
日本のゲームを海外向けに販売する場合、ほとんどのケースで言語を他国語にするローカライズという作業を挟みます。
(海外のゲームを日本で販売する時も)
東京に本拠地を置き、ゲームのローカライズを行っている会社『8-4』でエグゼクティブディレクターをしているマーク・マクドナルド氏がファンからの質問に答えていました。
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●Jason Schreier
ハイ、マーク、ここに来てくれてありがとう!
新プロジェクトの選択と契約プロセスについて聞かせてもらえないかな?
8-4は任天堂からナムコまで、たくさんのプロジェクトを抱えているけど、普段は君達の方からアプローチしてる?それとも向こうから連絡が来る?
とりあえず契約出来そうなゲームは全部請け負ってるのか、それとも翻訳/ローカライズするゲームを選択してる?
面白いと思ったゲームだけを扱ったりとか?
そういう要素の決定について聞かせてほしい!
●Mark MacDonald
↑質問ありがとう!
ほとんどのローカライゼーションはクライアントの方からアプローチが来るね。
プリプロダクション(製作前段階)から連絡があって、作業を始める前に数か月間の猶予がある時もあるし、ゲームがほとんど出来上がっていて即始めなくちゃいけない時もあるし、既にある言語版が出来上がっていて別言語を出来るだけ早く欲しい、という時もある。
私達が手掛けたインディゲームには別の方向で行ったのもあるね。
例えば、私達は『ローグ・レガシー』の日本語版を出すためにCellar Door Gamesに接触したんだけど(次の週にリリースだった!)、それは私達がこのゲームの大ファンで日本で出したらどうなるのか見たかったからなんだ。
そして上手くいったよ。
私達はクオリティを重視してるから他のローカライズ会社よりもちょっと作業速度が遅いし値段も張るけど、結局の所高品質なローカライゼーションのために多少のお金と時間を出す事を厭わない人達の作るハイクオリティなゲームを手掛けることが出来てるね。
全てのゲームを私達が手掛けているという訳じゃないけど、どんなプロジェクトであれ私達はそのゲームやジャンルに本当に入れ込んでる人達とチームを組むように取り組んでるよ。
結局の所、それが最終作品に掛かってくるからね。
●darkdeath174
日本語と英語のボイスオーバー(とある言語の音声に別言語の音声を被せて再生する事)があるゲームなのに、英語は字幕しかないのは何で?
日本語音声のゲームの英語版を出すんなら、なんで日本語の台詞と近い事を喋っている音声トラックを付けないんだろう?
1アニメファンとしてゲームのファンが”吹き替え”と呼ばれてるのにあまり気に掛けてないのがずっと不思議なんだ。
君の考えを聞かせてもらえると嬉しいし、君は疑問に答えられると思う。
●Mark MacDonald
↑良い質問だ。
個人的には両方のボイスオーバーを付けてくれた方が嬉しいけど異なる幾つかの理由からなかなか出来ないと聞いた事があるね。
1つの理由は、物理メディアやカートリッジに空き容量が無いという事。
信じようと信じまいと、容量的に1種類の言語しか入れられないゲームもあるらしい。
もう1つの理由は例え理解できない言語だとしても耳障りに聞こえるから、というもの。
副となる音声が主となる音声よりも上に来てしまう事だってしばしばあるから、日本語で誰かの名前を叫んだ時に、英語でその部分を聞こうとして”ちょっと待った!”という事になりかねないからね。
あるいは他の国で特定の声優を使う事に契約上の問題があるのかもしれない。
そういう事がよくあるのかは知らないけど。
●Spacegar
日本を拠点にする利点ってどんな事がある?
好きなJRPGは何?
●Mark MacDonald
↑多くのクライアントが日本の会社だし、私達は日本に住むのが好きだからね。
●Spacegar
↑好きなJRPGは?
センチメンタル・フェイバリットとして『ファイナルファンタジーV』と言おうかな。
あのジョブシステムは今まで経験したコンバットスキームとして今でも際立ってるね。
●LordDisco
好奇心から聞きたい事はカプコンが『エクストルーパーズ』を日本国外でのリリースについてどう扱ってるのかという事。
自分は東京に住んでいて、数週間前にカプコンが春季リリースとして出した3DS版『エクストルーパーズ』を買ったばかりで、このゲームに嵌ってるんだ。
素晴らしいゲームプレイで見た目も感覚も3DSにぴったり(新型3DSだ)で、ストーリーはたくさんギャグもあるし深みだってある。
グラフィックスタイルから台詞まで何から何まで単純に素晴らしいんだ。
自分の中の3DSゲームトップ5に入ってるよ。
とは言え、カプコンがこのゲームを(多言語に)ローカライズしてほしいと言われた時に”日本語の文字がアニメーションしてるし、『エクストルーパーズ』のローカライズは文字を買えるように簡単ではない”と返答してこないだろうか?
カプコンはローカライズしないソフトに対してこういう事を言ってくるんだけど、自分はあまり納得してない。
なにせモノリスソフトの『プロジェクト クロスゾーン』は似たような状況だったから。
アニメーションする日本語テキストは多いけど、翻訳家なら効果的でクリエイティブな方法でもって独創的な日本語テキストの動きを翻訳してくれると思う。
『エクストルーパーズ』の様にカットシーンで漫画の様に日本語テキストが動くゲームの翻訳はどの位難しいんだろう?
本当に翻訳が難しいのか、それともカプコンがローカライゼーションを嫌がってるだけ?
●Mark MacDonald
↑『エクストルーパーズ』のローカライズに関しては何も知らないから話せないんだけど、ストーリーもキャラクターも日本のファン層に向けて作ってあるから、もしローカライズするとしたら海外のファンはゲームに登場する日本文化について精通してなくちゃいけないと考えている会社がある事は知ってるよ。
もちろん、ローカライズするだけの余裕がない所だってあるし。
●Bowlringer
ヘロー、マーク。
君の事は昔から馴染みがあったし、CheapyD.(日本在住のYoutubeパーソナリティ)を通しての今夜のチャットに時間を作ってくれた事を感謝してる。
(国際日付変更線があるから”明日”か)
自分の質問はローカライズする際のコストについて。
SEGAはいつも『龍が如く』シリーズのローカライズは莫大な金額が掛かると言っていて、膨大な量の内容だからそれも納得できるんだけど、一体幾ら位掛かるんだろうか?
●Mark MacDonald
↑君にとっては”明日”だね。ここ東京では金曜の午後10時を越えた所だから。
値段に関しては色んな要素が絡んでくるんだけど、ビッグタイトルは基本的にテキストの量が膨大だからね。
(それに音声をつける事もある)
テキストが大量にあるという事は翻訳量が増える以外に編集も増えるし、ゲームの中にそのテキストを入れる作業にも時間が掛かる。
更にゲームの中のあらゆるコンテンツに対するチェックやQ&Aのための時間もいるんだ。
値段は1つの言語に対して数百ドルから数千ドル、ビッグタイトルの場合は英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語の多言語対応で数百万ドルという事もあるから、投資価値が無いと判断される事もあるとこれで分かると思う。
●laevateinn
↑ローカライズにはライセンスの問題もあると聞いた事がある。
『龍が如く』の場合はドンキのようなネームブランド、声優が日本語版にしか契約してない、ナムコの太鼓の達人をベースにしたミニゲーム等だね。
8-4のようなローカライズ会社はこの件についてどの位気を付けないといけないんだろう?
もしくはそういう事は別のパブリッシャーやデベロッパーが取り扱ってる?
(例えばSEGAとか)
●Darktagger
ハイ、マーク。
ここに来てくれてありがとう。
まず最初に、ポッドキャストを愛聴してるよ。
朝に電車の中で聞いてるんだ!
Giant BombCastで知ったんだよね。
(訳注:アメリカの大手ゲームサイトGiant Bombが運営しているポッドキャスト)
自分の質問はこれ。
今まで翻訳してきたゲームで好きなのは何?
どんな楽しい体験をした?
普通の人には想像もできないような特典はある?
●Mark MacDonald
↑う~ん、1本だけ選ぶというのは難しいな…色んな理由で色んなプロジェクトを楽しんできたから。
『メタルギア・ライジング』はずっと前からシリーズもキャラも好きだったから凄い仕事だった。
それに超過激アクション映画な雰囲気を組み入れるのは今までやってきた仕事とは全く違う感覚だったね。
『ファイアーエムブレム 覚醒』はこのシリーズの大ファンで以前のゲームは任天堂がローカライズしてたから台詞を翻訳するのは大きな名誉だったしスリルもあった。
原作は凄くユニークで楽しいキャラばかりだったからね。
一緒に仕事をしたアラン・エーヴリルはキャラの癖を表現するのに魔法のような手腕を発揮してたよ。
『モンスターハンター』もこのゲームをまたやりまくる口実が出来たから嬉しかったな。
『ドラゴンズ・ドグマ』はゲームも、ゲームの中の世界も好きだ。
『Skulls of the Shogun』は友人であるJake Kazdalと一緒に仕事が出来たし、原作の脚本もかなり手がけたんだ。
ユーモアを出すようにやってみたよ。
納得はできないかもしれないけど、まだまだあるんだ。
長くこの仕事を続けてるから、好きなゲームを選ぶのは自分の子供達の中から好きな子供を選ぶようなものなんだ。
●AlexDKZ
言語や文化の違いから単純に訳すと意味を持たなくなってしまうような事ってどの位あった?
そういう時はどんな”プロトコル”に従ってる?
何をしたらいいかゲーム元に尋ねる?もしくは必要に応じて変更を加えても大丈夫?
●Mark MacDonald
↑色んなパターンがあるからこの位というのは難しいけど、うん、確かにそういう事はあるよ。
簡単なサンプルはギャグ、特に言葉遊びを含むものだね。
これは英語で同じように表現できない事が多いから。
こういう時の基本理念はオリジナルの意図とフィーリングを汲み取る事で、出来るだけオリジナルに近づけながら、元々英語で書かれているような感じを目指して作ってるんだ。もちろん、大きな変更をした時やオリジナル素材にないものを追加する時は細心の注意を払わなくちゃいけない。
気づかなかった矛盾等があったら酷い目に遭うからね…
もし大きな変更をする場合はクリエイターもその事を知っておきたいだろうからきちんと説明するし、少しの変更だったら変更理由を注記して提出するだけのこともあるね。
●AlexDKZ
↑その手のユーモアはローカライズする時に凄く難しいと思ってた。
『メタルギア・ライジング』でドクトルが雷電に”DOOMPが必要だ”と言った部分はオリジナルで何と言ってたのかさっぱりわからなかったんだ。
(訳注:DOOMPはDigital-Optical Output Mounted Proxy(デジタル光出力マウントプロキシ)の略でDump(間抜け)とかけた洒落になっている。日本語版での台詞は”何か踏み台が欲しいな”となっている)
●Chanaluss
ハロー、西洋と東洋の文化の違いの中で君達はローカライズを行ってる訳だけど、会話の調整とかどの位の裁量を与えられてるのかな?
あまり心地のよくない台詞なんかは消してもいい権限がある?
それとも残すように要求されてる?
●Mark MacDonald
↑どの位テキストに(変更の)余裕があるかはプロジェクト毎に変わってくるけど、8-4での経験だと私達が会話全体の意図、キャラの個性等を維持しようと努力していて、結果良い製品になった事から、色んなチームが”脚本には無い”台詞やゲームのセクションを追加する事を信頼してくれてるよ。
お気に入りの例だと『メタルギアライジング』の最終ボス戦でアームストロングが味方のメンバーと遭遇したシーンで英語版の初期稿を書き上げたんだけど、その後で小島プロダクションからその部分に関して彼らの求めるスタイルやフィーリングについて直接大量の指示が来た事があったね。
私は数日かけて修正したけど、それは元の日本語テキストとはかなり違うものになってた。
でもそれこそが彼らの求めていたもので、実際彼らはその英語に合わせて日本語の部分も修正したんだ。
(これは自分にとって信じられない位の謝辞だ)
●John
ヘイ、マーク。
ずっと前からファンで、ショーも愛聴してるよ。
(ブラッドボーンのエピソードを聞いてる所だ。ブラッドボーンをプレイしながらね)
それはそれとして、君の日本での生活がローカライズに影響を与えた事とかある?
つまり、君は日本のゲームを西洋のプライヤーのためにローカライズする事が多いわけだけど、長く日本に住んで日本の文化に触れ続けてきてる訳だし、西洋の人々が日常的に触れてるものと離れてしまってる事に関して心配とかは無いかな?
君達が様々なニュースサイクルから今でも西洋のものにタッチし続けてる事は知ってるけど、西洋のものに触れない事に対する心配とかは無い?
それから追加の質問!
自分は日本の都心から30分位の所に数か月間行く予定なんだけど、暮らしていくうえで何かコツとかある?
時間を取ってくれてありがとう、これからも頑張って!
●Mark MacDonald
↑ありがとう!これは本当に良い質問だね。
そしてその通り、常に日本語に囲まれて自分の中にゆっくりと日本が浸透していく中で、時々和製英語や英語の変な使い方をしている自分がいる事に気付く事もあるよ。
例としては、別の質問でも答えたけどRPGでの戦闘中の声があるね。
攻撃を仕掛ける時に”キャノンボール・キック”とか叫ぶのは西洋ではかなり奇妙に映るんだけど、(西洋では)特にゲームやメディアでリアリズムが強調されてるように思うんだ。
もう1つ、今のゲームに根深く浸透していてどうこう考えるのを止めた事に”S”ランクがある。
タイムアタックのベストランクやレベルの上限で使われてるけど、もしこれを真面目に考えるなら学校の成績システムなど他の例に倣ってA+とかにするべきなのかもね。
でも私は西洋の物事に触れなくなったとは感じてないよ。
オフィスではほとんど英語で会話してるし、西洋のTV番組や映画も見てる(出来る限り読書もしてる)から、そんなに深刻な問題にはならないね。
ゲームは文章も多く音声も付いているので様々な苦労があるようです。
演出として台詞を漫画の吹き出しのよう出したり、格闘ゲームで打撃音を文字として表示してるのはあらかじめ言語リソースを持っていたとしても、各国言語版を用意するのはかなり手間がかかりそうです。

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日本語だと「私」「俺」「僕」「ウチ」「ワシ」など一人称でもどういう人物かイメージ付きやすいけど、英語だと全部「I」になるわけで。
「だが」「でもさぁ」「だけど」「しかし」「せやかて工藤」も全部「But」になるし。
軽いノリのキャラか、お堅いキャラか、そういう違いをローカライズで出すのって苦労しそう。