No.0557
人形を語る─『夜想』と『DOLL FORUM JAPAN』他企画展@横浜人形の家
去る6月22日、土井典追悼トークショー&小林嵯峨舞踏公演 “人形を語る─『夜想』と『DOLL FORUM JAPAN』”を見に、
横浜人形の家を訪れました。
『夜想』は、私が物心ついて以来その美意識に影響を受け続けてきた雑誌であり、『DOLL FORUM JAPAN』は人形という表現に関わるようになってから、ずっと購読してきた雑誌です。
その2つの雑誌を牽引してきた、ミルキィ・イソベ氏、 羽関チエコ氏、榊山裕子氏のトークと小林嵯峨氏の舞踏が見られるとは、又とない機会ではありませんか。
あかいくつ劇場に来るのは何年か前、公演のお話があって下見にお邪魔して以来です。
150席程の小規模な劇場とはいえ、このような専門性の強いイベントに、訪れた観客の列ができているのを見て、なんだか嬉しくなりました。
イベントは、小林嵯峨による舞踏で幕を開けました。
嵯峨さんの踊りを拝見するのは、昨年だったかの鼠派演踏館Ωの公演ぶりです。
今回は帽子を被りドレスを纏った、舞踏の衣装としては珍しい、上品なマダムのような装いで登場。
扇情的なクラシック曲に合わせて衣装が乱れ段々と剥き出しになってゆく身体は、人間から非人間へのメタモルフォーゼを体現しているかのよう。
続けて行われたトークでは、人形界に於いて異端とも言える、土井典という存在が解体されてゆきました。
被写体になることを嫌がったという土井さんの貴重な写真の紹介を交えて、トークは進みます。
土井さんの作家としての経歴は少し変わっていて、女子美術大卒業後、マネキン会社に就職しメイクを担当した後、アスベスト館のダンサー芦川羊子氏の衣装の貞操帯の制作を依頼されたのが始まりだそう。
その後も土方巽の依頼で様々な衣装や小道具を手掛けたり、澁澤龍彦の依頼でハンス・ベルメールの球体関節人形のレプリカを作成したりします。
シュルレアリスムの作家であるベルメールの球体関節人形は、日本の創作人形の源流とも言えるものですが、関節のある人形というよりは関節のみで出来ている人形と言った方がいいようなフォルムをしています。
澁澤宅にある有名なベルメールのレプリカは、お腹の球体関節で連結された二体の下半身で構成されています。
この人形が動くのかどうか、という話題になりましたが、土井さんによれば「ポーズを少し変えるくらいは可能だが、動かす為の関節ではない」との答えだったそうです。
つまり今の創作人形のような、自由にポーズを取らせて遊べるようなものではなく、むしろオブジェに近いものだと言えるでしょう。
土井さんの人形を、自作の登場人物である「大山デブ子」として愛した寺山修司との逸話も、興味深いものでした。
展示されていた土井さんの太った女の人形を、たまたまギャラリーに立ち寄った寺山修司が、気に入って購入したものだそうで、元々大山デブ子として作られたものではなかったのだそうです。
その後、寺山さんは土井さんに制作の依頼をするのですが、土井さんは寺山さんには塩対応だったらしくあっさり断られてしまったのだとか。
創作人形界において異端的な存在であった土井さんは、2004年に東京都現代美術館で開催された球体関節人形展に於いても、人形作家の輪から少し離れたところにひとり居たそうです。
羽関さんの「ニキ・ド・サンファルや草間彌生、或いは合田佐和子のように、美術家という位置付けにならなかったのは何故か」という言葉が印象的でした。
確かに三名とも人形も作っていますが、人形作家と呼ばれることはありません。
ではなぜ土井典は人形作家なのか、と言えば、本人が人形作家と名乗っていたからではないかと思うのですが、しかし本人は自らの人形を「愛玩拒否」の人形と呼んだのだそう。
私は人形の歴史を調べて、呪術的な存在に始まり玩具、ファッションドール、美術品などと様々に形を変えているところにも興味を覚えているので、人形=愛玩物とは思わないのですが、人形=可愛い とか、逆に人形=怖い などの固定観念を持たれやすいのには常々歯痒く思っています。
トークは「不思議の国のアリス」から少女論に移ってゆき、人形作家(特に女性の)は大体ロリコンだと思っている私には興味深い話題ではありましたが、予定時間をオーバーしており、展示が見られなくなってしまうといけないので後ろ髪を引かれつつ退出。
館内を見て回ることにしました。
企画展「ひとはなぜ ひとがたをつくるのか」
原始の呪物から現代のアクリルスタンドまで、年代を追って様々な人形たちがざっと紹介され、それぞれのジャンルの専門家の解説がついています。
私がメタバース芸大で行った講義「ドール進化論~形代からアバターへ」と重なる部分もあったように思います。
5月に渋谷公園通りギャラリーで開催された「共棲の間合い」展で知った、障害者施設・やまなみ工房のメンバーの展示も、大変興味深くはありました。
上記2点、土井典
ただ、人形作家のセレクトがかなり限定的であったことは否めません。
トークショーでも登壇者が「トークテーマが『20世紀から今日に至るまでの創作人形文化について』とありますが、それを語るのは無理です」と仰っていましたが、この企画展についても同様だと言えます。
工藤千尋
土井典や工藤千尋、高橋操ら、今回の展示の為に集められた数名の作家の作品から、「ひとはなぜ ひとがたをつくるのか」という壮大な問いへの答えを模索するしかなかったのでしょう。
上記2点、栗田淳一
そんな中で、やまなみ工房のメンバーの一人である、栗田淳一氏の作品を知ることができたのは、私にとって大きな収穫でした。
第二企画展「いざなぎ流のかみ・かたち ー祈りを込めたヒトガタたちー」
今回私の中で、もう一つの目玉だった展示です。
高知県香美市物部町に伝わる「いざなぎ流」という民間信仰で使用される、和紙の切り紙「御幣」をメインとした展示です。
それぞれ切り方を指定された御幣はなんと200種以上。
水神、邪霊、生霊、キジン、呪詛のミサキ、山の魔群、川の魔群、などの説明が添えられた御幣は目と口が切られていて、かわいいのですが、邪を祓うなどの目的を考えると、決してかわいいだけのものではないでしょう。
他に、いざなぎ流の祭司である太夫が用いる梓弓や、神楽の時に身につける衣装や笠、仮面などの展示もありました。
TVモニターでは、祭儀の様子が延々と上映されていました。貴重な映像資料です。
私がいざなぎ流を知ったのは、昔、映画で犬神憑きの少女役をオファーされ、監督から資料として小松和彦氏の「日本の呪い」等を渡されたのがきっかけです。
残念ながらその企画は立ち消えてしまいましたが、いざなぎ流や憑き物筋に対する関心は、現在に至るまで持ち続けています。
展示室がそれほど広くなかったので、二つの企画を見終わってもまだ少し時間があった為、常設の展示室も鑑賞。
世界の民俗人形や日本全国の郷土人形、ビスクドールから現代創作人形まで、いつもながら興味深い展示でした。
常設コーナー展示「山本福松 と 平田郷陽 ―生人形・見世物からの系譜」
ミニ展示「ふわふわたっとん」サンレモン40周年記念
などの展示も拝見できました。
1階のミュージアムショップにも立ち寄ろうと出口に向かいかけたところ、羽関チエコさんと遭遇。
思いがけずご挨拶できて、嬉しかったです。
今月、ドールフォーラムジャパンより土井典氏の評伝が出版されるそうで、私もプロジェクトに出資させて頂きました。
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