自民党憲法草案の条文解説(前文~40条)
自民党憲法草案の条文解説

前文~40条

目次
前文
1章 天皇(1~8)
2章 戦争の放棄/安全保障(9~)
3章 国民の権利及び義務(10~40)
 14 平等権
 15 参政権
 16 請願権
 17 国家賠償請求権
 18 苦役等からの自由
 19 思想良心の自由  
 20 信教の自由
 21 表現の自由
 22 営業等の自由
 23 学問の自由
 24 家族
 25 生存権
 26 教育権
 27 勤労権
 28 労働基本権
 29 財産権
4章 国会(41~64)
5章 内閣(65~75)
6章 司法(76~82)
7章 財政(83~91)
8章 地方自治(92~)
9章~緊急事態、改正、最高法規
上諭・名簿


現行草案解説
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。
 主語が国家の文が登場しています(第1文、第2文)。
 「天皇を戴く」こととされたことの意味は明確ではありませんが、少なくとも従来の象徴天皇制とは異なるものとなりました。

 現行前文にはなかった基本的人権の尊重の語が加えられ,平和主義、国民主権、基本的人権の尊重の三原則が維持されていることが明確になったかのように見えますが,基本的人権を尊重するのは国ではなく「日本国民」になっています。平和的生存権の根拠とされる「平和のうちに生存する権利」もなくなりました

 また、国民が国を守ること、和を尊ぶこと、規律を重んじること、国家を継承することなどが新たに掲げられています。国民の憲法尊重義務(102条1項。Q&Aによれば「遵守」より重い義務)が新設されたため、これらは国民が守らなければならない事項となります。

 第2文は理由・結論ないし過去・現在という次元の異なる動詞を、両者の関係を明らかにせず並列的に繋げている点、その真ん中のみに「~ている」を用いている点で、日本語として問題があります。日本語として適切でない箇所はほかにも多々ありますが、法的な内容にかかわらないところは指摘を省略します。

 最後に「ここに、この憲法を制定する」 とあるので、日本国憲法制定時に立って書かれた前文であることがわかります。そのため、占領下の日本が「先の大戦による荒廃……を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めて」いたと言っていると読むのが論理的です。そうでないのであれば、基準時の矛盾した前文になっています。

 その他については、抽象的な文言ですからいろいろな解釈があり得ます。
第一章 天皇
第1条
 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第一章 天皇
第1条(天皇)
 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
 元首と入れた根拠としてQ&Aでは、明治憲法で元首とされていたことを挙げています。象徴である点はそのまま維持されているので、変更というより追加です。
 主権が天皇ではなく国民にあるという明治憲法からの劇的な変化を第1条で宣言するという、天皇の地位と国民主権の条文でしたが、草案の表題は単に「天皇」とつけられています。
第2条
 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第2条(皇位の継承)
 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
 
 第3条(国旗及び国歌)
1 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
第4条(元号)
 元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。
 日の丸君が代の規定(3条)が天皇の章(1章)の中に新設されており、天皇制と不可分であることがわかります。現在の国旗国歌法は、日の丸が国旗で君が代が国歌である旨を定めるのみであるのに対して、草案は尊重義務も課しているため、議論の対象は、「日の丸君が代の是非」ではなく「日の丸君が代の尊重を強制することの是非」になります。元号も憲法上規定されました(4条)。
第3条
 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第4条
1 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第5条
 皇室典範 の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
第6条
1 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第7条
 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 二 国会を召集すること。
 三 衆議院を解散すること。
 四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
 五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
 六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
 七 栄典を授与すること。
 八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
 九 外国の大使及び公使を接受すること。
 十 儀式を行ふこと。
第5条(天皇の権能)
 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
第6条(天皇の国事行為等)
1 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。
2 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 二 国会を召集すること。
 三 衆議院を解散すること。
 四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
 五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免を認証すること。
 六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
 七 栄典を授与すること。
 八 全権委任状並びに大使及び公使の信任状並びに批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
 九 外国の大使及び公使を接受すること。
 十 儀式を行うこと。

3 天皇は、法律の定めるところにより、前2項の行為を委任することができる。
4 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。
5 第1項及び第2項に掲げるもののほか、天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。
第7条(摂政)
1 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
2 第5条及び前条第4項の規定は、摂政について準用する。
 5条で国事行為から「のみ」が削除されたことは、6条5項で公的行為を規定したこととあわせて、「おことば」などがなぜ合憲なのかという論点を解決するものと考えられます。

 天皇の国事行為について、内閣の助言と承認(現行3条、7条)は不要となり、進言(草案6条4項)で足りることとなったため、少なくとも事前助言と事後承認の双方を要するという説を採らないことを明確にしたことがわかります。
 Q&Aで、「内閣の「助言と承認」が必要とされていますが、天皇の行為に対して「承認」とは礼を失することから、「進言」という言葉に統一しました」とされています。

 内閣総理大臣の解散権に関する6条4項ただし書は、54条に対応するものです。
第8条
 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。
第8条(皇室への財産の譲渡等の制限)
 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与するには、法律で定める場合を除き、国会の承認を経なければならない。
 皇室への財産譲渡が法律により許されることが明記されました。
第二章 戦争の放棄
第9条
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第二章 安全保障
第9条(平和主義)
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
 1項で「永久に」は削除されています。在外国民の保護については25条の3をご覧ください。
 2項について,Q&Aで「自衛権の行使には、何らの制約もないように規定しました」とされています。
 政府の9条解釈を紹介しておくと、1項で「国際紛争を解決する手段」つまり国策としての戦争、すなわち侵略戦争を放棄し、2項で自衛戦争も禁止され、自衛権行使は個別的であれ集団的であれ,一定の条件の下,国家の自然権として可能(そのための実力は2項の「戦力」に当たらない)というものです。草案の戦争放棄には「国際紛争を解決手段として」という限定が係っていないので、1項で自衛戦争も放棄したことになります。

 国防軍について、9条の2で法律によって内容を決められます
 9条の2第3項で公の秩序を維持する活動が憲法上可能となり、国内の表現規制等の治安維持活動を国防軍が行うことになります。
 9条の2第5項の「審判所とは、いわゆる軍法会議のことです。」「裁判官や検察、弁護側も、主に軍人の中から選ばれることが想定されます。」とQ&Aにあります。最終的には76条2項により通常の裁判所に上訴できるはずですが、9条の2第5項では検察官の上訴権が抜けていることは事実です。

 9条の3「国民と協力して」は国民が国防しなければならないことを前提とした規定になっています(総論、前文3項、25条の2、102条1項参照)。明確に国民の義務という文言になっていない点につき、Q&Aは「徴兵制について問われることになるので、憲法上規定を置くことは困難であると考えました」としています。「問われることになる」との文言の意図が明確ではありませんが、2通りの読み方を指摘しておきます。ひとつは、国民の国防義務を明確に書きたいけれども、徴兵制をやれるようにしたいわけではないので書けない、という読み方です。もうひとつは、徴兵制について正面から争点になってしまうのは不都合であるので、憲法には明記せず、もし必要なときがくれば法律で徴兵できるような曖昧な条文にしておく、という読み方です。
  第9条の2(国防軍)
1 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前2項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
  第9条の3(領土等の保全等)
 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
第三章 国民の権利及び義務
第10条
 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第三章 国民の権利及び義務
第10条(日本国民)
 日本国民の要件は、法律で定める。
 
第11条
 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第11条(基本的人権の享有)
 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である
「人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。」とQ&Aにあり、歴史、文化、伝統に反する自由は人権ではない(あるいは価値が低い)という新たな解釈がとられたと読めます。 天賦人権説を否定した点については19条をご覧ください。
第12条
 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第12条(国民の責務)
 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない
 Q&Aで、「「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにした」とされています(その意味につき総論参照)。
 なお、Q&Aに「公の秩序」の解説がありますが、「公益」の解説はありません。
 また、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚」すべきことが規定されました(総論参照)。天国を信じることに何の責任が伴うのか、コンビニで買ったパンの所有権に何の義務が伴うのか、寝たきりの人は生きる権利に伴う何らかの義務を履行できるのか、などと具体的に考えると法的意味の理解が困難なので、詳細な解説はできません。
 12条は人権全体について規定しているので、現行・草案ともに、13条以下の全ての人権に係ります
第13条
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第13条(人としての尊重等)
 全て国民は、として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
 「個人として」が「人として」に変わっており、24条では「個人」を残していることと対比すると、個人としては尊重されないことがわかります(これにより全体主義方向に傾くことにつき総論参照)。「公益及び公の秩序」については前条と同様です。
 この条文は人権の包括的規定なので、プライバシー権などの新しい人権は13条を根拠に従来から認められていました。草案において新たに明文化された人権はありません
第14条
1 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第14条(法の下の平等)
1 全て国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、障害の有無、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
 障害の有無が後段列挙事由(明確に書いてある差別禁止要素)となりました。判例は列挙されているか否かで区別しておらず、障害が「社会的身分」に含まれると解釈するかどうかにかかわらず、現在でも障害の有無での差別は当然禁止されていますが、あえて書くことによって保護が厚くなる可能性はあります。内容や程度には着目せず「有無」に着目しているので、仮にこの変更に重要な意味を持たせるとすると、この文言が適用される障害者なのか、そうではないのかという区別をはっきりさせなければならず、かえって差別を助長しかねない点に注意が必要です。
 3項で栄典の授与が特権を伴うことが許されました。また、新憲法下で新たに想定される「軍事的関係」においては差別されるのかもしれません。
第15条
1 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
第15条(公務員の選定及び罷免に関する権利等)
1 公務員を選定し、及び罷免することは、主権の存する国民の権利である。
2 全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選定を選挙により行う場合は、日本国籍を有する成年者による普通選挙の方法による。
4 選挙における投票の秘密は、侵されない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。
 「日本国籍を有する」とあるので、外国人参政権が認められないことが明らかになりました(94条2項参照)。なお現行憲法下でも国政選挙で外国人が投票することは国民主権に反するので認められていません。
第16条
 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第16条(請願をする権利)
1 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願をする権利を有する。
2 請願をした者は、そのためにいかなる差別待遇も受けない。
 
第17条
 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
第17条(国等に対する賠償請求権)
 何人も、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は地方自治体その他の公共団体に、その賠償を求めることができる。
 
第18条
 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第18条(身体の拘束及び苦役からの自由)
1 何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない
2 何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
 「いかなる」から「社会的又は経済的関係において」に変わったため、社会的経済的以外の関係では拘束され得ることとなりました。そのような拘束があるのかを判断できるほど明確な条文ではありませんが、14条1項にある「政治的」が除外されていることに注意が必要です。「軍事的」拘束も禁止していないとも読めます。
 「奴隷的拘束」から「身体を拘束」に変わったことだけに注目すれば、禁止される拘束の範囲が広がったということになります。奴隷的拘束も「身体を拘束」の一種として禁止されています。しかし、禁止の範囲が広がったことで、例外が許されるようになりました(人権のインフレ)。例えば、逮捕勾留等の身体拘束は現行18条とは無関係であるのに対して、草案18条の例外と位置付けられます(仮に、「法的」な身体拘束は18条の例外ではなくそもそも対象外だと解するならば、法律によれば奴隷的拘束等のあらゆる拘束が、公益及び公の秩序に合致する限り可能となりかねません。)。
 意に反していなくても身体拘束されないことになったということは、仮に私人間に直接適用してしまうと、労働や通勤通学や性交渉の多くが禁止されかねません。そこで、現行18条は私人間に直接適用され、企業による過度な拘束を禁止する役割を担っているのに対し、草案18条は私人間に直接適用されないと考えられます。
 徴兵制は、「意に反する苦役」に当たるため違憲とされてきました。意に反する苦役の禁止は2項でそのまま維持されています。しかし、国防軍も国防義務(前文3項、9条の3)も「公益及び公の秩序」による制約も憲法尊重義務(102条1項)もなかった現行憲法下での「意に反する苦役」に当たるとの議論がそのまま妥当するわけではありません。意に反する苦役かどうかは憲法の趣旨に照らして判断されるのですから、新憲法上の重要な国益である国防軍に参加することは苦役ではないと解釈することが可能ですし、自衛隊時代から自民党では「苦役だなんて自衛隊員に失礼だ」といった議論がありました(自民党の主張につき、総論及び9条の3参照)。
第19条
 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない
第19条(思想及び良心の自由)
 思想及び良心の自由は、保障する
 「保障する」との文言に変わっており、同様の変更は随所に見られます。もっとも、現行憲法にも「保障する」という文言はあり(21条等)、どちらでも人権一般に12条13条の公共の福祉による最小限度の制約があることは変わりませんから、この文言の違いによる差は基本的にありませんでした
 差がなかったとはいえ、あえて変更したという事実には意味があります。Q&Aの記述で関連するのは「西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要がある」という部分です。「侵してはならない」を「保障する」に改めるということは、たとえ憲法がなくても誰もが当然有している権利である、という意味での「天賦人権説」を否定した、と読めますから、そのようなスタンスの憲法であるということを読み取ることはできます。具体的な違いが直ちに生ずるわけではないことは強調しておきます。
 一般論としては以上の通りですが、 19条に限っていえば、従来、思想良心が内心にとどまる限り絶対的保障であったのが、「保障する」にかわることにより、公益及び公の秩序による制限があり得ることになると考えることも可能です。
 第19条の2(個人情報の不当取得の禁止等)
 何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。
 19条の2は、プライバシー権に資するとQ&Aにあり、結果的に資するとは言えますが、条文上国民の権利と読むのは無理であり、本来法律で定めるべき性質の規定です(2005年の草案では、「何人も、自己に関する情報を不当に取得され、保有され、又は利用されない。」としていたので、権利と読める規定でした。)。
 全ての者に個人情報保護義務を課したことで、例えば取材、探偵、署名運動、連絡網作成などが行いにくくなります。また、現行法上の個人情報は「生存する個人に関する情報」(行政機関個人情報保護法2条2項、個人情報保護法2条1項)とされているのと比べると、死者の情報も規制対象になっていると読めます。適法違法ではなく当不当を問題にしていますから、法律に反していなくても不当であれば憲法違反になります。
 表題が「不当取得等の禁止」ではなく「不当取得の禁止等」なので、「保有」「利用」は不当でなくても禁止されていると読む余地があります。
第20条
1 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第20条(信教の自由)
1 信教の自由は、保障する。国は、いかなる宗教団体に対しても、特権を与えてはならない
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及び地方自治体その他の公共団体は、特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない。
 1項で、信教の自由の保障につき「何人に対しても」という文言が削除されています。「なにじん」ではなく「なんぴと」とよみ、「すべての人」というような意味です。
 宗教団体による政治上の権力の行使が禁止されなくなりました。
 3項ただし書は現判例と大きくは違いませんが、政教分離が厳格になるような判例変更が不可能となっています。また、あえて明文化したことの趣旨から、政教分離が緩やかになります。例えば草案の下で首相の靖国参拝が違憲となることは考えにくいです。
 「玉串料を支出するなどの問題が現実に解決されます」とあるので、愛媛玉串料違憲判決は覆される(と自民党が考えている)ことになります。
第21条
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第21条(表現の自由)
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
 公益及び公の秩序を害することを目的とした表現行為が禁止されました。行為態様ではなく目的に着目した規制なので、その活動自体は「公益及び公の秩序」を害しなくても、その活動の目的が「公益及び公の秩序」を害すると判断されれば禁止されます
 「公益及び公の秩序」は誰の人権のためにもならないけれども公益にはなることをも指すことがQ&Aで明確になっています(総論、12条参照)。また、12条、13条が人権全体にかかっているのに、重ねて21条2項でも書くということは、特に規制が許されやすいということです(現行22条、29条がそれに当たります。一方新22条には公益及び公の秩序が登場しないですから、表現の自由の保護は経済的自由未満ということに少なくとも文言上はなります(22条参照)。22条、29条の「公共の福祉」の意味につき対立がありますが、精神的自由である21条への追加について現在の学説では十分説明できないので省略します。)。さらに、表現の自由と「公益及び公の秩序」の大小を比較せず、「公益及び公の秩序」を害する目的があれば、たとえ害される「公益及び公の秩序」より表現の自由の方が大きくても、表現が許されないという書き方になっています(12条、13条との文言対比)。
 そして、目的が公益及び公の秩序を害するかどうかの一次的判断は行政(政府)が行うわけですから(総論※8参照)、ときの政府の方針に反する活動は行えないこととなり得ます。
 第21条の2(国政上の行為に関する説明の責務)
 国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。
 Q&Aで「個人の法律上の権利として主張するには熟していないことから、まず国の側の責務として規定することとし」たとされているので、国民の知る権利を「法律上の権利として主張」できないこととしようと自民党が考えていることがわかります。例えば情報公開法は、1条で「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにする」ことを目的として掲げ、法律上情報公開請求権を認めていますが、Q&Aに従えば、廃止されると考えられます。
第22条
1 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
第22条(居住、移転及び職業選択等の自由等)
1 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 全て国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を有する。
 外国人が出国の自由を有するとする判例通説に反して、2項の対象を日本国民のみに変えました。
 職業の選択だけ保障しても遂行できなければ意味がないので、現行、草案ともに、職業選択の自由には営業の自由も含まれます。 新旧21条、新旧22条という4つの条文を比較すると、21条には「公益及び公の秩序」が入ったのに対し、22条では「公共の福祉」が削除されていますから、表現の規制を強化し、経済の規制を緩和したことになります。
 そうすると、経済全体の活性化が期待できる一方で、弱者保護や国産品保護の経済政策のために強者の営業の自由を制限することが憲法上困難になるので、経済弱者や国産品等が保護されにくくなります(こうした政策的な営業の自由の制限は「22条の」公共の福祉による制限と解されていたのです。22条の「公共の福祉」には特別の意味はないという見解も現行憲法下ではありますが、上記の21条、22条の変化(一方29条では維持)という操作が行われている以上、無意味という見解を維持して草案を解釈することはできません。)。
 表題の最後の「等」は誤記と考えられます。
第23条
 学問の自由は、これを保障する。
第23条(学問の自由)
 学問の自由は、保障する。
 
第24条
1 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第24条(家族、婚姻等に関する基本原則)
1 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
 「家族」が何を指すのかが解釈にゆだねられていますが、互助義務が民法730条よりも広範囲を対象としています。家族という単位を尊重することは、非嫡出子(婚外子)の相続分が半分であることや、夫婦別姓が選択できないことを合憲とする方向に働く変更です。また、家族が助け合えていないせいで貧しい場合には、国の保護が得られにくくなります(25条参照)。
 2項から「のみ」が抜けています。ただ、現在も証人や届出が必要なので、厳密には「のみ」で成立するわけではありません。「両性の」はそのまま維持されているので、同性婚を認めやすくはなっていません。
 「個人」を「人」と改めた13条とは整合的でないものとなっていますので、13条は個人としては尊重していないという読み方が論理的です。つまり家族法についてだけ個人の尊重が維持されていることになります。
第25条
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第25条(生存権等)
1 全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、国民生活のあらゆる側面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
 「国民生活」としていますので外国人の生存権を肯定する余地が狭まりました。
 現在勤労の義務(27条)を果たさないことが生活保護を受けるのに不利になるのと同様に、草案の下での憲法上の義務を果たさないことが不利に働きます。この傾向は、「権利には……義務が伴うことを自覚し」なければならない旨を12条で明記した草案の下では、より顕著になります。例えば、家族が助け合えていないせいで貧しい場合には、草案24条1項に反しますから、今より国の保護が得られにくくなります。
 第25条の2(環境保全の責務)
 国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない。
 ご覧の通りの国の努力義務ですが、「国民と協力して」は、国民が良好な環境の保全に努めなければならないことを前提とした規定になっています(総論参照)。総論とは別の視点から説明すると、国は、国民の協力がなければ、「国民と協力して……環境……の保全に努め」ることができません。ですから、国民が協力しなければならないことを前提としないと、国が25条の2違反を犯すことになってしまいます。
 21条の2と同様に、国民の環境権は認められてはいないことが明らかになりました。
 第25条の3(在外国民の保護)
 国は、国外において緊急事態が生じたときは、在外国民の保護に努めなければならない。
 草案のように9条を変えることよって必然的に在外国民保護のための派兵が不可能から可能に変わるわけではありません。在外国民の保護は、他国を助けに行くという集団的自衛権行使の場面ではなく、必要最小限度の実力行使かどうかの解釈の問題なので、9条を変更することによる直接的な変化はなく、基本的には自衛隊法や政府見解の問題です。
 そして、もちろん現在でも国は在外国民の保護に努めているはずです。ただ、25条の3で明確に書くことによって、集団的自衛権行使の場面以外でも、海外における緊急事態の際に国防軍が軍事活動を行いやすくなるとは言えます。
 こうした派兵は、人命救助のために積極的にやるべきとの意見がある一方で、在外国民保護名目での派兵が数々の侵略戦争を生んできたとの指摘もあります。
 第25条の4(犯罪被害者等への配慮)
 国は、犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇に配慮しなければならない。
 被害者保護という近年の法改正の流れが明文化されています。国家権力による強力な人権制限である、被疑者被告人に対する身体拘束や刑罰とは異なり、憲法に明記することが必要な事項ではなく、被害者への厚い配慮は基本的に法律の役割ですが、あえて憲法に明記することにより、より被害者保護が厚くなることが期待されます。裁判の迅速化が求められるため、冤罪を生まないこととの両立が課題です。また、被害者感情を量刑において重視すれば厳罰化が進む傾向にあります。
 何か新たな人権が規定されたわけではない点は21条の2と同様です。
第26条
1 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第26条(教育に関する権利及び義務等)
1 全て国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有する。
2 全て国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、無償とする。
3 国は、教育が国の未来を切り拓く上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない。
 教育環境の整備は、「国の未来を切り拓く上で欠くことのできないものであることに鑑み」てなされるため、国の利益となるような教育がなされることになります。
第27条
1 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。
第27条(勤労の権利及び義務等)
1 全て国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律で定める。
3 何人も、児童を酷使してはならない。
 
第28条
 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
第28条(勤労者の団結権等)
1 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。
公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない。
 教員や旧郵便局員を中心とした公務員の労働基本権制約について、合憲→違憲→合憲と大きな判例の変遷がありましたが、再び違憲となる余地を狭めました。
第29条
1 財産権は、これを侵してはならない
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
第29条(財産権)
1 財産権は、保障する。
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。
 「公益及び公の秩序」の解説は他の条文に譲ります。「保障する」に変わっている点については19条をご覧ください。
 国民の知的創造力の向上に資するように知的財産権の内容が定められるのですから、それに資しないと判断された文章、絵、曲、発明等は保護されないことが読み取れます。
第30条
 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
第30条(納税の義務)
 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
 
第31条
 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第31条(適正手続の保障)
 何人も、法律の定める適正な手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。
 31条の適正手続は、従来通りの解釈を明文化しています。

 34条では正当な理由と理由告知と弁護人依頼権のうちの一部がなくても抑留拘禁され得るとも読める文言になっていますが、そこまで意図しているのかは不明です。

 36条で拷問の禁止が絶対的でなくなっていますから、公益及び公の秩序(12条後段、13条後段)が勝れば拷問され得ることにしたというのが改正の趣旨であるとみざるを得ません(総論※8参照)。例えば「侵してはならない」通信の秘密に対して、通信傍受法が作れたのと同様です。

 38条3項が自白のみで有罪とされないことと刑罰を科されないことを規定していたのに対し、草案で刑罰の方が抜けていることを不安に思う方もいるようですが、有罪とならずに刑罰を科されることはないので実質的変更ではないと考えられます。
第32条
 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第32条(裁判を受ける権利)
 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を有する。
第33条
 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第33条(逮捕に関する手続の保障)
 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、裁判官が発し、かつ、理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第34条
 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第34条(抑留及び拘禁に関する手続の保障)
1 何人も、正当な理由がなく、若しくは理由を直ちに告げられることなく、又は直ちに弁護人に依頼する権利を与えられることなく、抑留され、又は拘禁されない。
2 拘禁された者は、拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。
第35条
1 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2  捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
第35条(住居等の不可侵)
1 何人も、正当な理由に基づいて発せられ、かつ、捜索する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、住居その他の場所、書類及び所持品について、侵入、捜索又は押収を受けない。ただし、第33条の規定により逮捕される場合は、この限りでない。
2 前項本文の規定による捜索又は押収は、裁判官が発する各別の令状によって行う。
第36条
 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
第36条(拷問及び残虐な刑罰の禁止)
 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、禁止する。
第37条
1 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
第37条(刑事被告人の権利)
1 全て刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 被告人は、全ての証人に対して審問する機会を十分に与えられる権利及び公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを付する。
第38条
1 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第38条(刑事事件における自白等)
1 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 拷問、脅迫その他の強制による自白又は不当に長く抑留され、若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされない。
第39条
 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第39条(遡及処罰等の禁止)
 何人も、実行の時に違法ではなかった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。同一の犯罪については、重ねて刑事上の責任を問われない。
第40条
 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
第40条(刑事補償を求める権利)
 何人も、抑留され、又は拘禁された後、裁判の結果無罪となったときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。


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