今日も映画のことを書く気力がないので、「目をつぶっても通れる朝比奈峠」(わたしにしかわからない冗談、失礼)に逃げることにして、前回に引きつづき音楽駄話です。宙ぶらりんになっている『シャレード』が気になっているお客さんもいらっしゃるでしょうが、いましばらくお待ちください。
◆ 昔の企画の蒸し返し ◆◆
昼間、ツイッターでAdd More Musicのキムラセンセとちょっとお話しし、そのとき、アル・クーパーのリッピングをやり直しているということをうかがいました。最近、主体性を放棄しているので、じゃあ、夕食はうちもアル・クーパーにしよう、などと、献立を工夫するのに倦んだ主婦のようなことを考えました。

そこまではいいのですが、アル・クーパーでなにをするのよ>俺、なのです。シャレで「名作」「傑作」の連呼でもやろうかと思ったのですが、主体性は放棄しても、プライドの破片の二、三粒はまだポケットの底に袂ぐそのように残っているので、名作と傑作の連呼はさすがにできませんやね。
で、以前、メーリング・リストで、アル・クーパーのカヴァー曲を列挙して、そのオリジナルや他のヴァージョンを並べるというのをやったことを思いだしたのです。
いまごろになってJollyがどうのとか騒いでいる鈍い連中がいるとかいう話を聞きましたが、なにをいまさらチャンチャラ可笑しい、今回のシリーズにはJollyはまったくお呼びではありません。アル・クーパーのオリジナル曲ではなく、R&Bカヴァーだけが対象です。
◆ Stop (Super Session) ◆◆
アル・クーパーのアルバムにはほとんどつねに、1、2曲、R&Bカヴァーが収録されています。それだけならまだしも、これがなかなか味のある選曲で、子どものときにすごく気になりましたし、あれこれとR&Bを集めるきっかけにもなりました。
ビルボード・トップ40を集めはじめて20年ほどもたつと、かつてアル・クーパーのカヴァーではじめて接した曲も、オリジナルがそろってきて、一堂に集めて聴いてみると、やはりささやかなイメージが浮かんできました。

かつての企画をここにそのまま再現すると、サンプルの数がちょっとまずいほど多くなりそうな気もするので、適宜間引いたり、音質を落としたりすることになると思いますので、先にお詫びしておきます。
トップ・バッターはマイケル・ブルームフィールド、スティーヴ・スティルズという二人のギタリストを迎え、ベーシックはスタジオ・ライヴ、あとでホーンやヴォーカルをオーヴァーダブしただけというロウ・バジェットながら、ゴールド・ディスクになってウハウハだったというSuper Sessionからです。
Super Sessionには2曲のR&Bカヴァーが収録されていますが、まずマイケル・ブルームフィールドのギターをフィーチャーしたStopから行きます。
サンプル Al Kooper & Michael Bloomfield "Stop"
ドラムはエディー・ホー、ベースはハーヴィー・ブルックスです。この曲はAlbert's Shuffleと並んで、ブルームフィールドのギターのヴィークルなのですが、いまになるとエディー・ホーのドラミングにも耳を引っ張られます。
スネア、タムタムのチューニングもよく、タイムは精確、やるべきことはすべてやっていて、いいドラミングです。タムタムというのはどうしてドラマーの個性を強く反映してしまうのかと不思議に思います。ぜんぜん異なるコンテクストなのに、やっぱりモンキーズのDaydream Believerのプレイヤーだなあと感じるのだから面白いものです。

オリジナルはハワード・テイトというジョージア出身のシンガーのヴァージョンです。
サンプル Howard Tate "Stop"
わたしはテイトの盤はもっていなくて、ライノのR&Bボックスに収録されたこのトラックだけしか知りません。はじめてこのオリジナルを聴いたときは、思わず笑ってしまいました。Super SessionのStopは、曲という感じではなく、ちょっとしたフレーズを元にしたジャムにしか聞こえなかったのに、元までたどったら、ちゃんと曲になっていたのだから、なんだか化かされたみたいで可笑しかったのです。ホントに曲だったのかよー、でした。

しかし、よくこういう曲に目をつけたものだと思います。自分で歌う気でいたのかもしれませんが、インストにしてしまったのは、それはそれで好判断だったと思います。ブルームフィールドのベスト盤に入れるべきかどうかは微妙ですが、エディー・ホーのドラミングという付録も考慮して、わたしがコンパイルするとしたら、やはり繰り入れるでしょう。
◆ カーティス・メイフィールドのMan's Temptation ◆◆
Super Sessionにはもう一曲、R&Bカヴァーが入っています。Man's Temptationです。
サンプル Al Kooper & Michael Bloomfield "Man's Temptation"
子どものときは、この曲に対してアンビヴァレントな見方をしていました。いい曲だと好ましく感じるいっぽうで、ポップすぎて、このアルバムのジャム・セッションというコンテクストとは合致しないとも見ていました。こういうプレイならマイケル・ブルームフィールドである必要はなく、子どもはそこが不満でした。もっと弾きまくってほしいのです。

三島由紀夫は、太宰が浮いて安吾が沈むとは、石が浮いて木の葉が浮くようなものだ、といっていますが(太宰嫌いのわたしはガキのころ大拍手した)、ジョン・グェランやラス・カンケルが浮いて、エディー・ホーが沈むなんて、この宇宙の物理法則に反します。
タイムだけをとっても、グェランやカンケルは問題外、エディー・ホーはジム・ゴードンよりちょっと落ちるかな、ぐらいの精密さですからね。はじめからグェランやカンケルなんかとはリーグが二つぐらいちがいます。プロのミュージシャンのなかにも、音感はいいのに、タイムはまったくダメという人はめずらしくないですから、ドラマーの善し悪しが判断できないのでしょう。
この曲のオリジナルはインプレッションズまたはジーン・チャンドラーのどちらかだろうと思います。まずはジーン・チャンドラーから。
サンプル Gene Chandler "Man's Temptation"
同じ曲ではあるのですが、なんだか地味だなあ、と思います。
おっと、時間切れなので、いったんここまででアップし、残りは順次書き足します。

つづいて、たぶんこちらのほうがオリジナルではないかと思われる、インプレッションズ盤。
サンプル The Impressions "Man's Temptation"
インプレッションズというのは不思議なグループです。いや、カーティス・メイフィールドが不思議な人というべきかもしれませんが、すばらしい楽曲が山ほどあるのに、アレンジとサウンドが退屈で、カヴァー盤の巨大供給源になっているのです。
インプレッションズのオリジナル対カヴァー・ヴァージョンの対戦成績は、わたしの基準からいうと、インプレッションズの全敗、カヴァーの全勝です。You Must Believe Me程度でも、ゾンビーズやホリーズの後塵を拝してしまうのだから、インプレッションズのレンディションをわたしがどれほど退屈に感じているかおわかりでしょう。
もちろん、Man's Temptationも、エディー・ホーが叩きまくるSuper Sessionヴァージョンの敵ではなく、なんでこんなボケボケの音なんだよ、と思うだけです。

Super Sessionというのは、ジャム・セッションの流行をつくりだしたエポック・メイキングなアルバムでしたが、じつは、シンプルではあるものの、アレンジとサウンド・メイキングで勝利を手に入れた盤だと思います。
Man's Temptationにそれがはっきりとあらわれていますし、あとからホーンやヴォーカル・ハーモニーをオーヴァーダブした姿勢、考え方からも、アル・クーパーがジャムに強くこだわったわけではないことが明瞭にうかがえます。オリジナルと比較すると、プロデューサーが仕事をしたことがよくわかるのです。

マイク・ブルームフィールド&アル・クーパー
Super Session

マイク・ブルームフィールド&アル・クーパー
スーパー・セッション(紙ジャケット仕様)

Beg, Scream & Shout!: The Big Ol' Box Of 60's Soul

インプレッションズ
One By One / Riding High
