(書評)ガラスのターゲット - あ行の著者
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(書評)ガラスのターゲット

著者:安萬純一

ガラスのターゲットガラスのターゲット
(2011/07/27)
安萬 純一

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3月のある日、世田谷のレストランが爆破される、という事件が起こる。そこでクラス会を開いていた14人の20歳の若者を含む23人が死亡した事件を捜査する警察は、少し前に、足立区のアパートで死亡した爆弾マニアが作った爆弾によるものであることまではたどり着く。しかし、そこから事件は暗礁に乗り上げてしまう……。その頃、今度は八王子で、20歳の女性5人が不審死を遂げ、両者は自分の犯行だ、という手紙が探偵・被砥功児の事務所へと届く……
著者のデビュー作、『ボディ・メッセージ』に続くシリーズ第2作。
正直な観想を言うと、途中までは非常に面白かった。しかし、終盤のトリックやら何やらで非常にガッカリした。
冒頭に書いたように、物語は世田谷での爆破事件と八王子市の集団自殺(?)事件、さらに町田市の集団服毒死事件という3つを中心に語られる。
それぞれの被害者は20歳の若者たち。しかし、その若者たちの間に接点はなく、犯行の方法も世田谷と八王子では全くの別物。ただ、その被害者の中に、クラスを引っ張る委員長タイプの女性とがいたことと、被砥の事務所に届いた手紙によって両者が関連しているのではないか、という思いを抱かせるのみ。一方の、町田の事件は、犯行方法は八王子と似ているが犯行声明はなく、また、被害者が女性の集団と男性の集団と言う違いがあった。それぞれ、直感として(読者とすれば、物語的に)関連しているようには思えるのだが、どう繋がるのかわからない。そのミッシングリンクを巡っての話というのは非常に興味を惹かれた。
また、世田谷の事件はともかく、八王子、町田においては、現場が密室状態となっており、その部分もさらに魅力であると感じた。
ところが、先に書いたように、真相を知ると、ご都合主義やかなり無理のあるトリックでガッカリ。ここからは、ネタバレ反転多目で書きたい。
まず、被害者たちのミッシングリンクについて。(ネタバレ反転)実は世田谷、八王子の被害者は、どちらも犯人の元クラスメイトで、卒業を待たずに転校などをしたため、卒業者名簿になくてわからない存在だった。また、犯人は不登校だったので、当時の関係者に聞いても印象に残っていなかった、となっている。この時点でかなり苦しい。というのは、少なくとも、被害者(の一人)は、犯人のことを覚えていたわけである。その時点で、犯人のことを誰も覚えていなかった、というのは無理がある。しかも、覚えていなかったのはクラスメイトのみならず、担任もである。いくら卒業までいなかった、とは言え、不登校生徒がいれば、教師は対処を求められるはずで、それを忘れると言うのは無理がありすぎるだろう。(ここまで)
次に、町田の事件について。(ネタバレ反転)犯人は、女性であったが、身分証明などが必要のない予備校では、男性として振舞っていた。しかし、予備校を辞めた後、ひょんなことで「男性」としての自分を知る知り合いに出会い、殺害した、ということになっている。そもそも、男性として振舞う理由が弱いし、また、名前を偽るなどはともかく、実際に長らく付き合う中で女性であるとバレないというのは難しいのではないか。「一度、こうだと思い込んだら、案外、そのまま通用する」という指摘はその通りであるとしても……。八王子の事件でも、被害者の一人と犯人が身分を交換していた、となっているのだが、こちらも相当に難しいはずだ(ここまで)
そういうところが引っかかりまくって、どうも最後は、「うーん……」という感想になってしまったのだ。心理的な盲点などを用いて、なるべく無理がないように、としようとしている努力は認めるとしても。
どうも尻すぼみな印象が残る。

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