亡霊の柩 - や行、ら行、わ行の著者
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亡霊の柩

著者:吉田恭教



「卒園者を探していただきたいんです。名前は五十嵐靖男」 探偵社で働く槙野は、児童養護施設の延長から依頼を受ける。まもなく槙野は、その五十嵐が昨年、結婚し、この夏に亡くなっていた、ということを探り当てる。だが、園長はその妻に門前払いされたことで再び依頼を受け、五十嵐が失踪した理由と死因を調べることに。そして、突き止めたのは、五十嵐が何者かと入れ替わっていたこと。探偵の手に余ると察知した槙野は、警視庁捜査一課の刑事・東條有紀に情報提供するのだったが……
槙野・東條シリーズ第5作。出版社は再び南雲堂へ。
このシリーズって、オカルト方面に振れることもあるのだけど、本作は現実的な中で物語が展開していく。
失踪した卒園者について調べる槙野。その中で発覚したのは、死亡した五十嵐は、卒園者とは全くの別人である、ということ。戸籍の乗っ取りが行われている。そして、それは海外のスパイによるものなどの可能性も。そこで、槙野は東條へと連絡を入れることに。五十嵐の妻は、過去にも結婚相手をなくし、多額の保険金を手にしていた。妻は、保険金殺人の常習犯なのか? それとも? その一方で、取り調べの中で、妻が五十嵐の戸籍が乗っ取られていたことについては知らない様子。そして、偽の五十嵐は、過去に起きた未解決事件の現場に残ったDNAの持ち主だった。そして、それは、槙野の不祥事が未解決となった原因の一つとなった事件でもあった……
いや、もう、これでもかというくらいに色々な要素を散りばめた話だったな、という印象。
戸籍乗っ取りを端緒とした事件。その妻にかかる保険金殺人の疑惑。さらに、過去の槙野が関わった殺人事件。さらに松江で起きた殺人。それぞれに関りがありつつも、しかし、一直線とも思えない一連の事件。どことどこが繋がっていて、どれは別件なのか? そんな混沌とした状況の中から一つ一つの事件を掘り下げていきながら、という展開は素直に面白かった。
そして、その中でのメイントリックとでも言えるもの。自分が化学音痴っていうこともあるのだけど、この仕掛けは素直に驚いた。ただ、作中の説明でも、それって可能なの? という気がしないでもないのだけど……どうなのだろう? ただ、それでも、サプライズというい意味では物凄いサプライズであると思う。
事件全体の概要としては、大分、無理をしたアクロバットな展開な気もするけれども、それでも最後まで一気読みさせるだけのものはあると感じた。

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Tag:小説感想吉田恭教

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