<記事原文 寺島先生推薦>
How NATO states sponsored ICC prosecutor’s Putin arrest warrant出典:グレー・ゾーン
2023年4月13日
筆者:マックス・ブルーメンサル(MAX BLUMENTHAL)
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ>
2023年4月27日
ウクライナのヴォロデーミル・ゼレンスキー大統領と面会するICCのカリム・カーン最高検察官。2023年3月ICCのカリム・カーン最高検察官は、NATO加盟諸国から何百万ドルものカネを受け取り、ウラジミール・プーチン大統領に対する逮捕状をでっち上げておきながら、しっかりと文書に残されている米国やイスラエルの戦争犯罪の捜査には手を出していない。その過程で、ワシントンやロンドン、キエフ、さらにはハリウッドにまで、彼には力強い友人ができた。 カリム・カーンは、国際刑事裁判所の最高検察官をつとめている人物だが、2023年3月3日、演台の前に立ち、尋常ではない発言をした。「私がウクライナの親愛なる友人たちに愛情や気遣いをどれだけ持っていたとしても、ICCの最高検察官として特定の国に偏った関心を持たないということは当然のことです。私たちは、敵対する勢力に対抗しようとする組織ではありません。」
カーンは英国なまりの英語でこう語った。「私たちの拠り所は法です。私たちが拠り所とし、遵守しているのは法の下の秩序です。」
カーンがこのような司法権の独立を重視する立場を表明し、「法の正義のための連合」の会合が開かれたという見出しが踊った。その会合とは、ウクライナのリヴィウで個人的に開かれたものであり、主催者はヴォロデーミル・ゼレンスキー大統領だった。その場でカーンはウクライナの大統領と握手を交わし、メリック・ガーランド米司法長官と協議した。同司法長官がこの会合に立ち寄った目的は、バイデン政権によるロシアのウラジミール・プーチン大統領を戦争犯罪という罪状で法廷に引きずり出す取り組みを前進させるためだった。
これは2022年2月のロシアによる軍事侵攻開始以来、カーンにとって4度目のウクライナ訪問であった。2023年3月17日、カーンはICCによる正式なプーチンに対する逮捕状を出し、ウクライナの子どもたちをロシア各地の「一連の収容所」に「不法に連行した」として同大統領を非難した。この逮捕状が届いたのは、NATOによるイラク侵攻から20年になる日の数日前だった。このイラク侵攻は、米・英当局が犯した戦争犯罪であるのに、ICCCは今に至るまで起訴はしていない。
当グレー・ゾーンが
報じた通り、ICCによる逮捕状が出されたきっかけとなったのは、国務省が資金を出した報告書であり、その中身には現地調査も戦争犯罪の具体的な証拠もなかった。さらにロシアが本当にウクライナの子どもたちを大規模な連行作戦の対象ととらえていたかを証明する内容も含まれていなかった。実際のところ、この報告書の調査にあたった人々も、「この報告書に記載されていた収容所において、性的虐待や肉体的な虐待を含む、子どもたちに対する虐待行為があったことを示す文書は見つからなかった」ことを認めている。 さらに、この調査報告書の主執筆者が、グレー・ゾーンのジェレミー・ロフレドに語ったところによると、この調査団が調べたロシアの子ども収容所の「大部分」において主に行われているのは、「文化的な教育活動」いわば、お楽しみのようなものです」。
カーンはプーチンを逮捕することについては政治から独立した行為だと明言しているが、カーンが西側各国政府と密接につながっていることは事実だ。その西側各国政府こそ、現在ウクライナを戦場にしたロシアとの代理戦争にいそしんでいるのだ。これまでカーンは、ICCによるイスラエルの戦争犯罪に対する訴追については、保留の立場を取っている。このため、占領されたガザ地区での恐ろしい暴力行為の被害者の代表をつとめる人権法律家をやきもきさせている。さらにカーンは、米軍がアフガニスタンで起こした行為に対する国際裁判を公式に却下している。
ウクライナに焦点をあてた言動を取っているカーンは、自身の事務所に対する西側からの金融的支援を急増させてきた。その多くの資金は、ロシア当局についての調査に充てられた。ICCが発行したプーチンに対する逮捕状が出されたのは、偶然にもその主要な資金提供者らが裁判を起こす会議を英国のロンドンで持ったのと同じ日だった。
ICCの最高検察官の政治的なつながりは、これだけでは終わらない。有名人弁護士であるアマル・クルーニーが、カーンの事務所の特別顧問として活動してきたのだ。同時に彼女は、ウクライナ政府に助言を与え、ICCやそれ以外の国際的な機関を通じてロシア当局を標的に起訴を起こすよう促していた。さらにクルーニーは外務・英連邦・開発省との連絡係としても活躍していた
となれば、20年にわたるICCとの間に絶え間ない敵対関係があったワシントン当局が、突然この裁判所との関係が雪解けし、その最高検察官から慕われるようになったことは、別に驚くことではない。
米国のメリック・ガーランド司法長官とカリム・カーン(左)。ウクライナのリヴィウにて。2023年2月28日ICCのカーン最高検察官は、米国からの支援を得て、「エルサレムに安堵のため息」をもたらした 米国のジョー・バイデン大統領は、ICCの最高検察官カーンがプーチンに対して逮捕状を出したことを、米国が手放しで
支持する方向性を打ち出す手助けをし、この行為を「正当である」とした。共和党議員団においては、ウクライナでの代理戦争を米国上院で最も熱狂的に応援しているリンゼー・グラム議員がICCによるこの行動をさらに感激して受諾し、ICCの最高検察官を、
現代におけるナチ戦犯追及者であると褒め称えている。
米国当局が突然ICCを受け入れるようになったことは、突然のことであり、明らかに日和見主義と呼べるものだ。これまで20年間ずっと、両者は反目し合ってきたのだから。
米国のジョージ・W.ブッシュ大統領が2001年にホワイトハウス入りしたほぼ直後に、同大統領の行政府は、
軍人保護法の法案を提出した。この法律は、この先、戦争犯罪を理由にICCが米軍の軍人を起訴する事象が起こった際に、米軍がハーグにあるこの裁判所に対して妨害行為を行うことを承認するものだった。翌年この法案が上院を通過した際、この法案に反対した共和党議員は
一人もいなかった。
2019年、米国はICCに対する取り組みを強めたが、それは当時のファトウ・ベンソーダ最高検察官が、占領されたパレスチナ領でのイスラエルによる戦争犯罪の調査を行うと発表したからだった。マイク・ポンペオ国務長官はベンソーダ最高検察官を名指しで非難したが、上院は
党を跨いだ決議案を挙げ、同国務長官に、「政治色を帯びた」ICCへの攻撃を強めるよう要求した。グラハム議員はこの決議案に賛同した一人だった。 (バイデン政権も、ICCによるイスラエルの戦争犯罪の捜査には反対している)。
その翌年、ベンソーダ最高検察官が、アフガニスタンでの戦争犯罪に関して米国とタリバン両者の捜査を行う意図があると明言した際、米国当局は同検察官に
制裁を科し、同検察官の米国ビザを無効扱いにした。
2021年にベンソーダに代わって最高検察官に就任したカーンは、米国や米国の同盟諸国の中でもっとも暴力事象が多発する国々を慰撫するような働きを見せた。2022年6月のエルサレム・ポスト紙の
記事にはこうある。「エルサレムでいくぶん安堵のため息がもれていた」と。そしてその理由は、カーンが最高検察官に就任した1年目に、「イスラエル・パレスチナ問題に関する公式声明を何ひとつ出さず、公的な動きを何ひとつ見せなかったから」だとしていた。
「大きな進歩や措置はまったく取られず、(イスラエルによる残虐行為に対する)捜査は、同検察官の事務所にとっての優先事項ではなく、起訴された事例は今のところまったくありません。さらにカーンの前に事例が示されても、カーンは動こうとはせず、なんの表明も出してきませんでした。」と、ガザ占領地区でイスラエルによる暴力行為の被害者を代表する弁護士団の一人が、当グレー・ゾーンに語っている。
この弁護士によると、カーンがウクライナからロシアに市民を連行した事件に執着しているのは皮肉だという。というのも、何十万ものパレスチナの人々が強制連行されたことには目をつぶっているからだ。これらのパレスチナの人々は現在「イスラエル」と呼ばれている領地から、中東各地にある占領地や難民キャンプに連行されたのだ。「パレスチナでは、人々はもう何十年ものあいだ、連行され続けています。この事象は、歴史上で最もきちんと文章に残されているものです。パレスチナ問題こそ、法廷の信頼性を守るための最後の砦であるべきなのです。」とこの弁護団は語っている。
さらにカーンは、ICCによるアフガニスタンの捜査網を狭め、これらの戦争犯罪を行ったのをタリバンだけのせいにして、米軍を守った。「カーンがこのような決定を下したことではっきりと強められた印象は、ICCは西側が設置した西側のための機関であり、西側諸国の政治的な目論見を実現させるための道具にすぎないという事実です」とシャハラザード・アクバル元アフガニスタン独立人権委員会委員長がインターセプト紙に
不満をこぼしている。
「カーンによるこの決定は明らかに政治的なものでした。それ以外の解釈の仕方は本当にありません。この決定により、米国とその同盟諸国は牢獄から出られる無料券を手にしたのです」とアフガニスタンでの米軍の虐待行為についての捜査団の団長を務める米国のジェニファー・ギブソン弁護士は、カーンのとった行為について
述べている。
もっとも問題の多いこの2点の捜査を止めたことやロシアによるウクライナ侵攻を問題視した行為により、この検察官の事務所が従順な組織であることがはっきりと受け止められ、これまで叩かれる対象だったICCが突然西側から大量の金融支援を受けることになった。
「(ロシアがウクライナに侵攻した)2月24日の数週間後に、(国際刑事)裁判所には大量の現金や人々が流れ込むようになった」と
ジャスティスインフォ・ネットは報じている。
このカネの多くが直接カーンの事務所に流れ込んだが、そのカネの使い道は、ロシア当局を標的にした起訴を起こす取り組みに対してだった。人権NGOのヒューマン・ライト・ウォッチ所属のマリア・エレナ・ヴィニョーリがジャスティス・インフォネットに語ったとおり、「行われた様々な誓約の内容について、各国はそれほど注意はしていませんでした。各国はしばしば自国がウクライナにどれだけ貢献しているかを関連付けようとしていました。そのためICCの取り組みが政治的であったり偏ったりしているという印象をもたれているのでしょう」ということだ。
米国と英国政府がICCのカーンのために道を開いた 2022年2月28日のことだった。カーンは以下のような意図を
発表したのだ。「ウクライナの状況についての捜査を開始します。できるだけ早期にです。」これはロシア軍がウクライナ国内に侵攻した日からたった4日後のことだった。
その数日後の2022年3月2日、ハーグにある英国大使館がカーンに届けたのは、40人を超える英米の外交官の署名のある
委託書であり、その内容はカーンにICCのローマ規程違反の疑いでロシアを捜査することを促すものだった。
同日、グラハム上院議員は米上院に新しい
法案を提出したが、それは「ウラジミール・プーチンとロシア政権の構成員らに、プーチンの指揮下で行われた多くの戦争や侵略や人権侵害行為を行ったことに対する責任をとらせる」ことを求める内容だった。ジョン・ボルトンといったタカ派でさえ、ICCが発行する逮捕状を支持してしまえば、この先米国市民に対する法的行為を正当化される可能性が生じることを
警告していたにも関わらず、この法案は全会一致で採択された。
国際法違反にあたるとされた行為を非難するための法案を提出したほんの数時間後に、グラハム議員はツイートでプーチンの暗殺を求めていた。「ロシアにはブルータスはいないのだろうか? ロシア軍には、(ヒトラー暗殺を謀った)シュタウフェンベルク大佐よりも上手くやれる人材はいないのか?」という懇願を同上院議員は2022年3月にツイートしていた。「この悲劇を終わらせる唯一の方法は、ロシアにいる誰かがやつを追い出すことだけだ。」
2022年4月3日、バイデンはICCによる対露攻撃にさらに勢いをつけるかのように、プーチンを「戦争犯罪者」呼ばわりし、「戦争犯罪を裁く法廷」にプーチンを引き摺りだすよう求めていた。
バイデンの目的、さらにはバイデンと歩調を合していたICCの目的を前進させるべく、米国務省が2022年5月に発表したのは、紛争監視所を設立して、ロシアが犯したとされる戦争犯罪の明らかな証拠を集め、それら発見された証拠を広めるというものだった。その理由として、「検察官らが公表された資料をもとに刑事事件として立件できる可能性を持たせるためである」ことだとされた。
米国政界からの後押しを受けたカーンは、ウクライナへの最初の公式訪問に出向いた。
ウクライナ政府関係者の先導のもと、ウクライナのハルキウを訪問中のICCのカリム・カーン最高検察官 ウクライナへは4度、公式の物見遊山に出かけているカーンであるが、その最初の訪問は、2022年3月16日のことで、まずボーランドに入り、そこで難民救護施設でウクライナからの難民らと面会した。その後ウクライナの国境を越え、リヴィウでイリーナ・ベネディクトワと協議を行った。この人物はウクライナの検事総長である。その後カーンはゼレンスキーとリモートで話す機会を持った。
「私たちは不偏で平等で総合的にこの件にあたっています。強調したいことは、私たちはこの紛争に関わる全ての関係者と繋がりをもちたいと考えているという事実です」とカーンは主張していた。
カーンのウクライナへの二度目の公式訪問はそのほんの数週間後の4月に行われたが、その際ベネディクトワはカーンをブチャの市街地に案内した。ブチャはロシア軍が数週間占領したのちに、その4月の初めに撤退した地域だ。同時にウクライナ当局は、西側の記者団を墓地に連れていき、埋葬地を示して、そこがロシア側が市中で大規模な処刑を行った証拠だとしていた。
ブチャ市内のあちこちに散見された死体の画像を示すことで、ゼレンスキーはロシア政府を「
大量虐殺」を行ったとして非難し、米国のバイデン大統領は、プーチンを戦争犯罪の罪状で法廷に引き摺り出すことを
求めていた。しかしそのようなバイデンの要求は、自国の国防省の
控えめな主張とは食い違っていた。米国防省は、ロシア軍がブチャ市内でそのような処刑の形をとった大量虐殺を行ったという事実を「今の状況証拠だけで説明する」ことはできないというものだった。
2022年7月にカーンが3度目のウクライナ公式訪問を行った際は、ハルキウを訪れた。再度ウクライナのベネディクトワ検事総長が付き添い、カーンは、ICCがキエフに現地事務所を設置する計画を立てていることを
明らかにした。
その時点で、ゼレンスキー政権は13の野党を
違法とし、ゼレンスキーの対抗馬となる大統領候補を投獄し、政権に批判的な全ての報道機関を
閉鎖し、ロシア正教会の司教長を禁じ、その最高位の司祭を
逮捕しようとしていた。さらにキエフ政権は、政敵や人権活動家らを消し、迫害を加え、その口実をロシア側と結託してウクライナ当局者らを標的にした
暗殺計画に加担しているからだ、としていた。ネオナチの民兵らは、ロシア側に靡(なび)いているとされた人々を処刑する動画まで
録画していた。
その頃ウクライナ軍は、ドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国じゅうの市民を標的にした攻撃を激化させ、
市場を砲撃していた。その一例をあげると、バスに乗っていた通勤者らを
トチカUミサイルで大虐殺したこともあった。さらにウクライナ兵らは、非武装のロシア囚人や戦争捕虜を
処刑している様子を動画に収めたが、それは捕虜らの膝を
射撃している様子だった。
しかし、ウクライナを物見遊山中のカーンは、部下の職員らがカーンの眼前に提示したきっちりと文書に残されている虐待行為に対して、頑なに無関心を貫いていた。カーンの目がしっかりと向けられていた対象は、プーチンだった。そして、カーンが使命を果たすべく気前よくカネを投じてくれている西側の人々に対しても、だった。
四度目のウクライナへの公式訪問の際、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と面会中のカリム・カーン 第二弾 我らが少女を奪回せよ作戦 今年3月、カーンはウクライナへの4回目の公式訪問を行ったが、その目的を、こう語っていた。「ウクライナの国家指導者層とのつながりを強化するため」。リヴィウで、カーンは「正義のための連合」という会議に主賓として招かれた。この会議はゼレンスキーが個人的に招集したもので、この会議の目的は「ロシア政権の上層部に、ウクライナに対する侵略行為の刑事責任を取らせるため」だとのことだった。
その会議の
宣伝資料において、この「正義のための連合」の会合が強く主張していたのは、初めて聞くような、人々の感情に訴える問題についてだった。それは、「ロシアがウクライナの子どもたちを強制的に連行している疑いについて、この子どもたちを早急にウクライナに返還することが喫緊の課題である」というものであった。
この会議の主題は、明らかに2012年のコニー作戦の影響を受けたものだった。この作戦は、ウガンダのジョセフ・コニー将軍に対する作戦であり、同将軍は、「3万人以上の子どもたちを誘拐して軍の強化に充てた」と非難された。この言説を初めに
伝えたのは、今は
否定されているオンライン上のハッカーらだった。さらに、この会議が思い起こさせるのは、「我らが少女を奪回せよ」というハッシュタグが付けられて拡散された人権感傷主義者らによる取り組みだ。この取り組みを立ち上げたのは、
ミシェル・オバマ元大統領夫人を初めとする著名人らであり、北ナイジェリアのイスラム系民兵ボコ・ハラムが数百人の女学生を強制連行した事件を大きく伝える取り組みだった。
「正義のための連合」会議において、NATO当局者らは、影響を受けやすい西側自由主義者層の怒りを必ずや引き起こすと考えられる主題を提示できたようだ。
上の写真:「正義のための連合」の宣伝動画から。下の写真:2016年のオスカー賞授賞式で「我らが少女を奪回せよ」作戦の強化のために集まったハリウッド俳優たち
「正義のための連合」会議開催期間中ずっと、参加者らは繰り返し、ロシアが若者たちを強制連行したと決めつける発言を行っていた。「幼い子どもたちが誘拐され、洗脳され、ロシア国民になるよう強制されています」とオランダのウォプケ・フックストラ外相は演題から
主張し、「総掛かりでウクライナの子どもたちを強制連行した」としてロシアを非難した。
米国のメリック・ガーランド司法長官がリヴィウ訪問後に
語ったところによると、同長官は、特定すべき「人物を探し」、ロシアが「子どもたちを強制連行する行為を行った」とされる疑惑の証拠を立件する努力を行っていたとのことだった。
会議での
発言中、カーンはウクライナ国内の孤児院を訪問したことについて触れ、「子どもたちがウクライナ国外からロシア連邦の領地に強制連行されているという疑惑が私たちのもとに届いています」と語った。しかし、カーンは、訪問した孤児院から子どもが連れ去られてという事実があったとは言及しなかった。
ICCのウェブサイトが現在
提示しているのは、発言中に触れたウクライナの孤児院の空っぽの寝床の横にいるカーンの写真だった。この写真は明らかに、プーチンの部下らが寝床から幼い子どもたちをさらったと思わせるための広報作戦だった。この孤児院は前線から遙か離れたところにあるのに、カーンは見せびらかすかのように、ケブラー製の保護用ヘルメットを着用していた。

ロシア当局の餌食にされるウクライナの子どもたちを守る父親のような姿を見せていたわずか数ヶ月前、カーン自身の近親者が児童虐待を行った事件が発生していた。
2022年5月、カーンの弟であるイムラン・アフマド・カーンが、庶民院議員を辞したのは、15歳の少年に対して性的虐待を行ったとして
起訴されたからだった。アフマッド・カーンが18ヶ月服役したのは、有罪判決が出されたからだった。罪状は、その少年の二段ベッドによじ登り、股間をまさぐり、ジンを飲ませて裸の写真をとろうとしていた疑いだった。起訴後、また別の男性が、未成年時に虐待を受けたとして、アフマド・カーンを糾弾した。
カリム・カーンは弟の起訴に際して法的な支援を行う意思を示していないが、ガーディアン紙は、アフマド・カーンは「家族、特に兄のカリムやハレド(両者とも弁護士)との親しい関係を」維持しており、「カリムは、ハーグの国際刑事裁判所の最高検察官」だ
と報じた。
カーンのよりどころは、国務省が資金を出した「ホームランボール」的研究だった ウクライナについての公式発言中に、カリム・カーンがしばしば強調したのは、ブチャやハルキウのような戦場に足を踏み入れたことだった。それらの地域については、キエフ政権は恐ろしい戦争犯罪を行ったとしてロシアを糾弾していた。しかし、ICCがプーチンに対する逮捕状を出した際、起訴内容は、ロシア軍がこれらの地域で行ったとされた残虐行為に関するものではなかった。焦点とされていたのは、ウクライナの子どもたちを連行したことについてだった。
ICCの最高検察官が出した逮捕状は明らかに、
イェール大学の人道研究所(HRL)の研究に触発されたものだった。この研究は、国務省の「紛争と安定化作戦」という組織から資金提供をうけ、支援されているものだ。この組織は、2022年5月にバイデン政権が立ち上げた組織で、ロシア当局の処刑を前進させている。
その国務省が資金を出した報告書には、当グレー・ゾーンが
明らかにしたとおり、ICCの最高検察官の主張とは食い違う長文が記載されていた。さらにその内容に関して、報告書の執筆者が報道機関に出演して語ってもいる。ジェレミー・ロフレド記者との対談の中で、イェール大学ナサニエル・レイモンドHRL所長が語ったところによると、同所長の調査団が調べたロシアの青年向け施設の「大部分」では、「主に文化教育が施されていた。いわばお楽しみのようなものだった」という。
同所長の調査団がロシア国内のこのような保護施設をあえて訪問しなかった理由を聞かれたレイモンドは、こう答えている。「私たちは、ペルソナ・ノン・グラータ(入国が禁じられている人々のこと)ですので。私たちはロシアからは米国の諜報機関の延長的存在だと思われていますから。」
それと同時にこのイェール大学のHRL所長が明言したのは、この報告書が国務省の目的を果たすべく書かれたものであり、米国国家情報会議からの「多大なる圧力」を受けていた事実だった。さらに同所長が認めたのは、自身の調査団は国防総省の「
米国インド・太平洋軍」に依拠し、「太平洋軍を利用して衛星受信できる範囲を拡大し、シベリアや極東の複数の保護施設の様子を掴んだ」という事実だった。
レイモンドは、カーンがウクライナのブチャでロシアが行った戦争犯罪の疑惑について逮捕状を出さなかった理由についても質問を受けた。この事件は西側報道機関が何日間も取り上げ続けていた事件だ。この質問に対してレイモンドは、2023年3月にニューヨーク・タイムズ紙の複数の外国特派員との間で交わされた電話の内容について語った。
「私は金曜日に、ニューヨーク・タイムズの記者らと電話で話しました。これらの記者らは、ブチャの事件を取材していた人々です。基本的に、記者らはこんな感じでした。“ブチャの取材でピューリツァー賞を取りたいと思ったんだ。妙に思ったんだ。カーンが(幼い子どもたちの連行事件を)起訴して、ブチャのことは起訴しなかったことがね”。それで、私はこう言ったんです。“そんなことは、考えられる中で最悪の事態だったね”と。」
レイモンドは、最高検察官の考え方についてこう説明した。「カーンがブチャの件を起訴すれば、大混乱を招くことになったでしょうね。というのもそうなれば、カーンはロシアに自分の弱点を送り続けることになったでしょうから。ブチャで大虐殺があったのは自明でしょう。だからといって、(ICCの規定書である)ローマ規程に違反することに該当することにはなりません。意図的で体系的な軍師指揮のもとで行われたかどうかという点に関して、です。ロシアがこのような行為を行ったことを立件するには、鑑識や弾道学の知識が必要です。伝達手段も必要になります。ICCがそのような手段を持っているという証拠がないのです。」
イェール大学のHRLの所長によると、カーンは、「ホームランを打てそうなボールを投げることから始めたのです。基本的な話をさせてもらうと、ブチャの件でプーチンを起訴することは、プーチンの自白だけで、裏を取らずに(事件の)起訴をしているようなものになってしまうからです。子どもたちの連行行為の方が危険は少なくすみます。プーチンは、初歩的な殺害行為による起訴とはならなかったのです。」
さらにレイモンドは話を続けた。「ニューヨーク・タイムズ紙にとっては嬉しい話ではないでしょう。ブチャの件で、ICCが華々しくプーチンを起訴する算段をしていたのですから」。しかし、(カーンは)プーチンにこう言うつもりなのでしょう。「中佐を落下傘部隊から追い払いにいけ。そうすれば、貴殿に問題はない」と。
カーンに最も安易なやり方で逮捕状を出させたことに加えて、この起訴により、最も宣伝効果のある攻撃を加えることもできたのだ。それは、最高検察官を、ウクライナの子どもたちの救世主のように描くという攻撃だ。
その目的を達成すべく、カーンはアマル・クルーニーという決定的な助けを得て広報活動を行ったのだ。この人物は、世界で活躍する弁護士で、ハリウッド俳優である人権問題介入者を夫に持つ人物だ。そしてこの夫は、米国民主党に最も多額の寄付を行っている人々の一人だ。
2022年4月、ロシア当局を処刑する支援の声を高めようと国連に現れたあと、アマル・クルーニーと協議中のICCのカリム・カーン クルーニーとのつながり。カーンはハリウッドの人権問題介入者らと共闘している 2021年9月、ICCの最高検察官の地位についてから数週間たったカーンは、スーダンのダルフール地域での残虐行為の捜査において、アマル・クルーニーを特別顧問に
任命した。その5ヶ月後、ロシア軍がウクライナに入るやいなや、クルーニーは焦点を移動させ、ウクライナ政府からの
招聘を受け、「戦争責任を問う法的対策委員会」の一員に加わった。
カーンとアマル・クルーニーの協力関係が、少なくとも10年以上続いていることは、ICCの最高検察官である彼の「独立し、不偏で、総合的な」捜査を行うという発言に、更なる疑念が生じる理由となる。
レバノン生まれのアマル・クルーニーが、世界的に著名となったきっかけは、ときめくハリウッド俳優のジョージ・クルーニーと結婚したことだった。ジョージ自身も、著名な人権問題介入者であり、スーダン政府やスーダンのオマル・バシール元大統領を標的にした運動を先導していた。具体的には、経済制裁を課し、ダルフールでの行為を残虐行為だとして起訴する運動であった。米国内の
イスラエルの圧力団体や当時のジョージ・W.ブッシュ米大統領は、スーダン当局に対する戦いを深く支援しており、 ブッシュは豊かな石油埋蔵量をもつこの地域に
米軍を派遣すると脅し、バシール大統領に相対していた。 クルーニーといえば、アウシュヴィッツの記憶を思い起こさせることで、ダルフールへの米軍の介入を
主張していた。その後ICCがバシールに出した逮捕状は、最終的には意味をなさなくなったが、この取組により、クルーニーは世界の人権問題業界内で真の活動家であると受け止められることになった。
2016年、ジョージ・クルーニーは焦点を内政問題に転じ、自ら「節度を超えるくらいの多額の資金」と称した額を大統領候補であったヒラリー・クリントン元国務大臣に選挙運動費として
投じた。ジョージ・クルーニーとアマル・クルーニーが主催した資金集めの会合での投入額は、夫婦合わせて35万3400ドルにも上ったのだ。
2016年の大統領選において、ヒラリー・クリントンのための選挙資金活動のための会を主催した際のジョージ・クルーニーとアマル・クルーニー(右) 同年、ジョージ・アマル夫婦は、自費を投じて「正義のためのクルーニー財団」を立ち上げた。ビル・クリントンやバラク・オバマが大統領職を退いた後に立ち上げた財団と同様に、クルーニー夫妻によるこの行為も、自由主義派の
億万長者らから資金援助を受けていた。具体的には、ビル・ゲイツ、ジョージ・ソロスであり、マイクロソフト社や国連とも提携していた。さらに「正義のためのクルーニー財団」の公式提携先には、米・英政府が資金を出している諜報機関の代理組織である
べリング・キャット社も名を連ねている。

人権活動家であるというクルーニーの装いの裏にある目的は、米国当局の外交政策としっかり軌を一にしている。クルーニーの財団が人権運動に取り組む対象国は、米国が政権転覆を謀っている国なのだ。そのいっぽうで、米国やその同盟諸国、さらにはイスラエルが行った、しっかりと文書で証拠が残された残虐行為については目をつぶっている。例えば
ベネズエラは、米国が
制裁や激しい軍事クーデターを使って政権転覆を目論んだ国なのだが、クルーニー財団は、ICCによるニコラス・マドゥロ大統領に対する捜査を支援する
意向を示している。
自身の財団を監督しながら、アマル・クルーニーは
英国政府からいくつかの任務を委託されており、その中には、任務期間が2年のジェレミー・ハント英外相が主催する「報道の自由に関する英国特使」の仕事や、英国司法長官の公式国際法律顧問の仕事もあった。
クルーニーは現在投獄されているウィキリークスを出版していたジュリアン・アサンジの弁護団の
一員だったが、ハント外相がクルーニーの元顧客であるアサンジを
非難し、アサンジの逮捕を擁護し、米国への連行を
承認した際、クルーニーは沈黙していた。
クルーニーが、2019年に「報道の自由に関する英国特使」に任命された際のアマル・クルーニー(左)とジェレミー・ハント英外相。 2022年4月、クルーニー財団は、調査団をキエフに派遣し、ウクライナ政府に関するICCの捜査活動を支援すると発表した。その4月、アマル・クルーニーは、国連の人権委員会にカーンとともに顔を出したが、その際アマルは、ロシア政府がウクライナの多くの子どもたちの誘拐に加担している疑惑について初めて公表したのだ。
「こんなことがありえるのでしょうか? 何千もの子どもたちが強制的にロシアに連行されるなんて。10代の少女たちが、町中で、家族や近所の人の面前で連行されるなんて。残念なことに、これは事実なのです」とクルーニーは断言したが、その主張を裏付ける証拠は何も示していなかった。
その2ヶ月後、カーンとアマル・クルーニーは、ウクライナの検事総長イリーナ・ベネディクトワとの会談で
再度顔を合わせた。これはロシア当局を起訴することに関して開かれたEU傘下の欧州司法機構の会議と併せて行われたものだった。
続いて9月には、カーンは別の欧州司法機構の「ウクライナでの戦争責任を追求するための協同」会議と併せて開かれた会議に参加した。この催しには、ウクライナ・ドイツ・デンマーク・オランダ政府が資金を出していた。カーンICC最高検察官は、アマル・クルーニーやウクライナのドミトリー・コストリン新検事総長とともに、この会議の議長をつとめた。(ゼレンスキー大統領は7月に、
反逆行為の疑いがあるとしてベネディクトワを罷免していた)。
カーンとアマル・クルーニーとの関係が始まったのは、それぞれが世界的に有名になる前からのことだった。遡ること2010年、アマルがまだアマル・アラムディンという名だったとき、アマルはカーンが著者の一人であった随筆集に
寄稿していた。さらにカーンはクルーニーが英国の弁護士フィリッパ・ウェブとともに著した2022年の書籍の
推薦広告を執筆し、「力作である」と評していた。(クルーニー同様、ウェブもキエフ政権を支援する「ウクライナで行われた戦争犯罪の責任に関する対策委員会」の一員である)。
「正義のためのクルーニー財団」の
ウェブサイトには、クルーニーに対する賞賛が嵐のように掲載されていて、以下のように褒め称えている。「黙らせようとする多くの圧力にも負けずに(勇気を持って)発言し続けている巨人である。(アマル・クルーニーが)断固として沈黙させられないよう努力する姿のおかげで、私たちには沈黙しないで発言する勇気が与えられ、さらに(アマル・クルーニーが)決して希望を捨てようとしない姿のおかげで、私たちは前に進む力を与えられている」と。
ICCのカーン最高検察官がクルーニーを崇拝していることが、明らかにカーンの決意に影響を与え、クルーニーを自身の事務所の顧問の座にとどまらせている。クルーニーが英国政府やウクライナ政府のために活動していても関係ないのだ。両国政府は、ロシアと戦火を交えているというのに。
当グレー・ゾーンは、ICCの最高検察官の報道担当者に、カーンがクルーニーと親しい協力関係にあることについて問い合わせを行い、クルーニーがウクライナ政府や英国政府のために活動していることが、カーンが誓約した「独立した、不偏で、総合的」な立場と矛盾するのではないかと問いただした。その返答はない。
2023年3月20日。ロンドン。ICCのカーンとドミニク・ラーブ英大法官ロンドンでの資金回収会議に合わせて取られたICCの行為により戦争終結に向かう交渉の芽は摘み取られた 今年の3月20日、プーチンに対する逮捕状が出されたちょうど一週間後、カーンはロンドンでの或る催しに姿を見せた。この催しは、英国政府とオランダ政府が主催した催しで、西側諸国にウクライナでの代理戦争にもっと資金を提供するよう呼びかけるためのものだった。その場において、 カーンはドミニク・ラーブ英大法官や大法官の対談相手であるいくつかのNATO諸国やウクライナから来た役人らと大笑いしている姿があった。
ガーディアン紙は、プーチンに逮捕状か出された時期と寄付者らの会合があった時期が重なっていたことを
指摘し、こんな記事を載せていた。「カーンは先週、ロシア大統領に対して劇的な動きを見せたが、これはロンドンで開催された或る会議の前に取られた行為だった。その会議は、英国政府とオランダ政府か主催したもので 、その目的は資金を集めて、ICCによるウクライナ国内での戦争犯罪の捜査活動に充てることにあった」と。
英国とその同盟国あわせて40ヶ国の法務大臣が一堂に会したその会議では、
500万ドルの資金が集められ、ロシア当局を起訴するためのICCの捜査費用に充てられた。
この資金回収会議が行われたのは、米・英主導で行われたイラク侵攻が開始されて20年になる日の3日後だった。この侵攻により、推定100万人以上のイラク国民の死者が出たとされている。しかし2020年、ICCはイラクにおける
英国の残虐行為の捜査を打ち切った。
カーンがパレスチナ占領地を訪問し、休止されているイスラエルによる迫害行為の捜査を強化することを誓約してから3ヶ月以上経つ。イスラエルの暴力によるパレスチナの被害者を代表する弁護士は、当グレー・ゾーンにこうこぼしていた。「カーンがパレスチナに行く計画があるのかどうかを知っている人は皆無です。パレスチナの件が優先事項ではないことは明らかです。」
もうひとつ明らかなことは、ICCがプーチンに逮捕状を出したことが、ウクライナでの紛争を交渉で終わらせる方向性の新たな障害になっているという事実だ。ゼレンスキーの首席補佐官であるミハイル・ポダリャクは、ICCがプーチンに逮捕状を出した直後にこんな
ツイートをしている。「今のロシアの指導者層と交渉をする余地は全くない」と。