著者:藤崎翔
窃盗による懲役を終え、刑務所を出所した善人。出所したばかりの彼は、「同業者」のスーさんから紹介された「狙い目」の家へと忍び込む。だが、そこでその家の住人とニアミスしてしまう。何とか、その家を脱出した善人だったが、その家人は彼の幼馴染であり、初恋の相手でもあったマリアだった。マリアの様子を探ることにする善人だったがひょんなことから鉢合わせをし、感動の再会、となってしまって……
ミステリー小説……なのか、コレは?
冒頭に書いたような形で始まる物語。初恋の相手であるマリアと思わぬ形で再開した善人は、そこで互いの連絡先を交換し、交流が再開することに。一緒に過ごす中で頭に浮かぶのはマリアと出会い、そして不本意な別れをするまでの時代の話。そんな交流を続ける中で、マリアが同じく幼馴染であり、現在は医師であるヨッシーと結婚をしたこと。しかし、その結婚生活は破綻を迎えている、ということを知る……と展開していく。
物語は、善人の現在を描くパートと、その中での過去パートというのを挟む形で描かれるのだけど、この過去パートは、当時のアレコレをこれでもか、と詰め込んだような内容。1996年に小学校5年生ということは、ちょうど、著者と同年齢という設定。その中で、当時起こった事件とか流行していた曲とか、そういうものが描かれていく。自分は著者よりちょっと年上なのだけど、これを読んでいて当時の雰囲気とかを思い出した。まぁ、正直、自分はあまり芸能とかは詳しくないのだけど……でも、こういうことがあったな、というのは思い出す。
その一方で、過去のエピソードで印象的なのは、格差問題とでも言うべきもの。
私が読んだのは2023年。この作品の刊行が2020年。家庭事情により、教育を受ける権利が……みたいな問題というのは多く言われるようになった。では、90年代くらいはどうだったのか? と言えば、現在のように大きな議論となることはなかったと思う。でも、当時だって確実にそういう問題というのは存在していた。裕福な家に生まれ、何不自由な過ごした者。片親世帯で育ち、生活費にすら困った者。無論、それは進路とかにも……。現在のようにクローズアップされていなかったからこそ、むしろ、苦しい。そういう部分を切り取った、という一面も本作にはあると感じる。社会派作品と言える面もしっかりと持ち合わせているように感じた。
ただ……
この作品の売りとして紹介されている「どんでん返し」はどうなのか、という気になってしまうのも確か。
このどんでん返しは絶対に誰にも予想できない!
とあるのだけど、そりゃ、予想できないよ。なんか、つじつま合わせみたいなものだもの! 別の真相でも、作れそうな感じがしてしまう。
そういう意味で、ひっくり返しについては、ちょっとネガティヴに感じたのだけど、そこに至るまでの様々なことについて色々と想いを馳せた作品だった。
No.6657
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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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ミステリー小説……なのか、コレは?
冒頭に書いたような形で始まる物語。初恋の相手であるマリアと思わぬ形で再開した善人は、そこで互いの連絡先を交換し、交流が再開することに。一緒に過ごす中で頭に浮かぶのはマリアと出会い、そして不本意な別れをするまでの時代の話。そんな交流を続ける中で、マリアが同じく幼馴染であり、現在は医師であるヨッシーと結婚をしたこと。しかし、その結婚生活は破綻を迎えている、ということを知る……と展開していく。
物語は、善人の現在を描くパートと、その中での過去パートというのを挟む形で描かれるのだけど、この過去パートは、当時のアレコレをこれでもか、と詰め込んだような内容。1996年に小学校5年生ということは、ちょうど、著者と同年齢という設定。その中で、当時起こった事件とか流行していた曲とか、そういうものが描かれていく。自分は著者よりちょっと年上なのだけど、これを読んでいて当時の雰囲気とかを思い出した。まぁ、正直、自分はあまり芸能とかは詳しくないのだけど……でも、こういうことがあったな、というのは思い出す。
その一方で、過去のエピソードで印象的なのは、格差問題とでも言うべきもの。
私が読んだのは2023年。この作品の刊行が2020年。家庭事情により、教育を受ける権利が……みたいな問題というのは多く言われるようになった。では、90年代くらいはどうだったのか? と言えば、現在のように大きな議論となることはなかったと思う。でも、当時だって確実にそういう問題というのは存在していた。裕福な家に生まれ、何不自由な過ごした者。片親世帯で育ち、生活費にすら困った者。無論、それは進路とかにも……。現在のようにクローズアップされていなかったからこそ、むしろ、苦しい。そういう部分を切り取った、という一面も本作にはあると感じる。社会派作品と言える面もしっかりと持ち合わせているように感じた。
ただ……
この作品の売りとして紹介されている「どんでん返し」はどうなのか、という気になってしまうのも確か。
このどんでん返しは絶対に誰にも予想できない!
とあるのだけど、そりゃ、予想できないよ。なんか、つじつま合わせみたいなものだもの! 別の真相でも、作れそうな感じがしてしまう。
そういう意味で、ひっくり返しについては、ちょっとネガティヴに感じたのだけど、そこに至るまでの様々なことについて色々と想いを馳せた作品だった。
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