巻末手記 ――できました、
できました、
かはいい詩集ができました。
我とわが身に訓(をし)ふれど、
心をどらず
さみしさよ。
夏暮れ
秋もはや更(た)けぬ、
針もつひまのわが手わざ、
ただにむなしき心地(こゝち)する。
誰に見せうぞ、
我さへも、心足らはず
さみしさよ。
(ああ、つひに、
登り得ずして歸り來し、
山のすがたは
雲に消ゆ。)
とにかくに
むなしきわざと知りながら、
秋の灯(ともし)の更(ふ)くるまを、
ただひたむきに
書きて來(こ)し。
明日(あす)よりは、
何を書かうぞ
さみしさよ。
『金子みすゞ全集』 Ⅲ さみしい王女 p280
7連25行
5、 5、 13。 12、 7 5。 4 8、 12、 12。 7、 12 5。 5、 12、 7 5。 5 12、 12、 7 5。 5、 7 5。
みすゞさんが残した3冊の詩集の3番目『さみしい王女』の最後にある詩です。
「巻末手記」ですから、あとがきであって詩と扱っていいかわかりませんが、表現上は紛れもなく詩ですので、私はみすゞさんの作品の一つと扱っていいと感がえます。
巻末手記といえば、作品が出来上がったことの達成感やうれしさ、出来上がるまでの苦労の想い出などが表現されてしかるべきですが、「さみしさ」「むなしき」が多用された内容は、みすゞさんによる詩を書くことへの決別宣言と言えます。
『さみしい王女』の最後に置かれた詩「きりぎりすの山登り」を取り上げた時にも記しましたが、元夫宮本啓喜に詩を書くことを禁じられ、いったん確保した娘を再び奪われそうになる状況で書かれたことは間違いありません。
自殺の覚悟もすでにできていたのではないかと推測されます。
そういった意味では「きりぎりすの山登り」同様、遺書あるいは辞世の詩という位置づけになります。
名詞: 詩集、 我(2回)、 わが身、 心(2回)、 さみしさ(3回)、 夏、 秋(2回)、 つひま、 手わざ、 心地、 誰、 山、 すがた、 雲、 わざ、 灯、 ま、 明日、 何
形容詞: かはいい、 むなしい(2回)
動詞: できる(3回)、 訓ふ、 をどる、 暮れる、 更ける、 する、 見せる、 足る、 登る、 得る、 歸る、 來る(2回)、 消ゆ、 知る、 更くる、 書く(2回)
通算登場回数
今回登場
雲(雲間):19作目
今回登場なし
(お)空(夕ぞら、青空、夜ぞら、夕やけ空、中空):43作目
(お)海(外海内海、大海):29作目
母さん(お母さま、母さま、かあさん、かあさま):23作目
青(青い、青む、あをい):22作目
赤(赤い、あかい):21作目
(お)花:19作目
白(白い、しろい、眞白な):18作目
(お)舟・小舟・(お)船・帆かけ舟:17作目
お月さん(お月さま、月、月夜、月かげ):16作目
黒(黒い、くろい):15作目
(お)星(さま):9作目
雪(雪の日):9作目
波:8作目
(お)魚(さかな):6作目(タイトルのみ1作)
(お)父さま(父さん、お父ちゃん):5作目
お祖母さま(樣):5作目
みどり(こみどり):5作目
石ころ(石、切り石):4作目
(うす)紫(むらさき):4作目
金(黄金):3作目
紅い:2作目
紺:2作目
さくら(山ざくら):2作目
藍いろ:1作目
参考書籍
『新装版 金子みすゞ全集Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』 JULA出版局 1984年
『童謡詩人金子みすゞの生涯』 矢崎節夫 著 JULA出版局 1993年
『別冊太陽 生誕100年記念 金子みすゞ』 平凡社 2003年
『没後80年 金子みすゞ ~みんなちがって、みんないい。』 矢崎節夫 監修 JULA出版局 2010年
『金子みすゞ 魂の詩人』 増補新版 KAWADE夢ムック 文藝別冊 河出書房新社 2011年
『永遠の詩1 金子みすゞ』 矢崎説夫 選・鑑賞 小学館eBooks 2012年
『金子みすゞ作品鑑賞事典』 詩と詩論研究会編 勉誠出版 2014年
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