わたしはこれはおかしいと思い、彼の親に進言した。
親は病院に連れていった。
彼は身体的にはなんら言語を発するための障害はなかった。
そこで、医師はこう言った、「この子は自分の意志で話そうとはしないようだ」と。
彼はその後もことばを発しなく成長した。
しかし、ことばを発しない以外彼にはなんの支障もなかった。
というより、彼の能力は人並み外れて優秀だった。
大人になった彼はこの世界を変革することを望んだ。
そして、わたしは唯一、彼の意思を了解できる存在であった。
彼の意思を受けて、わたしは世界を変革するために活動を開始した。
そんなある日、わたしが活動のため出かけているときに、彼は文部科学省に連行された。
彼の思想は危険であると認識した文部科学省は彼にことばを発することを強要した。
それは彼にとってとても過酷な拷問であった。
彼はかたくなにことばを発することを拒んだ。
しかし、その拷問に耐えられなく、彼は少しずつことばを発するようになった。
彼はことばを自分で発せれるようになって、他者と話せれるようになった。
ただ、そんな彼からはもはや世界を変革するほどのことばは消えうせていた。
そして、もはやわたしにとっての彼、彼にとってのわたし、はごく普通の友人であった。
もはや、わたしも彼もこの世界の一存在でしかなかった。
世界は相変わらず、わたしたちの意志とは無関係に流れていった。
廻り合い
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