真紅のthinkingdays 私を忘れないで~『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』
FC2ブログ
映画が大好きです。いつまでも青臭い映画好きでいたい。 記事は基本的にネタバレありです by 真紅 (言葉を探す人)   ★劇場鑑賞した映画は Instagram にアップしています @ruby_red66 ★Stay Blue

私を忘れないで~『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』

愛の勝利を



 VINCERE


 1907年、イタリア。中産階級の女性イーダ(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)は、
社会党員ムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)と出逢う。数年の後、再会した
二人はに落ち、イーダはムッソリーニの子を身ごもる。

 イタリアの独裁者、ファシスト党の党首ムッソリーニを愛し、私財を投げ打ち
全身全霊で支えながらも、捨てられて歴史の闇に葬られていた一人の女性
彼女の壮絶過ぎる闘いの記録を、光と影が交錯する映像で描き出したドラマ。
こ、これは、重い・・・。圧倒され、叩きのめされたような気分で劇場を後にした。
監督はマルコ・ベロッキオ。実は監督の前作『夜よ、こんにちは』にも完璧にノッ
クアウト
され、感想は書けていない。

愛の勝利を2

 イーダは何度もムッソリーニに言う、「愛している」と。しかしムッソリーニはそれに
は応えず、三白眼で虚空を睨む。彼には妻子がいたのだ。息子を産んだイーダは
ムッソリーニに邪険にされ、妹夫婦の元に送還されて警察の監視下に置かれる。
それでも抵抗を止めないイーダは精神病院に隔離され、息子と引き離されてしまう。

 どんなに過酷な状況に追いやられても、イーダは全くぶれない。どんな仕打ちを
受けても、命以外全て奪われても、主張を曲げない「私はムッソリーニの妻だ」

 そんな彼女に、芸術を愛し、人道的な治療をモットーとするロベルト・ベニーニ似
の精神科医
は言う。「あなたは攻撃しかしない。愛する息子のために、演じることも
必要ですよ」
、と。彼はイーダのために、チャップリン『キッド』を院内で野外上映
する。するイーダ。それでも、彼女の中で燃えたぎる炎を消すことはできない。

愛の勝利を3

 イーダの激情「愛」が生み出したものなのか。彼女を「恋愛体質」などという、
温い言葉で定義づけることはできない。彼女にとってムッソリーニと交わした愛
唯一無二、疑いの余地のないものだった。たとえ彼女以外、誰も認めなくても
イーダは愛に殉じたのだろうか? 私のような凡人からすれば、彼女は「恋愛ファ
シズム」の体現者
であり、この映画は愛ではなく「闘争」の記録に見えてしまう。

 逃亡し、再び捉えられた彼女に向けられる、村人たちのいたわりの眼差し。そ
んな彼らに「私を忘れないで」と語りかけたイーダ。彼女が恐れたのは、捨てられ
ることでも、命を奪われることでもなく、ただ「忘れ去られる」ことだった
のだ。

 原題『勝利を』。この映画が作られたことで初めて、イーダの願いは叶えられ
のかもしれない。

 ( 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』 監督・脚本:マルコ・ベロッキオ
      主演:ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、フィリッポ・ティーミ/2009・伊、仏)
関連記事

テーマ : この映画がすごい!!
ジャンル : 映画

2011-06-17 : 映画 : コメント : 4 : トラックバック : 10
Pagetop
いくつになろうと、自分らしく~『Little Secret』 «  ホーム  » 世俗から遠く離れて~『妻の超然』
trackback

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
イタリア映画祭2010...「愛の勝利をムッソリーニを愛した女/勝利を」
「Vincere」2009 イタリア/フランス イーダ・ダルセルに「向かいの窓/2003」「心の中の獣/2005」「コレラの時代の愛/2007」のジョヴァンナ・メッゾジョルノ。 ベニート・ムッソリーニに「重なりあう時/2009」のフィリッポ・ティーミ。 ラケーレ・グイディに「13...
2011-06-17 19:59 : ヨーロッパ映画を観よう!
「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」
いやあ、これには、うなった。 ムッソリーニを愛した女性の壮絶な半生を描くマルコ・ベロッキオ監督のメロドラマ。 耽美派ベルナルド・ベルトリッチが鳴かず飛ばずになってしまったいま、イタリア特有のシャープな艶めかしさを感じさせる映画なんてもう過去のものだと思...
2011-06-17 22:07 : 【映画がはねたら、都バスに乗って】
愛の勝利を ムッソリーニを愛した女
日経夕刊「シネマ万華鏡」で「今年有数の傑作」獲得。 中条省平氏をして「本年屈指の1本としてお薦めしたい」と絶賛の本作。 新宿まで行くのはちょっと・・・と躊躇していたのに、 何と!109シネマズMM横浜で公開中やおへんか!? というわけで早速映画館へGO レデ...
2011-06-17 22:59 : 映画の話でコーヒーブレイク
愛の勝利を
 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』をシネマート新宿で見ました。 (1)この映画は、表題から、ムッソリーニと一緒に終戦直後に銃殺された愛人のことを描いた作品ではないか、と思っていましたが、実際に見てみると、主人公の女性は、第2次大戦が始まる前にすでに死...
2011-06-19 05:48 : 映画的・絵画的・音楽的
愛の勝利を ムッソリーニを愛した女
Vincere [Blu-ray] [Import]甘いイメージの邦題がついているがこれは壮絶な闘いの物語だ。イタリア映画らしいオペラ的荘厳さの中、通奏低音に映像メディアの本質が流れていることが見逃せ ...
2011-06-19 20:42 : 映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評
*愛の勝利を ムッソリーニを愛した女*
  20世紀前半、イタリアに独裁政権を築き、歴史上ヒトラーと並び称される独裁者ベニート・ムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)。その陰には、イーダ(ジョヴァンナ・メッツォジョルノ)という一人の女性の存在があった。熱心な社会主義者だった若きムッソリーニ...
2011-06-23 13:38 : Cartouche
*愛の勝利を ムッソリーニを愛した女*
  20世紀前半、イタリアに独裁政権を築き、歴史上ヒトラーと並び称される独裁者ベニート・ムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)。その陰には、イーダ(ジョヴァンナ・メッツォジョルノ)という一人の女性の存在があった。熱心な社会主義者だった若きムッソリーニ...
2011-06-23 13:38 : Cartouche
■『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』■ ※ネタバレ有
2009年:イタリア映画、マルコ・ベロッキオ監督&脚本、ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、フィリッポ・ティーミ、ファウスト・ルッソ・アレン、ミケーラ・チェスコン、ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ、コッラード・インヴェルニッツイ出演。
2011-06-28 23:37 : ~青いそよ風が吹く街角~
愛の勝利を ムッソリーニを愛した女
ヒトラーと並ぶ独裁者ベニート・ムッソリーニ。その男に己の持てる全てを捧げた女がいた。しかし彼女は歴史の闇に葬り去られたのだった…。イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ監督が描く悲劇の物語の主人公は全米批評家協会賞主演女優賞を獲得したジョヴァンナ・メッツォジ...
2011-06-30 00:30 : LOVE Cinemas 調布
映画「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」激動のイタリア史の別の顔
「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」★★★☆ ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、フィリッポ・ティーミ出演 マルコ・ベロッキオ監督 128分、2011年5月28日より全国順次, 2009,イタリア,エスピーオー (原作:原題:VINCERE/勝利を)              ...
2011-07-28 21:30 : soramove
Pagetop
コメントの投稿
非公開コメント

この映画、とんでもなく震えが来て私はまだ書けてないのです。昨日2回目を観て、もう一回観てくるつもり。
イーダの絶望的な闘争に涙し、しかし当のイーダの絶対曲げない信念に圧倒されました。か細く美しい彼女のどこにそんな力が…。
イーダ役のジョヴァンナ・メッゾジョルノの目に宿る力強さ、正直イーダなどという女性は全く知りませんでしたが、記録映像を上手く絡めた演出と相まって、正にその人本人ではないのかと思えるほどでしたよ。
2011-06-17 21:50 : KLY URL : 編集
愛の勝利を?
とんでもない。
映画の勝利を感じる映画でした。
文字通り、この映画が凄い!!
2011-06-17 22:47 : ジョー URL : 編集
KLYさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
まだ書けていない、わかります! 私は『夜よ、こんにちは』は結局何も書けませんでしたから。。
本作も、覚悟はしていたのですがKOされた感じです。何とか文字にはしたのですが。。
私ももう一度観たい映画ですが、今はちょっと立ち向かうエネルギーが足りないかも。
イーダ役の女優さん、大・熱演でしたね。『コレラの時代の愛』のときはそんなに印象的じゃなかったのですが。。
しかし、この監督さんホント凄いですね。まさに剛腕。
KLYさんの記事お待ちしてますよ~。
2011-06-18 15:31 : 真紅 URL : 編集
ジョーさん、こんにちは! コメント&TBありがとうございます。
映画らしい映画というか、映画にしかできないことをしてくれた映画というか。いや、すでに映画を超えていると言うか。。
凄い映画でしたね。まさに必見!
2011-06-18 15:34 : 真紅 URL : 編集
Pagetop
« next  ホーム  prev »

What's New?

真紅

Author:真紅
 Cor Cordium 
★劇場鑑賞した映画の感想はインスタにアップしています@ruby_red66

Archives

Search this site

Thank You!