オススメの本 (1) 萩原浩「明日の記録」
- Day:2007.11.29 03:17
- Cat:オススメの本
![]() | 明日の記憶 (光文社文庫) (2007/11/08) 荻原 浩 商品詳細を見る |
彼の小説を初めて読んだのはデビュー作の「オロロ畑でつかまえて(集英社文庫)」。
彼の前歴が同業というのもあって興味を持ったのが始まりだ。
デビュー作は楽しいだけが印象だった。
それが第二作の「なかよし小鳩組」を読んで以来、すっかりファンである。
これも前作と同じくエンターテイメントに徹した本なのだが、
不用意に読んでいると、ラストで心を鷲掴みにされる。
ただのユーモア作家ではなかったと、それ以降の作品を読むたびに感じている。
さて、映画化されて非常にメジャーになった「明日の記憶」だが
多彩を極める萩原浩の作品の中でも異彩を発する。
映画はまだ見てない。失敗したなあ。
どちらも楽しみたい人は映画を先に見たほうがいい。
映画に感情移入できなくなるからね。コレ定説です(^^;)
・ ・ ・
この物語は、若年性アルツハイマーにかかった50代の男が主人公だ。
積み上げた努力や自信が、大切な人との時間が、
まるで無かったことのように消え失せていく。
自分が、自分の存在価値が、溶けて無くなるその怖さ。
アルツハイマーに関して、僕らはどれだけ無知で、
どれだけ恐ろしい病気か、この本を読んで正直思い知らされた。
数年後には死に至る病だなんて…ウソでしょって感じ。
読んだ人は冗談でさえ「アルツ」なんて言えなくなる。
死は言うまでもなく、生命の終わりとしての客観的な死であり、
取り巻く人々が突きつけられる事実としての死なのだろう。
でも、ここに描かれている「記憶の死」は自分の終わり。
これも死ぬことなんだなと気づかされた。
人間は過去に生きているのではないことは、理屈では分かる。
でも、何だろう・・・。
自分たちは現在より過去を大事にしているのかなあ。
この死を迎える人と、死を受け入れる人の物語を読んでいると、
現在という時間の大切さが染みてくる。
死んだっていいじゃないか。死ぬまで今があるんだから・・・。
これ以上書くのはやめます。読む人が感じればいいことだし。
ただひとつ、伝えないといけないことはコレ。
電車の中で,ラストシーンを読むのはやめた方がいいということ。
・・・謹んで申し上げます。
![]() | オロロ畑でつかまえて (集英社文庫) (2001/10) 荻原 浩 商品詳細を見る |