「エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略 」 デンマーク側から見たナチスの侵略。 【原題】 9. APRIL
【英題】 APRIL 9TH
【公開年】 2015年
【制作国】 丁抹
【時間】 93分
【監督】 ロニ・エズラ 【制作】 【原作】 【音楽】 【脚本】 トビアス・リンホルム
【言語】 デンマーク語 一部ドイツ語
【出演】 ピルー・アスペック(サン少尉) ラース・ミケルセン(Hintz中佐) グスタフ・ダイアーギーズ(アンデルセン一等兵)
【成分】 パニック 切ない 悲しい 絶望的 勇敢 デンマーク 市街戦 第二次世界大戦
【特徴】 ナチス・ドイツのデンマーク侵攻に焦点をあてた作品である。デンマークの作品であり、当時の戦闘に参加した兵士たちの監修協力を得て制作された。
メイキングフィルムでは、当時の軍装を身につけた出演俳優たちと実際に戦闘に参加した元兵士の老人たちが笑顔で交歓する風景が撮られている。
第二次世界大戦でよく取り上げられるのは独ソ戦やフランス戦線、あるいはイタリアやアフリカにほぼ限定される。もちろん、ドイツの隣国はスイス以外戦火に遭っているのだが、デンマークやノルウェーなどはあまり日本に知られていないし、映画化されて世界中に配給されるのはあまり無かったように思う。
もともとドイツとデンマークは民族的文化的に近く両国の関係もどちらかといえば良好だった。多くのデンマーク人ならびにドイツ人も戦火の火蓋を切る事は直前まで予想はしていなかったと思われる。
隣国から唐突に軍隊が押し寄せる戸惑いと恐怖、これは平和が長く続いた国々にとって痛い教訓的作品になる。
なお、私は原版から先に知ったので原題の「9. April」の方が馴染みがあるが、邦題は長ったらしくてB級娯楽戦争映画臭くなってしまっている。内容は重い反戦映画だ。近年、ナチスに抵抗したノルウェー王の伝記映画「ヒトラーに屈しなかった国王」が日本でも公開されているが、それと同等の扱いをしてもらいたい作品である。
【効能】 平和な日常が壊れる様を疑似体験できる。自転車が好きになる。
【副作用】 戦争活劇を期待している人には地味でどん臭く見える。
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平和な日常が崩れた時。 この長ったらしい邦題ではB級戦争アクションにしか見えないが、内容は重厚な反戦映画である。
作品の趣旨としては、日本で公開され主に左派系市民に高く評価されているノルウェー王の伝記映画「ヒトラーに屈しなかった国王」と同等に扱ってほしいものなのだが、残念な状態である。とはいえビデオソフトとして鑑賞できるだけましかもしれない。
最初は有り触れた日常から始まる。時は1940年4月8日、既に第二次世界大戦が勃発して半年余りが経過しているが、デンマークとドイツの国境は平穏。ドイツと敵対しているのはフランスで、デンマークはむしろ関係は良好、文化的にも民族的にも近しい間柄(余談1)だった。
おそらく多くのデンマーク人はドイツとの戦争状態は想像していなかったと思う。
そんな状況を反映しているのか物語冒頭の1940年4月8日時点の欧州情勢は、ポーランドはドイツに占領され、フランスやイギリスとはいつ開戦してもおかしくない緊張状態になっているにも関わらず、デンマークとドイツの国境付近で演習するデンマーク軍自転車部隊は和やかそのものだった。
ところが国境地帯のドイツ軍に不穏な動きがあるとの情報が入り、兵士たちには軍服を着たまま就寝を指示され、戸惑いと緊張が走る。
翌9日、戦車や装甲車を擁するドイツ軍が国境線を越えて押し寄せてきた。本編の主人公サン少尉は自転車部隊を率い、後方の本隊が駆け付けるまでドイツ軍を食い止めようと街道沿いで迎え撃つ。が戦力差は歴然、兵員の数も装備の質においても圧倒的にドイツ軍は優勢、奮戦虚しく少尉は全員に退却を指示するも1名が戦死してしまう。(余談2)
森の中を走りまわり、隠していた自転車に乗って脇道を退却、途中の民家で潜伏して軽傷を負った若い兵士の手当てをしてもらう。
やがてドイツ軍は国境近くの村に現れる。村人たちはなぜ訳が解らず野次馬のように集まる。そこで銃撃戦が始まり、洗濯籠をもっていた少年が逃げ遅れて撃たれる。
サン少尉たちはさらに町まで退却して市街戦を挑む。が圧倒的戦力差にじわじわ後退を余儀なくされ、さらに1名が後退時に撃たれて倒れる。少尉自ら負傷兵を救助するも、弾は残り少なく、負傷兵は重体、自ら被っていたヘルメットを放り出し、部下たちに銃を置くよう命じ、両手をあげて銃を構えるドイツ兵たちの前に出て降伏を叫ぶ。
捕虜となったサン少尉たちは移送のバスに乗り込むためドイツ兵の号令で整列、前進する。そこへ若いドイツ軍少尉が現れサン少尉を呼び止める。サン少尉は降伏の証として腰の拳銃を渡そうとするとドイツ軍少尉は断り逆に「何故、闘った?」と尋ねる。
サン少尉は部下の通訳を介して既にデンマークは降伏していたことを知る。愕然とするサン少尉にドイツ軍少尉は勝者の余裕なのか紳士的態度を崩さず敬礼。
バスに乗り込む放心状態のサン少尉の手には戦死した部下の認識票が握られている。
平和な日常が突如として一変する様を描いた作品。戦争映画を観なれた人にとっては地味な内容に見えるし「兵士2人失っただけで降伏?」「サン少尉はやたら部下を死なさないよう退いてばかり」なんて印象を持つ人を見かけたが、私は部下を死なすまいと走り回る少尉の姿に涙が出そうになった。
最初の戦闘で、圧倒的に数と質に勝るドイツ軍が押し寄せ味方を圧倒していく光景に絶望するサン少尉、早々に退却を決断し、狙撃される危険を冒しても身を晒して部下の陣地へ走りまわり退却を命じていく。
最後の戦いでも部下の狙撃陣地間を走り回り、部下が撃たれて倒れたら身を晒して救出に向かう。降伏するときも最初にドイツ兵の前に両手をあげて身を晒す。
本作の監修には当時戦闘に参加した元兵士が協力している。メイキング映像では、当時のデンマーク軍の制服を着た出演俳優たちと元兵士の老人たちが笑顔で交歓する様か撮られた。
(余談1)デンマーク軍の軍装もところどころドイツっぽい部分がある。腰にぶら下げる水筒やガスマスク、認識票や肩章のデザインはドイツ国防軍のものと似ている。上官に対する「了解しました」はドイツ語だと「Jawohl」、デンマーク語では「Ja Hr」だが、日本人の耳には同じように聞こえる。因みに英語では御馴染みの「Yes sir」。
また階級名も基地司令を務めている「大佐」はドイツ語と同じスペル同じ発音の「Oberst」だった。
主人公サン少尉は「sekondløjtnant」、文字にすると判りにくいが、日本人の耳には「セカンド・ロイナン」に聞こえる。つまり英語の「second lieutenant(二番目の副官=次席副官=少尉)」をデンマーク式に発音したようなものだ。で「løjtnant」の部分はドイツ語の「Leutnant」と同じに聞こえる。
ドイツと文化的つながりが深いデンマークは早期に降伏したため、ドイツ軍占領地の中ではかなり寛大な扱いを受けた。戦況がドイツ軍優勢だった大戦前半に限っては、デンマーク国内はドイツ軍が占領する前と変わりなく、国政も以前と同様に営まれた。
しかしそれは大戦の前半だけである。
(余談2)この国境付近のデンマーク軍基地は極めて小規模で、観る限り300人程度の中隊規模、司令官こそ連隊長クラスの大佐が務めているが、配備されているのは軍用トラックに機関銃を取り付けた複座バイクが少々、兵員分の軍用自転車のみ、装備は各分隊に軽機関銃1機ずつ。ドイツとの戦闘は全く予期していない陣容である。
射撃演習のときでも兵士たちは私語が多く、指揮官は口では不穏な欧州情勢を危惧するようなことを話しながら優雅に蒸留酒のグラスを傾けながら監督していた。主人公サン少尉も上官の中尉に相伴しながらコーヒーを飲んでいた。
銃器マニアではないのでよく判らないが、デンマーク軍が使っている銃はクラッグ・ヨルゲンセン小銃。ノルウェーなどで製造されたボルトアクションの歩兵銃で、薬莢が射出する部分の下にハッチのような蓋が付いているのが特徴。
街道沿いの戦いや市街戦で活躍した軽機関銃は、日本軍の九九式軽機関銃と同じく上からマガジンを差し込むタイプのマドセン20mm機関砲と思われる。故障しやすくドイツ軍では二線級の補助火器扱いらしい。
サン少尉が持っている拳銃はベルグマン・ベアードM1910拳銃。設計製造元はドイツ。自動拳銃の黎明期タイプである。
本作で初めてデンマーク軍の装備を見たが、ヘルメットが大きくて第一次世界大戦ぽい。ドイツ軍の1916年型をさらに大きくしたような感じだ。
なのでドイツ軍がスマートで未来的に見えてしまう。
【注目点】 多くの人が見落すと思うが、冒頭ドイツ軍の機械化部隊は散開して進まず行儀よく交通規則を守って片道1車線の道路の右側を一列になって走行していた。そのため、サン少尉たちが攻撃した時、ドイツ軍部隊を先導していた複座バイクのサイドカーに乗っていた兵士が真っ先に倒れた。侵攻なら堅牢で攻撃力のある戦車が先頭で、丸腰に近いバイクがノンビリ先頭を走るはずがない。つまりドイツ軍はデンマーク軍の攻撃を想定しておらず進駐しにきたのだ。
これはラストでドイツ軍側の将校が捕虜となったサン少尉に「なんで攻撃した?」「デンマークは降伏したこと、知らなかったのか?」につながる伏線である。
サン少尉にしてみれば、戦死した部下2人、逃げ遅れて撃ち殺された村の少年、降伏していたことを知っていればみんな死ぬことはなかったのだ、というやりきれない気持ちが襲い掛かる。
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