「証拠」の残り香~『ほかならぬ人へ』
名家の三男に生まれた宇津木明生は、優秀な兄たちへの劣等感から「生まれ
そこなった」と感じていた。大学を出、就職した明生は、キャバクラ嬢のなずなと
出会い、結婚するのだが・・・。
恋愛小説の形をとりながら、愛だけでない生と性、生と死という人間の「業」その
ものについて考察されている小説。表題作のほかに、中編「かけがえのない人へ」
が収められている。直木賞受賞作品。
白石氏の著作は初めて読んだが、とても面白く読めた。特に「ほかならぬ人へ」。
うるうるしながら読み進み、ラストでは、もう涙が鉄砲水状態。劣等感に苛まれ続
けた一人の「平凡な」男が、愛し、失い、理解し、たどり着き、そして再び失うまで。
何不自由ない名家の御曹司に生まれついても、人生が生き辛いと感じる人もい
るのだろうか。明生は、本人が思っているよりもずっとずっと、魅力的な人物だと
私には感じられた(先輩の東海さんが「非凡」だと表現したように)。彼を利用し、
裏切ったなずなも、私は決して嫌いにはなれない。むしろ、初恋を貫き、ここまで
「狂った女」に成り切れる彼女は、逆に「清々しい」とさえ思えるほど。たとえその
相手が、どうしようもない女たらしであったとしても。。
明生や、東海さんが語る人生、愛についての言葉の数々がいい。「どうしてみん
な、間違ってしまうんだろう」。「どうして、ちゃんとした人間から死んでいくんだろう」。
「人間は、自分に裏切られながら生きていくしかないんだ」。
そして明生は思う、自分をこの世界に送り出した何者かに、抗い続けるのが人生
なのだと。
一方、「かけがえのない人へ」。婚約者を裏切り続け、「あんな男どうでもいいの
よ」と言い放つみはるのことは、どうしても好きになれなかった。そのせいで、この
本全体の印象があまりいいものとはならず、胸を張って「オススメです」と言えない
のが、少し残念。
( 『ほかならぬ人へ』 白石一文・著/祥伝社・2009)
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ほかならぬ人へ 著 白石一文
中編2作からなる作品集。
ほかならぬ人へ
主人公は宇津木明生。27歳。
財閥の家の三...
2010-05-17 10:39 :
ちょっとお話
コメントの投稿
お邪魔します~~
東海さん素敵なキャラでしたよね。
どんなときも主人公のそばにいて。
その距離加減が良かったです。
いろいろあっても一番大切な人に
気付いてよかった・・・なという感じです。
でも結末はつらかったわ・・・
年数より一緒に過ごした日々の濃度とは思いますが。
また何か読んだら感想教えてくださいね
東海さん素敵なキャラでしたよね。
どんなときも主人公のそばにいて。
その距離加減が良かったです。
いろいろあっても一番大切な人に
気付いてよかった・・・なという感じです。
でも結末はつらかったわ・・・
年数より一緒に過ごした日々の濃度とは思いますが。
また何か読んだら感想教えてくださいね
2010-05-17 10:32 :
みみこ URL :
編集
みみこさん、こんにちは~。コメントとTBありがとうございます。
そうなんです。東海さん、すっごく頼りになる女性でしたね。
私も、あんな上司に巡り会いたいナ~と思いました。
でも、明生のこれからが心配ですよね。。かわいそう。。
思い出を胸に生きてくのかなぁ。
また機会があれば、白石さんの本読んでみたいと思ってます。
みみこさんは、大崎さんの新刊も読まれてましたよね。。
私、大崎さんはもう読まないかも、です。。
そうなんです。東海さん、すっごく頼りになる女性でしたね。
私も、あんな上司に巡り会いたいナ~と思いました。
でも、明生のこれからが心配ですよね。。かわいそう。。
思い出を胸に生きてくのかなぁ。
また機会があれば、白石さんの本読んでみたいと思ってます。
みみこさんは、大崎さんの新刊も読まれてましたよね。。
私、大崎さんはもう読まないかも、です。。