「宇宙戦艦ヤマト 復活篇」
呆れるところ多々あるが、楽しめた。 【原題】【公開年】2009年
【制作国】日本国
【時間】135分
【監督】西崎義展 【原作】西崎義展 【音楽】宮川泰 羽田健太郎
【脚本】石原武龍 冨岡淳広
西崎義展【言語】日本語
【出演】山寺宏一(古代進) 伊武雅刀(ゴルイ将軍) 藤村歩(古代美雪) 由愛典子(古代雪) 茶風林(大村耕作) 古谷徹(徳川太助) 伊藤健太郎(上条了) 浪川大輔(小林淳) 柚木涼香(折原真帆) 野島健児(桜井洋一) 山口勝平(中西良平) 鳥海浩輔(木下三郎) 高瀬右光(郷田実) 大浦冬華(佐々木美晴) 阪口大助(天馬兄弟(走・翔)) 青野武(真田志郎) 置鮎龍太郎(島次郎) 永井一郎(佐渡酒造) 緒方賢一(アナライザー) 家中宏(メッツラー総督) 飯塚昭三(バルスマン総司令官) 田中敦子(イリヤ女王) 井上和彦(パスカル将軍) 子安武人(シーガル艦長)
【成分】ファンタジー スペクタクル ロマンチック 勇敢 かっこいい 男社会 第二次世界大戦と中東派兵のパロディ
【特徴】西崎義展氏と
石原慎太郎氏が贈るタカ派アニメ。
前作映画から四半世紀ぶりのアニメ映画化。第二次世界大戦のパロディでもあるTV放送エピソード1に対して、今回はアメリカのイラク派兵などを象徴する混迷の21世紀社会をパロっている。
「ガンダム」や「スター・トレック」などは新作のたびに着々と女性キャラたちの「社会進出」がめざましいのに対して、本作のヤマト艦内は「古き良き時代」の良妻賢母型の女性キャラが男の邪魔をしないように侍る。男社会再興隆を望むスタンスの方々には美しい職場環境である。
また、やんちゃな若者だった古代進は本作では反抗期に入ったハイティーンの娘を持つ中年の父親になっており、父と娘の対立と葛藤が見ものだ。
【効能】旧ヤマトのファンには相変わらずの世界観に懐かしさと安定感を抱く。若い世代には「ガンダム」とは違う男臭い世界に新鮮な感覚を抱く。
【副作用】男臭い社会と、やたら頭の悪い幼稚な若者と、良妻賢母型女性キャラに食傷。
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制作陣の老いを感じる作品 タカ派の
石原慎太郎氏と
西崎義展氏が組んで作った物語だ、何もかも想定通り、判った上で観に行ったのだから酷評する気は今さら起こらない。予想外の良い場面があったら楽しもう、そう思って観た。
私の中では「愛の戦士たち」で正史は終わっている。後は未練がましく「ヤマト」にしがみ付く制作陣たちのエゴによって矮小化されたパラレルワールドだ。
誤解の無いよう立場を述べておくが、私は商業主義を肯定している。
世間は映画を「総合藝術」と見ている。原作者・脚本家・音楽家・映像作家など様々な業種の人間が制作に関わる作品だからだ。多くの人々が関わる事業ゆえ、制作費の回収は必然であり、映画館への配給や関連グッズや書籍の販売など様々な販促を行わなければならない。
だから私は「総合藝術」ではなく
「藝術のゼネコン」、共同企業体のようなものと評したほうがより正確であると見ているし、多くの人間が参画する制作に商業主義を否定することのほうが不自然なのである。
勘違いしてほしくないのは、商業主義だから名作ではないとか、名作だから商業主義を排しているとかではなく、作品としての完成度と商業主義は本来別物である。制作目的に見合った完成度と商業的成功を得る事ができれば、それに越したことはない。「ロード・オブ・ザ・リング」などはその典型的成功例だ。制作目的に見合った完成度なら成功、あとの評価は観る人の好みだ。
さてその完成度だが、この作品はバランスの悪さを感じた。
まず好感を持ったところを述べる。さすが、メカデザインや戦闘場面はなかなか気合が入っていた。物語は石原氏と西崎氏が好みそうな超大国アメリカと中東が対立する現代社会のパロディのようだったが、不朽の名作に登場するガミラスとてナチスドイツのパロディだから批判の対象にはならない。「スタートレック」とて英語を話す異星人だらけだ。しかも2作目・3作目の内容は「ヤマト」と変わらん。
癇に障ったのは、まず爆風で飛ばされる古代雪のセミヌード、艦長の制服が一瞬に1枚のボロ布に変化して白い裸体がのぞくあの場面は必要なかったし、挿入するにしても中途半端だ。美しくない。獅子奮迅の戦闘指揮する場面があるのかと思ったが、全く無かった。(余談1)
石原氏と西崎氏の作品だからやむを得ないが、艦内の雰囲気が完全に男社会。70年代の「ヤマト」と変わらん。真帆・イリヤ・美晴が活躍しているかのように見せているが、実質はマスコット的ポジションの域を出ていない。「スタートレック」や「ガンダム」では時代とともに女性キャラの活躍が増大しているのに対し、「ヤマト」は頑なだ。暗に「女はこうあるべき」「1人ぐらいのじゃじゃ馬娘ならいても良いよ」と石原氏が主張しているように見える。私が監督なら上条を女にし機関士兄弟を姉妹にする。
そして基本的にキャラデザインは古き良き日本風、取って付けた様に今風を意識した機関士兄弟を加えたりするのがかえって違和感。
変に若者を馬鹿丸出しに描き、これみよがしな若者風の軽い台詞があるのもムカつく。 さらに「最終回」でもないのに主要キャラをやたら殺しすぎ。
気がかりなのはBGMがクラシックと過去のヤマト音楽の流用。ヤマト音楽は良いのだが、クラシックが場面と合っていない。なぜ新たな曲をつくらない? かつての「ヤマト」はアニメ音楽の歴史を変えた絶大なる影響力を誇っていた。(余談2)そのリメイクだから余裕が無いとか手抜きをするはずは無いのだが? まさか人材不足か?
最後にエンドロールで画面一杯のゴシック体で監督名を出すのは見苦しい。ヤマトが主役であって監督は主役ではない。
第2部を発表するつもりのようだが、次回作は古代進の盟友に成り下がったデスラーを登場させるつもりだろうか? ヤマトファンとして見届けるつもりだが。(余談3)
(余談1)虫プロのアニメに女性司令官が爆風で吹き飛ばされる時にコート・ジャケット・シャツ・ブラとパンティの順番に剥ぎ取られ最後に全裸になって炎に消えていく場面があった。こっちの方がインパクトあったなぁ。なんせ「24時間TV・愛は地球を救う」で放映されていたから。
(余談2)私の記憶に間違いが無ければ、日本アニメ史上初の一作品専用LPと交響曲が発表された。それ以前は複数のアニメ作品の主題歌を集めたLPレコードはあったが、一作品のBGMを交響曲に編曲したのは初だった。しかもヤマト音楽はこれ以降もLPを発表し続ける。
(余談3)私は第1回目の再放送からファンになった。というのも、同様の体験をされている方は非常に多いと思うが、本放送時は「アルプスの少女ハイジ」が時間帯の支配権を握っていて、少女たちの多くはハイジ派、親も子供の情操には「ハイジ」を選択、戦争アニメは嫌われた。
現代の子供は今や1人にTV1台だが当時は一家に1台、姉や妹がいる家庭では特に「ヤマト」は冷遇された。
因みに私の連れ合いは今でもハイジ派であり、ヤマトはおぞましいようである。
晴雨堂スタンダード評価
☆☆ 可
晴雨堂マニアック評価
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