玻璃の家 - ま行の著者
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玻璃の家

著者:松本寛大



アメリカ・マサチューセッツ州の小都市。ガラス製造で財を成した富豪が住み、謎の死を遂げた廃屋敷に入り込んだ少年・コーディは、遺体を焼いている不審な人物を目撃する。だが、彼は交通事故に遭って以来、人の顔を認識できない、という障害を負っていた。州警察の依頼を受けた日本からの留学生であり、心理学者のトーマは、真相を探るべく調査を開始して……
第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
物凄く色々と詰め込んだ作品だなぁ、というのがまず思ったこと。
粗筋で書いたのだけど、物語の最大の謎は、コーディに目撃された犯人は誰なのか? 心理学の観点での、目撃証言と言うものの危うさ。人間の記憶というのは極めて曖昧だし、様々な要因によって自ら改竄されてしまう。例えば、人間は、周囲の期待に応えようという心理がある。そのため、周辺の反応から、「これが求められている」というのを感じると、それに反応してしまう。そして、繰り返すうちに、自分の記憶も「そうだったに違いない」と強化してしまう。コーディについて調べ始めたトーマは、コーディの証言にもそんな傾向があることを見出す。
で、この辺りの話について、背景とかもしっかりとしているのが好印象。例えば、コーディは、母と彼の母子家庭。決して裕福ではなく、しかも、保健医療なども貧弱なアメリカという国の事情。現在は、事件捜査ということで負担がないがもし、それを打ち切られたら……。母に迷惑をかけないためにも、警察にとって「必要な存在」であらねばならない、というバイアスがそこに働いていく。そんなコーディの事情と、心理学的な観点から、そういう傾向を見出していうトーマ。この辺りの事情の兼ね合いなども上手く作られている。
ただ、物語はそれだけでなく、舞台となった廃屋敷の歴史も色々と絡んでくる。歴史上、この屋敷が注目されたのは何度かある。70年前、当時の当主が会社を売却し、この屋敷で暮らし始めたとき。ガラスで財を成した家だが、当主は館のガラスをすべて破壊してしまい、やがて不可解な死を遂げた。それから40年前。廃屋敷となったこの家に、ヒッピーたちが訪れ、そこで麻薬を使用し、その中毒で死者が出た。それぞれの中にある不可解な点。それはなぜ起きたのか? 屋敷の持ち主であった家が抱えた複雑な人間関係もそこにあった。
後者に関して言うと、かなり入り組んでいるし、また、最大の謎である犯人に関しては序盤に心理学的な話を利用したと思われるものがあるので、「多分……」というのはわかる。その辺りで、犯人が誰か、と言う部分と、作品内の謎のバランスがちょっと歪かも、と感じるところはあった。でも、これでもか、と様々な要素を取り込み、そして一つにまとめ上げたのは見事と言えよう。

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Tag:小説感想福ミス松本寛大

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