「レッズ」
ロシア革命を舞台にした
あるカップルの恋愛物語 【原題】Reds
【公開年】1981年
【制作国】亜米利加
【時間】196分
【監督】ウォーレン・ベイティ 【音楽】スティーヴン・ソンドハイム デイヴ・グルーシン
【脚本】ウォーレン・ベイティ トレヴァー・グリフィス
【言語】イングランド語 一部ロシア語 トルコ語系?
【出演】ウォーレン・ベイティ(
ジョン・リード)
ダイアン・キートン(ルイーズ・ブライアント) ジャック・ニコルソン(ユージン・オニール) エドワード・ハーマン(マックス・イーストマン) イエジー・コジンスキー(ジノビエフ) ポール・ソルヴィノ(ルイス・フレイナ) モーリン・ステイプルトン(エマ・ゴールドマン)
【成分】泣ける スペクタクル ロマン パニック 勇敢 知的 絶望的 切ない かっこいい 20世紀初頭 社会主義革命 ロシア革命 アメリカ ソ連
【特徴】ロシア革命を取材したアメリカ人ジャーナリストとその妻の激動の愛を描いたスペクタクル浪漫。とにかく主人公たちはよく喋る。
社会主義者のジャックと女性解放運動のルイーズが出会って激しい恋に落ち、倦怠期に入って仲違いをし、再び確かな愛で結ばれる様がリアルだ。特に夫婦喧嘩の場面は素晴らしい説得力。政治的背景が強そうな左翼っぽい映画だが、主題は完全にラブロマンスである。
ハリウッドがアカデミー賞を与えたのは、本作の本質は社会主義革命への啓蒙ではなく単なるラブストーリーであると判断したためか。 【効能】いまラブラブのカップル、新婚カップル、仲が冷え始めたカップルが観ると感動できるかもしれない。
【副作用】理屈をこねた台詞がやたら多く、論理よりボディランゲージ派には鬱陶しい作品。左翼が嫌いな人はタイトルから嫌悪感。
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ジャックとルイーズ 反骨俳優
ウォーレン・ベイティ氏は67年に「
俺たちに明日はない」で主演した。この映画は原題をそのまま直訳すると「ボニーとクライド」である。マシンガン片手に銀行強盗を繰り返す実在のカップルを映画化したものだ。
この「
レッズ」も「ボニーとクライド」と同じく実在の1組のカップルが軸になっている。社会主義者と銀行強盗とは生き方は違えど、同じく体制権力に反抗するカップルだ。別題を付けるとしたら「ジャックとルイーズ」だろう。(余談1)
「
俺たちに明日はない」ではアメリカ最下層の若いカップルが主人公だが、ジャックは比較的裕福な家庭で育ち大学を出て左翼系ジャーナリストになる。ルイーズは女性解放運動家である。2人を知る関係者の証言を挿入しながらドキュメンタリー形式で話が始まる。
全編を通して主人公たちはよく喋る。討論や口喧嘩のオンパレードである。作品内容から政治的映画・歴史超大作と思うかもしれないが、基本はラブストーリーである。政治的な知識や歴史を知らなくても、自分たちの恋愛体験と置き換えて観ることが可能ではないかと思う。
ルイーズがジャックと出会った頃は、既にジャックは人民側の良心的ジャーナリストとして一部で有名になっていた。出会った頃はお互いを素敵な人と思っていただろう。ルイーズは相手を進歩的で社会的弱者の側に立つ勇敢なジャーナリスト、ジャックは若くて頭が良くて積極的なルイーズに惹かれる。
しかし恋愛はアツアツのまま続きはしない。お互いが鬱陶しく感じたり、価値観や意見の相違で大喧嘩をする。時には距離を置いたり、また接近したり、やっと夫婦生活をおくるようになったと思ったらジャックはロシアに釘付けになって離れ離れ、映画のラストは一応ハッピーエンドに終わる。(余談2)
私が今まで見たラブストーリーの中では、未だに最も説得力のある映画だ。「
俺たちに明日はない」と合わせて見てはいかがだろう。
あるいは夫婦喧嘩をした方々が関係修復の一助として観るのも良かろう。
(余談1)左翼運動家や共産主義者を指して「アカ」と呼ぶ日本語と同様の意味がある。
ジャックがソ連に渡り政治委員の1人として中央アジアへ遊説するとき、
インターナショナルの合唱がBGMで流れる。学生運動や労組運動をやっていた団塊の世代には馴染みのある労働歌だろう。「幸せの黄色いハンカチ」でも武田鉄也氏が失恋して北海道へ渡ったとき、町をデモ行進している人々が日本語歌詞の
インターナショナルを合唱している場面がある。私の世代でも大学の寮闘争などで覚えた人はけっこういると思う。
共産主義者を主人公にしながらアカデミー賞の栄冠に輝いた本当の理由は、主題が共産主義の啓蒙ではなくラブストーリーと見なされたためではないか?
(余談2)ロシア革命の取材に行く道中、汽車の中でジャックはルイーズたちに必死でジョークを言うが、完全に白けている。出会った頃はジャックが並べる理想論にルイーズは胸をときめかせながら耳を傾けていたのに。
しかし革命の只中のロシアで、ジャックは思わずアジ演説をぶち群集から大喝采を受ける。その光景がルイーズの心にかつての新鮮な感動を甦らせ、感動の波に委ねてそのまま夜を過ごす。
インターナショナルをBGMにベッドシーンなど、アメリカ映画では特異だ。
これらに若干近い体験(おこがましいが)をしたことがある。映画のように劇的ではないが、むかし、ある市民運動の集会で司会進行をやったり、市役所の周りを百人程度でデモしたときに拡声器片手に辻演説をした。あとで連れ合いから、「いかがわしい本あつめたり、エロビデオばかり観る人が、突然かっこよく立派な人になるね」と冷やかされた。
革命当時のロシアの描写も遜色ないできだった。20世紀初頭のロシアをよく再現している。
ソ連の要人がジャックと澱みなく英語で会話する場面が多く出てくるが、これはハリウッドの悪い癖ではない。ロシア革命の指導者たちは超インテリ揃いである。レーニンでもヨーロッパの言語数ヶ国語を操れる。
ジャック・リード(
ジョン・リード)のロシア革命ルポ「世界をゆるがした十日間」は岩波文庫で刊行されている。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔 【受賞】1981年度アカデミー賞最優秀監督賞 最優秀助演女優賞 最優秀撮影賞
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