(書評)中野トリップスター - さ行の著者
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(書評)中野トリップスター

著者:新野剛志

中野トリップスター中野トリップスター
(2011/09)
新野 剛志

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暴力団・迫島組の組員・山根はある日、組長からあらたなシノギを頂戴する。そのシノギとは、韓国武装スリ団の入国、受け入れを支援する「迎え屋」としての仕事。そして、その拠点として、中野に店を置く旅行会社・中野トリップスターのオーナーとなることも合わせて。
そんな山根を主人公とした連作短編集。
基本的には、武装スリ団の受け入れで起きたトラブル。スリ団が盗んだ写真の持ち主探し。山根がなぜか添乗員になって、のドタバタ。狙われた従業員。というようなトラブルを、ヤクザではあるが、冷酷になりきれず、面倒見の良い主人公の山根が奮闘し解決していく、という話になっている。暴力団員である、ということで危ない橋を渡るようなものも多いのだけど、何か抜けた印象の従業員のキャラクターもあってそれほど、暴力的なにおいはしないで進む。甘い、と言えば、甘いのだろうけど、ツアー添乗員となっての山根は、ごくごく真面目に仕事をしている、という感じだし、これはこれで良いのだろう、と思う。
ところが、その組に関係するエピソードが出てくる最後の『世界の終わりにトリップ』となると一気に物語が方向転換。何とも後味の悪い結末へとなってしまう。その結果、「主軸はどこ?」に繋がる。
これは、あくまでも私の解釈なのだが、主人公・山根は暴力団として甘すぎる、ということを描くことにしたかったのかな? という風に感じる。
悪ぶっているけど、実はお人よし。そんな主人公は、何か温かみを感じるのだけど、暴力団としては二流の証拠。ちょっとしたトラブルであれば、それで解決は出来る。しかし、暴力団員として出世が出来るのかどうか、というと……。まして、ラストエピソードでは、ちょっとしたところで足元をすくわれて……の結果になっているだけに。そのことが描きたかったのだ、とすればよく出来ていると思う。
もっとも、そこまで比較的、明るいトーンで描かれているだけに、その後、どうするの? という後味の悪い結末とのギャップに戸惑ってしまう。そのくら急激なトーンの変化があるので、もう少し、ブラックなところを漂わせておいても良かったんじゃないかと思う。
それと、タイトルに「中野」とあるものの、中野である必然性はあまり感じられなかった。小金井とか、近くの地名とかは出ているのだけど、別に他の路線、他の駅でもよさそうだからなぁ……。あくまでも個人の趣味だけど。
ただ、良くも悪くも印象には残ると思う。

No.2830

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