていくだろう。
4.覇権国たる米国とその衛星国(欧州と日本/韓国/豪州)が、BRICSの3強国(ロシア、中国、イラン)に代表されるユーラシア統合と、北朝鮮、そしてBRICS10に組み込まれたアラブ世界と対峙することで、衝突はさらに先鋭化するだろう。
ロシアの最前線では、他の追随を許さない政治学者であるロシアのセルゲイ・カラガノフがこんな頭ごなしの言い方をした:「我が国の根源がヨーロッパにあることを否定すべきではありません。確かに今まで、ヨーロッパは我が国に多くのものを与えてくれました。しかし、ロシアは前進しなければなりません。ただし進む方向は西側ではなく、東と南です。そこに人類の未来があるからです」と。
東と南にある国は、龍の国だ。今年は辰年なのだから。
毛沢東と鄧小平がつけた道筋
2023年に中国人が鉄道で移動した回数は36億8000万回で、これは過去最高記録である。
中国は、2030年までにAIの世界最先端国になる道を急速に歩んでいる。例えば、テック業界大手の百度(バイドゥ)社は最近、ChatGPTに対抗する「文心一言(Ernie Bot)を販売し始めた。中国のAIは医療や教育、娯楽業界で急速に拡大している。
効率が鍵だ。中国の科学者たちはACCELチップを開発した。ACCELチップのディープ・ラーニング能力は1秒間に4.6兆回の演算をおこなえるが、それと比べてこれまでのNVIDIAのA100は1秒間に0.312兆回の演算しかこなせなかった。
中国では毎年、米国よりも100万人以上多いSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の学生が卒業している。これはAI分野にとどまらない。アジア諸国は科学や数学の競技会で常に上位20%に入る。
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は地政学に関してはお粗末な研究しかできていないかもしれない。しかし少なくとも、同研究所は44の重要技術分野で地球のどんな国々が先頭を走っているかについて示す公共事業をおこなっている。
それによると、中国は37分野で先頭であるとされている。いっぽう米国は7分野だ。両国以外の国はどの分野においても先頭とはされていない。中国が1位とされている分野は、防衛、宇宙、ロボット工学、エネルギー、環境、生物工学、先端材料、量子技術、そしてもちろんAIである。
中国はいかにしてここまで来たのか? いまこそ、モーリス・メスナーが1996年に出版した『鄧小平の時代:中国社会主義の運命への探求、1978-1994年』を読み返すと、非常に勉強になる。
まずは、毛沢東政権のもとで、何が起こったのかを把握しておく必要がある。
「1952年から1970年代半ばまで、中国の純農業生産高は年平均2.5%の割合で増加した。なお、日本の工業化が最も激しく進んだ時期(1868年から1912年まで)における工業生産高の伸び率は1.7%だった」
産業分野においても、全ての分野で生産高は向上した。具体的には、鉄鋼生産や石炭、セメント、木材、電力、原油、化学肥料の分野だ。「1970年代半ばまでに、中国はジェット機や大型トラクター、鉄道機関車、近代的な外航船舶も大量に生産するようになった。中華人民共和国はまた、大陸間弾道ミサイルを備えた重要な核保有国となった。1964年には初の原爆実験に成功し、1967年には初の水爆が製造され、1970年には人工衛星が軌道に打ち上げられた」
毛沢東のおかげだ。彼は中国を「世界で最も遅れた農業国のひとつから、1970年代半ばまでに第6位の工業大国へと変貌させた」。ほとんどの主要な社会的・人口統計的指標において、中国は南アジアのインドやパキスタンだけでなく、「一人当たりGNPが中国の5倍である『中所得』諸国」と比べても上位に立っていた。
これらすべての躍進が鄧小平政権に引き継がれた。「1950年代から1960年代にかけての、集団化された農民によって建設されたダム、灌漑施設、河川堤防などの大規模な灌漑・治水事業がなければ、鄧小平時代の個人農家における高収量は実現しなかっただろう」。
もちろん歪みはあった。鄧小平による推進が、官僚特権階級が主導する事実上の資本主義経済を生み出したのだから。「すべての資本主義経済の歴史がそうであったように、国家権力は中国の労働市場の確立に大きく関与した。実際、中国では、非常に抑圧的な国家機構が、労働の商品化において特に直接的かつ強制的な役割を果たした。この過程は、歴史的に前例のない速さと規模で進行した」
鄧小平の経済的大躍進が、社会的にどのような災厄をもたらしたかについては、いまだに議論が尽きない。
悪徳政治のもとでの帝国
習近平時代が困難な状況に対して毅然として立ち向かい、さらには解決しようとしているなかで、さらに状況を困難にしている要因に、中国と覇権国家米国とのあいだの悪名高い「構造的矛盾」が常に干渉してくる点があげられる。
米国の政争において、中国に轟々と非難を浴びせかけることほど、正しい一手はなく、2024年には制御不能になるに違いない 。この11月の大統領選で民主党が大失敗し、共和党大統領になるとすれば、大統領がトランプになろうがなるまいが、ロシアではなく中国を最大の脅威とする冷戦3.0あるいは4.0が勃発することは疑いない。
そして台湾の大統領選も間もなくだ。独立派候補が勝利すれば、緊張関係は飛躍的に高まるだろう。それに加えて、ホワイトハウスの住民が熱狂的な嫌中論者になればどうなるかを想像してみてほしい。
中国が軍事的に弱かったときでさえ、米帝国は朝鮮半島でもベトナムでも中国を打ち負かすことはできなかった。いまなら、米国が南シナ海の戦場で中国を打ち負かす可能性はゼロ以下だ。
米国をとりまく状況は最悪だ。
覇権国アメリカのハードパワー(軍事力)とソフトパワー(経済力他)は、ウクライナにおけるNATOの屈辱的な敗北と、ガザでの虐殺への加担によって、暗黒の虚無に投げ込まれた。
同時に、BRICS10を率いるロシアと中国の戦略的友好関係が、グローバル・サウスにかなり現実的な選択肢を提供し始めたことで、米帝国の世界での経済力は非常に大きな打撃を受けようとしている。
中国の学者たちとの交流は、私にとって貴重なものなのだが、彼らがいつも思い起こさせてくれるのは、歴史の舞台とは一貫して、貴族階級及びあるいは金権政治家が互いに戦いあう遊び場であったという事実だ。いま西側連合は、金権政治のなかで最も有害な部類にあたる悪徳政治の方向に「導かれて」いる。
中国がいみじくも、「十字軍国家」と名付けた西側諸国は、いまや経済的にも社会的にも軍事的にも疲弊しきっている。さらに悪いことに、ほぼ完全に脱工業化している。少なくとも、十字軍の中で脳が機能している人々は、中国からの「切り離し」が大きな災いをもたらすことを理解している。
中国との戦争に向けた西側諸国の傲慢で無分別な衝動を排除することはできない。中国側は、西側が再び永遠の戦争を始める口実を与えないように、細心の注意を払って自制している。
その代わりに、中国は米帝国がよく使う戦術を逆に繰り出している。米帝国とその属国(日本、韓国)に対して、希土類の輸入で制裁を加えているのがその一例だ。さらに効果的なのは、BRICS10カ国、オペック・プラス加盟国、EAEU加盟国、そしてほとんどのSCO加盟国の全面的な支援を得て、米ドルを回避し、ユーロを弱体化させようとするロシアと中国の協調的な動きである。
台湾という難題
中国が繰り出す絶妙な一手を一言で言えば、戦力をまったく駆使せず「規則に基づく国際秩序」を終わらせるというものだ。
台湾は戦火が交わされないままの大きな戦場であり続けるだろう。大雑把に言って、台湾の人々の大多数は中国との統一を望んでいないし、かといって米国がけしかける戦争に乗ろう、とも思っていない。
一番欲しいのは現状維持だ。中国も別に焦っていない。鄧小平の計画では、2049年までのいつかで台湾が戻ればいい、と考えていた。
いっぽう震えるほど焦っているのは米帝国だ。またぞろ「分断して統治せよ」の手法を駆使して、混乱を深め、止めようのない中国の台頭を弱体化させようとしている。
大規模かつ繊細な文書の読み取りをとおして、中国政府は、台湾のあらゆる動きをつぶさに追跡している。 中国側は、台湾側が平和的な環境で繁栄するためには、交渉する内容が存在するうちに交渉する必要があることを知っている。
頭脳明晰な台湾人なら誰でも--そして台湾には科学に詳しい一流の頭脳の持ち主がたくさんいる--、米国が自分たちのために戦って死んでくれるとは期待できないことを知っている。まず第一に、米帝国が中国と通常戦争をする勇気がないことを知っているからだ。負けるのがわかっているからだ。しかも(米帝国がいかなる手段を行使しても)惨敗することを知っているからだ。核戦争も起こらないだろう。
中国の学者たちが私たちに好んで思い出させてくれる事実は、19世紀に清朝(1644-1912)のもとで中国王朝が完全に分断されたとき、「中満支配層は自分たちはこうであるという思い込みを放棄することができず、強硬な必要な措置をとることができなかった」ことだ。
いまは例外主義者国家たる米帝国が、自分たちの神話的な自己の姿に対する思い込みを保とうとして、宙返りを繰り返しているのだ: ナルキッソスは自分で作った池の中で溺れ死んだ。
辰年の今年は、主権が支配する年になると言っても言い過ぎではないだろう。米帝国はハイブリッド戦争を仕掛けようと躍起になっており、自国を他国に売りさばいて私腹を肥やした清朝時代の買弁のような、帝国に喜んで追随する商売人支配者層はグローバル・サウスを絶えず妨げる障害となるだろう。しかし、少なくとも、より平等で公正な体制に向けた戦いを次の段階に進めるための、気骨、資源、組織、視座、そして普遍的な歴史観を備えた3つの極が存在する:それは、中国、ロシア、イランだ。
Year of the Dragon: Silk Roads, BRICS Roads, Sino-Roads
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:ストラテジック・カルチャー(Strategic Culture) 2024年1月12日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年2月2日
中国、ロシア、イランは、より平等で公正な体制に向けた戦いを次の段階へと進めるだろう、とペペ・エスコバルは書いている。
白熱する2024年を迎えるにあたり、4つの大きな潮流が相互接続されたユーラシア大陸の進展を決定づけるだろう。
1. 金融・貿易の統合が当たり前になる。ロシアとイランはすでに金融上のやり取り伝達体系を統合し、SWIFT(国際銀行間通信協会)を迂回してリヤルとルーブルで取引している。 ロシアと中国はすでにルーブルと人民元で決済し、中国の巨大な工業能力とロシアの巨大な資源とを結びつけている。
2.ソ連後の同地域の経済統合は、ユーラシア大陸に偏っていたが、今後はユーラシア経済連合(EAEU)を経由するのではなく、上海協力機構(SCO)と連動した流れが主流となる。
3.ハートランドに親欧米派が大きく進出することはなくなるだろう。中央アジアの「親米スタン諸国」は、SCOを通じて組織される単一のユーラシア経済に徐々に統合されていくだろう。
4.覇権国たる米国とその衛星国(欧州と日本/韓国/豪州)が、BRICSの3強国(ロシア、中国、イラン)に代表されるユーラシア統合と、北朝鮮、そしてBRICS10に組み込まれたアラブ世界と対峙することで、衝突はさらに先鋭化するだろう。
ロシアの最前線では、他の追随を許さない政治学者であるロシアのセルゲイ・カラガノフがこんな頭ごなしの言い方をした:「我が国の根源がヨーロッパにあることを否定すべきではありません。確かに今まで、ヨーロッパは我が国に多くのものを与えてくれました。しかし、ロシアは前進しなければなりません。ただし進む方向は西側ではなく、東と南です。そこに人類の未来があるからです」と。
東と南にある国は、龍の国だ。今年は辰年なのだから。
毛沢東と鄧小平がつけた道筋
2023年に中国人が鉄道で移動した回数は36億8000万回で、これは過去最高記録である。
中国は、2030年までにAIの世界最先端国になる道を急速に歩んでいる。例えば、テック業界大手の百度(バイドゥ)社は最近、ChatGPTに対抗する「文心一言(Ernie Bot)を販売し始めた。中国のAIは医療や教育、娯楽業界で急速に拡大している。
効率が鍵だ。中国の科学者たちはACCELチップを開発した。ACCELチップのディープ・ラーニング能力は1秒間に4.6兆回の演算をおこなえるが、それと比べてこれまでのNVIDIAのA100は1秒間に0.312兆回の演算しかこなせなかった。
中国では毎年、米国よりも100万人以上多いSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の学生が卒業している。これはAI分野にとどまらない。アジア諸国は科学や数学の競技会で常に上位20%に入る。
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は地政学に関してはお粗末な研究しかできていないかもしれない。しかし少なくとも、同研究所は44の重要技術分野で地球のどんな国々が先頭を走っているかについて示す公共事業をおこなっている。
それによると、中国は37分野で先頭であるとされている。いっぽう米国は7分野だ。両国以外の国はどの分野においても先頭とはされていない。中国が1位とされている分野は、防衛、宇宙、ロボット工学、エネルギー、環境、生物工学、先端材料、量子技術、そしてもちろんAIである。
中国はいかにしてここまで来たのか? いまこそ、モーリス・メスナーが1996年に出版した『鄧小平の時代:中国社会主義の運命への探求、1978-1994年』を読み返すと、非常に勉強になる。
まずは、毛沢東政権のもとで、何が起こったのかを把握しておく必要がある。
「1952年から1970年代半ばまで、中国の純農業生産高は年平均2.5%の割合で増加した。なお、日本の工業化が最も激しく進んだ時期(1868年から1912年まで)における工業生産高の伸び率は1.7%だった」
産業分野においても、全ての分野で生産高は向上した。具体的には、鉄鋼生産や石炭、セメント、木材、電力、原油、化学肥料の分野だ。「1970年代半ばまでに、中国はジェット機や大型トラクター、鉄道機関車、近代的な外航船舶も大量に生産するようになった。中華人民共和国はまた、大陸間弾道ミサイルを備えた重要な核保有国となった。1964年には初の原爆実験に成功し、1967年には初の水爆が製造され、1970年には人工衛星が軌道に打ち上げられた」
毛沢東のおかげだ。彼は中国を「世界で最も遅れた農業国のひとつから、1970年代半ばまでに第6位の工業大国へと変貌させた」。ほとんどの主要な社会的・人口統計的指標において、中国は南アジアのインドやパキスタンだけでなく、「一人当たりGNPが中国の5倍である『中所得』諸国」と比べても上位に立っていた。
これらすべての躍進が鄧小平政権に引き継がれた。「1950年代から1960年代にかけての、集団化された農民によって建設されたダム、灌漑施設、河川堤防などの大規模な灌漑・治水事業がなければ、鄧小平時代の個人農家における高収量は実現しなかっただろう」。
もちろん歪みはあった。鄧小平による推進が、官僚特権階級が主導する事実上の資本主義経済を生み出したのだから。「すべての資本主義経済の歴史がそうであったように、国家権力は中国の労働市場の確立に大きく関与した。実際、中国では、非常に抑圧的な国家機構が、労働の商品化において特に直接的かつ強制的な役割を果たした。この過程は、歴史的に前例のない速さと規模で進行した」
鄧小平の経済的大躍進が、社会的にどのような災厄をもたらしたかについては、いまだに議論が尽きない。
悪徳政治のもとでの帝国
習近平時代が困難な状況に対して毅然として立ち向かい、さらには解決しようとしているなかで、さらに状況を困難にしている要因に、中国と覇権国家米国とのあいだの悪名高い「構造的矛盾」が常に干渉してくる点があげられる。
米国の政争において、中国に轟々と非難を浴びせかけることほど、正しい一手はなく、2024年には制御不能になるに違いない 。この11月の大統領選で民主党が大失敗し、共和党大統領になるとすれば、大統領がトランプになろうがなるまいが、ロシアではなく中国を最大の脅威とする冷戦3.0あるいは4.0が勃発することは疑いない。
そして台湾の大統領選も間もなくだ。独立派候補が勝利すれば、緊張関係は飛躍的に高まるだろう。それに加えて、ホワイトハウスの住民が熱狂的な嫌中論者になればどうなるかを想像してみてほしい。
中国が軍事的に弱かったときでさえ、米帝国は朝鮮半島でもベトナムでも中国を打ち負かすことはできなかった。いまなら、米国が南シナ海の戦場で中国を打ち負かす可能性はゼロ以下だ。
米国をとりまく状況は最悪だ。
覇権国アメリカのハードパワー(軍事力)とソフトパワー(経済力他)は、ウクライナにおけるNATOの屈辱的な敗北と、ガザでの虐殺への加担によって、暗黒の虚無に投げ込まれた。
同時に、BRICS10を率いるロシアと中国の戦略的友好関係が、グローバル・サウスにかなり現実的な選択肢を提供し始めたことで、米帝国の世界での経済力は非常に大きな打撃を受けようとしている。
中国の学者たちとの交流は、私にとって貴重なものなのだが、彼らがいつも思い起こさせてくれるのは、歴史の舞台とは一貫して、貴族階級及びあるいは金権政治家が互いに戦いあう遊び場であったという事実だ。いま西側連合は、金権政治のなかで最も有害な部類にあたる悪徳政治の方向に「導かれて」いる。
中国がいみじくも、「十字軍国家」と名付けた西側諸国は、いまや経済的にも社会的にも軍事的にも疲弊しきっている。さらに悪いことに、ほぼ完全に脱工業化している。少なくとも、十字軍の中で脳が機能している人々は、中国からの「切り離し」が大きな災いをもたらすことを理解している。
中国との戦争に向けた西側諸国の傲慢で無分別な衝動を排除することはできない。中国側は、西側が再び永遠の戦争を始める口実を与えないように、細心の注意を払って自制している。
その代わりに、中国は米帝国がよく使う戦術を逆に繰り出している。米帝国とその属国(日本、韓国)に対して、希土類の輸入で制裁を加えているのがその一例だ。さらに効果的なのは、BRICS10カ国、オペック・プラス加盟国、EAEU加盟国、そしてほとんどのSCO加盟国の全面的な支援を得て、米ドルを回避し、ユーロを弱体化させようとするロシアと中国の協調的な動きである。
台湾という難題
中国が繰り出す絶妙な一手を一言で言えば、戦力をまったく駆使せず「規則に基づく国際秩序」を終わらせるというものだ。
台湾は戦火が交わされないままの大きな戦場であり続けるだろう。大雑把に言って、台湾の人々の大多数は中国との統一を望んでいないし、かといって米国がけしかける戦争に乗ろう、とも思っていない。
一番欲しいのは現状維持だ。中国も別に焦っていない。鄧小平の計画では、2049年までのいつかで台湾が戻ればいい、と考えていた。
いっぽう震えるほど焦っているのは米帝国だ。またぞろ「分断して統治せよ」の手法を駆使して、混乱を深め、止めようのない中国の台頭を弱体化させようとしている。
大規模かつ繊細な文書の読み取りをとおして、中国政府は、台湾のあらゆる動きをつぶさに追跡している。 中国側は、台湾側が平和的な環境で繁栄するためには、交渉する内容が存在するうちに交渉する必要があることを知っている。
頭脳明晰な台湾人なら誰でも--そして台湾には科学に詳しい一流の頭脳の持ち主がたくさんいる--、米国が自分たちのために戦って死んでくれるとは期待できないことを知っている。まず第一に、米帝国が中国と通常戦争をする勇気がないことを知っているからだ。負けるのがわかっているからだ。しかも(米帝国がいかなる手段を行使しても)惨敗することを知っているからだ。核戦争も起こらないだろう。
中国の学者たちが私たちに好んで思い出させてくれる事実は、19世紀に清朝(1644-1912)のもとで中国王朝が完全に分断されたとき、「中満支配層は自分たちはこうであるという思い込みを放棄することができず、強硬な必要な措置をとることができなかった」ことだ。
いまは例外主義者国家たる米帝国が、自分たちの神話的な自己の姿に対する思い込みを保とうとして、宙返りを繰り返しているのだ: ナルキッソスは自分で作った池の中で溺れ死んだ。
辰年の今年は、主権が支配する年になると言っても言い過ぎではないだろう。米帝国はハイブリッド戦争を仕掛けようと躍起になっており、自国を他国に売りさばいて私腹を肥やした清朝時代の買弁のような、帝国に喜んで追随する商売人支配者層はグローバル・サウスを絶えず妨げる障害となるだろう。しかし、少なくとも、より平等で公正な体制に向けた戦いを次の段階に進めるための、気骨、資源、組織、視座、そして普遍的な歴史観を備えた3つの極が存在する:それは、中国、ロシア、イランだ。