真紅のthinkingdays 人生、その終幕に~『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』
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映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

人生、その終幕に~『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』

アウェイ・フロム・ハー


 AWAY FROM HER


 カナダ・オンタリオの湖畔で、穏やかに暮らす老夫婦フィオーナ(ジュリー・
クリスティ)
グラント(ゴードン・ピンセント)。結婚44年目のある日、妻のフィ
オーナにアルツハイマー型認知症の徴候が現れる・・・。

 オスカーこそ逃したものの、ジュリー・クリスティが昨年度の主演女優賞を総
なめ
にしたドラマ。監督・脚色はご存知サラ・ポーリー、初長編にして、繊細で
複雑
な人間の「生」リアルに描き出している。20代の女性が、こんなにも深く
厳しく夫婦と結婚、老いと性について洞察
できるとは・・・。感嘆。そして、見事
「老い」を演じたジュリー・クリスティの美しさにも驚愕。悲しみを湛えたような、
彼女の深い碧の瞳から目が離せない。

アウェイ・フロム・ハー2

 認知症に襲われる妻とその夫の物語といえば、『きみに読む物語』アイリス
が思い浮かぶ。どちらの作品も、献身的な夫の愛情病の不条理を描いた、感動
的で美しい作品だった、と思う。しかし本作は、その2作とは少し、趣を異にする。
鑑賞前はもっと情感たっぷりに「美しき老夫婦の愛」を描いた、涙腺を刺激されまく
る物語なのかと思っていた。決して「愛」が描かれていない物語ではないのだけれ
ど、愛よりリアルな「生」を描いて、結末は皮肉ですらある。

「いい人生だったと言うのはいつも男性よ、女は違うわ」

 一番印象に残ったのは、クロスカントリースキーをしていたフィオーナが自分を
見失う場面
。真っ白な雪原に独り、自分が誰なのかも、帰り道もわからなくなっ
たフィオーナが佇む。スキーを投げ出し、雪原に大の字に寝転ぶ彼女の表情は、
どこか解放されたような、晴れ晴れとしたものに見える。夕暮れの空に光る月

 誰もが生まれ落ちた瞬間から老い始め、に向かっているのは動かし難い
真実だ。でもせめて死ぬまで、自分は自分でいたいと思うのが人間だと思って
いた。記憶を失い、家族の顔さえわからなくなる--そんな状態が一番怖い
思っていた。しかし、「自分」を失いつつあるフィオーナは、逆に解き放たれてい
のかもしれない--過去の苦い記憶や、自分を縛る「愛」、もしくは結婚から。

アウェイ・フロム・ハー3

 妻のために、自らの「罪滅ぼし」のために、名前も憶えていないマリアン(オリ
ンピア・デュカキス)
との余生を選択するグラント。人間の生とは、とことん「性」
と切り離せないものなのだと感じさせる反面、それは結局、心とは別物なのだと
解釈することもできる
。そしてその「心」とは、一体何処から来て、何処へ行くの
だろう?


「ゴミみたいなアメリカ映画」、「ベトナムで失敗したのに」というセリフに、サラ・
ポーリー
リベラルな反骨精神が伺えて興味深い。そしてオスカー受賞式に、
グァンタナモ収容所閉鎖を訴えるオレンジリボンを着けて出席していたジュリー
・クリスティ
昔の自分と過去の記憶に向き合いながら、今をどう生きるのか
そしてこれからの人生を誰と何処で暮らし、どう閉じるのか。強靭な志を持つ
女性たちからのこの問いかけを、しっかりと受け止めたい映画です。

 (『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』監督・脚本:サラ・ポーリー
     主演:ジュリー・クリスティ、ゴードン・ピンセント/2006・カナダ)
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テーマ : 考えさせられた映画
ジャンル : 映画

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真紅さん、ちょっとご無沙汰してます。
ここんとこ、以前観た作品で言葉にして留め置きたいなって思う作品をずっと観ていて、そういう作品って結構重くって、そんな作品と向き合うと精神的に疲れてねぇ。ご無沙汰です。
でもこの作品は良かった! けど私としては、フィオーナに突きつけられた問いって、私自身にも突きつけられる問題であるかも知れないし、果たして私だったら…って考えると、ここまでの思いをもっているだろうか、って考えてしまって。映画的に感想が書けなかったわ。
精力的に劇場公開作品いかれてますね。私は記事まだだけど昨日「JUNO」今日「イースタン・プロミス」観ました。最近、劇場公開作品に不感症でねぇ。困ったもんだ!
2008-06-22 21:43 : シュエット URL : 編集
真紅さん、こんばんは。
アトム・エゴヤン好きの私はサラ・ポーリーも大好きなのですが、大人過ぎてビックリしちゃいます。
そうか、ジュリー・クリスティもリベラルな人なんですね。
クロスカントリーのシーンは本当に印象的でした。
あ、よろしければ、マリオンとの余生が「罪滅ぼし」になるというのは、どういうことか教えてくださいー。
この選択には、ドッキリしましたよね。
でも、私はフィオーナのためっていう部分にやるせなさを感じつつも感動してしまいました。
認知症になるのと、潜水服と蝶状態になるのと、どっちがいいだろう、なんてことを鑑賞中に考えてしまった私・・・。
2008-06-23 00:49 : かえる URL : 編集
へえ~。

なんか、この映画のレヴュー読むと、みなさんしっかりと色々な感想を受けてらっしゃってスゴイと思います。私は全く何も印象に残らなかった。描き方とか表現が自分と合わないと、ピンと来ないものなのだろうか。
2008-06-23 18:53 : チュチュ姫 URL : 編集
シュエットさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
旧作を観直してレビューされているのですね。
私も言葉にしておきたい作品がたくさんあるのですが、なかなか・・・。
もう少し新作優先の日々だと思います。
あまりにも自分に引き寄せて観てしまうと、映画の感想にならないですよね。
私もそういうの、結構あります。
も、もしかしてヴィゴに痺れられなかったのでしょうか?
そちらの感想も、楽しみにしておりますね。ではでは~。
2008-06-23 20:05 : 真紅 URL : 編集
かえるさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
アトム・エゴヤンは『スゥイート・ヒア・アフター』くらいしか観てないのですが、あれは怖い映画でした~。
雪景色で、あの映画をちょっと思い出すところはありました。
グラントが「罪滅ぼし」のために、と書いたのは、彼なりの「贖罪」だと思ったんです。
最後にグラントが荷物整理してたのは、マリオンが夫の入所費用のために家を売って、湖畔の家に越してきた、ということですよね?
(愛してもいない)マリオンとの余生を自分が引き受ける代わりに、フィオーナの恋を成就させたい、その思いが、彼が昔フィオーナを傷つけたことへの「罪滅ぼし」なのかなと思ったんですよ。
昔の浮気のことは、二人ともずっと話題にするのを避けていたのでしょうね。
二人でキチンと話していないから、グラントが妄想チックになってしまったのかな・・・。
人の記憶は愛おしくもあり、複雑ですね。
でも私は、失いたくない記憶のためなら死んでもいいと思っています(過激?)。
ではでは、またお伺いします~。
2008-06-23 20:13 : 真紅 URL : 編集
チュチュ姫さま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
みんなが口を揃えて「いい!」と言っても、自分がどう感じるかですから。。
私もつい先月かな、「イマイチ」と思った映画が絶賛の嵐で驚きましたよ。ビックリ。
心身のコンディションもあるしね。合う、合わないもありますよ。
後ほど伺いますね、ではでは~。
2008-06-23 22:08 : 真紅 URL : 編集
こんにちは♪
真紅さん、おじゃまします。

ジュリー・クリスティ、綺麗でしたね~
あんなふうに年を取りたいです。
jesterは思い切り、彼女に感情移入してしまいました。だってグラントが若い頃浮気してた時、彼女はどれだけ傷ついて寂しかったか、って考えると、グラントが許せません。
だからいい気味だ~と。(われながらいやな性格ですわね)

これからの自分の生き方をいろいろ考えさせられました。

2008-06-25 18:45 : jester URL : 編集
jesterさま、こんにちは。コメントとTBをありがとうございます。
ジュリー・クリスティ、本当に綺麗でした~。
特に、あの豊かな髪!乱れ髪もあんなに魅力的に見せられるのですね。。
確かに、グラントは昔酷いことをしたのですよね。。
それはフィオーナにとって、年月がいくら経とうと消えない傷なのですよね。
いやいや、いやな性格なんかじゃないですよ。そう思って当然かもしれません。
だって、悪いのはグラントですから!(断言)
後ほどお伺いしますね、ではでは~。
2008-06-26 09:28 : 真紅 URL : 編集
フィオーナってほんとに純粋な女性なのよね~

夫の過去のあやまちを許せないことも
施設に入所を決めることも
すべて、きっちりと・ね・・・
はじめは彼女のほうからグラントに近づいたとか
言ってたシーンがあったわね。
絶対の信頼感で結ばれた二人だと思っていたのよね。
・・・・そんなもんなのかな~
・・・・老いていくと許せる気もしてるけどね~
・・・・日本人だけの発想かな~~
な~~んて色々考えさせられる作品ですわね。

わが父関連拙記事にお優しいお気遣い
ありがとうございました。感謝です。
2008-06-29 01:08 : viva jiji URL : 編集
viva jijiさま、こんにちは。コメントありがとうございます。
こちらこそ、お忙しくご心労の最中、ご訪問いただき申し訳ないです。
いつも気の効いたコメントもできず、心苦しいのですが・・・。
改めて、ご尊父のご冥福をお祈りします。

さて。この作品は男と女の結びつきを考えさせられる映画だったと思います。
伴侶の浮気って、やはりいくつになっても許せないものなのでしょうか・・・。
浮気の程度や伴侶(と浮気相手)の態度にもよるでしょうが。。
フィオーナは、純粋というかとても「生真面目」な女性に見えました。
まるで自分を見ているようで(爆)。
地味ですが、称賛に値する作品だと思いました。
ではでは、またお伺いしますね。ご自愛下さいませ。。
2008-06-30 11:13 : 真紅 URL : 編集
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