著者:一色さゆり
碧波市の美術館に勤める学芸員の貴山史絵。東京で暮らす恋人とのこと、自分の将来、職場での人間関係……に悩む彼女は、理事長の提案した地元の画家・ヨシダカヲルの企画展を担当することに。かつてはともかく、現在は無名と言えるヨシダだが、彼女との邂逅の中で、だんだんと彼女に人間性に惹かれていって……
これまで読んだ著者の作品とはちょっと印象が違ったな、という印象。
題材は、これまでと同じ美術品、美術の世界というのは同じ。ただ、これまではミステリという部分を強く押し出す作品だったのだけど、本作は主人公である史絵の生き方。そして、企画展を開催することになったヨシダの生き様。そんなものをメインに描いていく作品となっている。
企画展を担当することになった史絵、32歳。東京の美大を卒業し、学芸員として働くが、無期とは言え非正規職員。東京に住む恋人の雄介との将来も考えているが、雄介は自分が東京へ帰ってくることを前提にしている。しかも、現在の史絵の職場でのことなどは考えずに……。そんな中で、ヨシダと出会うことになるが……
1970年代、新時代の女性作家として注目された時期のあるヨシダ。しかし、一度は、筆を折り、現在も山の中に引きこもるように暮らし、そこで創作活動を続けている。そんな過去から、フェミニズムなどを強く押し出す作家、というイメージが。だが、実際に出会ったヨシダは、飾らない人柄と、先に書いたような史絵の悩みなどにも真摯に応えてくれる誠実な人物。彼女の世話をする少年・エイトも含めて、史絵はヨシダに惹かれていくことになる。だが、だからこそ、ヨシダの人生にある空白の期間は何なのか? という疑問も浮かんでくる。
物語は、そんな企画展を担当することになった史絵の奮闘と、しかし、その最中でのアレコレというのが中心に。
学芸員という立場ではあるが、あくまでも非正規雇用。責任などはあるが、しかし、将来が見える状態か、と言えば……。そんな中で、雄介から紹介された職場は、期間限定の契約。しかも、今、携わっている仕事をすべて途中で辞めて……という条件。それを断ることにするのだが、雄介には言えない。さらに、職場でも正規職員の田仲の態度などに対して苛立つことが次々とあって……
そんな苦難が次々と現れ、その中で、自分の意見を押し殺す史絵。一方で、
「自分のやりたいことだけをしている」
というヨシダ。そんな生き方に憧れ、そして、彼女の人生を知ることに……。その中で史絵が見出したもの……。人間社会は、ままならないことばかりだし、」すれ違いもたくさんある。でも、見方を変えれば、大事なことを言えば……。色々とつらいことが解決したわけじゃない。でも、少し前向きになれる。ヨシダの人生の、空白期間とそれがもたらしたもが描かれることで、その結末にホッとすることができた。
No.6653
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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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碧波市の美術館に勤める学芸員の貴山史絵。東京で暮らす恋人とのこと、自分の将来、職場での人間関係……に悩む彼女は、理事長の提案した地元の画家・ヨシダカヲルの企画展を担当することに。かつてはともかく、現在は無名と言えるヨシダだが、彼女との邂逅の中で、だんだんと彼女に人間性に惹かれていって……
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題材は、これまでと同じ美術品、美術の世界というのは同じ。ただ、これまではミステリという部分を強く押し出す作品だったのだけど、本作は主人公である史絵の生き方。そして、企画展を開催することになったヨシダの生き様。そんなものをメインに描いていく作品となっている。
企画展を担当することになった史絵、32歳。東京の美大を卒業し、学芸員として働くが、無期とは言え非正規職員。東京に住む恋人の雄介との将来も考えているが、雄介は自分が東京へ帰ってくることを前提にしている。しかも、現在の史絵の職場でのことなどは考えずに……。そんな中で、ヨシダと出会うことになるが……
1970年代、新時代の女性作家として注目された時期のあるヨシダ。しかし、一度は、筆を折り、現在も山の中に引きこもるように暮らし、そこで創作活動を続けている。そんな過去から、フェミニズムなどを強く押し出す作家、というイメージが。だが、実際に出会ったヨシダは、飾らない人柄と、先に書いたような史絵の悩みなどにも真摯に応えてくれる誠実な人物。彼女の世話をする少年・エイトも含めて、史絵はヨシダに惹かれていくことになる。だが、だからこそ、ヨシダの人生にある空白の期間は何なのか? という疑問も浮かんでくる。
物語は、そんな企画展を担当することになった史絵の奮闘と、しかし、その最中でのアレコレというのが中心に。
学芸員という立場ではあるが、あくまでも非正規雇用。責任などはあるが、しかし、将来が見える状態か、と言えば……。そんな中で、雄介から紹介された職場は、期間限定の契約。しかも、今、携わっている仕事をすべて途中で辞めて……という条件。それを断ることにするのだが、雄介には言えない。さらに、職場でも正規職員の田仲の態度などに対して苛立つことが次々とあって……
そんな苦難が次々と現れ、その中で、自分の意見を押し殺す史絵。一方で、
「自分のやりたいことだけをしている」
というヨシダ。そんな生き方に憧れ、そして、彼女の人生を知ることに……。その中で史絵が見出したもの……。人間社会は、ままならないことばかりだし、」すれ違いもたくさんある。でも、見方を変えれば、大事なことを言えば……。色々とつらいことが解決したわけじゃない。でも、少し前向きになれる。ヨシダの人生の、空白期間とそれがもたらしたもが描かれることで、その結末にホッとすることができた。
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