夢見るペルセウス座 まどろむアンドロメダ座 (エンド2)好きな人には今日会いに行く
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夢見るペルセウス座 まどろむアンドロメダ座

「KING OF PRISM」
bride of prism

(エンド2)好きな人には今日会いに行く

(エンド2)好きな人には今日会いに行く





「お兄さん、意外とイケメンじゃん。ペケマルの中の人にもったいなくね?」
「おまえら知らないのな。このお兄さん、元はプリズムダンサーなんだぜ」
「へえええええ?プリズムジャンプ跳べんの?」
 なななななんで知ってるんだ?このガキ、いやオコサマは。
「うちの姉上の推しが如月ルヰ様でさ、円盤なんかもう飽きるほど見てんだよ」
 ルヰの名前が出た途端、俺の顔色が変わったんだろう。その男の子は、素知らぬ振りで話題を変えた。
「いずれ出てみたいよな。プリズムショー」
「俺も」
「私も」
「なあ、うちの児童劇団の臨時コーチに来てくれよ。この間まで現役ジャンパーだったんだろ?跳べない奴に教わってもなあ……」
「だよねだよね」
 プリズムショーの話になって、子役たちの態度が一斉に変わった。
 あれからいろいろあって、俺は今、子供番組『ペンギン忍者ペケマル』の着ぐるみの中の人になっていた。顔を見られない仕事は、今の俺にはなんだか落ち着く。
 子役俳優のミツルとナオキは、初日から厚かましいくらいに馴れ馴れしく俺に絡んできて、態度はああなんだが、現場に来たばかりの俺に気を使っているんだと、昼食休憩の時、子役の控室にひっぱりこまれて気づいた。小学生に心配されるほど態度に出ていたのかなあ。情けない奴だな、俺って。
「兄さん、ルイ様にふられたんだ?」
「そういうんじゃないよ」
「いいよ、隠さなくても。俺たちの間で」
 ガキのくせに生意気な。
 でも、正直、ガキの遊び相手になってると色々な雑念が消えて、それは救いだったかもしれない。
 だが、ルヰの婚約報道には、さすがに二人とも押し黙った。
 俺は、その頃には気がつかないフリをできるくらいに回復していた。ごめんな、ガキに気を使わせるなんて、ダメな大人で。でももう大丈夫だよ、俺は。

「兄さん、ルヰ様に会いたくね?」
 ミツルとナオキは、ハンバーガーを豪快に口に押し込みながら、声を潜めて言った。
「俺たち、例の結婚式さ、会場でパレード要員なんで中入れる」
 会場というのは、シュワルツローズが全額出資してこのほど完成したテーマパーク『ワンダープリズム』のことだ。その落成式を兼ねて、ルヰのウエディングセレモニーやイベント、パレードなどが企画されてるらしい。
「うちの劇団から大勢動員されてて、付添の大人が何人も付くから、会場には入れるぜ」
 俺は別に……
「こういう時、優柔不断は命取りだぞ。男ならしっかりしろ」
 何をだよ?
「俺たちで式をぶっ壊して、ルヰ様を連れ出すんだ」

 ミツルはカバンから学習帳を取り出すと、その1ページを定規で手際よく切り取って、図を引き始めた。
「リハで下見してきた」
 それは『ワンダープリズム』のキャッスル内部の見取り図だった。
 トイレの便器の数まで正確に覚えているような記憶力に、俺はちょっと驚愕していた。セリフ覚えも早くてカンのいいガキだとは思っていたけど。
「俺たちの控室はここ。兄さんはここまでは無条件で入れる。プリズムキャッスル中庭に聖堂があって、多分ここが結婚式場……式の後、キャッスルの大階段に出てくる演出だが」
「花嫁控室に行くのは難しいかな」
「場所が奥まってるから出入口が限られる」
「チャベルを強襲か……」
 ちょっと?何を言ってるの?君たち。
「人の話ちゃんと聞いてろよ。兄さんが実行部隊なんだぞ」
 は?俺?
「俺たちが行ってどうすんだよ。ルヰ様に会うのは兄さんだろ」
「目的が正しければ、手段は選ばない」
 そんなテロリストみたいなことを……
「元はといえば、兄さんがしっかりしないからじゃないか」
 なんだよ?俺のせいかよ。
「いいか、ちゃんと頭に入れておいてよ」
ミツルは図面をたたむと俺の上着のポケットに差し込んで、ヤクザ映画のボスみたいなしぐさで俺の肩をぽんぽんをやった。
「具体的な段取りは前日リハん時説明する」
 そこへミツルとナオキの母親たちが迎えに現れて、二人は瞬時に無邪気な子供の顔に戻った。
「じゃあお兄さん、またね〜」
「次はプリズムジャンプの練習だよ〜絶対だよ〜」
 俺は、帰りの電車内で図面を開いてみた。
 ミツルとナオキの生意気な口調とは裏腹に、子供らしい稚拙な筆跡で『子どもひかえしつ』『パレードのコース1』、タイムテーブルも書き込まれ、どこから見ても子供の打ち合わせメモだった。
(運が良ければルヰの顔くらいは見れるかな)
 ルヰの連れ出しはおとぎ話として、遠くからでもちょっと見れたらいいかな。俺は、それで気持ちの区切りにするつもりだった。
 だが、ガキどもが俺に用意したのは、『シュワルツローズ』の警備兵の制服と装備だった。どこからかすめてきたのか、本物の。

◇ ◇ ◇

 ミツルとナオキは『花火』と言ったはずだ。
 式後に予定されている打ち上げ花火の暴発事故で、式を中断させる、というのが最初の段取りだったはずだ。
 だが、今のは銃声だ。それも実弾。チャベルのステンドグラスにびしびしと刺さり、三発目は天井から下った飾りランプを消し飛ばした。
 そして四発目。
 花婿姿の法月仁が、ぐらりと傾いた。
 聖堂の祭壇の、ゆるく広がる階段を崩れ落ちていく花婿の姿は、映画ほどドラマチックでもなく、一瞬何が起きたのかわからなかった。しばし遅れて、参列者から悲鳴と叫声があがる。
 我先にと出入り口に殺到すると、さらに破裂音が続き、バイトの警備員までもが逃げ惑うパニックと化していた。
(どういうことだ?)
 いや、状況なんかどうでもいい。ルヰが危ない。
 なんかおかしい。ここはヤバい。
 目の前で倒れた花婿を見下ろし茫然としているルヰの手をつかむと、ぎょっとして振り返ったルヰは、警備兵が俺だと気付いたようだった。
「なに…?どうして?」
 説明してる暇はない。ルヰを引きずるようにして、非常口から出ると、ガキどもに指定されたルートで通路を抜けて、階段を降りる。
「ミツル?ナオキ?おい?」
 イヤモニからの応答はなかった。
(どうなってるんだ?)
 ルヰは、不安そうな顔で、しかし俺に腕をつかまれたまま黙ってついてくる。こういう状況で、とりあえず俺を信用してくれているのは嬉しいけど。 
 階段から、地下駐車場へ出た。
「ご無事でしたか!」
「こちらです!』
 待ち構えていたようにワゴン車が横付けし、スライドして開いたドアの中からシュワルツの警備兵たちが降りて、ルヰを誘導する。 
(違う……こいつらは…)
 嫌な感覚だった。何か本能がヤバイと訴えている。咄嗟にホルスターから拳銃を抜いていた。
「ルヰに触るな」
 ルヰの背を抱いて車に誘う男の頭に銃口をつきつけると、俺は迷わず引き金を引いた。
 機械人形にでもなったかのようだった。力任せにルヰを後ろに突き飛ばしながら、立て続けにt発砲した…
「ぎゃっ」
という子供の悲鳴で、俺は我に返った。
「ミツル?ナオキ?」
 ワゴン車の後部座席にいたのは、あの生意気なガキどもで、パレード用の衣装を着ていた。
 なぜこいつらがここに?と考えて、俺は一瞬で状況を理解した。
「てめーら……俺をはめやがったな……」
 ルヰの連れ出しに俺を使い、ここでルヰを拉致する計画だったのか。ガキのくせに大人を騙そうなんて…
「まさかほんとに撃つなんて…兄さんにしては上出来……」
「人の話はちゃんと聞いてないとな」
 計画を本物らしく見せるためか、それとも俺をびびらせる目的だったのか、ミツルは昨日、段取りのついでに安全装置の外し方とか装備の説明もした。
「こいつら偽兵だろ、兵服もレプリカだし。だいたい本物のシュワルツ兵なら、絶対にルヰには触らないぞ」
「あ〜…」
 ナオキは腹を押えてうずくまっていた。
「……救急車を呼ぼう……」
 と俺がスマホに視線を落とした時だった。
「その必要はない」
 少年のその手には、小型の自動拳銃がこっちを向いていた。
「ルヰ様から手を離すなんて、やっぱダメな奴……」
 はっと振り向くと、ルヰは、別のシュワルツ兵に捕まれていた。しまったと思った瞬間、そいつは発砲していた。
 倒れたのは俺ではなく、車中の子供だった。
「ミルツ… ナオキ…」
 がくがくと膝が崩れる。
 まだ小学生じゃないか。こんな……
「ガキどもの言うとおりだ。ルヰ様から手を離したおまえが悪いぞ」
 顔を覆っていた装備を剥いだ兵は、それは俺の見知った奴だった。プリズムショーを一緒に踊っていた…
「鴬谷?」
「ルヰ様、お迎えに上がりました。わたくしは里長の第二子メジロ。これより里までお供いたします」
と地面に平伏した。
「……こんなことにあなたを巻き込みたくなかった……だからプリズムショーから外したのに……」
 それまで、ただ黙って俺に引きずられていたルヰが、ようやく顔を上げた。
「……仁が倒れて……あなたが現れて、どうしていいのかわからなかったけど……やっぱり嬉しかったわ。あなたがどんな悪人でも……この後どんな悲しいことになっても……」

◇ ◇ ◇

 はっと我に返ると、『蛍の光』が場内放送で流れていた。
(あれ?俺、何してたんだっけ?)
 隣にルヰがいて、俺の腕にしがみついていて、ふたりで遊園地のティーカップでおしゃべりをしているところだった。
「もう帰らなくちゃ」
「そうだね……」
 俺たちは、ふたりで一つの傘におさまって地下鉄駅に向かい、ルヰは俺の腕にしっかりしがみついたまま、乗換駅に到着した。ここで俺たちの路線は分かれる。
 俺はルヰを乗り換えホームまで送って……
(あれ?)
 俺は、そこで何かめまいのするような、強烈な違和感に襲われた。
「ルヰ…」
「え?なに?」
 まるでこの世からルヰがいなくなってしまうような、このまま二度と会えなくなるような、そして大事なものをたくさん失ってしまうな……何だかわからないが、ものすごく嫌な感じがして、俺はルヰの腕をつかんでいた。
「俺の住んでるとこ、ここから近いんだけど、ちょっと寄って行かないか?」
「え?……でも…」
「服、びしょぬれじゃないか。ちょっと寄って乾かしていけばいいだろ。ついでに、一緒にごはんでも食べよう」
「う…うん…でも…」
 俺はかなり強引にルヰの腕を引いた。ルヰは「でも…」といいながら、たいして抵抗もしないでついてくる。
 最寄りの地下鉄駅を出ててから、持ち帰り弁当を買う。
 途端にルヰは興味津々の様子で、そわそわし始めた。どうやらシュワルツではこんな下賎なものは食さないらしい。
「なんで4つも買うの?」
「明日の朝飯。今、冷蔵庫に何もないんだ」
「明日もお弁当〜」
 うきうきと、俺の腕にしがみついてくるルヰがかわいい。
 俺の住まいは、もうすぐそこだ。
 俺は今すぐルヰに言わなくちゃいけないことがあったんだ。今、たった今言わなくちゃ。
「ルヰ。好きだ。俺たち結婚しよう」
「………」
 ルヰの手が震えのがわかる。
「でも… いつ?来年?」
「今日」
 明日とか来年とか、本当にそんなものあるのかよ。大事なことは今日でなきゃだめなんだ。なんだか、そう解った気がする。
 いつも見かけるけど、ビルとビルの間、小さな祠の稲荷神社がある。赤い鳥居の。たった今まで気にもしてなかったけど、俺はふいに思い立って、ルヰと並んで、傘と弁当持ったまま拝んだ。
「何お願いしたの?」
「お願いじゃない、報告だ。今日からこの子お嫁さんにしますって」
 ルヰは、瞳をうるませながらうつむいて、
「お弁当冷めちゃうよ…」
と答えた。



(エンド2 終)

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