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繕い裁つ人 4(池辺 葵)

繕い裁つ人(4) (KCデラックス Kiss)繕い裁つ人(4) (KCデラックス Kiss)
(2013/07/12)
池辺 葵



「時が経つと凪いでくる。忘れられるのね、人は」

親友の結婚式のためにウエディングドレスを仕立てることになった市江。
思い出されるのは洋裁店の初代であった祖母が母のために仕立てた一着のウエディングドレス。
着られることのなかった祝福の服に込めた想いとは。
そして、その祖母の服を飾る展示会が、百貨店で開かれることに。



今回は、市江さんと藤井さんのすれ違い巻だったなーと思います。
庄司さんとの結婚が決まり、少しずつ変わっていく牧さんを見ている市江さん。
その市江さんに、藤井さんは
「市江さんは誰にも 何ひとつ譲っちゃだめだと思いますよ」
「何かひとつでも失くしたら 南市江という仕立て屋ではいられなくなる」
と。

聞きようによっては“今”の市江さんを大絶賛しているようですが、私にはこれが呪いの言葉のように聞こえました。
祖母の仕立て屋を引き継いで模索していく最中の市江さん。
市江さんは確固とした意思を持っているように見えますが、どうしたって時代の変化というのはあります。
時代に、人に合わせて、市江さんのやり方は変わるはず。
そして市江さんも、そう思っているのではないかな。
そんな彼女に藤井さんが言った言葉は、彼女を縛るものでしかないような気がします。

だから、という訳ではないでしょうが、その後もちょくちょく、二人の間には見えない壁か河が存在しているようでした。
どうしても隔たりを感じる。。。
そこへいくと翔くんの直球は分かりやすくていいですねw

「ほっといても人って変わってくんじゃないんすか?」
「藤井さん 市江さんが変わっちゃやなの?」
とか(笑)

ずばっと言い、ずばーっと聞いてくれたw
多分、自分の知らないところで変わってしまうのがヤなのではないかなーと思うのですが。
どうでしょう。

そうは言っても、やはり市江さんは骨の髄まで仕立て屋なんですね。
子ども時分の出来事も、お祖母さんを貶されて睨んでいるのかと思いきや、闇夜に浮かぶドレスを見ていたとは。
それで
「私はものごころつく前から仕立て屋でしたから」
って。
「どんな顔で言ってんのかと思って」
て、思った藤井さんの気持ちがなんだかよく分かります。

この巻では牧さんがご結婚。
おめでとうございます~。
そして憎いのが巻末おまけ漫画。
前巻で離婚された、さつきさんのお話が。
あのワンピースは、さつきさんの希望で仕立てたものかしら。。。
洋服をオーダーするくらいに気持ちが回復したってことなのかな。
だとしたら嬉しいです。
やっぱり洋服によって、人は気分が変わるよなー。
元気な姿が見られてよかった。私まで嬉しくなってしまいます。

結婚、といえば、市江さんのお母さんとお祖母さんのエピソードも今回出てきました。
あの、明るくて朗らかな感じのお母さんが、まさかお父さんと駆け落ち染みたことをやっていたとは!
情熱的~。
生まれてすぐ、お祖母さんに引き取られて洋裁の技術を教え込まれたという市江さん。
その後のお話でも、ランドセルを背負った市江さんとお祖母さんの二人しか家にはいない様子が描かれています。
…ということは、実は市江さんとお母さんって、結構な年数一緒に暮らしていなかったのでは。。。
なかなか複雑な家庭環境で育っているんですね、市江さん。
お母さんとお祖母さんは色んなすれ違いを経てきたようですが、お祖母さんが作ったというウエディングドレスのエピソードが素敵。
「ウエディングドレスに刺した刺繍の数は 願った幸せの数だ」
なんか素敵ですね。
オーダーものだからこそ、なエピソード。
一刺し一刺し、着る人の為にかけた手間と技術。
「この執念のような熱だけはまだわからないでいる」
と語る市江さん。
牧さんのドレスに試行錯誤している姿はあれど、そういう執念のような熱、という感じではなかったな。
この熱を市江さんが感じるのはまだ先、ということでしょうか。

牧さんは結婚してしまったけど、若手デザイナーの翔くんが“定番”の洋服を作ろうとやる気になっています。
そしてなんだかそれに巻き込まれそうな市江さん。
更に有名(?)デザイナーのアラキさんと立原さん。
新キャラですが、同じ服飾に携わる者同士、なにかありそうなような…?
今月6巻が発売。しかも最終巻だとか!
最終巻を読む前に是非とも5巻の感想を書きたいと思います。


繕い裁つ人 3(池辺 葵)

繕い裁つ人(3) (KCデラックス)繕い裁つ人(3) (KCデラックス)
(2012/08/10)
池辺 葵



「私が願ったのはたった一人の方の最高の喜びだけですわ」


気が付けば、もう今月には4巻が発売しているんですよね!
実はまだ手に入れられていないのですが、どうせなら4巻を読む前に3巻の感想を書いておかなきゃー! と。
今続きがとても楽しみなシリーズですので、3巻を読み返しながらもこれからどんな展開があるのかと思うとわくわくします(笑)

以下、1話ごとの感想を。


第十一話

父を亡くした姉妹が出て来ます。
その内、妹さんの方は市江さんの先輩でもあるみたいですね。
お通夜に手伝いに行く辺りに、距離の近さと近所づきあいの濃厚さを感じます…。
足を悪くしたお父さん。
お姉さんは多分そうなる前に海外へと旅立ってしまったのかな?
妹の万智先輩は、長年お父さんの面倒を見ながら仕事も家のことも…。
更に、お姉さんには家を出る時にお父さんから上質の布が贈られていました。
この布が、万智先輩のお姉さんに対する感情により複雑さを持たせることに…。
市江さんも手を付けることが躊躇われるくらいの布。
そこにはもともとの価値に加え、家族三人の思いがそれぞれに込められていたからなのでしょう。
姉妹関係の複雑さ…それは、性別問わず兄弟がいる人多くが感じる要素があるのではないでしょうか。
私はなんだか万智先輩の気持ち、分かる気がするなー。。。



第十二話

冒頭の市江さんと藤井さんが…!!
すっかり恋人同士のような雰囲気(というか、ある意味熟年夫婦・笑)のようでたまげました…!
すごいなー、言葉を交わさなくてただ傍にいるだけで時間がもっちゃうって素敵だなー。
やっぱりこの二人には上手くいって欲しいと再確認する出来事でした。
そして牧さんに恋人ができたんですね。
庄司さんに懇々とプレッシャーをかける(?)市江さんが可笑しいw
そして新しい恋人同士の他、南洋裁店には(本物の)熟年夫婦の旦那さまが、奥さんのお洋服を直しに来られました。
二組のカップルから、それぞれ名言が。
「何もかもわかりあおうと 急がなくてもいいと」
「嫁に来る時に 捨てれるもんは全部捨ててきたんだから」
前半が庄司さん。
後半が依頼にきた旦那さん。
特に後半、旦那さんが持ってきたのはウールジャケット。
なんでも奥さんが初恋相手からもらったものらしく、友人の仕立て屋さん(なんとテーラー橋本さん)にも呆れられる始末。
でも、こう言って彼女の想いを汲んであげようとするんですよー。
まあ、肝心な奥さんはもうすっぱり過去の想いとは決別していて「新しいの買ってくれればいいのに」とけんもほろろ(笑)
女性の割り切りを見ました(笑)
それでも折角旦那さまが直してくれた洋服。
奥さまにとってこのジャケットは、初恋の人からもらったものではなく、旦那さまが直してくれたジャケットへと意味合いが変わった服になっただろうな。
また今回、市江さんも可愛かったー!
藤井さんがお米好きと分かり、一生懸命美味しいお米を炊こうと(研ごうと?)している姿!
この姿に藤井さんは密かにときめけば良いのになーと思わずにはいられません。
二人並んで調理台に立つ姿、すごくお似合いでした。



第十三話

前話のいい雰囲気から一転。
市江さんと藤井さんの仲がぎくしゃくします。
理由は、南洋裁店主催の夜会です。
夫婦のみが参加できるのですが、時が流れるごとに参加者の事情も異なります。
離婚や…もしかしたら死別もあるかもしれません。
今回は、一組の元夫婦に焦点があてられます。
旦那さんの心変わりで離婚することになった元夫婦。
特に奥さんの側は心身穏やかではいられません。
夫婦の為の夜会は、市江さんからすると
「独りぼっちの人にはやさしくない」
とりわけ、夜会参加経験がある人にとっては殊更でしょう。
そんな事情を知るが故に、先代・志乃さん主催の夜会にはあまり積極的にはなれない市江さん。
藤井さんにそう漏らすと、夜会大好き(笑)な藤井さんに
「市江さんはゼロからはじめたことがない」
「苦労してつくりあげてきてないから言えるんです」
と手厳しく言われてしまいます。
…この件に関しては、私は全面市江さん派です。
が、藤井さんも細かく事情を話したら分からない人ではないと思いますよ…一応。
時代が変わればあり方も変わる、というのを、百貨店に勤める藤井さんはよく分かっている、はず。
ただ若干藤井さんは旧時代に思いが強すぎる傾向もありますけど。
言い方によっては「古きを愛する」と言えるのですが。
志乃さんが作ってきた伝統を守るのも二代目である市江さんの役割。
でもだからといって、市江さんが何かをしようと動くことがダメなわけじゃない。
本質は失わず、時代の流れに沿って形を変えながら、長く愛されるものも数多くあるのですから。
そういえば、今回ようやく(?)藤井さんの妹が登場。
しかし中学生か…藤井さんがいくつか分かりませんが(二十代後半くらい?)一回り以上年が離れているのは確実。
そして家事万能男子…料理は確実に市江さんより上手ですね(笑)



第十四話

市江さんが自分から動いた企画、それは洋服の展示会。
たった一人でも、大勢でも、それぞれの事情に合わせて見に来られる企画です。
でも、結局市江さんを動かした理由は、ただ一人の人のため、でした。
前のお話で登場した、ご主人に離婚を言い渡されてしまった女性・さつきさん。彼女のために。
展示会は彼女が気に入っていた夜会用のドレス、その最後のお披露目会でもあったのです。
さつきさんは、さつきさんなりに前を向いて歩いている。
でも、一度裏切られてしまったという思いは消えない。
誰からも見放されてしまったような、心許ない気持ちを救ったのは、誰でもない、彼女の心情に寄り添った市江さんの思いです。
「誰かを愛したり誰かに愛されたり 何かを大事にしようと思うことをあきらめたりしないでいようって」
一度諦めてしまった人に、再度そう思わせることは容易ではありません。
でも、孤独だった彼女には、自分を忘れずにいてくれたという市江さんのメッセージはしっかり届いた。
それは人の心を救済してくれます。
洋服はただ着るためのものじゃない。
人の心を救済する手助けをしてくれるアイテムでもあるのです。
だけれど、人の心を真に救うのもまた、人の心である。
そんな印象を受けたお話でした。
新たな道を歩むさつきさんにエール。



第十五話

藤井さんのお説ごもっとも。
さつきさんの夜会用のドレスを処分しようとする市江さんに
「あんまり情を重ねすぎないほうがいいんじゃないですか」
これは市江さんのやり方を否定している、というよりは、市江さんを案じての言葉ですよね。
でも、これが市江さんのやり方なんでしょう。
そうでないと、オーダーメイドはやれないのかもしれません。
そして前回から、立原さんというデザイナーが初登場。
彼は志乃さんが講師を務めていたころの生徒さんでもあったようです。
彼はコラムに南洋裁店の展示会のことを書きました。
そこには学生当時、志乃さんから学んだことも。

洋服はその人の人生にそぐわなければ着こなすことが難しい。
だから決してその人から程遠いものを作ってはいけない。
しかしまたあまりに寄り添いすぎてもいけない。

と。
今回の展示会、市江さんは、さつきさんに寄り添って彼女の幸せを願って開催しました。
しかし、志乃さんはそれに苦言を呈します。
立原さんはデザイナーで、はっきり「オーダーメイドはやらない」と言い切るスタイルです。
その姿勢に市江さんは
「お客様に合わさないというのは むしろ覚悟がいることですわ」
と言います。
多分、あまりにも対岸だからそう言い切れるのでしょう。
市江さんのスタイルの芯とは、あまりに違いすぎるがゆえ。
でも、志乃さんの言は無視できないのではないでしょうか。
これを見て思ったのは、今まで芯が強いと思っていた市江さんも、まだまだ迷い成長している最中なのだなあ、ということ。
自分のスタイルを確立しているように思っていたけれど、彼女はまだお客さまと自分との距離も見極めていない。
彼女はこれからもまだ、自分にとって「ちょうど良い距離」を模索しながら、洋服を仕立てていくのでしょう。
それと同時に、翔くんの時も思いましたけど、「洋服を作る」という行為でも、様々な立ち位置の人がいるのですね。
皆、自分の理想とする柱があって、それを軸にしつつ、服と向き合っている。
つくづく、面白い世界だなあと思います。
それにしても、今回秀逸だったのは最後の藤井さんの表情ですね!
時々、池辺さんはハッと心を鷲掴むような絵を描かれます。
もうもう!
藤井さんの表情、あれは一種の恋する表情じゃあないですか~。
普段は無表情のくせに!
目撃したのが市江さんじゃないのがまた、心憎いなあ。



幕間

立原さん、お酒弱いのか…というギャップにちょっと笑っちゃうw
立原さんとアラキさんは、志乃さんのことを知っている教え子という存在なので、これからちょくちょく出番がありそう。
市江さんにどんな影響を与えるのか、楽しみです。
『サウダーデ』のカフェが舞台となってちょっとしたスピンオフ感も味わえますw


4巻も早く読みたいなあ。
ネット注文なので、届くの待ち。


繕い裁つ人 2(池辺 葵)

繕い裁つ人(2) (KCデラックス)繕い裁つ人(2) (KCデラックス)
(2011/10/13)
池辺 葵



「あふれてくるデザインをたくさんのチームでどんどん形にしていくことと たった一人のための洋服を たった一人でじっくり作り続ける毎日と
自分の望んでいることがなんなのか見失わないことね」



相変わらず、この作品には説明がごく少なくて、登場人物の心のひだを自分で掬い上げなくちゃならない。
そんな漫画だからこそ、何度読んでも飽きがこないのかなー。
…単なる自分の読み方が下手くそなのかも、と不安になりもしますが(笑)
ですが、面白いです。
もう私、買ってから何度読み返したか分からないくらい(笑)
今続きがとても待ち遠しい作品のひとつですw

物語は、南洋裁店の二代目・市江さんと、彼女の仕立てをこよなく愛する百貨店の企画部に所属する藤井さん。
二人を軸に、服と人にまつわる心の交流を描きます。

以下、各話についての感想を。


第六話

市江さんの母校で、南洋裁店に出入りする女子高生四人組の学校が舞台。
四人の中に、他人には決して言えない想いを抱える子がいたのです。
…友人の彼氏を好きになっちゃう、なんて…誰にも言えないし、言えないからまた苦しいんですよねー。
南一番のお得意様・ゆきちゃんの彼氏を好きな、のりちゃん。
のりちゃんと、ゆきちゃんの彼氏はピアノが好き、という共通点があるようです。
季節は卒業シーズン。
誰にも言えない想いだからこそ、自分にしか出来ない方法で送り出したい。
そんな思いがのりちゃんにはあったかもしれません。
「大事な人は一人じゃないから」
と言えるのりちゃんは良い子だなあ。。。
次の恋は上手くいくといいですね。
母校は母校でも、市江さんの頃と制服は違うんですね。
セーラーは市江さんの祖母の志乃さんが仕立てていたみたいですが、のりちゃん達の代には違うメーカーが請け負っているみたい。
うーん、市江さんの学校の生徒数が何人か分かりませんが、一人でやっている仕立て屋が請けるのは無茶という気も。。。
その辺りのことはきちんと説明されていませんけど、限界だったのではないでしょうかね…。
市江さんが音痴というのは、さもありなん、でした(笑)


第七話

自己破産した息子が、母の着物を洋服に仕立て直しにやってきます。
自分からではなく、亡くなった父の遺言ということにして欲しいという息子。
市江さんは自分からだと正直に話せばいい、と言うのですが…。
まさに「嘘も方便」とでもいうのでしょうか。
正直に話すことが全て良いとは限らない。
藤井さんは事情を知らないながらも、そうではないということを感じとっているようです。
結果は同じでも、受け入れやすいルートと、受け入れるのに時間のかかるルートがあるんですよね、きっと。
今回は二人の心の動きのようなものが少し垣間見られましたw
牧さんと藤井さんの会話を聞いて少し不機嫌になってしまう市江さん。
性懲りもなく市江さんの洋服を買い求め、牧さんに「ご執心」とからかわれる藤井さん。
そうするとやはり「仕立てに対する姿勢をかっている」と否定しちゃって。
そんな答えじゃ面白くないんですねー、市江さんw
藤井さんは藤井さんで、お客様へ直接納品に向かう市江さんに付いて行くし、さらに田辺さんに警戒心を露骨にさらけ出しているような。
無表情ではありますけど(笑)
だって立ち位置が二人の間にいつの間にか割り込んでいるものw
くぅ~、じれったい!
けど、このじれったさが良いのですよね~。
そうして、女性はどんな環境でも馴染むのが早い。
女性は強し、ということなのでしょうね(笑)


第八話

藤井さんの先輩のお話。
異動になった先輩への贈り物を市江さんに相談する藤井さん。
その中から見えてくる巽さんという先輩の姿。
彼女の言動や噂から、どうやら巽さんの不倫は本当なのかな、と推測されます。
ブランドで固めるようになった、という企画部に入った頃が始まりなのかな。
巽さんは個人で南へ赴き、自分のための洋服をオーダー。
彼女の目に留まったのは、純白のウエディングドレスを思わせるようなブラウスでした。
一人で白を纏う覚悟を決めた時、彼女が本当に過去を吹っ切れたのではないかと思います。
旅立つ巽さんの顔は本当に晴れ晴れとしたもの。
いつか再登場して欲しい一人です。
牧さんにも、どうやら春が…。
庄司さんって、どういう人なんだろう。
この回で一番好きなのは、市江さんと藤井さんが丸福のソファに並んで座った手のアップ。
なんだろう、そっと手が並んで寄り添うように描かれていて、何とも言えない雰囲気があるんですよー。
二人の関係を手が代弁しているかのような。。。
漫画でしか表現出来ない雰囲気だなあと思います。


第九話

南とは別の、同業者のお話。
橋本さんという64歳になるベテラン男性仕立て屋さん。
丸福では彼がリフォームの役割を担っていますが、利用客の減少により閉鎖が決定。
そもそも、今ではリフォームしてまで着たいというお客のスタイルが変わっていますからね。
同様に、オーダーメイドして自分の洋服を仕立てたいと思うお客も減っているのでしょう。
ゆきちゃんなどはかなり稀な女の子。
橋本さんは仕立て全盛の頃を知っている仕立て屋さんですから、今の流れというのも肌で感じている。
そろそろ引退も考えているのです。
彼の腕を知っている藤井さんは、なんとか橋本さんを繋ぎとめる企画を練るのですが…。
市江さんのところにいらしたお客も、最初は橋本さんを専属にしていた人でした。
結局橋本さん贔屓に戻ってしまうのですが、彼女は市江さんに
「あんなにほれこんだ仕立て屋はいない」
と。
お客にそう思われる橋本さんも幸せですが、そう言える相手がいるお客のことが私は羨ましく思えました。
この漫画を読むと、オーダーメイドで作った服(それも特別なものではなく、日常の服)を着るということに強く憧れを抱きます。
贅沢だけれど、少数でも満ち足りた生活が送れそうで。
私の住む町にも、南洋裁店やテーラー橋本のような仕立て屋があったかな…(単純)。


第十話

留学も決まった若手学生デザイナーが登場。
色んなショップに売り込みに行っては、自作の服を置かせてもらっているのです。
二代目の市江さんとは違い、一から全て自分で行動しなければならない。
けど、それが案外楽しかったりするんですよね、若いと(笑)
ただ、彼の服と市江さんの創作スタイルは根本が全く異なるもののようです。
翔君の創作スタイルは自分のデザインありき。
自分が作りたいものを作る、という既製服のスタイルです。
対して市江さんの服の基本はオーダーメイド。
人を見て、その人に合った服を考える、という志乃さんからの指導がデッサンの根本。
人を見ている、という点では市江さんの方がお客に添っていると思われるのですが、ただ両者はどちらも今の世には必要不可欠なんですよね。
だって、人って自分に似合うもの以外にも心魅かれてしまうのですから。
市江さんの持論は「服は着てこそ」ですけど、似合わないと分かっていても、その服がクローゼットにあるだけで心が浮き立つ。
そんな服があってもいいのかな、と思います。
それぞれ真剣に服に取り組む翔君と市江さんのやり取りは読んでいてハラハラしました。
市江さんは翔君のことを買っているからこそ、あのような言葉を選んだのですね。
藤井さんもそれが分かるレベルにきたというのが…w
最後、藤井さんにオリジナルの生地を都合してくれる工場のメモを渡されて瞳をうるませたような市江さん。
直前に自分を「たった一人で服を作り続ける」と言っていましたが、それは大きな間違いだと気づいたのではないでしょうか。
孤独を覚悟していた中にふいに現れた一筋の光のように感じられたなら。
かつて洋裁を捨てられず婚約破棄に至ったこともある市江さんですから、そうだったらいいなーと思ってしまうのです。


オリジナルの布を求めた市江さんの洋裁がどう変化するのか。
藤井さんとの関係も含め、今後も楽しみです。


繕い裁つ人 1(池辺 葵)

繕い裁つ人(1) (KCデラックス)繕い裁つ人(1) (KCデラックス)
(2011/03/11)
池辺 葵



「自分の美しさを自覚してる人には私の服は必要ないわ」

祖母の志を受け継いで、その人だけの服、一生添い遂げられる洋服を作り続ける。
そんな南洋裁店の店主・市江と、彼女の服を愛してやまない百貨店企画部の藤井。
微妙な距離感を保ちながら関わる二人と、服にまつわる人々の思いを描き出す、優しい物語。



南洋裁店の女店主、市江さん。
祖母が立ち上げた洋裁店を引き継ぎ、日々洋服を仕立てる二代目です。
既製服はあまり作らず、町の人のオーダーメイドやお直しを主に専門としている。
そんな彼女の腕に惚れこんでいるのが、百貨店の企画部に籍を置く藤井さん。
彼はかなりの洋服マニア。
市江さんが作った洋服は一目見ただけで分かってしまう熱の入れようです(笑)

そんな二人と洋服を中心に、ゆっくりと描かれていくこの作品。
洋服を扱う漫画ですが、肝心の絵柄は驚くほどに地味なのです。
華やかな服飾の世界をイメージしていると、肩透かしを食らってしまうかもしれません。
恐らく、作者の池辺さんが描きたいのは、華やかな洋服ではなく、その服を手にする「人」なのでしょう。
洋服は人が着てこそ、ですからね。
「南」の常連女子高生・ゆきちゃんも

「南の服は着てるところが一番きれいだもの」

と。
そんな世界なのに、洋服マニアの藤井さんは一人暴走しています(笑)
お直しを求めてやってきたお客さんに対し
「これはこれで完璧なフォルムを造ってるんだぞ」
なんて言っちゃうのです(苦笑)
それで自分の身体の欠点を強調されてはねえ…。
市江さんの数少ない既製服(恐らく女性用)も、サンプル目的(コレクション?)で購入しちゃう藤井さん。
言っていることややっていることは結構無茶苦茶なのですが、なんだかんだ本当に好きなんだな、と思うと案外憎めない人です。

芯の強い女性である市江さん。
藤井さん曰く
「頑固じじい」
らしいですが、自分の仕事を
「二代目の仕事は一代目の仕事を全うすることだと思ってる」
と言い切るほど、揺るぎない道を見据えています。
結婚寸前までいった男性とも、それで別れてしまったよう…。
このこと、藤井さんが知ったらどう思うんでしょう。
ちょっと気になる。。。

他にも市江さんの名言はたくさんあります。
「南」で誂えたドレスを着る機会として設けられた「夜会」。
参加は夫婦限定、男性のみはNG、子どもも同じです。
理由は
「子供がいると、親はいつだって親になる」
から。
確かに、その通り。
個人的には、クリーニング店のお話が大好きです。
直子ちゃんのお母さんは、人として、商売に携わる人として、本当に美しい人。
それをしっかり見て、気づいている市江さんですが、自分は相変わらず我が道。
少しも取り入れようとしないあたりが、「らしい」のでしょうね(笑)

全体的な作品や絵の雰囲気は、緑川ゆきさんに通じるものがあると感じました。
ともすれば無表情とも取れそうな絵、そしてふきだしの外に多く書かれた手書きの台詞文字など。
ばっちり、私の好みの範疇なんですよねえ。
全てを台詞で表すのではなく、表情や間で表現するところとかも。

これからも、市江さんと町の人の服を介した交流、それから藤井さんとの付かず離れずの淡い関係を楽しみたいと思いますw


     
プロフィール

sui

Author:sui
いらっしゃいませ。こちらのブログは管理人のマメでない性格ゆえ、更新はゆっくりめです。
感想は多分にネタバレを含みますので、未読の作品に関してはご注意ください。
思い出した時にでもお立ち寄りくだされば嬉しいです。


コメントやトラックバックなども大変嬉しく、歓迎です。
が、こちらの判断により、削除してしまう場合もあります(例:初めましての間柄でトラックバックのみを行うなど)ので、ご了承ください。

日記、始めました。
『のんびりたまに雑記。』リンクから行けます。
今読んでいる本などちょこちょこ書いていく予定です。
また、web拍手でいただいたコメントも、こちらの方でお返事させていただきます。

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