「夏の名残りの薔薇」
舞台は、山奥の堅牢なホテル。
沢渡家の招待客たちは、それぞれに思いを抱きながら、ロビーの正面に置かれた大きな柱時計が時を刻む音を聞いている。
アガサ・クリスティーの世界を思わせるよう。
ホテルを舞台にしたというとあの「バートラムホテルにて」を思い出すし、集まってきた一族というと、どこか「ホロー荘の殺人」を思わせる雰囲気もある。沢渡家の風変わりな祖父は「ねじれた家」の当主に似ているようだし。
事実、客の中には「クリスティーの小説に出て来る探偵みたい」といわれる人物(たまごのような・・と言うとあの人しかないよね・・笑)も登場しているから。
では、古き良き時代(?)の本格ミステリかというと、これがそうではなくって。
演劇的で実験的な物語だと恩田さんも書いている。
主題、そして第一変奏から第六変奏とまるで音楽のように構成された物語。その中でスポットライトを当てられた登場人物が、それぞれの記憶や、視点、その思いから事件を奏でている。
うっとりとそれに聞きほれていると・・騙されてしまう。いや、ここは聞きほれて騙されてしまうのが、きっと正しい楽しみ方なのだと思う。
あいだに挿まれるのは、古いフランス映画「去年マリエンバードで」。
ホテルを舞台にした、1組の男女の1年前の記憶をめぐるお話なのだけれど、これがまたなんとも魅力的な雰囲気を出している。
でも雰囲気だけでこの映画が使われているのだと思っていると、えっ、と驚くラストが待っているから。
ぜひぜひ、この映画を一度見てみたい。ヴェネチア映画祭の金獅子賞を取っている作品だとか。
この本には、巻末に恩田陸フリークへのクイズや、恩田さんへのスペシャルインタビューも載せられているのが楽しい。恩田さんの好きなミステリーやプロットのこと、キャラクター作りのお話とか。
クリスティの作品で「終わりなき夜に生まれつく」がお好きと書いてあったなあ。うん、同感。嬉しい。
| 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)
最近のコメント